42 沈黙の竜車
息抜き回です。
竜車に男の子二人きり何も起きないハズも無く…?
ガソリンやエンジンの概念など当然無く、電気の概念が魔法と置き換わっているようなこの異世界に於いて、移動手段というものは案外少ない。
無論、王都や数えるほどの大都市では乗合馬車や超高額の転移魔法による移動などが存在するが、田舎等では公共の交通機関というものは無いに等しい。たまたまやって来た商人に付いていくか、或いは馬や徒歩での移動が一般的である。
そんな時代を変えたのが、《使役》のスキルの軍事転用である。これまで家畜を扱う程度だったその力を、強大な力を持つモンスターへと向けたのだ。
火を吹く蜥蜴や、空を舞う巨鳥、腐敗をばら撒く腐肉など…様々な存在が戦場へと駆り出され、戦果を上げていった。
そんな光景を目の当たりにした者達は考えた…、自分であればもっと上手く使えるのだと。そうして、冒険者、騎士、或いは戦士…、ありとあらゆる戦闘に従事する者達の中でも《使役》のスキルを保有していた者達がその技術を高めていった。
強力な個を使役し、殺戮の本能のままに敵陣で暴れさせるも良し、無数の群を統率することによる殲滅力を有すると共に、いざという時はそれらを壁として逃走するのも良し。
しかしその中でも人々の生活に明確に影響を及ぼしたのが、自衛手段を持つモンスターによって馬車を引く『魔車』或いは『竜車』と呼ばれる画期的な移動手段である。
そんな移動手段を取る中で、王侯貴族が愛用するようなふかふかの座席すら重くのしかかる程の重い沈黙が竜車内を支配する。これでもかというほどに不機嫌を顕にし、舌打ちを繰り返すのは悠真であり、そんな悠真と視線を絶対に合わせないように窓の外の景色に意識をトリップさせているのが優輝である。
対外的に見ても仲の悪い2人の相乗り…、本来であれば誰もが配慮してくれていたであろうが、天然ものには通じない。
『2人ともあんまり話してるトコ見たこと無いよね!一緒の馬車に乗ったらどう?ほら2人っきりでちょっと仲良くお話したら?』
という望月野乃葉の馬鹿らしい言葉によってこんな馬鹿げた状況が出来上がってしまった。基本的に言葉にも仕草にも一切悪意が無く、容姿も幼めであり可愛らしいつまるところ最高に女の子している野乃葉の言葉には、誰も逆らえないのだ。
世の中必要なのはやはり威圧感や知性などでは無いあざとさこそが正義なのである。
と、その場では通用したソレだが、いざ現実となってみよう、徹底した無言と不言…、ある意味では近寄り難い2人だけの空間が出来上がる。
竜公国までは手続きを含めるとかなりの時間が掛かる。
当然だろう、何せ今まで出たことの無い国外へと出るのだ。一部は旅行気分であろうが…、軽く2週間程度は見積もっている。ラジオもスマホも無いこの世界、暇で仕方がない移動時間に、話し相手が居ないとなると地獄でしか無い。
いっそのこと眠ることが出来ればどれだけ楽だったか…、互いの視線が気になって眠ることが出来ない。
「んー、おうおう…あんたらやけに静かだねぇ。」
ふと、御者台で地竜を見ていたハズの円香から声が掛かる。
間違いなく救いの手…、ここまで一切「 」の無い空間へとついに現れた話し相手!
「ま、どーでも良いけどさ。」
と、すぐに引っ込んでしま─
「ちょっ…ちょっと待ってくれ!疲れてないかい?円香、一応僕治癒魔法が…」
「知ってるよ。そのためにこの竜車乗ってんだから。なんかあったらこっちから言うから。……、2人共もうちょっと会話したら…?」
優輝の必死の抵抗も、結局無駄に終わってしまう。
すぐに引っ込んでいった円香からの「会話したら?」…、それをどう処理すべきか?
