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45 玉座

遅くなり申し訳ないです。

ちと個人的な事情にて引っ越しやら何やらが控えておりましてという言い訳です。

とてつもなく巨大な門は、恐らく竜の巨体が通れるようにという設計だと思う。しかしその門を支える柱にはもはや執念とも呼べるような細かい装飾が施され、職人の意匠を感じる力作に仕上がっていた。

竜が尻尾でも振ろうものなら一撃粉砕待ったなしの惨劇が待っているのは間違い無いし、なんなら何度か直したらしき跡が見える。


そんな巨大な門を竜の尻を追いながら進むと、やはり中もとてつもなく広い空間だ。上を見れば天井は無く、結界に覆われた青空が広がっている。柱と同様、床にもかなり精巧な意匠が施されていたのだろうが、残念ながら掠れた跡や、ヒビ割れの跡がかなり目立つ。恐らく竜が飛び立つための場所なのだろう。一息に大空へと飛び出すために全力で脚に力を込め、床を割る。つまるところソレほどまでに切迫した状況が過去に何度かあったという事だ。人よりも遥かに大きな一歩を持つ竜が人間の作った環境など気にしていられないというほどの事態が。


『この場所を民は"竜宮城"などと呼んでいるらしい。』


竜の神が住まう城、まさに言葉通りの意味である。

竜公国にとって竜は神であり、王であり……商店に並んでいた商品を見るにマスコットの側面もあるのかも知れない…。


『ワタシたちにとってみれば、わざわざ時間と金を掛け、我らに狭い部屋を贈るよりも、広い野芝の上に転がる方がはるかに楽だと思うのだが、ヒトはそうでは無いらしい。地位に相応しい領域が、地位に相応しい装飾が必要らしい。』


竜に眉があるかは不明だが、眉をひそめながらといった様子で竜はそう語る。人間へと理解の不足といったところだろうか?相手の立場に立ってみろとは言っても象と蟻とまでは言わないながらもその身体の大きさにかなりの差を持つ存在と全く同じ視点を持てというのも無理な話なのかも知れない。


『あれを見ると良い。』


赤い竜が立ち止まり、その鋭い爪と硬い鱗を持つ前腕で広い廊下の一角を指差す。それに釣られて視線を向けると…、口元を布で隠し、神官服を纏った男女…恐らく竜の神官だろう。あのパーティーで会ったアレングスという人では無さそうだけど…


『あの服もそうだ。恥部を隠すために纏うというだけであれば、布1枚で足りるハズだろう。一律の装飾かと思えば、地位や職で細かな部分が変わるわけだ。悪いとは思わないが、何の意味があるのか理解に苦しむ。『白』曰くそういうものらしいが…』


全然思っていたことと違った。

確かに思ったことはあるけど、本当に小さい頃に「なんで大人はスーツを着てるんだろう?」とかは僕も思ったことあるけど、高校生にもなれば服が単に"恥部隠し"のためだけで無いことくらい深く理解出来る。魅力的なあの娘も、モテる男もだいたいそういうものには気を使っているのだ。

この辺りがやっぱり人との考え方の違いなのかな?


雑談を挟みつつ竜が翼を広げても問題無いほどの広く長い廊下を進んでいく。繊細な彫刻の柱や、壁一面に描かれた美しい絵画、美術的価値が高い物が無数に並んでいるものの、即物的価値のある設置型の魔法道具(マジックアイテム)も存在しない。

やっぱり竜が動いて壊しちゃうんじゃ…


『まぁ下らん話はこの辺りで良いだろう。この先が竜の間…いわゆる『玉座』というやつだ。』


と、いつの間にかそこには文字通りの門があった。

当然のごとくかなり巨大なソレだが、ここ、竜宮城の入口のにあった物よりも更に巨大である。ソレ故か門の下の方にまるでペット用の出入り口のような小さい戸が付いており、恐らく用がある人はあっちから入るんだろうな…というのが透けて見える。

或いはこの大扉を開くための労力を惜しんであとから付けた物なのだろうか?


『この部屋には天井があるから、わざわざこの扉から入らねばならない。なんとも面倒な話だ。』


不満そうな表情で赤い竜はそう漏らし、鋭い爪をカチカチと二度打ち鳴らした。微細ではあるが繊細な魔力操作を感じるソレの効果は、即座に現れる……。


「うぉ……」


ゆっくりと、しかし滑らかな動きで巨大な門が開いていく…。開いていく隙間から徐々にその姿が露わになる……。硬質な鱗、鋭い爪と牙…。縦に裂けた黄金の瞳。

玉座の間と呼ぶにはあまりにも広すぎるその場所に居並ぶ異形の存在。同じ形態でも、同じ色でも無いそれらが、牙を魅せて横に並ぶ。


『よくぞ来たな…勇者よ。』


「いやラスボス戦かよ。」


一番前に控えていた白い竜の放った言葉に御影が突っ込む声を聞いて、いや…本当にそうだよねと珍しく意見が合致した。









玉座の間とは言っても実際に椅子があるわけでも無い。

あるのは良く磨かれた石材によって段々に造られた祭壇のような物であり、そこに竜たちが各々の姿勢で動物的に尻を着いたり、或いは四脚を着けて立っている?ような状態だったりである。


