43 知恵ある王竜
ドラゴンにまぬけ属性を付与。
主人公にゲーマーっぽさを再度付与。
『え?間違えた?』
僕からの返事が無いことを不安に思ったのか、その竜は巨体らしからぬ情けない声を上げた。先程までの威厳はどこへやら慌てたように視線をあっちこっちさせる姿はもはや滑稽にも思える。
とはいえいつまでもそのドラゴンを放置するわけにもいかない…誰が口を開くか……
「……、僕が北瀬 優輝ですけど。」
『汝が勇者か!何故もっと早く言わない、危うくワタシ旅人の竜車を襲うヤバい竜になるところだったぞ!』
どっちにしろ国の要人乗せた竜車を襲ってるとんでもない竜なのは間違いない。周囲の惨状を見れば良く判る、竜が降り立った時に生じた強風によって横転した竜車、怯える騎士たち…元凶がこの赤い鱗を持つ巨竜なのは明らかだ。
『歓迎しよう、勇者…貴殿らを迎えに来たぞ。』
こちらの事情など一切気にしないといった様子で竜がそう言った直後、そこに現れたのは巨大な孔であり、長形の板にも見えるソレは薄っぺらであり、先には遠くの景色が映るハズの円の中心は、どこまでも暗く、深く、先を見ることが出来ない。
「ち、ちょっと待っ─「お待ち下さい!」」
待ったの声を上げたのは【影潜】さん。
というよりもアルカナムの騎士たち全員である。突如として襲撃され、そのまま勇者が連れ去られそうになっているこの状況を受け入れられるハズも無い。
そもそもアルカナムは王城襲撃という事件もあり、『襲撃』の二文字に関してはかなりナイーブになっている。故に全員が剣を抜き、構え、臨戦態勢を取った。
『……ワタシに貴殿らを害する意図は無い。そも…その鈍剣ではこのワタシの鱗に傷のひとつも付けられまい。』
止めようとしているのか煽っているのかどっちか判らない発言により、騎士たちは更に募った怒りを理性によって抑えつける…。何せこの場で乱闘でも始まろうものならどちらに転んでも損害を受け、竜公国とアルカナムとの全面戦争の火種となる。
ではこの状況をどうするか?
「えー、と……状況が分からないんですが。」
そんなものもちろん勇者に決まっている。
地方の祭で褌一丁で肉体美を魅せつけるのは勇者だし、なかなか世界滅ぼさずに魔王城でスタンバってる大魔王をぶっ殺しにいくのも勇者だが、ピリピリした会議で臆せず発言するやつも勇者だろう。
とはいえ的外れだったり、突然の小粋なジョークを繰り広げた時には、そいつは大魔王に変わる。突然の闇落ち展開である。
『?さっきも言った通りだ、ワタシが直々に汝たちを迎えに来たのだ。』
その言葉を改めて聞き、優輝は周囲を見る。
未だ小学生の防災訓練のように身体を丸めて頭を守る円香もそうだし、さらっと僕の肩に手を置いて来てその能力を発動した以上、臨戦態勢なのは間違いない悠真…、
「この大惨事が単なる迎え…ですか?」
『ワタシが魔法による保護を行ったのだから、怪我人は出ていまい。何処が大惨事なのだ?』
どうやら竜の巨体にとっては竜車が横転したり、それにより荷物(特に食糧)がダメになったこととかそういうのは知ったこっちゃないということなのだろう。
竜らしく大きく広い心で『許してやれ』を強要してくるタイプらしい、加害者側が言うなよ……って思わず言いたくなる状況である。
「以前に我がアルカナムが訪問した際はこのような事は無かったハズですが……」
冷静さを取り戻した【影潜】が疑問を口にし、竜は瞳に理解の色を示した後にその口を開く…
『…ふむ、確かにそれを考えれば少々説明不足であったか。…王竜の赤が正式に謝罪しよう、アルカナムの者達よ。』
赤と名乗った竜は素直に頭を下げ、説明不足を詫びた。
一応は王を名乗る存在が謝罪したことにより、ようやく騎士たちも溜飲が下がる。
『とはいえ、現在竜都は結界により外部からの通行を制限しているのだ。どちらにせよその竜車は通れまい。』
「そこまで厳戒態勢を?」