「ッは…、んで勇者サマどーすんよ?会話しろだってよ。」
円香に対しても沈黙を貫いていた悠真が遂に口を開いた。
とはいえその内容はなんとも嘲笑っているというか…こちらを馬鹿にしているような口調である。
「う…んうん。そうだね。会話をしようか。…、御影は、竜公国に着いたら何がしたい?」
「別に何も?目的があんのはお前だけだろ。」
バッサリと切られ、会話は終わる。
またもや降りる沈黙の幕…、会話しようって言ったじゃん……、
「そうだなァ…、一問一答で話すか?まずァ…お前、クラスで好きなやつとか居る?」
「なんで突然の恋バナなんだよ!」
思わず優輝がツッコミ役に回るほどの突然の質問。修学旅行の女子じゃ無いし、修学旅行テンションでも無い、竜車で男子二人きりの意味不明な状況でのこの質問はなかなかにSAN値を削りに来ている。
「答えたくなきゃイイんだぜ?会話にならなかったってェだけだかんなァ…お前のせいで」
「ッ……、い、いるよ…。」
ニヤニヤしながら悠真はその言葉を聞き…、優輝は逆にムキになる。
「じゃあ次は僕の番だ!御影は好きな人居るの─「居る。」」
「ハイ次俺…、お前の好きなやつの名ま─」
「盛り上がってんねえ、ま、悪いけどそろそろ停まるよ。」
円香の言葉通り、竜車の速度はだんだんと緩やかな物に変わっていく…。それを感じながら退屈そうな表情をする悠真と、ホッとする僕…。
「あんたらの会話小学生かよ。」
呆れたような円香の言葉…。いや…ほんとに僕も何やってるんだろう。
「…、悠真って僕の事を嫌っている…、よね?」
「そうだな。正確に言や…、気に食わない、虫唾が走る…、腹立たしい、ゴミ、クズ、クソ……」
「いや、後半ほとんど悪口じゃないか!」
最寄りの街で一夜を明かして翌日、再び始まった地獄のような会話。1時間足らずでまたコレである。
「そもそも、どうして僕を嫌っているんだい?…僕は御影に何かした覚えは無いんだけれど。」
「さァな?やった方は覚えてねェが…ってェやつかも知れねえぜ?」
「…………僕が勇者だから嫉妬してるとか?」
「シラフで言ってンなら頭砕くぞ。そもそも俺のスキルを知ってて言ってんのかァ?《複製》だぞ?ちったぁ火力下がンが一部除きゃほぼお前の能力もコピー可能だったじゃねェか。」
自分で言ってて馬鹿かとも思ったけど、やっぱり馬鹿な答えだったらしい。汎用性でいえば僕を優に上回るスキルを持っておきながら、他に嫉妬するはずも無い。
lvを上げなければ増える事も変わる事も無い、生まれ持ったスキルという絶対的な物すら御影にとっては"付け替え可能"なのだ。
「質問は終わりだな、そうだなぁ…質問………ん、南について、どォ思ってンだ?」
瞬間、正彦の言葉が脳裏を過ぎる…。
あれ以来…顔すら合わせていない…、仲の良かったハズの友人が、混乱していたとはいえ自分に掴みかかってくる程になるとは思わなかったんだ。
『死体すら見つからねえのは─こいつが全部消し飛ばしちまったからじゃ─』
「ッ……」
「…?どォしたよ。」
あのときの状況を知らない御影からそんな言葉が飛んでくるのは必然だ。たぶん、今の僕は酷い顔をしている。でも…早く質問に答えないといけない。
頭の中で、あの言葉がぐるぐると回る…、左腕以外見つからない少女の凄惨な骸が頭に浮かぶから…、いや、むしろ死体があって貰わなくては─
「ッ…」
そこで、僕はとんでもない事を考えていたと気づく…。
クラスメイトが死ぬ事を望むハズも無い…。南は生きている。生きていなければ…悲劇になってしまう。
