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52 敗走

遅筆で申し訳ございません。

ドヤ顔…まごうこと無きドヤ顔で一本の岩の柱を抱えるわけでも無く、指を無理矢理食い込ませて剣のように構えるグラッゼア…それを見て眼鏡さんは目を剥き、そして俺を見る。

つまり「これがお前の作戦か!?」ってやつだろう。


「いや、全然違うからな!?」


んな馬鹿みたいな作戦立てるか!!!普通に弓矢と斬撃飛ばし用の遮蔽壁だよ!!ちょっとでも戦いやすいようにっていう配慮だよ!!なんでわざわざソレ減らして扱いづらッそうな武器にしてるんだよ!!!


「ッ…そんな長物をこのような閉所で振り回せるとお思いですか!?」


「はッ余裕だろ、大事なのぁオレサマがやるかどーかなんだよ!!他人の思いも考えも、全部飲み込んでオレサマがやる!!ソレだけでいいンだろォがよ!!」


凄まじい風切り音と共にグラッゼアは岩柱を振り抜き、一気に距離を詰める。


「ッ!」


新たな魔剣を出すのには間に合わない…眼鏡さんは仕方なく同じように『ユラネレの空断刃』を振るい、あくまでも牽制をして体力を─


「甘ぇンだよ!!」


瞬間─グラッゼアの持つ岩柱が、青白いオーラのような物を纏っていく…それは本来可視化出来ない物が、極限まで練り上げられた故に遂に誰もに見えるようになったモノ…


「魔剣使いッてもよぉ……オレサマが強くなけりゃ結局ぁそりゃ魔剣頼りの雑魚って事になっちまうとは思わねぇか?」


真空の斬撃が、グラッゼアの眼前にまで迫る─


「〈《嵐渦柱(ストームピラー)》〉」


グラッゼアが岩柱を薙ぎ払う事によって生まれた風の流れが、真空の斬撃を巻き込んで形を成し、岩の柱へと纏っていく…南は知らないが、それは本来己の剣へと風渦を纏わせ、嵐の剣と化す"魔法"と"特殊能力(スキル)"の混合たる絶技…しかし、グラッゼアは今この瞬間ソレを更に()()()()


「薙げやッッッ─!!!!」



─!!!!!!!



自然の暴力。まさに天災たる嵐を操る絶技。

更にソレは魔剣の"攻撃"を取り込んだ超火力の薙ぎ払い。


風が通り抜けたと思った瞬間、身体が半ばよりズレ、或いは先程まで前に出し、身を護るようにしていた腕が吹き飛ぶ。人類の叡智の発明たる矢の一撃など嵐の暴牙に敵うハズも無い。




「ふッ…ぐ…!!」



しかし、当然ながらソレに抗う者も存在するのだ。


「ほォ……咄嗟にソレ出すかよ。」


傷だらけではありながらも、眼鏡さんは未だ立っていた。

七支刀のような見た目の魔剣を盾とし、それでもまだ……


「ぁ…」


眼鏡さんの眼鏡が落ち、見えづらかった瞳が視界に映る。

ソレは赤い魔法陣のような異様な瞳孔…、しかしソレに近い物を俺は見たことがある。


「〈簡易看破術式(シースルー)〉……か?」


「いや、アレぁ《解析(アプレイザル)》のスキルだなァ…魔剣の鑑定してもらう時に良く見るぜ?」


解析(アプレイザル)》…ってなると鑑定士とかそういうヤツだよな?アレか、異世界モノでよく見る相手の能力全部丸裸だぜ〜、のアイテムverってことか!


「くはは…良くご存知で、泥鼠にしては知恵がある。」


眼鏡さんは七支刀を地面から引き抜き、青白いホログラムのような剣身を持つ『ユラネレの空断刃』を再び握る。


魔法道具(マジックアイテム)『千本刀剣鞘』……コレに収納された全847本の魔剣…。その全ての効果を私は解析しました……いえ、正確に言えば今、解析が終わりました。」


「あ、千本じゃ無いんだ。」


「あ!?ンなパンパンにしてたら新しいモン入らねぇだろォが!!他の使えるヤツぁ家に置いてあんだよ!!ソレ含めりゃ全部で1263本!!」


「どんだけ持ってんだよ!!馬鹿じゃねぇのか

!?」


「ふむ、やはり浪漫…浪漫とは良い物だ。」


「お、おいお前ら!!」



─ッ!!!



