50 盗賊アジトにカチコミするやべーやつ
言い訳:仕事が忙しい。
「ッはァ!死に晒せゴミどもが!!」
「ちょっと待て馬鹿!作戦もクソも無いのかよ!!」
入口を守っていた奴らをサクッと斬り伏せ、ズンズンと洞窟の奥へと進んでいくグラッゼアを必死になって追い掛ける。ちなみに俺の身体能力は並み以下だ。100m走はクラスの中で真ん中くらい。体育の評価は3くらい……結構低いかも知れない。だいぶ全力で走って追いかけているが、その差はかなり開いている。つまり声も届いてるか怪しい!!誰か!声のデカいやつか足の速いやつ連れてこい!!
うむも言わさず次々と切りかかり、数百キロかそれ以上はある重剣を文字通りぶんぶんしてる化け物!もちろん研がれてなんかいない岩の剣は切り裂くというより押し潰すという言葉が相応しく、転がる死骸もより凄惨だ。あんな凄い音してたんだから内臓やらなんやらが飛び散って……あれ?
「さて、」
入ってすぐの広い空間の人間を一通り潰し終え、グラッゼアは満足げに息を吐く。そして死体に近付き…、その胸ぐらをぐいっと掴んでからコレでもないコレでもないと手を離す。
ってところでようやく追いついた俺が合流。ぜぇぜぇはぁはぁ青い顔で呼吸を整える。コレが運動能力の格差だ。一息で敵を全滅させるやつと、走ってくるだけで息切れして死にかけてるやつ。
「さて…コイツだな。」
と、あまりの全力疾走で視界が明滅中で、グラッゼアの手が死骸を吟味するように動き、そのうちの一人に対して腕を伸ばす
「ッひぃ!!やめてくれ!!」
なんと、潰された男が完全に息を吹き返した。どうやらグラッゼアは死者蘇生能力まで持っているらしい。というのは冗談で…死んだと思ってたやつらは全員傷のひとつも無く気絶してただけ。……なんで?
「気絶の魔剣でも持ってんのか?」
「全部“峰打ち“っつーやつに決まってんだろ!!」
「いや、両刃の剣の峰ってどこよ…」
無い峰を生み出すグラッゼアだが、恐らくコレは技術に依る物だろう。異世界故の意味分からんすげー技。しかもそれをスキルでは無く、剣技として扱えるのだからヤバい。
やっぱコイツ剣士としてもめちゃくちゃ一流じゃねえか。
「ンでぇ…俺から奪った魔剣は何処だ?」
「ッお前らこ、こんなことをしてタダで済むと思うなよ!!『邪蛇』に楯突いて、あ、あの御方が黙って─」
「黙れゴミが、テメェは聞かれた事だけ応えりゃ良いンだよ」
「いやいや、お前らって何よ、俺は関係なくね?」
「ッふざけ─」
「おいおい、無駄口叩いて舌切り落とされたくなけりゃさっさと吐いた方が身のためだぜ?」
どっちが悪人かわかりゃしない。
お腹を踏まれて抑えつけられ、左手で舌を引っ張られ、剣を突き付けられる男の図。あのー、俺は部外者で居たいんですけどもう無理ですかね?
「やへほ!やへへふへ!!」
「あー?聞こえねえなぁ!!もっとハッキリ言ってくれねぇとよ?」
グラッゼアはあえて口を近付け、耳元でハッキリと聞こえるように…
「要らねえモンだと思って切り落としちまうぜ?」
「あ」
俺がそんな声を上げた理由は単純明快。
男が白目を剥いて気絶したからである。人間極限の恐怖に晒されると意識を手放すとは言うけども、実際にこの眼で見るのは初めてだ。……俺が使える闇魔法に〈恐怖〉ってやつがあるけど…「ちょっとゾワゾワした。」くらいの反応だったな。どうやらヤクザの脅しは魔法的恐怖を上回るらしい。
「………ったく根性無ぇな、じゃあ次を探すか!」
「ふむ、圧巻の光景と言えるな。やはり戦士たる者、剣を持てば変わるという物。故にこそやはり我も早々に鉄を打つ鎚を取り戻さねばなるまい。あれが無ければ鏃を作ることもままならぬ。」
ウルナを腕に乗せながらやって来たのは凄い猫背で屈んでるヨモロ。辛そう過ぎるな…大丈夫か?