「もちろん、僕も御影たちと一緒の気持ちだよ…、ちゃんと信じてる。」
「南が生きているって。」
当たり障りの無い言葉が、口から零れた。
本当に思っていたことを口に出せたのか…、そんな事は判らな─
「嘘吐きが。だから俺はテメエが嫌いなんだよ。」
心の底から出たような低い声…、僅かに怒りも孕んでいそうなその声に、僕は恐ろしくなってしまった。だからこそ…続く疑問を返せなかった。
『嘘なんて吐いてない…』
と。
僕は正解の言葉を吐いたハズだ。なにも間違ってない…、御影が求めていただろうし、誰もが望んでいる言葉を選んだ。なのに……、
そこから御影は、一言も発する事無く、窓の外で代わり映えの無い景色を眺めていた…。
アルカナムと比較すると、少し肌寒くなってきた頃、外の景色も変わっていた。自然的では無い異様な光景。塩の塊で作られた樹木の森…、地面に突き立つのは、高層ビル程の高さを持つあまりにも巨大な槍。
そして何より目を引くのは……
「……なんだ、ありゃ」
思わずといった様子で驚き、喘ぐように呟いたのは悠真であり、優輝でもある。それは頭と胸を巨大な岩塊で貫かれ、膝を付く巨人の骸。周囲の巨大な樹木よりも尚巨大なその身体だが、瞳は既に零れ落ちており、空虚な眼窩や、石像のような皮膚の様子からは、とても生きていた生物であるようには思えない。
しかし、その手に握る朽ちた巨槍からは、やはり戦意や意思を感じる。
そんな巨像が周りを見るだけでも複数体…、上半身を失った物や、逆に巨大な腕のみを地面から生やしている物もある。そして、どれだけの時が経ったのか、それら巨像には苔や樹木が根を張り、天の光を求めるように青々と上へ上へと枝葉を伸ばしている。
ここは『竜公国』であるハズだ。
決して巨人の国では無い。或いは竜と巨人は敵対していたのだろうか?これはかつての戦争の痕跡なのだろうか?
それも相当古い…いわゆる神話の時代とも言えるほどの大昔の戦争の跡…。それをわざわざほとんど完璧な状態で残している事にどのような深い意味があるのだろうか?
国力の誇示?古の巨人すら屠るほどの力を持っているのだという…竜の勲を示す狙いなのか……。
「巨人どうこうなんざ…、聞いてねェぞ…。」
御影の言葉に、僕も同意する。
巨人という種族なのか、或いはモンスターなのかは判らないけれど、巨人が住む国や、都市に関しての話を聞いたことは無い。
さほど調べていない僕どころか御影ですら知らない存在…、あれは─
「ッ2人とも伏せて!!」
大声と共に竜車内へと転がり込んできた円香を視界に収めた直後─
─ドォン!!!
何が起きたか、すぐには理解出来なかった…
僕の身体は宙に投げ出され、眼下には横転する竜車と怯えるように身を屈める円香……、そして
『問おう…、汝が勇者…キタセ ユウキで相違無いか?』
優しげな口調と声ではあるが、心の底から恐怖心を煽る化け物の声。
巨大な膜を持つ両翼を広げ、優雅に降り立ったその存在は、紛うこと無く、僕らが今から向かおうとしていた竜公国にて神と同列に崇められる存在…、
知恵ある王竜
ソレは長い鎌首を下げ、僕のすぐ側までその鋭い牙の生え揃った口を持ってきて…、息が掛りそうな程の距離で…
『…え?間違えた?』
王国動乱でコピー使ってたのが悠真です。スキルか魔法ひとつだけをだいたい7割〜8割くらいの威力でコピー可能。
発動条件はコピーしたい相手の身体に触れることと、コピーしたい能力についてのある程度の情報を持っていること。当然だが、自分自身のスキルのコピーも可能。




