49 戦力外以外が1名
戦力外"以外"が1名
握り締められた拳の中から隙間を縫って溢れ出るように、凄まじい熱と赤が爆発する─
「我が宿る火よ…その火によって我求む物へと導け…《導きの火》!」
スキル発動とともに燃える拳を地面へと叩きつけ、地を走る火が道を標す。いやいや…それ以上に目を惹くのは拳の叩きつけによって出来たクレーターである。ナニコレヤバすぎるんだけど??パワーが過ぎるだろお前。弓引くより殴った方が強いんじゃね?なんならちょっと身体が浮いたし。
「で、これを辿っていけばとりあえずヨモロの矢筒のところには着けるのか?」
「その通りだ。無論、相手が獣か人か…はたまた化け物の類いかは判らぬが、な。」
「おもしれえじゃねえか!全部ぶっ潰してやんよ!!」
「もう行くしか無い流れですよね…もう止めないですよ…。」
というわけで溢れる闘争心と冒険心を止めることが出来ない猛獣3匹と、それを止めることが出来ないかわいそうな女の子という構図の完成である。悪いけど俺はマジでもう止まる気は無い。
危険だって?何いってんだよ!こっちには巨人が居るんだぞ!癇癪起こして暴れさせるだけで最強だろこれ!まぁ、いざとなったら……………の手札が無いんだよな…俺には。なんだ?大量の水だばーして全部押し流すやつやるか?一回セシル団長と一緒に実験したことあるけど結構な大惨事になったぞ?もちろん俺も巻き込まれたし。
「よーし行くぞ!誰が来ようが勝つ!!」
という威勢の良い声というのは最初だけだった。
「ぇ?誰が行く……??」
「むぅ………我が出ていけば即座に露見してしまうだろう……、すまぬが我には隠密行動は出来そうも無い…。この場より弓にて狙おうにもその矢が無いのでは……」
「オレサマが出ていって全員ぶっ殺しゃいいンだろ!!まぁ…剣さえありゃあ、っつー話だがよ…。」
「……俺戦闘員じゃ無いからな…サポート特化…でも無いな…なんて言うべき?とりあえず俺には無理かも。」
さて、三者三様の言い訳が出揃い、最後に残ったのは誰かと言えばもちろんウル─
「そこで私を見たらさすがに情けないが過ぎると思いますよ?私、女の子ですからね?なんなら南様も女の子ですからね?まさか南様も私を戦力としてカウントしてるわけじゃ無いですよね!???」
さて三人の視線の行場は無くなってしまった。仕方ない現実逃避は辞めて現実を見るとしよう。そこに広がる光景は、簡単に言えば単なる洞窟である。
ただし異様な人の出入りと、武装した警備が守っているのがあんまりにも怪しすぎる。何かあるって言ってるようなモンだろこれ。
「さて…」
ぶっちゃけあの監視突破するには俺が〈遮視の霧〉ぶっ放しさえすれば行ける。問題はその先なんだよな…。あのレベルの武装したヤツがあとどれだけ居るか…どころかもっとヤバい化け物が居てもおかしくない。
まぁ、そもそもウルナたちも巻き込むから前提から使えないんだけどね。
とりあえず、突破力のあるヤツが、今のメンバーには居ないわけだ。
矢無しの弓使いヨモロ、剣無しの剣士グラッゼア、玉無しの男である南。ほらもうどうしようもないじゃんこれ。
誰が玉無しじゃ!!
なんていう自分でボケて自分でツッコむという脳内会議を隅の方へと追いやって、思考を巡らせるとしよう。今んところ可能性があるのは……
「グラッゼア、剣があればアレは突破できんのか?」
「当たり前だなぁ!と、言いてえが…オレサマは剣士じゃあ無くて魔剣使いでな、単なる剣じゃあ気分がノらねえ。」
気分…気分かぁ…まぁ確かに気分は大事だよな。そうなるとなかなかに厳しいのか?魔剣を使うってなると魔剣頼りの腕前なのか?ん〜、でもそもそも魔剣は高価で貴重で価値がある。それを手に出来るだけの財力を持っている以上、冒険者としてはかなり高位になると思うんだが……
グラッゼアについては諦めようとしたとき……「だが」と言葉が続いた。
「お前が腰に下げてやがるソレは魔剣だろ?ソレさえありゃ話は別だ。」
?腰に下げてる……あ、コレか。
と、俺は例の剣を手に取る。俺の中だともはや魔剣ってより呪剣に近いンだけどな。俺を殺した剣が未だ俺と縁があるなんて笑えるだろ。もはやそういう作品にならないかな?呪いの剣が美少女に化けたりしない?いや、剣だと美青年のイメージが強いか……?