『改めてだが良くぞ来た勇者たちよ。固い床ではあるが、各々楽な姿勢を取ると良い。』


居並ぶ3体の竜の中でも白い鱗を持つ竜がそう言いながら僕達を見る。その視線は蛇などの捕食者が獲物を見定めているようにも─


「あ、結構ひんやりしてる。」


そんな僕の考えは、望月の放ったそんな言葉に打ち消される。見てみれば、望月は冷たい床に尻を着き、その足も前へと投げ出している。まるで部屋で寛いでいるかのような姿勢だけど、それに続いて笹木や楝たちも続々に座り出す。

それなら…と思い、僕も座る。


『ふむ、すまぬな、我らに椅子の文化は無い故…。アルカナムの騎士たちは構わぬのか?』


「…私どもはあくまでも騎士ですので。いついかなるときでも対応せねばなりませんから。」


『なるほど、それならば無理強いはせぬ。とはいえせっかく来たのだ、茶や水の1杯でも飲んで行くと良い。…それとも甘露な果実液(ジュース)の方が良いか?』


「いえ…お構いなく。」


【影潜】さんがなんとなくやりづらそうにしているのは、その白い鱗の竜の言葉全てが親切心から来ている物だからだろう。近所の優しいお爺さんとかのイメージ。


「じゃあ私ジュースがいいな!麗ちゃんもそれで!」「ちょ…のの……」


『くはは…良いだろう。やはり素直な方が良いものだな。』


望月の一声を受け、上機嫌に笑った白い竜は側にある果実の入ったバスケットからりんごとぶどうとオレンジと…いくつかの果物を魔法によってか触れること無く取り出して、

魔法で生み出した氷によって即座にコップを2つ造形する…。繊細な魔力の操作による芸術的なまでのそれは、形を残すこと無く潰され、絞られ、1滴すら残さずコップへと注がれることによって完結する。


『さぁ、受け取るが良い。我らの民が作った果実だ。味は保証しよう。…菓子などはあったか……焼き菓子が確かどこかに……』


などと言いながら淡々と準備していく白い竜…気付けば僕らの眼の前には紅茶やクッキー、フルーツなどが山盛りとなり、地べた座りを除けば簡単なお茶会くらいの豪華さになっていた。


『ふむ、これだけあれば腹も膨れよう。存分に…はて、自己紹介すらしていない気がするな?』


そこでようやく話が進む。そもそもここに来た理由が何だったかというのを前提に置かなくてはいけない。この国の領域内にある勇者の試練に挑むにあたり、支配者である竜へと挨拶を行うために来たのだ。

決しておじいちゃんの家に遊びに来たわけでは無い。


『さて、我が名は【王竜の白】ビャクという。簡単に言えば今のように、客人をもてなしたり、或いは他国へ出向いたり…主に外交を担当しているよ。』


ビャクと名乗ったその白い竜は、物腰や表情も温厚であり理性的な瞳で僕達を見る。でも、僕にとってその黄金の瞳は試練の竜を思い起こす恐怖の象徴となっている…。

とはいえそれを今考えても仕方のない事だ。ひとまず今やることは…


「はじめまして、僕が……勇者の…北瀬 優輝です。」


『あぁ、キミがそうなのか。東の国と同様…家名を先に名乗るようだねキタセ殿。我らに家名は無い故、そのままビャクと呼ぶといいよ。』


「はい、ビャク…さん?」


『くはは…敬称も好きにしてくれ。我らは王では無いし、神でも無いからな。』


それだけ言うと、ビャクさんの視線は僕達の隣の少し上…つまり、僕らをここまで連れてきてくれた赤い竜の元へと向かう。


『どうせお前の事だ、大して自己紹介すらしていないだろう?』


『………?あー、確かにしてないかも。』


ビャクは思わずため息を吐き、赤い竜に続けるように促す…


『改めて、ワタシは【王竜の赤】セキだ。だいたい国の領土内での雑事…矮小な怪物共を狩ったりしているワケだ。今回はたまたま手が空いてたから迎えに行ったが、普段はそんなこと無いからな。』


自慢げにニートではない事を主張するセキを見るに、なんというか…残念感がさらに強まる。四つ足に飛膜の翼を持つまさに王道のドラゴンのフォルムをしている故に、その残念感は凄いものだ。

比較するとそれぞれ竜の姿というのはかなり違う…、試練の竜はいわゆるワーム型。東洋の龍の見た目をしていたが、セキは四つ足飛翼、前に突き出す角という王道フォルム…、ビャクさんの翼はなんというか向こうまで透けるほど薄い虫のような薄羽であり、6対とかなり多い翼を持つし、その尻尾はかなり細長く、全体的に尖りの無い丸いフォルムをしている。


『では次は僕かな。はじめましてニンゲンちゃん達、僕の名前は【王竜の青】ソウ…国内の色ーんな面倒ごとを引き受けているわ。例えば…そうね、災害とかで倒壊した建造物を処理したり、そもそもの災害を止めるための計画を立てたり、とかね。』