アーディの忠告の叫びの直後、ヨモロの太い剛腕を貫き、鋭利な切っ先が俺の鼻先を掠める……。それは発動の瞬間を一切目で追うことすら出来ない神速の魔剣…ヨモロが居なければ今頃は……


「ッテメ…『ルーシャの秘針』はズルだろオイ!!オレサマも滅多に使わねえぞ!!」


「ヨモロ!!」


これまで破られなかったヨモロの守りが遂に破られ、腕甲の中から溢れた真紅の血が地面へと落ちる。


「『ルーシャの秘針』…単純明快剣先が伸びるというだけの効果を持つ刺突剣(スティレット)ですが…一点特化だけあってやはり破壊力はあるようですね。」


眼鏡さんの言葉通りだ。これまであらゆる攻撃を弾いてきたヨモロの鎧が遂に貫かれた。さすがに俺もこのままってわけにはいかなくなってきたな……。

『ルーシャの秘針』…予備動作はほぼ無しだが、向いている方にしか攻撃は来ない。ってわけで……


「〈遮視の霧(ブラインドミスト)〉!!」


もう何回使ったか判らない敵味方関係無く一切合切全部全部巻き込む半自爆技。ちなみに魔力消費量とか発動速度とかを考えると凄いコスパが良い。ぜひもっと使っていきたいよね。

「ッおい!なんも見てねぇぞ!!!」「ぐぁーー!!」「むぅ…何も見えぬ」「おい貴公よ、これでは何も見えぬ─」

この被害を考えないという前提で話すと、もっと使っていきたい。


さて、これで全員状態異常による行動不能に陥った。この間に俺は一発大逆転全員生存スーパーハッピーエンドの特大秘策を準備しなければならない。


「えー、うーん……」


と頭を捻って─


─ギン!!!


と、俺のすぐ横を通過した一般通過『ユラネレの空断刃』さんが洞窟の壁に斬撃痕を残す。


「…あれー?」


「……南様、敵はあの方以外全滅なので巻き込む心配などせず…こちらは狭い空間で視界が遮られている状態なのですが……これ、こちらだけが不利なのでは?」



「あ」



「ッ!〈領域結界(プレヴェントエリア)〉!!」


いち早く状況を理解したヤクが聖属性魔法による結界を発動させ、一息つけるくらいの時間を稼ぐ。

とはいえヤクは俺の居場所が判らないだろうし、今この場で周囲が見えているのは俺だけだ……というわけでは無い。実はこの魔法は爆発的に広がる黒い霧に視界を塞ぐ魔法効果が乗っているので、黒い霧そのものは魔法効果が切れるまでは実体がある。

つまり俺も範囲外まで逃げるまではほぼ何も見えてない!!


「使いづれぇよやっぱりこの魔法!!誰か闇魔法の強い使い方教えてくれ!!俺も見えねえ!!」


「だぁ!!煩えクソが!!〈《嵐渦柱(ストームピラー)》〉!!」


グラッゼアの魔法により黒い霧は1点に集まり、俺の視界だけは晴れる。眼鏡さん含めグラッゼアたちはまだ魔法効果が切れていないので何も見えてない。まともに動けるのが俺だけな以上─


「〈送声(メッセンジャー)〉ッとぁ危ね!!!」


「そこか!」


と、眼鏡さんがめちゃくちゃな方向へと攻撃し始める。これも闇魔法の超姑息魔法…〈送声(メッセンジャー)〉である。ちょっとだけ遠くに声を届ける魔法であり、これを使ってから声を発すると、指定した場所に声が届く。

ひとまずヨモロ達にもこれで攻撃は当たらない。


「ふぅ……」


今のところ、勝ち筋というのは幾つもある。

ぶっちゃけ眼鏡さんかどんだけ魔剣を上手く使えようとも、全員で掛かれば討ち取る事は出来ると思う。しかし、誰かが犠牲にはなるだろうし、無血開城とはいかないだろう。ならば…やはりグラッゼアが鍵になる。


「グラッゼア!!絶対取れよ!!!」


「あぁ!?」


グラッゼアの返事とも言えない返事を無視し、俺はとある覚悟を決める。これを発動すれば、俺は死ぬ……そう、もう二度と……いや、待てよ?上手くやればワンチャン………


「ッ切れたぞ!!」「来たかァ!!」


最も魔法の効果が切れるのが早かったのは、眼鏡さんとグラッゼアの2人。失敗すれば俺は死ぬ…くぅ…本当なら効果が切れる前にやってしまいたかったのに……ッ行くぞ!!