「ヨモロ、矢筒はどこにある?」
「ふむ、少なくともここには無い。洞窟の更に奥…それも下の方へと向かう先のようだ。」
そんなヨモロの言葉の通り、ヨモロの手のひらの中から溢れ出る火は洞窟の更に奥底を指している。……やっぱり便利なスキルだな。と、いうわけで…
「だってさ。」
と、グラッゼアの方を向いて─
「ッちょっと待てぃ!!」
今にも駆け出していきそうなグラッゼアを掴もうとしたんだが、こういう時は大抵服の襟を掴むだろ?しかし、グラッゼアは上裸であり、掴む場所が無かった。俺の手は一瞬だけ空中を彷徨い……瞬時に思考を巡らせ、俺はひとつの考えにたどり着いた。
「ぐぉぉお!!?」
というわけでパンツごとズボンを思いっきり引っ張る!
もともと大した力の無い俺ではあるが、男の弱点など理解している!食い込むパンツ、前に出る上半身、そのまま顔面から地面へとダイブ!
「ってのはギャグ漫画の世界だけか……。」
この世界の冒険者の体幹を舐めたらいけない。確かにパンツは伸びたし、今にも日本の芸人さんに伝わる某ゴムがバチーンってするお笑いが出来そうな状態にはなっているが、そもそもこの世界にゴムパンツは無いし、グラッゼアは倒れてないし、こっちを睨んでいる。
「てめえ何しやがんだ!」「まぁまぁ落ち着けって。」
どっちにしろそんな急いだところで出口も入口もひとつなんだし、どーしよーも無いだろ。と、いうわけで…
「ウルナ、入口の門番はどうした?」
「ヨモロさんと一緒に縛ってきました。」「うむ、縛り上げ、口を塞ぎ、茂みに隠しておいた。」
「ん、それは良い。また誰か戻って来た時にバレても面倒だからな。じゃあグラッゼアお前が気絶させたコイツらも縛るぞ。」
「あん?面倒くせぇなクソが!」「後ろから挟撃された方が面倒くさいだろ!!!」
そこで握っていたズボンを離し、伸び切ったズボンがズルリと落ちそうになるところをさすがにグラッゼアが必死に止める。咄嗟の動きだったせいか、片手では支えきれなかった岩剣がズシンと重い音を立ててこぼれ落ち、地面に落ちた途端にその刃先が1cmほど欠けた。
武器の不壊効果スゲーな、我作ながらこんなに脆いのかよ!