『勇者よ、貴殿にそれを語られるのも少々複雑ではあるな…、勇者の召喚とは世界の危機の証。貴殿が全てを屠れるほどに育っていれば別ではあったが…未だにそれは成ってはいまい…。』
その言葉を受けると、さすがにいたたまれない気分になる。
その通り…僕はまだ魔王を斃せるほどの実力なんて無い。でも、だからこそこうして竜公国まで来て試練を受けようとしているんだ。早く強くなるために、次は、誰も死なせないために─
『む…?』
思考に呑まれそうになった時、赤の竜は喉を鳴らした後に遥か遠くの空を見つめた……その表情は真剣そのものであり、細めた瞳が鋭くなる……
「なんだァ?」
さっきまで警戒を露わにしていた悠真が素直に竜の行動へと疑問を投げる。とはいえそれも警戒故の発言だ。
『いや…どうやら兄弟たちがワタシを呼んでいるらしいな。……すまぬがこれ以上長引かせられぬ…早々に門へと入って貰えぬか?』
兄弟たち…、という言葉を頭で反芻し、ひとつの答えに辿り着く。知恵ある王竜たちは、誰も唯一の個だとは言っていない。
恐怖の象徴であり信仰の対象でもある無敵にして最強の種族…『竜』が保護を約束した国こそが、竜公国なのだから。
「おー、良いね。海外行ったやつがたまに買ってきたりする謎過ぎる置物とかの雰囲気がある!」
「何を仰って………んー、少し判る気が…。」
ベスティアの砂漠の途切れ目…つまるところ商業都市へと歩みを進めようとする商人たちが最後に立ち寄る休憩地点。砂漠越えを諦めた人だったり、そんな諦め人から品物を買い叩いて砂漠越えを目指す人も居る。
そんなベスティア外れの街たるレベーゼでは、普段より…どころか過去最高の賑わいを見せていた。理由は単純、フォレスティア危ねーぜ状態だから。
城壁崩壊、都市南部崩壊、死者多数。この状況でわざわざ残って商売するほどのど根性がある商人ってのは、まー少ないわけだ。だからこそ、ここで売り尽くして積荷を軽く、懐は暖かくして新たな商売のために歩みを進めよう派がたくさん居るのだ。
「で、ウルナは何か買いたいものとかある?」
「服です。」
まぁそうだろうね。あの戦闘で服はボロボロになったし、持ってた服も宿に置き去り、今や瓦礫の下である。辛うじて今着ているのがレオン王子から貰った物であり、いわゆる魔法効果が付与された特殊装備!!効果はなんと……
『目立たなくなる』というもの!
まぁ、ウルナもメイド服無くなったし、いや…やっぱりウルナはメイド服じゃ無いとダメだろ…。俺的にもうメイド服じゃ無いウルナはウルナじゃ無い別の何かに見えるもん。
「最悪ウルナのメイド服は生地だけ買えば《錬成》でどうにかなるが…」
「そうですね、私はあくまでメイドですから、メイド服は必須なので。」
さすがにメイド服は売ってない気がするんだよな…用途が限定的過ぎるもん。いや…もしかするとメイド服に情熱を燃やすメイド服職人が居るかも知れないだろ?
でもそういうやつって大抵面倒くさいからぶっちゃけ会いたくない。いや…でも特殊メイド服見てぇ…、ウルナに着せてぇ…。
「あなた達…メイド服、と言ったかしら?」
あ、ヤバい。こういう時は大抵筋骨隆々の大男が………
「ん?」
振り向いてみたけど誰もいない。ウルナも一緒に振り向いたから俺だけが聞こえる幻聴ってことも無いと思うけど……。
「おい、どこを見ているのかしら?もっと下よ!下!」
某新喜劇のような流れで下を見てみると……、そこには幼女が居た。うん、マジで幼女。たぶん一ケタ歳か、行ってても10歳とかそんなもんな幼女。……でもウルナと比べてそんなに背丈変わんな……まぁいいや。そんな幼女が自分の背丈ほどある鞄を持って俺の眼の前に立っていたわけだ。
「……親は何処かな?」
「ッ!!あたしは地鉱族の混血だから背が小さいだけなのよ!こう見えても、あんたよりはお姉さんよ!」
「合法ロリ種族……、さすがは異世界か。」
地鉱族が混じると低身長に…、まぁとりあえずロリ種族ということでいっか。いやショタが居る可能性もあるか…いや、生まれたときから髭面?
