53 旅の再開
あけまして。
去年は辰年絡めたのに今年は何も出来ませんでした。
「……初めから普通に戦闘参加出来たのではありませんか?」
「「………あ」」
俺のいやに可愛らしい『あ』の声と重なるように野太い声で『あ』が響く。さて、ウルナの気づいたことは俺どころか当事者であるヨモロですら気づかなかった"そんなまさか!"な事実である。………いや、なんで気づかないんだよコレ馬鹿か?
「盲点であったな……我が失態だ。貴公も1人で前線に立たせてしまい申し訳ない。」
「あ?構わねぇよ。そもそもオレサマは冒険者で、兄だ─ヨモロ…あンたはあくまで一般人だろ。オレサマが冒険者である以上、赤の他人だろォがなんだろォが、明確な"脅威"から守るってなァ義務みてえなモンなんだぜ?」
「……なんか言葉全部が俺に突き刺さってるんだけど。」
がははと笑いながら「失態、失態」と言うヨモロと突然過ぎるまともな発言をするグラッゼア。残念ながら俺はあの戦いに突っ込んでいったら即死するし、そんな崇高な理念を持って冒険者なんてしてません。出来れば危険な事は避けたいし、けど楽しそうな事には無理矢理突っ込んで行きたい。つまり、心にお祭り男を宿した臆病者なのだよ。
「いや、テメェもテメェでテメェが出来る事ぁやっただろォよ。なかなかの手品だったぜ?」
「手品ね…まぁ、ひとまず役に立ったなら良かったけどな。」
多分だが《唯一の収納》のことを言ってるんだろうけど、なるほど。確かに手品に見えるは見えるな。元の世界に戻れたらマジックショーも開けるかも知れない。本当に種も仕掛けも無いマジックショーが出来る……いや、そもそも〈幻影〉で全部解決出来るなコレ。トランプマジックもトランプそのものに魔法掛ければ全部同じ数字に出来るんだし。
「ふむ、ところで貴公、かの者らは放っておいても問題は無いのか?」
「ん?」
と、ヨモロが指差した先にあったのはアーディ達の姿。
……いや魔法効きすぎだろ、どんだけ闇魔法に耐性無いんだよ。
「死ぬような魔法でも無いからな。効果自体も別に外傷を与えるタイプでも無いし、そのうち起きるだろ。」
「そうか。すまぬな闇の魔法には明るく無い故に要らぬ心配をしてしまったようだ。……ところでだが貴公」
ヨモロはゆっくりとした足取りで壁まで歩いて行き、その壁を指差す。
「この石を知っているか?」
???。
さて、言っている意味が判らない。石の種類の事かな?斑糲岩とか黒曜石とかそういうやつって事??それともこの石はこういう物で出来てますよみたいな含有物質の事を言ってる??
「ふむ、その様子だと知らぬと見えるな。」
ヨモロは俺の様子を見てそれだけ言うと、矢筒から無骨な金鎚を取り出す。少なくとも戦闘用では無さそうだし、多分だけど鍛冶用のやつかな?さて、それをどうす─
─カァンッ!!!!!!!
凄まじい勢いで振り被られたソレは、風圧によって顔が歪むほどの威力を持っており、衝撃によって洞窟が揺れ動き、パラパラと天井から崩れた土屑が溢れてくる……
「おい!!洞窟崩れるって!!!」
いきなり壁ぶっ壊して何考えて…………ん?
「やはり壊れぬか。噂に違わぬ頑強さ……さすがは賢者の石と云われるだけはある、力だけでは壊せぬという訳であるか………」
「ん?なんて?」
「賢者の石……一見すると単なる岩くれにしか見えぬであろうが、"鍛冶師泣かせ"とも呼ばれる、熱にも衝撃にも耐性を持つ最高硬度の鉱石であるな。」
「特に今は貴公の魔力を吸い、更に硬度を増している…。これを壊せる者などかの時代にもそうそう居まい。」
………ん?
