38 別れ
この回で第一章は終わりです!
「……マジでなんも無い普通の冠だな?」
「くはは…それはそうだろう。先程も我が弄んでいたのを見ていたハズだ。何の特別な力も持たぬ、単なる古の儀式用冠だ。」
てっきりマジで俺が触れたら特別な事が!
みたいな展開を予想してたんだけどな…、わざわざここまで推してきてたのは、マジでこれを押し付けたかっただけってことか…。
片手で簡単に弄べる程に軽いが、何の素材を使っているんだ…、少なくとも金属なんだろうけど、にしては錆びが一切無い。それに500年以上この形を保っていたってなるとこの冠が、というより…この冠に使われてる素材の方が特別な気がしてきたな……、
「……あとで《錬成》か…」
「物騒なことが聞こえたが…、まぁ、既にソレは貴殿の物だ。いまさら我もぐちぐち言うまい。」
ひとまず冠から視線を上げると、レオン王子の後ろに立つティカーさんと赤髪の人の2人が目を見開いてる…。え?何…魔王に狙われる呪物にわざわざ触るとか馬鹿なの!?ってことか?俺もそう思うんどけどさ…。お前たちの主やっぱりイかれてるよね?
「んで、これで話は終わりってことで良いのか?」
半ばお遊び的に自分の頭に冠を乗せ、レオン王子に向き直る…。まぁ、普通に考えるとマジモンの王子の前で冠被るのすごい失礼な気がしてきたけど…いまさら何も言わないだろ。
「あぁ、受け取って貰い、感謝する…。これで、ようやく我らの国の面倒事がひとつ片付いた。さて、もっと面倒な話を続けよう。」
「うぇ…まだあんのかよ。」
「いや…こっちの方が重要だ。悪いが本格的に国家間の問題になりかねん話だからな。」
ん?国際問題……あ〜、俺がここに居ること自体がやばいって話か。
「…根本的に、我が国は勇者という存在について懐疑的だ。いや、だった…。」
「ん?」
「1000年以上も前の存在であり、文献すらほとんど残っていない、あるのはおとぎ話や英雄譚に語られる物程度だ。勇者のみが魔王を滅せるとは言われても、この世界は現に魔王の脅威に晒されても今日までどうにかなっている。」
「かの天使のお陰でな。」
【広き翼】のシセラフ
それはこの世界に於て神と同列に語られる信仰の対象である。そもそも、キリスト教などの概念が無いこの世界に於て、天使と言われてもそれが何なのかすら理解が及ばない。もちろん色んな書物には『悪魔』の存在が載っているものの、この世界に於ける悪魔とは神や天使の敵対者では無く、単にモンスターの種族である。
でもまぁこの辺のこと言い出したら魔法とか精霊もどっから来た概念なんだってことになるし、あんまり気にしなくとも良いだろ。とりあえず今重要なのは、天使シセラフのお陰でこの世界は平和のまま、この世界の住民は平穏な日々を過ごせているということだ。
「そんな状況で、いまさら勇者とかってのは確かになんとも言えない話だな。」
「まぁ、【壁視の聖女】の予言通り現れてしまったのだから信じるほかあるまいが、な。」
「ん〜、俺にはその天使やら聖女やらの辺りが良く判んないんだよな。」
日本は宗教や信仰についてかなり異様な価値基準を持っている。基本仏教を信仰しているが、クリスマスを祝うし、イースターがどうのこうのとかも言ってる。なんならどっちにしろ
仏教を信じてる割にはソシャゲのガシャで祈る相手は運営だし、常に札束が物を言う……。あれ、これは俺だけか?
