31 ヒーローとかは遅れてやって来る 1
アプデで結構変わっちゃってまだ慣れない。
周囲には何も残っていない。瓦礫の山も先の衝撃波により総て綺麗に吹き飛び、渦を巻く嵐の魔法も掻き消えた。
在るのは天に浮かぶ竜と、浮かぶ黒い輪。
そして地を歩む事しか出来ない矮小で愚鈍な人間…それも、これまでの猛攻を生き延びた極少数のみ…たったの3人。【三崩の杖】ラトゥイ、あとは名も無き2人。その他大勢は天へと至った竜に恐れ、震え…あるいは天使が去った事実に絶望しているのだろう。
『ッはは……2度も防グか…ニンゲン!!』
「あーあ……見つかっちゃった。」
凄まじい魔法の余波が残る中で、歪んだような喉から笑い声が漏れる…万人が恐ろしいと感じるハズの"その言葉"に対する返答はなんとも緊張感に欠ける物だった。
それもそうだろう。だってそれ以上に思ってる事が無い。さっさと逃げるつもりだったのに、ウルナを探してたらコレだ。最前線で敵の首魁とお目見えって……、あれ?そもそもなんかイメチェンした?そんな顔だったっけ?
あー、なんかもう恐怖の最大値を完全に振り切った状態になってる。今ならなんでも出来る気がする。空も飛べる気がするな〜、んなわけ無いか。目の前に空飛んでる存在が居るんだし…デカいなードラゴン。
歪な口が開き、言葉が続いた……
『イや…我々ヲ、殺しニキタか…?』
『"ユウシャ"よ…異質なモノよ…』
突然投じられた爆弾に、周囲一帯は水を打ったように静まり返る─
状況が理解出来ず呆けていたラトゥイの視線も、キアラの視線も、抗え無いようにソレへと吸い込まれる…。
「…へ?ゆ、勇者!?」
「勇者……、」
キアラも謎の青年も思わずといった様子でそんな声を上げるが、当の俺は"なんのこっちゃ"見当違いもいいとこだ。確かに俺は勇者の1人なんだろうが、特別なスキルを持つ【勇者】じゃ無い。
勇者がどーとかって騒いでるってことは…?
「……見逃してくんない?」
『ハ?』「へ?」「ん?」
張り詰めていた空気が途切れ、一拍置いてから全員からの『?』を受け、俺もなんとも言えない顔になる。ドラゴンでさえその崩れた顔で精一杯呆れを表現している、もう終わりという物だろう…でも、ねぇ…?まず勝てなさそうだし、一撃でぶち殺されそうだし…ウルナまだ見つかってないし……?
そもそもコイツ…
なーんて考える時間は与えてくれない。俺の言葉を頭で反芻し、理解した瞬間、ドラゴンの瞳は曇る…
『ッハは…─殺ス』
嘲笑と殺意、瞬間─
黒い輪が回転し、竜の周囲に岩石で形作られた槍が無数に出現する…
『放テ─』
「ッ!〈魔壁〉」
「ちょっ!!」
「ぐぇっ!?」
謎の青年の魔法の詠唱の直後─俺の身体は無理矢理に引っ張られ、思わず品のない声が出る…まぁお嬢様でも無いんだから今更品とかはどーでもって、いや、口から出る!色んな物が出るって!!
無数の岩槍がまるでマシンガンのように射出され、その射線は引っ張られる俺を追うようにして発射され続ける─
「ちょっと君!さっきみたいに魔法でどーにか出来ないの!!!?」
「無理無理!キアラがどーにかしろ!!」
凄まじい速度で逃走しているため、全ての岩槍は俺の足先一寸へと突き刺さっていく…
クソザコ戦闘力の俺にどーにか出来るわけ無いだろ!!
なんなんだよアレ!あんだけズタボロなのに余裕で動き回ってるじゃねえか!!
「キアラ止まれ!!」
真後ろを向いていた故に、俺にはドラゴンの動きがよく分かる、
全力逃走する俺達の上に影が差す─
─ドガァンッッッッ!!!!