賢者の石とな?色んな作品で色んなパワーを持ってる宝石みたいなやつだよな?某有名漫画では人の命を犠牲にして造られてたけど、この感じだとこの世界では普通の鉱物なのか?
「いや……賢者の石ってなると………?」
そもそも元ネタはガチ錬金術師時代…中世ヨーロッパで貴金属を産み出し、しかも人体の病まで治すとかいうチート効果まであると考えられていたチート鉱石。
さて、ここで俺のスキルのひとつを紹介しよう。
スキル《錬成》。錬成の言葉は練って形を整えるみたいな意味らしいけども、アルケミーというのは"錬金術"という意味。要するに錬金術による鉱物及び物質変形による形の成形が俺のスキルってわけだ。
「うむ、貴公が見せた岩の柱……アレはもしやと思ってな。」
俺の考えに同意するようにヨモロが"もしや"という濁した感じで言ったのは、この世界のタブーのような物…他者の能力について知り過ぎるのはあんま良くないよね!ってやつである。
まぁ、スキルとか魔法っていうのは確かに生活に浸透してはいるし、冒険者みたいにそれを使って人々を守る存在も居るけども…一歩使い方を間違えればヤベェ事にも使えちゃう。
能力ひとつでその人の人格まで決まるってわけでも無いけども、アルカナムで俺のスキルが期待されて無かったのと同様、一目でクソだと判断出来る能力もあれば、一見すると怖い能力もあるわけだ。そんな誤解を生まないために、いつの間にか浸透していったのが常識としての禁忌である。
「ヨモロが考えてることとは違いそうだけども……前々から考えてた事が出来るようになりそうだな。」
「なんの話をしてやがンだ?」
「ま、見とけよ。」
ヨモロとグラッゼアが見守る中、俺は"賢者の石"と呼ばれた謎の鉱石へと手を触れる。
─瞬間、洞窟内が虫食いのように抉られ、鉄格子の奥にあった壁にまで大穴が開く。俺が触れた壁から連鎖するように広がったソレは、手のひらに収まる程に小さくなって固まった。
「……ここまで巨大な鉱脈であったとは…、運の良い事もあるものだな。」
「ちなみに洞窟は固めたから崩れてきたりはしないからな。」
一瞬さっきの俺みたいに「洞窟が崩れてしまいますよ!?」って感じでブチギレしそうになったウルナは開いた口をそのまま閉じる。
「ってより…縮めたらなんか色変わったな?」
手のひらサイズの賢者の石は、何故か青空のような綺麗な色で発光してる。さっきまで汚い黒っぽいような茶色なようななんとも言えない色をしてたのに。これがファンタジーパワー。さすがだぜ意味判んない。
「濃い魔力を帯びると青く輝く…というのは眉唾であると思っていたが…うむ、存外噂程度の話というのも馬鹿には出来んらしい。」
「噂ってことは、ヨモロも実際に見るのは初めてなのか?」
軽く聞いたつもりだったが、ヨモロは深く考え込むような素振りを見せた後、地面を向きながらため息を吐く…
「我が最も上の兄が用いていた巨大な剣…それも深い青を帯びていた。我には出来ぬ程の強い火を、やはり兄は持っていたのであろうな。」
持っていたっていう過去形なのを見るに、故人の話なのかな?ヨモロが使うのも火の力だけども、それでも溶かせない賢者の石を加工出来る凄い兄みたいな?