そもそも実質カミサマ的存在が今、この瞬間も実在していて、マジモンの世界救済カミサマ活動してるのがやっぱり異世界してるよな〜、と思ってしまう。
「天使の歴史はかなり古いからな…我も信者では無いからあまり詳しくは無い。だが聖女に関しては意外と身近だ。今度行われる我の戴冠式にも呼んだからな。」
「なんだその結婚式の神父様みたいなノリ。」
いや、もともと戴冠式ってそういうモンか。聖職者に王位を証明してもらうことで、実質的に神から王位を与えられたのだと王家の正当性を証明するための儀式だ。
「アルカナムのパーティーにも【壁視の聖女】は来ていたしな、方々の国で華のために聖女はよく呼ばれる。我も常々面会を望んでいたがようやく聖女の日程が空いて戴冠式の日程を組むことが出来た…。」
やれやれと頭を振るレオン王子の姿を見てぱっと思ったのは、聖女=人気アイドルというところだろうか?世界各地を飛び回って会場に華を持たせる存在。うん、アイドルだわ。
「予言を、或いは救済を行うのが聖女であり、我らはその恩恵や名声にあやかる…天使も同じような物だ。国ですら動かせない過剰戦力が、人類の味方をする限り、聖王国はその名声を借り、恩恵を受ける。そういうものだろう。」
「確かに、な。」
「話が逸れたが…、我が国は、というよりも我ら王家は勇者についてそこまで騒ぎ立てる事はしない。此度の件も、『魔王』では無くいちモンスターの襲撃という事に公的に発表するつもりだ。」
「んな化け物がそこらに居るほうがヤバく無いか?」
「いや、勇者が召喚された事はつまり世界に何かが起きたということだ。その異変のひとつという事にしてしまえば良い。ちょうど、アルカナムでも騒ぎがあったことだしな?」
「ふーん、もしかして戴冠式の前にゴタゴタ起こしたくないって本音もあったりするか?」
「当たり前だろう。戴冠式前に他国の勇者に助けられたとあっては我が国の力を疑われかねん。」
間髪入れず、割と結構な勢いでそう言い切った辺り、この辺はガチで思ってそうだな。まぁ、そりゃ王子から王になるって時に面倒なゴタゴタは避けたいし胃が痛くなるわな。
「と、いうことでだ…我らからすれば、貴殿の存在は邪魔だし隠したい汚点だ、しかし事実として貴殿は勇者であり我が国の救世主なのだ。」
「なんだ?暗殺か?」
「さすがにそこまではせぬ。冒険者としての記録の抹消などはあり得るが、その際は新たな身分と相応の金銭を払い、『契約』を持って口止めを行う。暗殺は最後の手段だろう。」
暗殺って選択肢はあんのかよ!
「今のところ、貴殿の処遇はひとつだ。」
「ってなわけで、大金持たされて俺はこの国から追い出されるらしい。」
「その『ってなわけ』の部分が丸々抜けているようだが?」
「がははッ勇者には我らも知り得ぬ事情というものもあるのだろう!致し方ない!」
「さすが南くん!頑張ったから大金持ちだねー!」
酒場の円卓を囲むのは、俺とウルナをはじめとして、キアラ、【三崩の杖】ラトゥイ、『血盃の兄弟』【桃輝の鎧】タウロ、【白衣の鎧】ハカセの計6名。
都市の復興を頑張ってる横でこうして酒場に来れるのは、ここでの代金が全部フォレスティアの領主のグリムコール伯爵持ちだからだ。さすがは太っ腹と一瞬思ったが、よくよく考えると自分の都市の危機にほとんど戦力寄越さなかったんだよな……とことん飲もう。
まぁ、実際王家側からも支援あるだろうし、あんまり気にしないでいいだろ。
瓶を逆さにして飲む俺に対して、ウルナは一口飲んだだけで寝てるし、タウロはそもそもずっと牛乳しか飲んでない。まともに飲んでるのはラトゥイと俺くらいか?
キアラ?キアラはもちろん…
「んへへ〜、なんか変な気分になってきたよー!」
ダメだコイツ酔わなくてもうるさいのに酔うともっとうるさくなるタイプだ、おい、なんか獣耳生えてるぞ…あれ?なんか翼も出てないか?酔うと制御効かなくなるタイプ?
「キアラさんはなかなかに面白い体質みたいだね…混種なのは間違いないけど…パッと見ただけでも蜥蜴人、虎人、頭の角は牛身人いや山羊人か、羊角人…かな?」
暗に正解?とラトゥイがキアラへと視線を向けるが、ハカセに半ば看病されるように大量の水を飲まされているキアラの口からは
「んー、僕にも判んないよ?僕孤児だし、孤児になる前の記憶無いし〜、」
「長命種の孤児……つまり」
「うん、もう20?30年くらい前に顔出した時には〜孤児院無くなっちゃってたよ〜、当然僕の記録は無いし〜。」
おぅ…思ったよりも重い話出てきたな…。
そうか…この世界だと寿命長いとそういうの出てくるのか…。っていうか割とよくある話っぽいな〜。ラトゥイの反応見るに…
「まぁ、あんまり気にしてないんだけどね〜、長いこと生きてたら、もしかしたら誰か遠縁の家族とかに会えるかもだし、なんならもう会ってるかも知れないじゃん?」
「ふむ、良い考え方であるな。人の縁とはどこで繋がっているか判らぬ物…、もしやすると、生き別れの兄弟などが居るやも知れぬからな。」
「居たらすぐ判るな。キアラの見た目あんま見ないし。」
「確かに!それっぽい人を見かけたら僕のこと言っといてね〜?」
と、それだけ言うとキアラは顔を突っ伏して寝てしまった。
いや、ゴンって音したぞ、痛くないのかおい。
「ラトゥイさんはエルフ…ですよね?私どもにはエルフの知り合いは居ませんが…風の噂でエルフは酒類をあまり好まないと聞いていたのですが…?」
ハカセの言葉は、なんとなくだけど俺も思ってた。
エルフって言ったら果実とか一生食ってそうなイメージだな。酒飲みって言ったら…んー、ドワーフとか?