「使ったこと無いから魔剣かは判らないけど、貸し出すくらいなら別にいいぞ。」
「使ったこと無えだ!?勿体ねえ!一目で判るぜ、そりゃかなりすげぇモンだ!」
声がでけえんだよ!!!
という叫びを心の中に留めておいて、謎に頬が緩んでくる。一応は俺の物判定なやつが褒められるっていうのは謎に嬉しいものがあるわけだ。しかもそれが俺をぶっ殺しておきながら何故か俺の手元にある腐れ縁の剣となればマイナス状態がプラスになって嬉しい限りだ!
ほい、とグラッゼアに魔剣を差し出す。
ウルナが何か言ってくると思ったけど何も言わない。使いもしないものを貸し出すくらいでは、ウルナは文句も言わないらしい。いいのか!?俺から武器を取っても!一応剣持ってますよ感を奪ったら丸腰の女の子になるぞ!
まぁ、グラッゼアが遠慮などするはずも無く、差し出された剣の柄をぐっと掴─
「あ?」
握ったらあとは取ればいいだけなハズだが、何故かグラッゼアは握った姿勢から動かない。いや、この姿勢ちょっと辛いんだけど、腕プルプルしてくるぞ?いいのか!?
「……こりゃ、オレサマには使えねえな。」
そう呟きながら手を離したクラッゼアに違和感を覚えて顔を見てみれば驚愕によって目は見開かれているが、口角は上がり、薄ら笑みを浮かべている。はてさて、何があったのか?
「初めて…いや、二度目だな。持ち主以外を拒む武器…。コレはお前以外を認めない、そういう類いの武器だ。」
「……マジか。」
持ち主の剣の腕前が腐れてるから、あんまりにも宝の持ち腐れだぞ、どうすんだコレ。いや、それよりも結局グラッゼアが腐ってるんだって。……
「……ちなみに前に見た武器は誰が持ってたんだ?」
「剣聖を纏め上げる“剣王集会”の主、剣王が持ってやがった赤い槍だ。大事そうに握ってやがったから奪ってやろうと思ったんだが、ピクリとも動きやしなかったぜ…。」
剣聖……んー、確かだけどあのテンプレ王子もといリアム王子の弟で、第2王子が剣聖の1人だったっけ?あんまり面識無いからどれくらい強いのかは判らないけど、まぁ強いんだろうな。で、ソレを纏め上げてるやつに突っかかりに行った馬鹿が目の前に居るのヤバいだろ。にしても剣王なのに”槍”とは何故に??
「ふむ、その剣…我にも見せてはくれぬか?」
と、興味津々といった様子で聞いてきたヨモロに良く見えるように、精一杯背伸びをして剣を近づけると、ヨモロも腰を屈め、剣をまじまじと見る。よくよく見れば、顔すら見えない分厚い兜の隙間から覗く右の瞳から青白い炎のようなものが噴き出している…何かのスキル効果なのか、或いは巨人という種族特有の何かなのか?
暫し経ち、そろそろ腰とか足とか腕とか痛いなーと思い出した頃、ヨモロがゆっくりと腰を上げ、「ふむ…」と息を吐く。え?そんだけ!?と思っていると、ヨモロがゆっくりと口を開く…
「コレはかなり多くの者の思念を感じるな…。多くの者がコレの誕生を望んでいたのであろう。いわゆる神具或いは神器の類いであるとも言える…。もしやすると…我が兄たちの作品のひとつが歪められた物やも知れぬ、な。」
表情こそ見えないが、言葉尻にかけて声が小さくなっていったのを考えるに、苦い表情をしているんだろう。作品が歪められたもの…、とか言ってるから多分ソレ関連だな。どうやらヨモロはかなりのブラコンらしい。
……なんかそれよりヤバいワードが出たぞ?”神具”とか”神器”ってなんですか?すんごいヤバそうな響きなんだけど!?ゲーム好き、ファンタジー好きなら誰もが興奮するワード出たけど!?