キツネのような細い眼を笑みによってさらに細めたその青色と緑色の混じったような色の竜であるソウは独特な口調を持って己の素性を語った。

まさか竜の口から自然災害を止める計画なんていう物が語られるとは思わなかった。僕の視点で言えば竜なんていうのは自然災害を起こす側というか…災害そのものみたいなイメージだから…。


『あらあら、やっぱり僕達がそれを言うのか…みたいな反応よね?こんな巨体を持っていて、自然災害くらいどうにかなるだろう?みたいな?』


「えーと、まぁ…は『そうよねー、やっぱりそう思われちゃうわよねぇ?でもね、よくよく考えてほしいんだけどー、僕たちは災害くらい余裕で生き残れるんだけど、あくまでニンゲンちゃん達が生き残る為の方法を考えるってなると大変なのよね…結界は貼れるけど、都市が広がるにつれてなかなか難しくなっちゃうし…。あくまでニンゲンちゃん達と頭脳を突き合わせて、お話し合いをして、ニンゲンちゃん達でも出来るような防止策を纏めていかなくちゃいけないわけなのよ!…ほら、こう聞くとどこぞの赤い駄竜ちゃんより忙しそうに聞こえるでしょ?』


『おい青!!今、ワタシを馬鹿にしなかったか!?』


『あら?何のことかしらぁ…むしろ褒めてあげたのよ?』


『そうなのか…?……なら、まぁいいか。』


凄く簡単に言いくるめられた竜はひとまず今は無視しよう。

今の流れで赤い竜であるセキの性格や立ち位置は知ることが出来た。そして青いソウという竜の性質も……だとしたら並びを考えるに次が最後の竜だ。


『『『『『ならば、…次わ儂じゃろうな……。』』』』』


最後にして最も存在感を放つ竜……。

そもそもが巨体である竜の中でもひときわ目立つ程の巨体であり、この玉座の門すら通ることが出来るか怪しい程の体躯。その身を丸々包み込める程の2対の膜翼、何よりも目を引くのは重なって聞こえる声に相応しい、複首である。


『『『『『儂の名わ【王竜の冠】ロードじゃ。…巨体故にあまり玉座より動く事が出来ぬが、国内にて問題が発生した際に即座に指示を出し、或いわ結界を張る事が儂の使命じゃろう。此度に都市全域に結界を張る事を決め、無論結界を張ったのも儂じゃ。』』』』』


5つの首それぞれに、凶悪な牙と縦に割れた黄金の瞳孔、別々の声帯を持つ故に低い声と高い声が混ざり合い、抑揚の付け方などが微妙にズレ、それがさらなる恐怖を掻き立てる。竜にしては異様な姿故の威圧感と、ロードという名によって、その存在そのものに重圧が増す…。


『まぁ…なんじゃ…良く質問はされるがこの頭部わそれぞれ別の思考を持っておる…』『それぞれの頭で考えられる故に』『儂の頭脳労働わ』『他の竜の5倍わ速いと言われておる。』『まぁ、5倍賢いというわけでは無いのじゃがな。』


最後のソレは精一杯のユーモアだったのだろうか?

5つの口それぞれに分けてわざわざ話したその内容…確かにその5つの首に顔もあるからどうなってるんだろう…?とはちょっと思ってたけれど。


『…キタセ殿の名は聞いたが…他の面々の名は聞いておらぬな…差し支えなければ…ではあるが。』


「あ、そうですよね、ごめんなさ〜い、私は望月 野乃葉です!ビャクさん、ジュースとっても美味しかったです!」


と、一足飛びに前に出て元気いっぱいに望月が挨拶をし、それに釣られてすぐ近くに居た笹木も前に出る。


「…はい、どうも、私の名前は笹木 麗です。あ、ジュース美味しかったです。えっと…野乃葉とは幼馴染で……」



「あー、御影 悠真だ。成り行きって感じで来たからあんまり良いことは言えねえな。」


そんな御影の自己紹介を最後として、一拍の沈黙が降りる…。



『さて…顔合わせも済んだ事だ。本題に入るとしようか…。』


ビャクがその前脚を出して前に出る…。

一瞬身構えそうになるが、もうここで怖がっても仕方ないと思い、流れに全て身を委ねる…。


『竜塚に入りたい…いや、試練に挑みたいのだろう?』


『『『『『過去の数多の勇者が挑んで来たソレに、貴殿も足を踏み入れたいのだろう?』』』』』


先程とは違う重い言葉…。ビャクとロードそれぞれから放たれた言葉の意味はほとんど変わらないものの、それは僕の意思を試すモノ。僕の意思で挑むのか、それを今一度確かめるためのモノ。

一度、息を吐き、唾を飲み込む…。


「はい。僕が…魔王を倒します。」

一番お気に入りはロードですね。やっぱりデカイ方が良いし、多い方がいいですよね。


優輝の思考の中で、同じクラスメイトを苗字呼び捨てなのに違和感を感じるのは私も同じだけど、どうしよっかなと考えてる。

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