凄まじい轟音と共に放射状に砕けた地面…
俺たちの一寸先には、歪んだ頭部と失った片翼…切り開かれた胸部からは未だ真っ黒な体液が流れ出ている…にも関わらず、その6つの瞳には未だ闘争心が滲んでいる。
天より降り、大地へと脚を付けた巨躯…あまりにも歪んだその頭を、俺達に向ける…
『逃ガスと思ウか…?』
「ッ…!」
ドラゴンはその前腕で、砕けた地面から槍のように形作った岩塊を引き抜く…それはまるで人が武器を用いる時のような動きであり、奇しくも同じく長い得物を扱う武人たるキアラを前にその動きを取った…。
「ッ〈遮視の霧〉!」
ドラゴンが岩槍を剣のように構えた瞬間─黒い霧のような物が爆発的に溢れ出し、ドラゴンの足元の殆どを覆い尽くす…、キアラが俺を担ぎながらその踵を返し─
『ガァッ!!!』
─斬!
振り抜かれた"剣"は圧倒的破壊力を持って全てを粉砕し、
一拍遅れて爆発音のような物が響き渡り、視界を遮るハズの黒い霧は一撃で払われた。…凄まじい風圧によって砕けた地面が周囲に飛散し、振り抜いた軌道に沿った深い裂け目がバックリと開き、黒い霧に代わって土煙が漂う…
その中で、黒い天使の輪が再び回転するのがうっすらと見えた─
「っぶない!危ないよ!!あとちょっとで死んでたよ!!」
「わりとギリだったな……」
俺達…まぁ、俺はキアラに荷物みたいに担がれてるだけだが…の足先一寸の大地には横一閃の巨大な亀裂が生じている。間一髪本当にギリギリで俺達はその攻撃を避け切ったのだ。
〈遮視の霧〉による視界遮絶と距離誤認…低位の魔法とは言えど、効果はてきめん。同じサイズで直接タイマン張るならまだしも、でっかい武器をブンブンして蟻くらいの大きさにしっかり当てれるかって話だ。
俺達が眺めてる隙に、竜が持っていた巨大な岩剣はボロボロに砕け落ちる…少なくとも次の一撃は無い。少なくとも物理的攻撃は、
「黒い輪が回ったんだし、またなんか来るぞ。」
「どーしよ!どーしよ!!…ってなんで君はそんなに落ち着いてるの!?」
「諦めてるから。」
「もー!!」と珍しく怒るキアラを無視し、天を浮遊する黒い輪を見る。最初に見た時には無かったし、どっから生えてきた物なのか…
『ッァ!!』
「ちょっとごめんッ!」「うぉっ!?」
放たれるのは岩槍の砲撃。
岩の弾幕よりも威力は上!とはいえ連射性能は低い…故に、2m近い巨大な3発の岩槍に向け、キアラは腰を落としてハルバードを強く握り締める。
「ッはぁ!!」
おい…まさか!と、俺が思ったのも一瞬だ。風を切り裂く剛音と共に振り抜かれたソレは、3射を横に真っ二つに切り裂き、それら全てはキアラを避けるようにズレた射線でその真横に突き刺さる。
ハルバードとは確かに斬ることも出来る武器だが、例え鉄塊を振り回したとしても砕く事が出来るか怪しいソレを、剣ですら無く長柄の斬刺武器で真っ二つに斬り裂くとは尋常な技量で出来るものでは無いだろう。
ちなみにこの間俺は地面に下ろされ、座り込みながらはへー、とキアラのその雄姿を見ている。いや、凄すぎだろ。
『下らん、』
キアラに感心している間もなく、黒い輪が回り、風の刃が俺目掛けて放たれる─視認すら出来ない空気の歪みとなったソレは、間違いなく俺達の命を刈り取るに足る物─
目の前に、太い尻尾と綺麗な背中が…
「ッ!!!」「おい!」
気づいて声に出したのと、キアラの堪えるような声はほぼ同時だった…風の刃に対して俺の前に立ったキアラの身体がズタズタに斬り裂かれ、飛び散った血と共に、ゆっくりとその場に倒れる…
一拍遅れ、魔法を受け止めきれず、半ばで折れた傷だらけのハルバードが、地面へと突き刺さった
「ふ…だい、…丈夫!僕は…まだ、いけるよ!」
どうやら深く斬れた頬の傷口が口内まで届いたらしく、喋りづらそうに口から血を吐き出しながら無理矢理の笑顔を見せながらそう呟く。
