33 化けの皮
あ
恨みの成就、我々の願い…そのためだけにこれまで行動してきたが、最もな不安要素はたったの2つだ。
世界の守護者であり、人類の守護者…そして我らの敵対者たる『天使』…事実、我らを殺す力を持たないにも関わらず、この身を封印し…目的の阻止に成功してみせた。
故にやつが現れたあの瞬間、我は敗北を確信した。しかし、結果は今の通り…天使はどこかへ消え去り、我を封じる手段を持つ存在は居らず、弱く、邪魔にもならない脆い者達のみがそこに居る。
しかし、もうひとつの不確定要素が現れた。
〈天墜〉を対消滅させ、現れたソレは…普通では無いハズの臭いを持っていた…。我を下した天使のものでも、他の塵芥の弱者とも違う…古の時代に我々を殺した"ユウシャ"と呼ばれるソレと同じ臭いだ。
故に…都市を潰す事を後回しにし、ソレを殺す事を選んだ。以前の敗北など関係ない…。今であれば、今の我らであれば勝てると踏んだ。何よりも、それは"ユウシャ"の臭いはしていても…強者の風格は持っていなかった。
どれだけ邪魔が入ろうとも、追い詰めればいずれは殺せる。
嫌に連携の取れた2人に邪魔されたものの…殺した。
確実に殺した。潰して、潰して…潰して…潰して…潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して潰して!!
何度も踏み抜いた。
油断のせいか…力を使いすぎたか…、面倒なのが1人居たらしい、大したダメージにもならなかったハズのソレで…我々は砕かれた……。全身の修復には時間が掛かるだろうが…その間は我1人でやれば良い。天使が再び来る前に…都市を滅ぼせば良いのだ…。
我らの願い…貴様らニンゲンだけが繁栄の路を進むなど…我らが我らが同胞が赦すハズも無いのだから……。
その…ハズだったのだ。
ユウシャを殺した…、我らを殺しうる障害は無くなったハズだったのだ。我らが再び滅びの使徒として……恐怖を、絶望を……与えるハズだったのだ……、
『何故……生きている』
「さぁ?…なんでかな……。」
姿が変わろうとも、臭いは変わらない。
ソレは間違いなく、殺したはずの"ユウシャ"だった。
仮説があった。
死んだ記憶のリアルさは…間違いなく本物だ。とはいえ、その記憶が本物だと、俺が思っているだけという説もある。俺にも理解が及ばない魔法やスキルによる記憶の操作…あるいは死という幻覚の再現が行われた。
幻覚となると闇魔法…俺が死んだと思ってしまった事により、俺自身が死という幻覚を生み出した…。仮説は仮説だ。仮説とはいくらでも立てられる。"こうかも知れない"という思考の連鎖。何百何千でも立てられる。
(確実に胸を剣で貫かれ、"死んだ"という記憶がある。命が零れ、絶望するあの感覚が…夢であったなどとは思えない。そして、あの時…あの時にも、性別は変わって─)
これは2回目の死の直後に浮かんだ仮説だ。
続くのは、『性別が変わった事による死のキャンセル』まるでゲームのバグみたいな仮説…。あながち…間違っても無い気がするんだけどなー。
死の後には天国やら地獄やらがあるとは聞くけど…、俺の視点では、そこには『無』が広がっていた。視界は漆黒、耳は聞こえない…もちろん臭いも感じない。
死んだ。死んだのだ。
何度目だったかは…しっかり覚えてる。3度目の死。最初は…剣で胸を貫かれて…次は、岩に潰された。そして、今…明確に、竜の手によって殺された。3回も死んだのは確かなんだが、この都市だけで2回も死んでる。
そもそも殺される体験を2回も3回もしてる人間…たぶん俺だけだろ。痛いし苦しいし、そう何度も味わってられるかよ……。
字面だけ見てみれば、ちびっ子たちが死んでいく絵本みたいだろ。みなみはけんでさされて。みなみはいわにつぶされた。みなみはりゅうにやられた。頭文字全部『M』だし全部俺じゃねえか!!なんの知育にもならねえよ!!!
ま、仮説は仮説だ。
次の復活は無いかもしれないし…そうなれば次のMは無い。この物語は、俺が死ぬことで進むのかも知れない…。よくあるだろ?仲間が命を懸けて、遺した力を使って…最期に留めを刺すとかさ。
なんて考えている間に…視界が開ける─
「仮説は仮説…だな。」
そんな俺の呟きを聞いて、そこに居たソレ……。
なにこれ…狼?は俺へと視線を向け…とんでもない物を見たかのような表情を浮かべる。酷い話だよな…初対面だろ?