「とはいえ、それは既に貴公を主と認めている。貴公以外には扱えぬ代物だ。使うことなど起こらぬ方が良いであろうが…もしもの時、貴公を護る剣となるであろうよ。」
「そんな無駄話してる暇あります?どうするんですか?」
絶対零度よりも更に冷たいウルナちゃんの言葉が、男の話をしている俺達へと突き刺さる。とはいえそれは妥当である。だってここ敵地のど真ん中だし。
さて、話を戻そう。今はグラッゼアの剣の話である。
「………、グラッゼアって魔剣しか無理な感じ?」
「いや?剣なりゃある程度は使えはするぜ?」
異世界人の”ある程度”がどの程度なのかにも依るが…まぁ致し方ないか。
一応《錬成》持ちの物質変形特化!やろうと思えば泥からでも剣くらい作れるんだよ!
「まぁ、さすがに泥はかわいそうか……」
というわけで近くにある、地面に埋まった巨岩に触れる…。
さて、ここで俺のスキルである《錬成》についておさらいしておこう!
このスキルの発動条件は至って単純であり、対象の物質に触れるだけ。あとは俺が思い描いたように物質はうにょうにょと動く。このスキルが最も輝くのはハンバーグを作るときだろう。玉ねぎを一瞬にしてみじん切りし、肉塊を挽き肉に変え、パンをパン粉にするわけだ。すごくね?
なんて馬鹿らしいことを考えている間に出来上がったのは巨大な剣。それこそヨモロが使うのにちょうどいいくらいのサイズであり、それが深々と地面に突き刺さっている。
「いや…剣なら使えるとは言ったがよ……これぁ…」
「まぁ見てろって。」
さて、最近手にした新スキル!正直言うとこれはかなり使えるんだよなー。こうして旅をしてると改めて実感出来る痒い所に手が届くスキルである。
ぐぐぐっと言う擬音が相応しいように、巨大な剣が見る間に縮んでいく……文字通りの圧縮であり、圧縮量…もともとのサイズと物質そのものの密度によって消費する魔力が増加していく。つまり、デカくて重たい岩は結構消費が重い!
「ま、俺の今の魔力量だと特になんとも思わない程度だけど。」
というわけで完成したのは、岩を圧縮して造られた剣であり、サイズに見合わない重量と耐久性を持つ。ぶっちゃけると俺は重すぎて持てない。もはやジョークグッズと言っても差し支えないけど、さてグラッゼアよ!貴様にコレが持てるか?
「おぉ!洞窟で振るうにはデカいと思ったがよ!コレなら行けるぜ!!」
と、重さなんて感じさせないほどにヒョイと持ち上げてみせたグラッゼアに対して、俺はなんとも言えない気分になる…。いや、確かにこの世界の住民の中でも戦闘民族はみんな馬鹿力持ちなのは知ってたが…なんで持てるの?ってレベルなんだけど?
「…はぁ、圧縮してるから普通の岩より硬いのは確かだが、耐久性は鉄ほどじゃ無いから気をつけろよ?」
「あん?無用の心配ってモンだぜ?なんたって俺のスキル《不朽武具》は俺が振るう武具の不壊効果を持つ!どンだけ荒く使おうが、ぶっ壊れるこたぁ無ぇワケよ!」
……俺作の岩の剣がちゃんと武器判定される事を祈るばかりだな。
しかしかなり便利なスキルだな?刀とかは脆いからすぐ刃こぼれしちゃうけど、グラッゼアが振るえば絶対に切れ味が落ちない刀になるわけか?強すぎだろ。
「………南よ、我の矢は造れぬのか?」
「……造って洞窟で使えるのか?」
「………」
マジレスにヨモロが黙ってしまったので、グラッゼアを先頭にして、いざ!盗賊退治へしゅっぱ─
「あれ?グラッゼアどこ行った??」
「おぅおぅ、頑張ってんなぁお前らよォ!なぁこの先に何があンだ??」
さて、例の洞窟のある方からなーんかヤバそうな声が聞こえた。重そうな剣ズルズル引き摺って凶悪そうな顔した犯罪者よりも犯罪者面してるヤバーイ人が、監視の前に立って挑発する。
「ッ!依頼を受けた冒険者か!この先は通さ─」
「ハッハァ!!言質は取ったぜゴミどもが!!さっさと死に晒せ!!!」
「舐めるなよ!私は『邪蛇』のナンば─」
直後、凄まじい重量による大地の振動が、何か柔らかなものが叩き潰されたような生々しい音が、盗賊よりも盗賊な男の笑い声がズンズンと洞窟の奥へ奥へと響いていく………
「……やば。」「むぅ……」「うわぁ…」
作戦もクソも無い開戦の火蓋が切られてしまった。
戦闘民族グラッゼア・ルドーは、そもそも身体能力が段違いなので拳でもイケます。
犯罪組織『邪蛇』です。