とはいえ、まともに魔法を食らった以上…キアラの戦闘はここまでだ。知り合い程度の関係のハズの俺を庇い、ここまでズタボロになった…
「ッすまん………」
天使の輪に吊り下げられるかのようにふわりと宙に浮かぶ竜が、俺の目の前に着地する…その風圧によって巻き上げられた砂粒が俺の頬を斬り裂き、血が垂れる。
竜の瞳は、まっすぐに俺を向いている…。
まともに戦う力を持たない俺と、血だらけで倒れる少女が、6つの瞳に反射した。
「ふ…はは…僕が、こんな所で、終わるわけ、無いじゃん……せっかく、竜狩り…を目前に…してる、のに……」
『抗うカ、ニンゲン…負けルコトなど…判っテイヨウ?』
「ふふ…、負けない、よ…僕は…、君にも、誰にだって…負けたりしない、さ…!」
威勢よく、されど力無くキアラが叫ぶ…
気持ちだけでは、勝ちは取れない。キアラという南よりも明らかに強い存在であっても、やはり竜には敵わない。ファンタジーの定番であり、時にはラスボスとして君臨するソレは、やはり人の身で勝てるような次元には居ないのだ。内臓にまで傷を負ったのか、キアラが血を吐き、咳き込む…。再起は不能。今や目前の竜の凶爪の一振りで、或いは魔法一つで…俺達の命は消し飛ぶだろう。
とはいえ…全部諦めるのは後でも出来るだろ。
「ふぅ…少なくとも、キアラ…お前が死ぬのは俺より後だ。」
「ぇ…?」
さすがに…ここで立てなきゃ男が廃るってモンだ。
右眼は潰れててよく見えないし、まともに通りそうな魔法も無い…今のキアラと比べてもどっちが上手く戦えるかって話になりそうだが、せめてもの抵抗として、嫌な思い出がまだ残る剣を構える…。なんの魔法を使うのか、何が出来るか…それは全部今考えるだ。
『ッは…ソコで…立つカ、ユウシャよ…』
「誰が勇者だクソが!!!」
その呼び方に腹が立ち、怒りのままに叫ぶ!発動するのは当然…ここまで俺を支えてくれた俺だけのスキル─《錬成》!発動の瞬間、
───ッッッ!!!
どこかで見覚えのある天を衝く炎の柱が、竜の身体を包みこんだ。
天を衝く炎の柱、それは金属以上の硬度を誇る竜の鱗を溶かし歪め、焼け爛れた肉より焦げた香りを漂わせる…、超高温に熱された瞳は眼窩より溶け出し、べちゃりと音を立てて地に落ちる。
「ッ熱!!?」
『ガ…ぁ…ッニ…が』
炭化し、枯れた竜の喉から言葉にもならない声が漏れる…
「は、は……凄い…ね…君。」
キアラが何か言っているが、これは突然覚醒した俺の力…とかそんなんじゃ無い。現実はそんな生温く無い、何より《錬成》にこんな力は無いハズだ。だからこそ…もっと考えられる要因を─
「ウルナ!!どこだ!!?」
周囲を見渡しても、ウルナの姿は見えないし、返事も返ってこない…、そもそもウルナの力じゃ無かったのか、或いは今のを使った反動で動けないのか…
「み、なみ様…、」
「ウルナ!!」
声がした方へと視線を向ける。
そこには、ずっと探していた小さな少女の姿が…
「は?」
無かった。
つぶらな瞳とは、小さな愛玩動物に良く使われるような言葉だろう。ハムスター然り犬然り猫然り、まんまるの瞳がこちらを見つめる姿は実に可愛らしい物だ。
とはいえ、まんまるでつぶらな瞳が人の背丈よりも大きかったらどうだろうか?
爬虫類らしく縦に裂けた瞳孔が、俺を…いや、竜を睨みつける。
沈黙を守っていた白い炎の使者は、ついにその眼に竜を映した。
『ッ────!!!』
只人には聞き取れない音色を響かせ、白い蛇が牙を剥く。
「南様…、探し、ましたよ。」
蛇の後ろから、小さな影が現れる…包帯が焼け消え、爛れた皮膚を曝すウルナの身体は…半身が炎に包まれていた。それよりもなんか怒ってるみたいに見えるんだけど気のせいかな?
「え、なにそれ。覚醒した?」
「ッ違います!!」
交わした軽口は簡単な物だが、久々にウルナを見れた気がした。
もともとラトゥイこの回で出番があったけど消した。ちゃんとあとで出番を作り申す。