「尤も…真にそれがこの"賢者の石"と同様の物であったかは我には判らぬが、な。」
「まァ、あンたがそう思うってンならそうなんじゃ無ェか?青い武器なんてのはオレサマはシセーリア聖王国の国宝…『巨人の槍』くれェしか知らねぇぜ?」
「なんでお前は国宝知ってんだよ。」
「あん?そりゃぁ秘密ってヤツだぜ兄弟。男にゃ秘密の1つや2つあってなんぼってモンだろォ?」
まぁ確かにそれはそうだな。
男の子は秘密で溢れているんだ。謎に消えてる検索履歴とか、乱雑に置いてあるだけに見える玩具やら書類の山の下にある物は詮索してはいけない。「いや!もう片付けたから!」って言ってるのに明らかに奥に押し込んだだけみたいな状態のやつは、綺麗に片付け過ぎると丸見えになってしまうので、あえてある程度の汚さを保っているのだ。
つまり、男の子の部屋が一見すると汚いのはそういう事。
「聖王国に『巨人の槍』……やはり、我が眠っている間に随分と時間が経ったようであるな。とはいえ……」
「我が使命が変わる事は無い。」
コレまでとは雰囲気が違う力の籠もった宣言。
確か使命のために北に向かうみたいな話してたよな?……何があるのかは判らないけど、さすがにその旅について行くわけにも行かないし、ウルナにブチギレられるのは間違い無いし、そろそろさすがに愛想つかされそうだし、俺的にもそろそろ休みが欲しい。王城でのぐーたらニート生活が懐かしい。
「は、覚悟決まってンじゃねえか。じゃあ、さっさと外に出るか、ここにいつまでも居た所でなンも変わりゃしねぇだろ。」
「うむ、それもそうであるな。」
「早く出ましょう。なるべくすぐに!」
ウルナの必死な声は、単純に狭い洞窟内が嫌なのか、これ以上当初の目的であるアルカナムに向かう道中が遅れるのが嫌なのか、普通にやべー戦闘に巻き込まれそうになって死にそうな思い出があるから嫌なのか、それともグラッゼアとかいうイカれたおっさんの近くにこれ以上居続けるのが嫌なのか………………全部だな多分。
「んじゃ、アーディ達はほっといて行くか。」「オイ!!起きてるからな!!」
ちょっと前から起きていたらしいアーディとガヘルと………まとも枠のヤクが…まだ寝ている…だと?いや、コイツは元から糸目だったわ。
「オォ、テメェら起きたかよオイ。」
と、ガラの悪いグラッゼアが更にガラの悪い感じですんごい笑顔で何故かアーディ達の元へと向かっていく。理由が判らんしアーディたちも何されるか判らんからさすがに警戒してる。
グラッゼアがアーディ達に絡みに行く理由って何?もう全部終わったからこれで解散!って感じじゃ無いのか?
「テメェら、依頼で来てやがったよなぁ?」
「え、あ、ハイ。」
「コレ、どう報告すンだ?」
ふむ、確かに。
アーディ達『四番目の剣』は確かこの洞窟に居る盗賊団の下見を依頼されてたハズだ。
そう、あくまでも"下見"である。多分だがコイツらから得た情報次第で冒険者ギルド側で討伐隊を結成するのか、規模がでか過ぎる場合は国に報告が行くのかが決まる訳だ。
結果はどうか?
アーディ達が捕らえられている間にグラッゼアがほぼ単騎でアジトを壊滅させ、盗賊団の主っぽいヤツは逃走してしまった。正直言うとアーディ達の正解はやはり"安全に情報を持ち帰る"という事だった。
依頼は失敗。……グラッゼアは冒険者の先達として依頼の失敗について怒ってるって感じか?
「……ひとまずはこの洞窟を更に探索し、盗賊として略奪した物などが残ってないかを探すのが先決だ……です。」
「うむ、私どもの目的はあくまでも偵察。此度の報告は『既に盗賊団は壊滅しており、首領らしき姿は見られなかった。洞窟内に残されている物が無いかを調べるために報告が遅れた。』というのが普通でしょうな。」
「まぁ、【千本剣】さんが一緒に報告に来てくださるなら………あ、やっぱ大丈夫っす。」
ガヘルの望み薄な言葉はグラッゼアの無言の圧により潰される。この感じはアレだな。
「おう、オレサマの名前は出すんじゃ無ェぞ。わざわざ顔出すの面倒くせぇからなァ。」
「いや、お前が嫌なのそこかよ!!」
もっと尤もらしい理由があるのかと思ったんだけど!?
