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30 ユウシャ

ブルースカイやってます。

「うっわ…なんだこれ…。」


まだ年若い青年が黒く焦げた壁を見て呟く。

まぁ、原因は判る…さっきの天高く燃えた火柱。相当な火力であった事は確実だし、多少なりとも被害が出ていてもおかしくは無かった。


「ま、空振りだったけども。」


「ジェイム、そっちゃはどうや…?」


「っと、何も無いですよ。ヤタギさん。」


いやに疲れたような顔をした男は、白髪交じりの髪を一度かき、「そうか…」とため息を吐く。クラス2冒険者パーティー『魚の瞳』の一人ジェイムと、クラス4冒険者パーティー『火酒』のヤタギは、共に水魔法に長けた冒険者。

そんな二人がここまで来た理由など、深く考えずとも判るだろう。


「怪我人が出ていないのであれば、幸いでしたね。」


「ええ、無駄足じゃありやしたが…無事が確認出来ただけでも良しとしやしょうか…。」


火災による怪我人の治療の為に一緒に呼び出された神官も、やや苦い顔をしているのが見て取れる。まぁ、人手が足りない状況で、なんの成果も無いというのはやはりなんとも言えない思いになるだろう。


「さて、戻っぞ、ジェイム……ぁ?」


「ヤタギさん…?」


「揺れちょるな……。」


そう言われてジェイムははたと気付く…、僅かではあるが、地面が揺れている…、現状なんの影響かは不明だがここに来て単なる地震であるとは思えない…。

城壁が破壊された時ほどの揺れでは無いものの、あの一度だけでもかなりの瓦礫が吹き飛ばされ、下敷きになって死んだ冒険者が大勢居る。

またあんな攻撃をされたら…


「─ウルナ居るか!?」


「?」


そんなわけの判らない状況で現れた闖入者…とはいえ人間なのだから少なくともすぐには襲って来ない。…と、いうよりも…息を切らせて脚も子鹿のように震えたその少年に、力があるとは思えない。


(いやぁ…弱そうだな……、)


思わずそんな事を思ってしまったジェイムだが、壮年の神官は落ち着いた対応を取る。


「どうされたのですか少年?」


「居ない…けど焦げ跡があるし…やっぱりここか…。なぁ、あんたら灰色の髪の女の子見なかったか!?」


「いや…みちょらんな。それよんり、お前さん…ここは危険じゃてはよ逃げ……」


「くぅ…俺だって逃げたいけどさぁ!ウルナ死んだら絶対化けて出てくるだろ!!」


「いや、それは知らねーよ。」


危険過ぎる状況なのに肩の力が抜けてしまう…

なんとも変な少年だが、焦っていることは声だけで判る。それが都市を揺らした竜への恐れからなのか…或いは"灰色の髪の女の子"がそれほどまでに恐ろしいのか…



─ド



遠くから聞こえた大きな音の正体がすぐに判る…。


「ッ!?」


目と鼻の先とは正にこのこと、進路はこちら、大地を巻き上げ、建造物を崩壊させ、更に大きくなっていく─


「ッ…〈竜巻(トルネード)〉…いや、更に上位の〈天災渦(ヴォルテックス)〉…か?」


十中八九、あの竜による物だろうが、水魔法では防ぐ手立ては無いし、このままでは死にかねない。何が正解なのか、どう動くのが正しいのか…この場に要る全員が考え、ひとつの答えに到達した。


「……無理じゃろうな」


逃げようが無いし、何も出来ない。




おいおい…嘘だろ、ここまで来て何も出来ずまた死ぬのかよ!!?─


「ジェイム!盾を作れぃ!!!〈漣の祝福(ブレスオブリプル)〉!!」


「ッ!〈水包(クッション)〉!」


─俺以外は諦めていたわけでは無い。

ジェイムと呼ばれた若い冒険者の周囲に水の球体が出現し、更に白髪交じりの冒険者が薄く波打つ膜を展開!それらを合わせ、防壁(シェルター)のように形造る。


「広き翼よ!…私に力をお貸し下さい〈結界(プレヴェントエリア)〉!」


壮年の神官の神への聖句と共に放たれた神聖魔法により、〈水包(クッション)〉で造られた防壁(シェルター)の更に内側に地面に浮かび上がる光の円と共に、輝く結─


─グチャ


移動する巨大な渦は、巻き上げた瓦礫の塊を超高速で防壁(シェルター)へと叩き付けた。

水包(クッション)〉による衝撃の緩和も、速度低下も微々たる物だ。拮抗すらせず、安全地帯は一瞬で消え去り…二人の冒険者はミキサーに掛けられたみたいに…渦に攫われて血飛沫になり、瓦礫によって潰された俺は…内臓全てをぐちゃぐちゃにされて、









───────────────────────────








「ぶ…」


─奇跡的に、息を吹き返した。水面に上がった時のように深く、荒い息をしながら瓦礫から抜け出し…瓦礫の山の上に仰向けで寝転ぶ。視界に映っているのは暗くなり始めた青い空…そして、明らかにヤバいと判る黒い円。しかもそんな黒い円はどんどんとその大きさを増していく…。


「はぁ、はぁ……何、あれ…」


思わず口に出したが、応えてくれる者など居ない。

物質なのか、魔法なのか、スキルなのか…そもそも誰がやってるのか…?