唯一の収納(ストレージ)》!!


俺のすぐ目の前、手の届く距離にテカテカした生地の布がファサ…と落ち、急いでソレをキャッチ!まるで親鳥が卵を守るようにお腹の下にそれを隠し、身体を丸めてガチガチに防御を展開した上で─


「もういっちょ《唯一の収納(ストレージ)》!!」


俺が眼鏡さんが振りかぶる『ユラネレの空断刃』を視界に収めた瞬間─ソレは消える。さて、やりたいことは判っただろ?


「は?」


ぽんっと、グラッゼアの眼の前に『ユラネレの空断刃』が現れる。

空振りどころか突然手のひらから剣を喪った眼鏡さんはもちろんとして、岩柱を振りかぶるグラッゼアですら何が起きたか判らず、一瞬動きを止める。


しかし、それも一瞬だけだ。

岩の柱から即座に手を離し、振り被りのエネルギーによりあらぬ場所へと飛んでいきそうになるその魔剣をグラッゼアは握る。岩の柱はその重さに相応しい凄まじい音を立てて地に落ちると、中ほどからへし折れてごろりと転がる……。しかし、誰もそのような事を気にしてはいられない……ソレは魔剣使いたるグラッゼアが魔剣を手にした瞬間だ。

─瞬間、その場に異様な威圧感が生まれる。


魔剣『ユラネレの空断刃』を手にしたグラッゼアは両の足を地にべったりと着け、剣を握っていない左手を地に着け、低く屈んだような姿勢を取る……


「イライラしてたンだよなァ……、単ッ調な使い方ばっかしやがってよォ?」


明らかに怒りを孕んだ視線が、眼鏡さんへと向かう。

"単調な使い方"といえども、『斬撃の軌道上に前進する真空の刃を産み出す魔剣』の使い方としては、本来届かない距離へと攻撃を届かせるというのが最も利口だと言えるのでは無いだろうか?


「《解析(アプレイザル)》のスキルじゃ、所詮は表面しか見えねえンだろうがよ…だから『チシシの虚城塞』を使ってもテメェは無傷たぁいかなかったワケだ…。」


グラッゼアは凶悪な笑みを更に深め、一気に間合いを詰める!


「ッ!!」


眼鏡さんが咄嗟に握ったのは漆黒の剣身を持つ"湿った剣"……


「ははッ!!『マネーレの擬捌剣』かよ!!」


剣と剣がかち合ったと思った瞬間、2人の姿は一瞬にして消える…いや、今も凄まじい剣戟による金属音と火花があちこちで起きている。

要するに眼では追えない速度で今も2人は戦って─


「雑魚が!追いつけてねェぞ!!!」


グラッゼアの攻撃が、眼鏡さんが移動せんとする先へ先へと放たれる。緩るやかに振るう事で放たれるゆっくりと進む真空の斬撃。それは紛れもない'空中地雷"であり、眼鏡さんの移動を制限すると共に、行動そのものも縛り付ける。

遠くからブンブンやっているだけでは不可能ではあったが、ここまで近付けば効果は変わる。足元への牽制だけで無く、真空の刃と剣身の斬撃の2連撃はそう簡単には受け切れるモノでは無い。

グラッゼアと変わらないほどの速度で剣を振るう眼鏡さんも、真空の刃までは捌ききれず、軽傷ながら無数の切り傷が刻まれる。


「─吹き飛べ!!」「─!」


いつの間にか左手に握られていた幅広の魔剣による一撃を咄嗟に『ユラネレの空断刃』にて捌いたグラッゼアが、異様な力により吹き飛ばされる。


「っと」


とはいえさすがはグラッゼア、空中で姿勢を整え、飛ばされた先である()()へと足を着けて膝をくっと曲げるだけで吹き飛ばし威力を完全に殺し、そのままくるりと一回転して地に降りる。アクロバットにも程があるというものだ。