まぁ確かに判らなくも無いんだけどさ!喧嘩の仲裁とかした時に先生が来て、俺も関係あるんじゃないかって疑い掛けられた時に、喧嘩してた2人は喧嘩直後の謎不貞腐れモードでちゃんと喋ってくれないから全部俺が説明するけど、先生はソレ見てたわけじゃ無いから説明長引いて休み時間全部潰れるまで先生に説明し続けるクソ展開みたいな話!!
「俺関係ねーじゃん!!!」って叫びそうになる。
「ソレに俺ァ行くとこあるからなぁ。」
あー、予定があったのか。
彼女とデートとか?半裸で大丈夫か?下心あり過ぎるヤツみたいになるけど大丈夫か?
「砂漠のベスティア…そっち方面で何ンかは知らねぇが、妙な気配っつーモンがしやがンだよ。」
俺の心を読んでか知らずか、何故か俺の方を見ながらそんな事を言う。ふむ、砂漠のベスティアってことは………俺が倒したアレじゃね?あの堕天使ドラゴン擬きじゃね?
天使の輪っかみたいなの付いてるクセに最終的に捕食系触手エイリアンみたいになってたぞ。と思いきや突然着ぐるみみたいに中から痩せたケモ人出てくるし。
倒したは倒したけど倒すまでに俺の命も何度か燃え尽きてるんだよな。ゲームと同じで、あぁいうのは命が軽い方が勝つクソシステムがある。つまりリアルダメージある代わりに無制限コンテニュー持ちの俺が勝つ。
というわけで、グラッゼアは無駄足になる可能性高そうだな。ま、頑張ってくれとしか言えない。一応水路だけは復興させといたからそんなに不便では無いと思う。人工オアシスフォレスティアで観光楽しんどいてくれ。
俺は真逆の聖王国に行ってくる。
「まァ、とりあえずオレサマ達ぁさっさと出るかよ。痕跡残し過ぎてもアレってモンだしなァ?」
「うむ、いたしかたあるまい。」
「…グラッゼアお前荷物とか奪われたんだろ?いいのか?」
俺の単純な疑問に対して、グラッゼアはいつの間にか手に持っていた布袋を見せる。
「律儀にもしっかり置いていきやがった。マジで禍根一切残さず全部が全部"無かった事に"ッつー事だろォよ。クソが…」
「ならいいか。」
『邪蛇』だったっけ?野党崩れってアーディ達は言ってたけども、にしては引き際だったり、連携だったり、わざわざ盗品返したり…あの"先生"って呼ばれてたロリが首領なんだとしたら……凄くぽいな。
ゲームやアニメの王道展開…一見するとロリショタな奴が実はめちゃくちゃな実力者!うん、俺も大好きな展開だ。ま、ソレはソレとして…この辺りを拠点にしてるんだとしたら、まだまだ気は抜けないな。
なんて考えていると不意に袖をくいっと引かれる。
顔を上げてみると、眩しい光に目を焼かれる。どうやらいつの間にか洞窟の外に出ていたらしい。
「ふむ、では貴公ら…名残惜しくはあるが我は我の旅へ戻らせて貰おう。」
「おう、オレサマも行くとこあるからなァ。」
「ヨモロは北の方、グラッゼアはベスティアだよな。」
「うむ、この面々で再び会える事はなかなかに無いやも知れぬが……いずれ来るであろう貴公らとの再会を心待ちにしていよう。」
いつの間にか夕日で赤くなっていた空の下、たまたま出会っただけの関係の俺達が別れを惜しみ、再会を約束する。
「じゃあな」「おう」「うむ」
別々の方向へと歩む足は振り返ることは無い。何せ……
「ヤバい。日が沈む前に村か町かに着かないとヤバい!!」
「だからやめましょうって言ったじゃないですか!!」
何処からか聞こえる気がする狼っぽい遠吠えとか、鳥の鳴き声が俺を更に焦らせる。でも、無駄足では無かった。
俺専用のチートアイテムを手に入れたんだから。
おめでとうございます。
下書きは増えるのに、私の中の謎完璧主義がGOサインを出さずに全書き直しを要求し続けています。助けてください。