「儀式魔法的な雰囲気がある…、な?」


自分の喉に手を当て、続けて胸を触る。なるほど、薄いけど確かにそこには"ある"

最後に下腹部に伸びそうになる手を止め、ため息を吐く…


「じゃ、ねぇんだよな…、」


いやに可愛らしくなった声が俺の耳に入り、なんとも言えない変な感覚に陥る…だって、その声は俺から出てるんだからな。

もう二度となりたくないと思ってた……いや、それは嘘だな。ぶっちゃけちょっと楽しんでたし。なんたって合法的に女の子の身体触り放題!更には女の子と遊び放題!話し放題!女子風呂にも…まぁ入ったこと無いけど……髪の毛、服装弄られ、遊ばれ放題……その間俺は置物化……。あれ?ギリマイナスかも。


「っていうか…なんで無傷?」


両の腕を交互に眺め、全くの無傷の白い肌…あれ?砂漠で過ごして結構焼けたと思ってたのに…?褐色美少女ではなく、変わらず色白美少女…わりと褐色肌好きなんだけどな……


「…性転換したのはまぁスキル発動って判るが……無傷なのは……?」


この砂漠に来た時にも、この現象は起きていた。

確実に胸を剣で貫かれ、"死んだ"という記憶がある。命が零れ、絶望するあの感覚が…夢であったなどとは思えない。そして、あの時…あの時にも、性別は変わって─


思考の渦に呑まれそうな俺を現実に引き戻したのは…

ふわ〜っと、目の前にシャボン玉がやって来る…。今や滅びまでのカウントダウンを切った都市の瓦礫の山に突然のメルヘン。ん?これ本当にシャボン玉か?水の塊じゃね?

よく見れば、それは都市中に張り巡らされた水路から浮き上がり、空に、空へと次々に向かっていく…水の集結…この現象は恐らく魔法。

…とはいえなんの魔法なのか、とかは判らない。なんたってアルカナム王国では水に関する魔法の知識を殆ど得れていない。

こっちに来てからもある程度調べはしたが、基本的にこっちの魔法は"水の生成"に重点を置いており、"水の操作"に関する魔法の情報は少なかった。


「戦闘系の水魔法はそもそも情報が全然無いからな……」


悲しいことだが、これが真実。どこまで行っても水の魔法はサポートの域を出ないのだ。…普通は、


「集結した水…まぁ、そーいう事だろ。」


足を上げ、戻す勢いで立ち上がる。

見たことの無い大規模魔法…とはいえ、戦闘系魔法では無い水で、出来ることの幅は狭い。水は物質だ。火や風のような現象では無い…


「ファンタジーの世界で、んな品のない攻撃が許されるのかよ…。」


竜巻然り、津波、地震…全ては大災害。

ソレを数倍する圧倒的質量のあの水の塊がそのまま落ちれば、それは巨大隕石と変わらない!まず間違いなくこの都市は終わる。都市の終わりは、つまり…


「もう死ぬのは、懲り懲りだ…。」


南の魔力が放出される─

アルカナム王国最強の魔術師を優に超える絶大な魔力…


「さすがに、防がせてもらうぜ?」








『ッ!!?』


「!!」「!?」


突如、心臓を鷲掴みにされたかのような苦しみと、痛みが走る─

3度目の魔力波動─

しかし、それによって動けなくなった者は居ない。その場には既に戦闘経験豊富な冒険者しか残っておらず、この程度ではせいぜい一瞬怯む程度……


しかし、発生源が判らない…2度起きた魔力波動は、総て目前の竜による物、しかし3度目のソレが起きた時…竜は既に水の塊を落下させる準備を整えている─

それ以上に…


「何、これ…ッ」


今までに感じたことの無い程の…全てが塗り潰されるような凄まじい魔力の爆発。動けはする…しかし、未だ麻痺したような痺れが取れない─


発生源は…瓦礫の山…?