「剣が折れちまったじゃねぇか!どぉすんだ!!」
「やかましいわオマエは!!先の心配そっちなのかよ!!」
「いや、どっちもうるさいんですけど…、ここが一応敵地だって分かってます?」
「………早く先に行こう(出来る限り小さい声)」
「ったく仕方ねぇなァ!(出来る限り小さい声)」
「うむ、このような場所で足踏みなどしていられぬだろう、早々に我が矢筒と貴公の剣を取り戻さねばならぬ!!(声の大きさなど一切気にしないクソデカボイス)」
「………」
ウルナの警告をガン無視したヨモロはひとまず置いておき、グラッゼアの伸び切ったズボンをコッソリと直して、さっさと先に進む。
「こっちか?」
「うむ、我が導きの火はそちらを示している。…とはいえここからどれほど深く潜らねばならぬか、というのは我にも判らぬが…な。」
洞窟内の分かれ道。どっちがどっちでとか罠があるか…みたいなのが俺に判るワケも無いので、ヨモロのスキルに頼るしか無い。
「じゃあさっさと行くぞテメェら(出来る限り小さい声)」
「まだソレやってたのかよ(出来る限り小さい声)」
バレるならもうとっくにバレてるからと思って全然気にせず普通に喋ってたわ。とりあえずさっさと先に進むとしよう。でもヨモロが矢筒取り戻しても別に戦力にならないんだよなぁ。ここまで狭いとまともに弓を構えられない。というよりヨモロは弓置いてきてるし。矢だけあってもなぁ…
って感じで愚痴を心の中で溢しながら先に進むと…
「牢獄か?こりゃ…」
「っぽいな。簡素な造りだけど、少なくとも俺が入れられたら出られないな。」
牢獄の鉄柵を軽く叩くと、しっかりと金属の音がする。パイプみたいに中身が空洞というわけでは無く、ぎっしりと金属が詰まっているコレ壊そうと思ったらかなり大変だろ。まぁ《錬成》使ったら一瞬だけども。
「ふむ、とはいえ魔法の力も感じぬ単なる鉄塊であろう。少しずつであれど削り取れば、いずれは出ること叶うとは思うのだが…。」
「何年先の話だよ。短命の俺にはキツイぞそれ。」
「あ?おいおいマジで閉じ込められていやがるヤツが居るじゃねぇかよ!」
戯けたようにそう嗤うグラッゼア……いや、性格悪いなコイツ。で、閉じ込められてるのって誰だ?
「あ」
牢獄の中で目が合ったのは、知っている人物。
知っているアホ面だし、酒飲みすぎて憔悴してる時の姿が今のソレと重なる。
少しの沈黙の後、相手が目を逸らした。コレは俺の勝ちという判定でよろしいか?さて…
「………何やってんのお前ら。」
「え…ぁ、いや…つ、捕まってます。」
「?……あぁ、この姿お前らに見せてないか。」
なんかタジタジだと思ったら…じゃあ目を逸らしたのもそういうヤツか?…さて、憶えているだろうか?『四番目の剣』という冒険者パーティーのメンバーを。アーディ、ガヘル、ヤクの三人組であり、リーダーのアーディは酒が弱い酒飲みである。あのドラゴンっぽいケモ魔王との戦いには現れず、恐らくトンズラこいたのだろうと思ったが、何故こんなところに居るのだろうか?
「んだ…知り合いかぁ?」
「クラス3だったか4だったか認定されてる冒険者の『四番目の剣』って奴らだ。ちなみに俺も冒険者だぜ?」
と、首から下げている金属製のプレートをグラッゼアに見せる。チェーンとぶつかりチャリンと音を立てるソレには、冒険者としての名前が書いてあり、プレートに使われている金属によって等級が分けられる。
「…白磁…クラス1じゃねぇかよオマエ。ソレになんだその名前は『きりもち』ってなぁなんだよオイ。ミナミっつー名前じゃ無かったかオマエ。」
「ミナミ……?」
名前に引っ掛かりを覚えたらしいアーディが思わずという様子でそう溢す。とはいえさすがに名前と見た目が繋がらないらしい。性別やら髪の色、瞳の色に声まで変われば、ソレはまごうこと無い別人だろう。
そもそもあの時はまだ冒険者としての名前も『ミナミ』だった。色々あってベスティア出る前に冒険者ミナミという名義は失効になり、無理矢理再登録させられたわけだ。国の圧力って凄いな。水魔法で頑張ってきたあれやこれやも、ケモドラゴンぶっ倒した功績も全部取り消しだぜ。
まぁ、その分口止め料としてかなりの額は貰えたんだけどね。
「うむ、積もる話もあるではあろうが…まずは彼の者らに話を聞きたい。貴殿らは何故牢に囚われているのだ?」
「え?でか…ぁ、まぁいいか…そこの女の子が言ったと思うけど、俺達は『四番目の剣』って名前でクラス3認定の冒険者をさせてもらってる。俺はリーダーのアーディで、こっちがガヘル…」
「私はヤクと申す。」
アーディを遮り、珍しくヤクが声を発する。
ヤクは普段は無口だが、なんかのタイミングで凄い喋る。そのスイッチが何処にあるかは判らないけども、ヤクの視線はずっとヨモロに向いてる。なんだろ、巨人に縁でもあるのかな?