「『グテンの天扇』…吹き飛ばし特化の魔剣だが、もう使っちまうのか?逃げる気かよ、オイオイ……」


嘲るようにそう言った後は、やはり魔剣を構える……。

相対する眼鏡さんは既に満身創痍という様子ではあるが、左手にはまた別の魔剣が握られていた。まるで鎌のように先端が弧状に曲がったソレは、霜霧のように常に冷気のオーラを放ち、ゆっくりと下へと向かうソレは地面を白く凍らせる……。コレが魔剣使いの強味だろう。状況に応じて次々と魔剣を切り替える、弧状の魔剣の効果は不明ではあるが、遠くへと相手を吹き飛ばした後に出したのだ…効果は恐らく─



─白い爆発は凄まじい冷気を纏い、俺の髪先すら凍てつき固まり、顔の一部に霜が降り、痛い程の寒さが身体を包む。しかしソレはこちらを狙ったモノでは無く、あくまでもグラッゼアを狙ったもの。冷気の爆発を放つソレは、真空の刃よりも威力が上であり、グラッゼアが振るう『ユラネレの空断刃』による不可視の斬撃を消し飛ばす。


「『モンロスの冷竜の髭』ってェなると自爆覚悟かぁ?」


「……髭???」


そのネーミングはもはや魔剣というアレを放棄してないか?"モンロス"はまだ判るんだけど、何、冷竜の髭って。……まぁいいか。

とりあえず"自爆覚悟か?"というグラッゼアの発言通り、眼鏡さんの眼鏡のレンズの左側が霜により曇り、『モンロスの冷竜の髭』を握る左腕は半ば凍て付き、その冷気の凄まじさを物語るように寒さに凍え、細かく震えている。


対するグラッゼアは僅かに避けきれなかったのか、髪先とズボンの端に霜が付いているものの、ほとんどダメージを負ってはおらず、笑いながら白い息を吐いている。


「これでも……ッあなたは何者ですか!」


「は、名前聞くときゃテメェからってなァ常識だが…まぁ、良いぜ名乗ってやんよ。」



「オレサマぁ…クラス11冒険者【千本剣】グラッゼア・ルドー。つまるとこぁ…超越域(オーバークラス)ってぇやつだなァ?」



「なっ…クラス11!?」「マジかよ!!」「むぅ!?」


……と、なっているのはいつの間にやら魔法効果の切れていたアーディたちだけ。こっち(俺とウルナとヨモロ)からすればなんのこっちゃという話である。

ふむ、クラス11ってことは俺がクラス1だから…俺の10コ上のクラス……つまり俺の10倍は強いということか?……途端に弱そうになったな?

さて、グラッゼアの発言で驚きにより眼鏡越しの目を丸くしている眼鏡さんだが、ようやく言葉の意味を理解したのか、諦めたように両手の魔剣を下ろす……カラン、という音と共にそれらは地面に落ち、それを見たグラッゼアは熱が冷めたようにため息を吐く…


「ンだよ…諦めちまったか?残念なこった─」


「─先生お逃げ下さい!!!クラス11冒険者ッ!!私どもでは敵わぬ相手が現れましたッ!!!!!」


腹から声を、凄まじい声量が洞窟内に響き渡る。

インテリ感の溢れる見た目とは真逆の体育会系みたいなバカでかい声で告げたのは、なかなかに潔い逃亡の指示。先生ってことはコイツ以外にも!


