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35.5 閑話

箸休めみたいなやつ。

光に焼かれた狼が、灰となって消えてゆく……。


その場にてそれを見届けたのは、たったの6人。



「……は、俺の勝ちだ。」


腹部に大きな裂傷を負いつつも、南の表情は明るい物だ。

無数の死を経験し、それでも勝ち取った勝利に浸る…、いわゆる脳内麻薬ドバドバ状態。故にさほど痛みを感じていない。

しかし、身体へのダメージは計り知れない。


「ッソが……、最後の、最後に……置き土産残して、いきやがって…、」


だらだらと血が流れる細い腹を必死に抑える…、このままだと…また、死ぬ。臓器が壊れているかいないかは判らないが、少なくとも長くは無い。

方法が浮かばない…、あまり頭が回っていない…。

治癒の魔法なんてもちろん使えない。治癒の薬(ポーション)なんて無い。


「ッ南くん!!まだ諦めちゃダメだよ!!まだ、死んでないからね!!」


身体から煙を上げながら、手足を投地して空を仰ぎ見るキアラの姿……、倒れているというよりは、ヤンキー物の漫画とかで河川敷で殴り合った後のアレにしか見えない。

本当にコイツの活動限界来てるのか怪しくなってくるな……。


「痛くなってきた……」


変なこと考えてるから〈偽薬(プラシーボ)〉の魔法も切れたらしい。或いは興奮(アドレナリン)が切れたか…。どっちもかな?


「まだ…、死んでない。」


とりあえず、自分に言い聞かせるように何度かそう呟く…。

気分が悪くなってきた…というよりも、死の恐怖が急速に俺を襲っている。4度の死を経験し、どの死に方もあまりに苦しく、絶望的なほどに救いが無かった…。

"何かのために死ねるなら本望だ"なんて言葉が時々使われるが、そんなわけ無い。死ぬより辛い事は無いし、死は総ての事柄を無価値にする絶対的な物だ。


麻痺していた感覚が、俺の頭の中に警報を鳴らし続ける。

『止血しなければ死ぬ』『死ぬのは苦しい事』『また死ぬぞ』


『今度は生き返れないかも知れない』



「おい、無事か!無事なら返事をするんだぞ!!意識はあるか!!」


「ぁ…、?」


「あるようだね、それは良い事だぞ!既に止血は終わってるのだぞ!臓器も、重要な部位の損傷は見られないぞ!貴様は軽傷だ、良かったぞ!!」


全く理解の及ばない中、すんごい大声で俺の状態を言ってくれてる少女の姿が見えた…。誰?


「ふむ、発熱と意識の混濁が見られるぞ!貴様はあと丸々一週間は休んでもいいぞ!!魔王を斃した勇者だし、他のみんなも文句は言わないと思うんだぞ!!」


「…、ぞ。」


誰がこの語尾付けたんだ…、マジで馬鹿だろ。





「なんとも酷い状態だぞ…、」


「とりあえず片っ端から救助していますが…、思っていたよりも死者は少ないようです。」


「うん、それは素晴らしいことだぞ!救える命が増えるなら、これ以上無い幸せだぞ!」


暗に治療のための人手が足りていない事を伝えたかったが、団長にとっては関係無いらしい。

総勢32名の治癒魔法使いを抱える大規模クランたる『レティーアの旗下』の団長であり、クラス7冒険者【激情】レティーア・チックザードにとって、命を救うという行為はこれ以上無い幸福を与えてくれる。


「ぎゃははっ…高位の冒険者であっても、こうなってしまえば、この私を頼らざるを得ないのだぞ!あの反抗的な眼をした馬鹿どもを治癒してやる時が、最高の気分なんだぞ!」


そう、自らの手によって命を左右出来るという変態的『支配欲』こそが、彼女を彼女たらしめる。

シセーリア聖王国を拠点としている彼女が何故ベスティア王国に居るのか?理由は単純、彼女の転移魔法である。

ベスティア王国、商業都市フォレスティアにて魔王の存在が確認されたという情報を()()()()()手に入れ、その場に居た数人を半ば誘拐しながら勝手にここまで来たのである。


既に城壁は一部が破壊されていたものの、都市内部の破壊は途中で終っており、完壊までは至っていない。かなり迅速な避難が行われていたようで、都市住民の内、逃げ遅れた者は少ない。

或いは、誰かが身体を張って魔王を惹き付けていたのだろうか?