あんな所に…何がいるんだろ…


キアラがそんな事をぼんやりと考えている内に…(滅び)は─






─消えた。

確実に滅びをもたらすハズの水の塊は…音も無く、蒸発させるような熱も無く、爆発も…風も、何も、何も



『ッオモシロイッ!!!』



何も、起きなかったハズだった。

誰の目から見ても、何が起きたのかなんて判らなかった。なのに、滅びの危機は去ったのだ。一瞬で、音も、何も無く─

竜の瞳はキアラとラトゥイへと向かう、それは明確な怒りを孕んだ物。絶対にして必殺の一撃を無効とされた怨み、怒りそれを発するべく、神聖さとは真逆の力を有した輪が回る。


突然の出来事に呆然としていた二人の冒険者が意識を取り戻し、キアラが声を上げる


「そこの人!さっきみたいな魔法は出せないの!!?」


「ッ…なんとしてでも絞り出す!だが、無駄撃ちは出来ない!確実な隙が必要だ!」


それならば、と…キアラはハルバードを構え、足に力を入れる…

状況は結局…先程と変わっていない。前衛として、攻撃を誘発し、受け流す!少しでも自身に集中させさえすればこの都市はその分の時間守られる─


『消えロッ!!!!』


「ぁ…」


竜の咆哮と共に、漆黒の輪より黒い雷が走る─

ドン─と、地を裂するほどの力で竜は前腕を叩きつける!黒い爆発、雷が落ち、漆黒の輪へと上へ上へ黒い渦を巻く…文字通りの天災、大災…地面に走る無数の亀裂と共に、槍のような岩石が隆起し…


「ッこの程度で、僕を止められると思わないでよ!」


隆起した岩塊を砕きながら竜へと近付いたキアラだが─


『煩わしいな……』


そのハルバードは空振る─


「へ?」


ゆっくりと回る天使の輪(ヘイロー)に吊り下げられるような、不自然な動きで竜はふわりと浮き上がる…。飛べない竜は翼を得た。圧倒的強者が、上を取る…。自重も、手加減も一切無い…まるで、神の如き動き。

竜は未だいびつに(ゆが)み、どろりとした血を溢れさせる腕を天に向ける─


『届かぬ高ミ…独りデハ、ナイ…サァ…〈天─』



何か、明るいナニカが、竜の首を貫いた─



天使の魔法、それに勝るとも劣らない針のような熱線は、暮れつつある天を向く竜の首を─ジュ…という小さな音と共に貫く……


『ごプろ…ぁ?』


内側より膨れ上がった竜の首は、異様な音を立てて…亀裂と共に一気に弾け飛ぶ─頭を、脳を…思考を奪われた竜の身体は、糸に吊られた人形のように力無く垂れ下がり、どろどろとしたドス黒い体液を垂れ流す……

完全に意識外からの一撃。静観を守っていたハズの白い大蛇の一射は、"必殺の一撃"となり得た。


─それが、単なる生命体であったのならば─


大蛇だけでなく、キアラとラトゥイも、信じられない物を目撃する…


『…、今さラ…死ぬ事ガデキるモノか…』


「…ッ!?」


黒い輪からどろりと垂れたソレが…黒い頭蓋を形成す…。鋭い牙歯、黄金の瞳がラトゥイを睨む…歪ではあるが、それは間違いなく頭である。

6つの瞳、裂けたように広がった顎、顔のあちこちから生えた曲がった角…、もはや原型すら留めていない"再生"を果たした竜は、やはりまともな生物とは思えない…


「頭を吹き飛ばされても、死なない…?いや…まさか─」


ラトゥイの呟きを無視し、言葉を紡ぐ事が更に困難となった口で竜は独り言のように語る…


『ワ、レのミ残り、永劫ヲ…、天使にフウジられ、復讐のキカイを逃シ続けタ…血二踊らサレ、焦ガ、れた…オロか者のセイだ…総テ、スベて、……スベテ、ココガ始り…我が目的、我ガ導…サァ…モウ終わり二シヨウ…』


再び…竜はその腕を空へと向け、呼応するように天使の輪(ヘイロー)が回る…そして、淀み無く、先程途切れた言葉(魔法)を紡いだ…



『〈天墜(フォールン)〉─』



「─解除!」


近づく(そら)に重なるように…(みず)が堕ちた─



─ッゴァ!!!!



─堕ちる天と、落ちる水…ぶつかった両者は、対消滅を起こし、堕ちた空は爆風と化し、─バンという音と共に戦場を吹き抜ける…

落ちた水は風とともに広がり、大粒の雨となって都市全域に降り注ぐ…


片や魔法によって生じた"特別な力"…片や単なる水の塊による"物理的現象"しかし…結果は同じ。どちらも変わらない(エネルギー)を持っていた。


『ッはは……2度も防グか…ニンゲン!!』


「あーあ……見つかっちゃった。」


爆風によって傷だらけとなり、片目を失いつつも、その美しさは失われていない…血の滲む白い肌、雨により肌に張り付いた白い髪…そして血のように紅い瞳。

竜は確かな賞賛を贈る…矮小なる蝿のような存在でありながら、自らの…いや、()()の一撃を防ぎ、目前に立つソレに…、

いや、と、竜はその異常なほどに発達した嗅覚で"ナニカ"を嗅ぎ取った…


『イや……我々ヲ、殺しニキタか…?』


『"ユウシャ"よ…』

《圧縮》によって水塊を小さくして魔法による水操作して解除してぶつけただけ。

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