「いや、僕は混血でね…母はエルフなんだが、父は判らないんだ。少なくとも純血では無いよ。」
「ふむ、純血のエルフでは無いにも関わらず今日日までクラス6の高位魔法使いとして名を馳せてきたとは、かなりの努力あっての物であろう。感服する。」
「それは君たちもだろう?短命…いや、常齢と言えば良いかな、そんな人間種にも関わらず、たった2人で戦士として僕と同じ位階にまで到達するのは、素直に凄いと思うよ。」
種族によって寿命が違うからこそのこの会話…んー、凄くファンタジーを感じる。なんでクラス1がここに居るんだ?戦力的にはノミと象くらい違うぞ。
「そういえば……、ミナミさん、君の能力について僕はあまり知らないんだけど…差し支えなければ教えてくれないかな?一応は、冒険者の先輩として何かアドバイス出来ることもあるかも知れない。」
「……水魔法と闇魔法だな。あと、物質の変形。」
「闇魔法か…なんというか、社会情勢的にも厄介な魔法を授かったものだね。」
そうなんだよな…確か【暗月】だっけ?そんなのが闇魔法使ってヒャッハーして以来闇魔法が社会的にあんま立場良くないってことであんまりそれに関する情報が無いんだよ。
「だけど、ちょうどいい。僕は例の件が起きる以前の闇魔法を一部だけど知っている。一応だけど、僕も闇魔法に適性を持っているからね。」
「いや、ラトゥイ何属性使うんだよ!【三崩の杖】じゃ無いのか!?」
「はは、僕が使える魔法は、風、地、火、闇、治癒の5つだけだよ。大した事は無い。」
何処がだよ!!
「まぁ良いでは無いかミナミよ、数百年の時を生きるエルフに師事出来る機会などそうあるまい。有り難く教えを受けるのが賢明であろう。」「私もそう思いますね。」
「さて、タウロ達にも言われたし、簡単な物から教えようか。」
ラトゥイは指先を自らが酒を呷っていたコップへと向ける…。
「〈物怪〉」
その言葉を紡いだ瞬間、コップがカタリと動き、1cmほどラトゥイへと近付いた。
「闇魔法〈物怪〉…簡単に言えば、離れた場所にある物質を動かすというものだね。」
「…くっそ微妙じゃね?」
いや、物質動かせるのは……んー、かゆいところに手が届く的な感じで良いのか?例えば取り落とした剣を先に取ったら勝ち!みたいなよくある映画のワンシーンで勝ち確かも知れないのか…?