「むぅ……、魔王の姿がみえないぞ…、魔王は既に天使様に封じられている?それとも…噂の勇者様がアルカナムからベスティアまで来たのかな?」


「ッレティーア!!」


「待ってください!まだ治療が終わって……」


「この声は……誰なんだぞ?」


レティーアは声がした方を訝しげに睨み……、それが血塗れである事に気付きいた直後─!


「愚か者なのだぞ!貴様ッ!!血が出ているのだぞ!おとなしく倒れておくがいいぞ!!」


その男を押し倒し、一瞬で手足を縛り上げる。

その手際はあまりにも鮮やかであり、あまりにも慣れ過ぎている。クラス7の冒険者たる彼女は、治癒士である以上に、荒事に慣れたベテランなのだ。たとえ熟練の戦士であれども、彼女の近接格闘技術には敵わない。武器に頼る者を無理矢理にねじ伏せ、強引な治癒を行うことこそが、彼女の得意ごとであり、使命なのだ。


「も、申し訳ありません!!」


「ッレティーア待て!」


ふと見れば、クランメンバーの【悲哀】リリナリスが申し訳無さそうに謝罪をしている…、患者を逃がしてしまったことへの謝罪かとも思ったけど、リリナリスとは結構仲良くしているし、仕事中とはいえ敬語で謝るとは思えないぞ……ん?


「おや?これは【三崩の杖】ラトゥイ殿だぞ!?なぜ縄で縛られているんだぞ?」


「やったのはキミだろう!?」


「はて?そのような記憶は無いのだぞ…?まさか尊敬する先輩を縛り上げるなんて暴挙を私が犯すわけが無いんだぞ!?」


とりあえず縄を解き、何故か怒っているラトゥイを宥めてから話を聞いてみる。


「ッレティーア急いでいるんだ、…都市の中心に近い場所…魔王の最期を見届けた場所に、()()が居る!」


「……………マジぞ!?」







「と、いうわけなんだぞ。」


「はぁ…なるほどな、良く判らんが…助けに来てくれたんなら真面目に有り難い…。」


「わー、【激情】ちゃんだ…、助かったけどなんとも言えないな〜。」


一見するとケガが無さそうなキアラが、嬉しそうな…残念そうな?変な感じでそう言った。激情ちゃん…ね、意味が判らんけど、たぶん二つ名とかそんな感じなのかな?治癒魔法の腕はかなり高いし、そもそも治癒魔法だけに頼らない自然治癒も併せた回復法…、つまり、剣と魔法と回復魔法のファンタジー世界でも、俺は包帯ぐるぐる巻きってことだ。


「がはは……、情けない話だ、この程度で動けなくなるとは……」「不覚です…。」


血盃の兄弟(ブラッドブラザース)』の2人も、激情ちゃんに救助され、今は折れた手足を完全に動かないように固定されている。【三崩の杖】ラトゥイは何があったのか判らないけど、頭からかなり出血しながら簀巻きにされている。


「……ウルナも、お疲れ様だな。」


いつの間にか白い大蛇も居なくなり、痛々しい火傷痕を残しながらも、ウルナもしっかり生きている…。


「……、終わったな。」


あー、安心したらクソ眠くなってきた……。もう…、休んでいいよな?次に目覚める時は…ふかふかのベッドの上がいい…。ここ、地面過ぎてゴツゴツして身体痛い。

この辺の話は書く気無かったし、本当なら有耶無耶にして次の話に行くつもりだったので、【激情】ちゃんは3秒で考えたキャラです。

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