「ンなことぁ聞いてねぇんだよ!さっさと必要なことだけ喋れやクソが!」
「わ、解った解った!依頼を受けてきたんだよ!」
「うむ、『邪蛇』と呼ばれる野党崩れの盗賊が昨今この辺りにたむろしているのが目撃された、そこで白羽の矢が立ったのがこの私達『四番目の剣』だ。私達への依頼の内容は簡単に言えば偵察だ。さほど難しくも無い依頼のハズだったのだが…な。」
「なんか人が出入りしてる洞窟があったもんだから見てたら……」
「気付いたらコレだよ。」
いや、洞窟見てたら〜からのくだり全部吹っ飛んだぞ。『気付いたらコレだよ』じゃねえんだよ。やっぱ頭おかしいぞこのパーティー。
またもブチギレそうになっているグラッゼアをガヘルが諌め、情報を追加する。
「まぁ、簡単に言うとだな、『邪蛇』の常套手段なんだよ、コレが。被害もあって被害者も居る、問題なのは、その被害者が何も覚えてないってことでな…。」
「俺達は、まんまとやられちまったってわけだよ。」
あっけらかんとした様子で言っているが、記憶の喪失を意図的に引き起こせるってなると相当強力な能力だな…スキルか魔法かもまだ分かんないけど。
「テメェら、敵の顔すら分かんねえってコトかよクソが!使えねえな!」
悪態を溢したグラッゼアを見て、『四番目の剣』のメンバーが申し訳無さそうに縮こまる。よくこの性格で冒険者になろうと思ったもんだよな。…でもコイツら一応クラス3認定だからな。そこそこの実力はあるんだよな。
「まぁ、とりあえず知り合いの好で出してやるか。」
「あ?鍵でも持ってんのか?」
「いや、普通に…」
《錬成》でこじ開ける…と口に出そうとした時…
「おやおや…何やら騒がしいかと思えば……愚かな泥鼠がいちにいさん匹…。」
この場に居る誰の物でも無い声に吊られて振り返る…
「見なきゃ良かった……。」
「むぅ……これは多勢に無勢。」
「おもしれぇ…」
俺達の反応に対し、ソイツは口角を上げた後、メガネの耳掛けを指先で持ってズレを直すようにクイッと上げる。
一昔前のサラリーマンのような七三分けに、高価そうなロングコート、しかしその手には清潔そうな見た目には不釣り合いな刃こぼれが激しく、更に錆びたような見た目の赤黒い剣が握られていた。
しかし、俺が絶望したのはもう一つ理由がある。ヨモロの発言を聞いただろうか?多勢に無勢。サラリーマンの後ろには10人以上の伏兵が控えている。
「こうなれば仕方あるまい。」
意を決したという様子で、ヨモロが一歩前に出る。
「貴公ら、まずは話し合おうでは無いか。我らには言葉と知恵がある。獣では無いのだから、言葉を以て解決を─」
─
「あ」
ヨモロの言葉をガン無視して放たれた一本の矢が、ヨモロの兜の隙間に突き刺さる。
「泥鼠の言葉は聞くに値しませんね。依頼を受けた冒険者でも無いようですし、ここで殺してしまっても誰も気付きはしないでしょう。」
「さぁ…鏖殺の時間です。」
狭い洞窟、とはいえ地の利は敵にある。袋小路の洞窟で、俺たちに向けて放たれた無数の矢がやけにスローモーションに映った……
失踪はしてないです。単に書き直し過ぎてこうなっただけです。申し訳無いです。