「まぁ、とりあえずいいわ。商談に来たわけなのよ。」
道のど真ん中なのも気にせず、幼女が鞄を広げると、相当ギチギチに詰まっていたらしく、バンッという音を立てて鞄の中身が弾け飛び、道端にソレらが散らばる。
ふむ、見れば判る…マジで全部服である。女性物から男性物…それどころか軽鎧まであるわけだ。しかも全部が全部見た目に拘りを感じる…。
装備とかの外装データをある程度いじれるタイプのオンラインゲームでゲーム本編とかそっちのけで無限に外装装備作って市場に流し続けるギルドとかあったけど…それを思い出す。…いやぁほんとにセンスって重要だってのを理解出来たよね。ゲーム内通貨で数億積めばオーダーメイドの依頼も出来たけど…さすがに1回が限度だったな…。稼ぎ辛すぎたけど達成感は凄かったし、出来た装備見た時普通に感動したもん。
「……大丈夫なのよ、大して汚れて無いわ。」
「いや、汚れとかは別に良いんだけど…、凄いな。もはやコレクションって言っても良いだろこの量。…なかなかセンスも良いし。」
「ふふん、違うかしら。これは全部あたしが工房で造った物なのよ!」
「!…凄ッ…コレ全部?マジで!?」
「マジでなのよ。」
大量の服を漁りながら俺の声に応えているが、マジで周りは見えてないっぽい。仕方なくウルナと2人で散らばった服を集め、魔法である程度綺麗にしておく。良かったな俺が水魔法使いで!わりと旅で一番面倒かも知れない洗濯とか風呂とかその辺りが全部解決される!
「あったのよ!!」
「ん?」
と、幼女が俺の眼の前でばっと広げて見せてきたのは…いや何これ、近過ぎてなんも見えん。とりあえず色が白と黒なのは判る。
「南様、ご覧にならなくて結構だと思います。」
ふむ、ウルナがそう言うなら見てやろう。
謎の反骨精神を発揮し、服を拾っていた手を止めてしゃがんだ姿勢のままに一歩下がってみる。すると幼女の手が一緒に着いてきて…いやだから見えねえって!!
「見えないから下がれ。」
「あら、これは失礼したわ。」
ようやく開けた視界で見たのは……あれ、なんで懐かしさを感じるんだろう…?
それは胸元が大きくバックリ開いており、ちょっとでも動けばパンツがモロ見えそうな短さのスカートの丈を持つメイド服ソシャゲやアニメでは見たことあるが、まさか現実でコレを見る日が来るとは思わなかった…。
「え?誰が着るのそれ。」
素で質問というか疑問を投げつけるが、幼女はそれをしっかり受け取った上で…俺を指差した。◯すぞクソガキ。
「胸元さえ直せばちゃんと着れるかしら?似合うと思うのよ。」
「それもどういう意味だよ!ナイスバディだろ俺は!」
「え…南様着るんですか?」
「着ない。」
「じゃあこっちはどうかしら?」
そして幼女が次に出してきたのは……、いや、バックリ背中が開いてるんよ。なんだ?背中斬られても服にダメージ行かないようにしてるのか?それとも健康的な肩甲骨を見るための専用のメイド服なのか?
いや確かに前も後ろも捨て難い。どっちであっても非常にえっちである!
「これはどうだウルナ、さっきより露出は─「なんで私に振るんですか!全然ムリですよ!?」
「そもそもサイズが合わな─「サイズなら関係無いのよ、あたしがちょちょいで1時間もせず直せるかしら。」
サイズで逃げたのが仇となり、逃げ場に回り込まれてしまう。とはいえさすがにこれ以上はかわいそうだ。この世界は別にちょいエロなソシャゲの世界でも、萌えキャラばかりのアニメの世界でも無い。
「とりあえずその2つは投資として買うとして─「南様!?」
「もうちょい露出の無いやつとかは?」
「んー、ならこれなのよ。」
満を持して登場したのは、あれ?普通だな。スカート丈も短くないし、胸が開いてるわけでも無い。背中も普通…、しかし、受け取ってみるとスカートにかなり厚みがあり、生地のせいなのか見た目より重い。
さてさて、スカートを見てみよう……、
「ッこれは!」
そこで小鳥遊が目にしたものとは!!
ギルドにはガチのデザイナーや、大手のゲーム製作のグラフィック担当なども在籍しており、拘りがやばい奴らだけで構成されていたが、一番大変なのはギルド長。メンバー達がゲーム内資金や超希少素材を湯水のように使うので、1人で他ギルドと交流を図り譲ってもらったり、一切戦闘向けビルドを組んでいないギルドメンバーを連れて潜るダンジョンで指揮を取ったり、ほぼ1人でギルドを回していたやべー人。
南は普通にとあるギルドの創設メンバーの1人というだけで単なるプレイヤーの1人に過ぎない。
作者は肌を見せない厚いメイド服と地味メガネの王道メイドさんが好きです。