「理解した…」


そんな俺の思考が纏まる前に、小柄な人影がいつの間にか眼鏡さんの前に立っていた。身体を眼鏡さんの方に向けている故に背中しか見えないが、横目に冷たい視線が俺達全員を観る……。

腰まで届く長い黒髪に黒曜石のような漆黒の瞳を持つ、しっかりとしたスーツを着込んだ線の細い幼さの残る少女……"先生"という呼び方には相応しいのは服装だけであり、見た目は幼女でしか無いような見た目ではあるものの、堂々たる佇まいと、呑まれそうになる雰囲気……そもそも誰にも気付かれず唐突に現れる程の隠密能力─


「私の部下を随分と虐めてくれたようだが……こちらも手を出す相手を間違えたようだ。」


少女はそれだけ言うと眼鏡さんから『千本刀剣鞘』を受け取ると、そのままグラッゼアへと投げ渡す。


「これでお互い"何も無かった"で、いいかな。」


恐らく同意は求めていない「いいよな?」という圧である。んー、正直俺からはこれ以上何も言えないんだよな…結局コレはグラッゼアとヨモロの問題だし。俺はなんも盗まれてないし。


「は、いいわけ無ェだろ?こんだけオレサマ達に喧嘩売っておいて今更逃げに徹するってか?─殺すぞ?」


「ふむ、我も同意見であるな、貴公らがどのような集団だとて、現状は周囲に害意を振りまく危険な罪群であることには変わりないであろう。……ここで逃がせば次がまた起きるのは必定…ここで芽は摘むとしよう。」


グラッゼアとヨモロの敵意マシマシの発言…で、アーディたちは何してんの?なんか言えよ!!お前ら依頼で来てんだろ!!逃がして良いのか!?

アーディ達が無言の間、黒い少女は薄く息を吐き、こちらに向き直る。


「……仕方ない。〈遮断の闇煙(ダークスモッグ)〉」


「ッ!?」「南様!!」


黒い少女を中心に爆発的に溢れ出したのは〈遮視の霧(ブラインドミスト)〉と同質の漆黒の霧。しかしそれは俺が扱う物よりもより濃く、吸い込んだ瞬間に呼気に刺すような強烈な痛みが走り、身体が重くなるような違和感に襲われる…。視界が完全に塞がれているのは勿論として、五感と意識すらも呑み込まれそうになる─

ってのが周りの反応だ。俺は闇魔法に対してはある程度理解があるし、適性がある。視界が塞がれたのは一瞬であり、特に痛みも感じなかった。単に幻覚による霧であれば、俺の〈遮視の霧(ブラインドミスト)〉とは違い、無効化時点で視界は晴れ─


─黒曜石の瞳と眼が合った。


「ッおま!」「!」


俺に魔法が効かなかったことに驚いたのか、黒い少女は更なる魔法を発動しようとしていた手を止め、即座に俺から距離を取ると、考える間も無く飛び退りそのまま空気に溶けるように姿が消える。恐らくここに突如として現れた時と同じ能力─


「─なッめんな!!!!クソが!!!」


と、魔法がしっかりと効いているハズのグラッゼアの怒声と共に、何やら凄まじい勢いで飛ぶ物体が、唯一ある逃げ道である俺達が来た道へと投げ込まれる。しかし、そもそもそこには居なかったのか、或いは間に合わなかったのか、投げ込まれた魔剣は空を切り、カランと音を立てて地に落ちる。


「ッソがーーー!!」


悔しそうなグラッゼアの声と共に、投げられた剣から半ば透けている半透明の鎖のような物が伸び、グラッゼアの手元へと回収される。

……返しが付いている異様な剣となると、どちらかと言えば釣り用具とか船のアンカーに近そうだな。…マジで刺さってたらグロ過ぎる絵面になってたかも知れん。


「……痛み分けって事にするか。」「まぁ、南様では追い掛けても何も出来ませんからね……」


さて、聞こえた声は誰のものか?この男臭い現場に居るTSでも無い唯一の本物女の子。うん、おかしいな……さっきのロリ先生の魔法で俺以外はみんな『目が、目がぁぁあぁぁ!!』状態になってるハズなんだが?


「……何故、魔法が効いていない!?」


「………」


さて、ウルナの冷めた視線の理由は何だろうか?この前高めの酒を一晩で飲んだからか?それともコッソリ高い飯食べに行ったのがバレたか?…いや、あれ即効でバレてブチギレ無言の冷たい視線攻撃されたわ。いや、野宿生活に嫌気が差したって可能性もあるか?