「僕は触りしか知らないからこのくらいしか出来ないけど、しっかり極めたらもっと色んなことが出来るようになるんじゃ無いかな。僕はそもそも闇魔法が難しくって諦めちゃったんだけど。」
「くっ…やっぱり闇魔法はなんとも言えない感じのやつばっかだな……。」
「ふむ、闇狩り、或いは闇払いと称して闇魔法の使い手を処刑する動きまであったほどであるからな…国主体で行われる事こそ無かったが、人の恐怖心とは時に恐るべき事態を生む物だ。」「兄者の仰る通りです。冒険者として活動する中でも…やはりそういった人の負の側面というのは見えてくる物ですから。」
やっぱ、まだ闇魔法そのものへの嫌悪感っていうか意識が抜けてないって感じか…。
「ッ…暗月さえ無けりゃ今頃俺はスターだったかも知れないのになぁ…」
「あはは…確かに、それは言えてるかも知れないね。あれさえ無ければ、僕だって闇魔法をもっと真面目に学んでいただろうし。」
などと言う間に夜は更けていく…。
また、それぞれの道を歩く前の最後の語り合い…。
「さて、行くか。」
「ふむ、荷に不足は無いな?」
「もちろん。安心しろよ路銀だってこんだけありゃ足りるだろ。」
「それで〜、アルカナムを目指すんだよね?どういうルートで行くのかな?」
「はい、ここから南下して聖王国経由で向かおうと思っています。」「そゆこと。真ん中突っ切って行ければ一番楽なんだけどな…。」
アルカナムがある東方を向けば良く判る。
地面が突如迫り上がったかのような切り立った崖。それがこの大陸の東西を阻む壁となっているのだ。もちろん、トンネルを掘ろうとかいう話も昔はあったらしいが、そもそもあの辺りには無数のドラゴンや飛竜の住処になっているらしく、近付けば命は無いと知られている。
「まぁ、無理な話をしても仕方ないさ。友人からの又聞きだけど、クラス11の冒険者が空を飛んで渡ろうとしたけど、危うく撃ち落とされかけたって話だし…僕らの実力じゃまず無理だね。」
「仕方ない、大人しく地道にアルカナム目指すか…。」
最後に見るのは、都市内と城壁に流れる大量の水。
既に水路による結界は80%ほどが起動しており、都市内がモンスターまみれになったりすることは無いとのことだ。ま、俺も頑張ったかいがあったという物だ。
「……最後にリーアさんに挨拶したかったんだが……。」
この都市内での思い出の大半…。修道女リーアさんと、孤児院の子供たち…。んー、最後に顔だけでも見たかったんだけどな。
「仕方ないか…。最後まで依頼完遂出来なくて申し訳無いけど。」
「じゃ、南くん…また何処かで会おうね〜!」
「あぁ、じゃあまたな。」
真っ白なフードを目深に被り、レオン王子が用意した竜車へと乗り込む。建前上は商人の護衛依頼。とはいえ乗せられているものはほとんど無い。足を伸ばせるし、ウルナもわりと伸び伸びとしている。
馬車が出発する瞬間…
「ん?」
カチャ…と、何かが竜車の椅子にぶつかった。
それは、いやに見覚えのある装飾の施された剣だ。無くしたと思っていたが、いつの間にか戻ってきていたらしい。
「……ま、いっか。」
深く考えても仕方ない。竜車が大きく動き出せば、すぐに砂を踏む音が聞こえてくる…。流れていく景色は、ほとんど変わり映えしない。
延々と続く砂漠地帯。見渡す限り砂、砂、砂。ってわけで…
「ウルナ、俺は寝るからなんかあったら起こしてくれ。」
「え………はい、わかり、ました。」
微妙に不服そうなウルナの声を聞きながら、俺の意識は闇に沈む……。
「あ…ぁ……」
暗い空間の中で嗚咽が漏れる。
四肢を地面に付け、まるで土下座のような姿勢で涙を流す……。熱く燃えるように痛む黄金の瞳からは、血の涙が溢れ出る…。
砂に塗れたどろどろの"ソレ"を掻き集め、必死に声にならない声を掛ける。当然ながら原型など留めておらず、この深い地下空間に落ちた瞬間に"ソレら"は水風船のように弾けた。
彼女が最も愛していたもの。彼女が再び愛を囁くことが出来たもの。2度とは笑えないと思っていた彼女を人に戻したもの。
今やガラス玉のような瞳には、彼女の笑顔は映らない。
「竜、祖……様……、私では、ありません……、」
それは、祈りの言葉では無い。
「この、子たちを……無垢で可愛い、…私の子供たちを……」
赦しを乞うような懺悔の言葉…。
その身を癒し、再び子を宿すことが成るという神の薬…『■の血』は、不幸にもこの身のみを生き永らえさせ、最も愛すべき、救われるべき子供たちを殺した。私の救いを奪ってしまった。
「私が…あなた様、への信仰を、陰らせた故…、でしょうか?」
「私の、穢れた身を持って…、あなた様に仕えた故、でしょうか…?」
応えの無い"ナゼ"を繰り返す。
「何故…、私を殺して…下さらなかったのですが………、」
『ダメだよ、ママ』
声が聞こえた。
書いてて楽しかったけど、ちょっと抜けてるところあるからたぶんあとで番外編でちょっと補足回を書くかも知れない。
誤字報告してくださった方ありがとうございます。