『何故…生きている』
耳に聞こえたその声は…声だけは聞き覚えがある。
歪んだ口によるセルフノイズが混ざっていない声は初めて聞いたが、確信がある。
「さぁ?…なんでかな……。」
低い声とほんの少し高くなった視線…。
仮説に一歩近づいた。《性別転換》のスキルこそが…俺の不死の秘密だ。
『…ユウシャとはかくも理不尽な物だな、化け物とは、貴様のような存在のことだろう?』
それは俺も思った。
もし優輝が殺しても蘇る虚無ゲーだったら理不尽過ぎて泣けてくるわ。
「ま、俺は勇者じゃ無いけどな?」
『減らず口だな…また殺すま─』
狼が腕を上げ、何かを防ぐような動作をする…直後、凄まじい衝撃と共に、獣のような拳が、狼の腕へとめり込んだ。
「ちょっ、ちょ!?南くん、南くんだよね!?なんで?なんで生きてるの!?」
「……さぁ?」
いつも通りのキアラの反応に、俺もいつも通りに返してやった。
拳がめり込んだ腕は、あまりにも細い…しかし、折れる事も、狼自身が動くことも無かった…。明確に弱体化してるとかは無さそうか?
騒がしく登場したキアラに対して、拳を払いながらも狼はまるで痛痒に感じていないように
『……ずいぶんと煩い蝿が来たようだな?』
「誰が蝿だ!僕は冒険者のキアラだよー!!」
『どちらでも良い…。さてユウシャ…、何を逃げようとしている?』
バレた。
とりあえずキアラに任せとけば安全だろ作戦がバレた。そんな俺の心情を知ってか知らずか─
「うわぁ!!?」
─キアラの身体が一瞬で投げ飛ばされる。
邪魔者が消えた狼にとって、次に仕留めるべき対象など決まっている。俺が反応すら出来ない速度で、鋭い爪の生えたその腕を伸ば
─ゴォ!
少し離れていたハズの俺が熱さを感じるほどの熱量で、火柱が狼を包む!燃え盛る火炎、肉が焼ける臭い…俺の前髪もちょっと焦げた…
つまり…
「ウルナの足止め!」
キアラによって抱えられて逃げたウルナの無事を喜びつつ、ウルナが居るハズの場所へと視線を
『ユウシャ!!』「ごぇ!?」
俺がよそ見をしていた首を無理矢理に掴む腕が、未だに燃え続ける炎柱より生える!生えていたハズの毫毛は燃え尽き、皮膚が剥がれて筋肉が露出し、一部骨まで見えている…。狼の肉球に触れてみたいとかそういう願望はちょっとあったけど…こういう叶え方はマジで困る!!爪刺さってるし!!
喉が圧迫され、呼吸が苦しくなる…血流が止まり、脳へと酸素が運べなくなる…つまり思考が遅れてくる……。
あ…だめだ…もう………
「南くんを、ッ離せ!!」
『!?』
乱暴に指が外れた衝撃で、俺の身体は宙に浮く…
酸素不足の俺の頭で、今の状況を必死に探る…今の声は間違いなくキアラの声だ
地面に背中からまともに落ちたことで、肺に溜まった空気が無理矢理に排出され、堪らず無理矢理息を吸い込んだことで咳き込む
「ッがは!ッごほっ…けほ…ッ!」
剣が無ければ拳で解決とでも言わんばかりに、キアラの拳が炸裂する。狼は一瞬で殴り飛ばされ…って、お前どっか吹き飛ばされてただろ…どうやって戻って………
「は?」
未だ定まらない視界の中で…鎧のように硬質な輝きを放つ鱗を見た…、全てを切り裂くような鋭い爪。いつかどこかで言った気がするな…『お前ドラゴンっ娘じゃ無かったのかよ!!』って。
「はは…、お前やっぱドラゴンっ娘じゃねえか。」
「正確には爬虫類っ娘だけどねー。関係ないでしょ今はさ!」
キアラとのやり取りの間に、瓦礫と砂埃を払い、狼が立ち上がる…
遥か空にある天使の輪の回転…その意味は一瞬で理解出来る。焼け爛れ、剥き出しになった頭蓋がゆっくりと覆い隠され、筋肉と皮膚と、毛に覆われる。その再生は歪んだ物では無く、しっかりと元の形状を保ったもの…立ち上がった狼の瞳は…竜の時と同じく、黄金を宿している…
「わー、もう復活したぞ?」
「あのさ…」
狼が復活した姿を見たキアラが、青ざめた表情で俺を見る、そして……
「南くん…僕、実はあんまり力残って無くて……今のでわりと……」
「…え?」
そんな話のすぐ後に、キアラの身体を包んでいた鱗が消滅し、元のキアラへと戻る…、そう言えばコイツさっきまでぶっ倒れてたんだった……覚醒したと思われたキアラの衝撃の告白。
明確に弱体化したキアラに対し、ピンピンしている狼……その凶爪が…振るわれる。
「わー、ほんとにごめーん!!」
ここで死ぬとかある?
そろそろ終わります。