「で、アレは何だったんですか?」


その一言で、俺はだらだらと冷や汗がどばどばに流れる。だらだらなのかどばどばなのかどっちなのかというツッコミは後回しに、とりあえずそれだけ焦ってるって事は理解して欲しい。ウルナの言う"アレ"とはなんだろうか?突き刺さる冷たい視線と今の状況…総合的に判断すると答えは1つしか無い。しかしそれを認めると俺はまだ社会に出てすらいないのに社会的に死ぬ。特大黒歴史が産み出される!

いや、シラを切り通せば俺の勝ちだ!黙ってろ南!!


「テカテカした生地でしたね。」


「……結構ガッツリ見てるな。」


「布面積も少なかったように思えますが、脚部に至っては……」


「………いいじゃん、バニーガールは男の子の夢じゃん。」


「いや、ですから着る予定は無いのですよね?」


いや、ダメだやっぱりウルナは男の浪漫を判ってない。あのバニー衣装は単なるバニー衣装じゃ無いんだ!なんたって伝説の浪漫メイド服を作ったあのラティナ作の服なんだぜ!?なんでも、常に熱を発する"熱鉄鉱(ヒートメタル)"なる希少金属を金属糸にして編み込んで、更には"冷白結晶(プラチナスノウ)"なる宝石を装飾として用いる事で暑い場所でも寒い場所でもめちゃくちゃ丁度いい温度に調節してくれるらしい。これで真冬にもバニーガールを見ることが出来るわけだ!……革命、これは革命としか思えない!


「無駄遣いは辞めましょうと申したハズですが?」


「……いや、あのメイド服とセットで1割引って言われたら買うしか無いだろ。」


「着ないんですよね!?」「着ないよ。」


なんていうやり取りは五感全てを消失させるあの霧をまともに浴びた連中には聞こえていない。とはいえ、魔法というのは特化させなければあんまり強くは無いもので、─実力が化け物クラスじゃ無い限りは─五感の遮断に追加で幻痛まで与えるアレは、攻撃魔法としては優秀かも知れないが、俺の魔法と比べると持続時間はそこまででも無い。

魔法が発動した時特有のオーラ的なやつの色から見るに闇魔法なのは間違いないとは思うんだけど…実戦用にするとあぁいうのも出来るわけだな。勉強になる…俺は逃走特化のクソ姑息魔法ばっか考えてたからな。根本的に考え方が違うんだろうな……


「だぁー!!ックソが逃がした!!!」「無念であるな。」


「お、解けたか。どんまい二人とも。」


魔法効果の解けた二人にとりあえず適当に言葉を掛けておく。さすがに俺の魔法もすぐに解けてたグラッゼアは早いな。ヨモロもさっきの俺ので耐性でも付いたのか?


「んで、こいつらはまだ夢の中か。」


あらゆる感覚を失いながら鈍い痛みだけを感じているアーディ、ガヘル、ヤクの三人は、別に弱いわけじゃ無いんだけど、弱過ぎる俺と、強過ぎるヨモロとグラッゼア達と比較してしまうと霞むんだよな。そもそもキャラが立ってない。上裸の規格外(チートキャラ)グラッゼアと巨人のヨモロと比較してみろよ…美少女でも無い、美少年でも無い、イケオジって顔でも歳でも無い。


え?何こいつら。モブ過ぎるだろ。


「はぁ……ま、当初の目的は達成し………て無くね?」


とりあえず丸く収まったみたいな感じ出そうとしたけどさ、一番最初の目的ってなんだっけ?そう、ヨモロが盗られた矢筒の回収!!


「おいヨモロ!矢筒は見つかったか!?」


「……む?あ、あぁ…そうであったな。矢筒であった。」


何故か洞窟の壁を眺めていたヨモロが驚いたように自らの手のひらに収まっている今や消えかけの火を思い出す。恐らくだが効果時間が切れかかっているのだろう。風前の灯といった様子のソレは、小さく揺れつつもヨモロを導くように火の向きを変え、熱を帯びる細く焦げた灰の道を産み出す。


さて、ヨモロの矢筒の場所は……アーディ達が入っていた牢獄の中??


「……倒れた柱かと思ってたけど、コレじゃね?」


「おぉ、それは正しく我が矢筒。うむ、中身も正味無事でありそうだな。」


俺では逆立ちしても持ち上げられ無さそうな2m近い矢筒をひょいと持ち上げ、中身を確認してから満足げに頷く。……さて、倒れていた矢筒と言った以上、中身は俺にも見えたわけだが…


「……一本しか矢無くね?」


「ふむ、真なる狙撃手はたった一撃に全てを込める。この矢も、我が魂を懸けた特別製…さほど量産出来る物でも無い故な。」


「でも矢が一本じゃ戦えないんじゃ無いか?今まではどうしてきたんだ?」


ヨモロは何故か自慢げに自身のデカい弓を取り出し、直後に弓が炎に包まれる…


「我が技術たる《〈魔導弓(マジックアーチャー)〉》を用いれば、矢が無くとも魔法によって形作られた矢を放つ事が出来るのだ。」


「ほー、なるほどな。魔法の弓矢…麗がこのまま鍛えてけば使えるようになるのかもな?…………ん?」


今の会話……なんか判んないけどなんか引っかかる。

なんだろ?"デカい巨人なのに脳筋物理攻撃じゃ無くて魔法系なのかよ!"みたいなツッコミでは無く、"真なる狙撃手のくだりはなんだったんだよ!"ってツッコミでも無い…謎の引っかかり……んー?



「……初めから普通に戦闘参加出来たのではありませんか?」



「「………あ」」



















転移魔法を即時発動する魔法道具(マジックアイテム)が手のひらの中で崩れ去り、灰のように粉々になって風に流れる…。そう簡単に使える物では無い超希少品ではあるが、二度と手に入らない物でも無い以上、使い所を誤ったとは思ってはいない。

それよりも…


「申し訳ございません、先生。」


荒い息を吐き、深い傷口を抑えながらもその男は地に額を打ち付け、血が滲む謝罪を繰り返す……。その目には涙が浮かんでおり、頭を打ち付ける度に零れたソレが地面を濡らす。


「…頭を上げてくれ、ユーディーン…キミだけでも無事で─」


「─ッ私のせいで!!!仲間たちを死なせてしまいました!!」


私の慰めの言葉を遮り、心の底から悔しそうに拳を地面に打ち付け、そう叫ぶ。もとより彼は責任感の強い男だ。私の慰め程度では彼の悔しさを埋めるには到底足らないだろう。


「……キミに彼らを任せる選択をしたのは私だ。私の考えが甘かった…」


「そんな!先生が悪いわけでは!」


導く立場として、私は間違いを犯した。

彼らに生き方を教え、壁にぶつかった時にはそれを乗り越える手伝いをする…それこそが私の生き方だ。

私は自らの手のひらを見つめる……コレまでにも幾度も、私の手からこぼれ落ちていった子供たちが居る。全ては救えない…全てには手を差し伸べられない。いや…


「いいや…私の責任だよ。」


ユーディーンの肩に手を触れた瞬間、ユーディーンの身体からは力が抜け、私はそれを支える……。

子供たちを導いた時点で、私の責任は重くなった。

私は私の子供たちを護るためなら、他者の(子供)すら呑み込もう…、だからこそ…私は蛇を掲げるのだ。


「すまないが…傷が深そうだからね、みんな、彼を頼むよ。」


近くまで来ていた子供たちにユーディーンを託し、私はゆっくりと立ち上がる……。


「あの白い少女……」


私の魔法を受けておきながら、眼が合った……。

ユーディーンも居た故に撤退を優先したが、魔法を無効化した以外の能力は何一つとして判明していない……。もし、次にぶつかる時があれば、ひとつ魔法を知られている以上、私が不利なのは間違い無い。


「……私だけが選ばれた訳では無い。"アルカナムの勇者"と呼ばれる存在も、"世界の守護者たる天使"とやらも…私とは間違いなく次元の違う存在だ。」


だが、私は1人では無い。

私を先生と慕う子供たちが居る限り、次へ繋げる『敗走』は可能だ。真の敗北は、私が負け、子供たちが皆殺しにされる事……。


「例の計画を更に速めるべき、ですね。」

南は着たいのでは無く、自分自身に着せたいのです。

ちなみにウルナが今着ているメイド服もラティナ作であり、汚れ防止機能が付いてる。


もしかすると修正箇所があるかも知れません。

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