27 脱兎と火
全体見直ししてたらわりと修正箇所あった。ヤバい…いづれ矛盾点出てきたら怖いよ
城壁が崩れる音を聞いても、俺はそちらを向く事は無い。
脇目も振らず、脱兎の如く…全力で南門から背を向けて逃げる。
だってあの場に居ても何も出来ない…一撃で吹き飛ばされ、潰されて死ぬだけだ。
「なんつー手際の良さだよクソ。」
南門周辺エリアには、もはや人の姿は見当たらない。避難は完了しているらしく、もし残っている人が居たとしたら火事場泥棒くらいな物……
「ぁ…」
ふと目に入った…いや、入ってしまったのは崩れた家屋。
ちょうど…あの時キアラが吹き飛ばされた先くらいの位置だろう。水切りのように何度も跳ねて…受けた衝撃は凄まじい物だろう…。……これ以上、見たくなかった。その場から離れようと─
「いててて……ちょっと、しくじっちゃったな…。」
瓦礫が動き、綺麗な白い腕が…
いや、そこには凶悪な肉食獣のような鋭く、長い爪が生えた獣の腕が─
「いや、…は?」
ワンチャン他人の声帯を真似たりするタイプの悪質モンスターなのかと身構えていた次の瞬間には声の通りに瓦礫から上半身だけを出したキアラの姿があった。しかし、やはりその腕は筋肉質で、太く猛々しい獣のままだ。
「んー?おぉ、その姿は南くん!」
俺の姿に気付いたらしいキアラがこっちに手を振ってくるが、その腕はやっぱりまだ獣のまま……。いや、俺が驚いてるのは別にそういうキャラ設定だったからじゃ無いとも。変身能力とかそういうの別にファンタジーだと良くある良くある。じゃあなんで俺がキアラに釘付けなのか…それは…
「キアラ、お前…ッドラゴンっ娘じゃ無かったのかよ!?」
「あれー!?思ってたのと反応が違うな〜!?」
これはあまりにも解釈違いの事態である。俺の中ではキアラは変身したとしてもでっかいドラゴンのハズなんだ!なんだこれおかしいだろ!!ファンタジーの定番を崩すなよ!!
「あのさ〜、とりあえず瓦礫から助けて?」
「…おけ。」
瓦礫を退かすくらいなら《錬成》で一瞬だ。
いそいそと瓦礫の山に近付き、手を触れる。瞬間─まるで瓦礫はキアラを避けるように動き、そこにポッカリと空洞が出来る。
「おぉ〜、おどろきだよ!実際に自分で体感してみると凄さが判るねぇ。」
「おう。……特に、目立った外傷も無さそうだな…?」
ジロジロ見てるとまたなんか言われそうだが、…あの瓦礫の山を作っといて無傷なのヤバくないか?さすが異世界冒険者。召喚勇者よりよっぽどチートだろ。
「ま、もう治ったからね〜。でも、ちょっとさすがに油断しちゃったな。」
治った…治ったかぁ…まぁ人じゃ無いならそうなるかぁ…。少なくとも人間よりも獣の方が治癒力高そうだし…。俺も欲しいよその治癒力…それあったら腕取れても、腹貫かれても復活しそう。いや、ワンチャン持ってるのか?無かったらここに立って無くないか?
「ところで…南くんは逃げなくていいのかい?」
キアラの視線は既にどこか遠くにあった。
まぁ、それがどこに向いてるのかなんてもう十分に理解している。酷く揺れる大地と、朽ちた喉で吼える大声…それは10や100では済まない。
「安心しなよ。僕らは冒険者…退路に敵は向かせない。例え…死んでも、ね。」
その表情は真剣そのものであり、己の中で決着は付いているように見える…いや、冒険者という危険と隣り合わせの職業を選んだその時から、既に覚悟を決めていたんだろう。
「でも、適当に壁でも作っておいてくれると足止めになって嬉しいかな〜。」
キアラの…異種の血を宿したその身に鱗が生え、獣の爪もより凶悪な物へと変貌する…ハルバートを握り締め─
俺は、その背を見送った。
途中で声を掛けることも、その背を追うこともしない。
地面に手を置くと、周囲が窪み…迫り上が─
─ゴォッ!
都市の中に火の手が上がる…いや、それは天を刺すほどの火の柱。なんの前触れも無く出現したそれは、数秒の高熱を周囲に放ち、跡形もなく消え去った…。
それの正体が何であるか、俺には判る…いや、今この都市では俺しか判らないだろう…。
「…ウルナ。」
魔法とは、代償を払って事象を引き起こすという一種の法則だ。
だからこそ古来より生贄を持ってして行う大魔法や大儀式があるのだろう…。魔力を用いて魔法を使い始めたのは意外と近代らしく、当時存在していた精霊魔法の研究により、1000年前あたりから”魔力と交換する魔法”が広く一般的に普及したそうだ。
だからこそ、古の魔法の方が威力が高く、自由度も高い…。
「生き…残ったか……。」
右手に握っていた杖が、炭のように黒くなった後にボロボロに崩れ落ちる…。長年愛用してきた杖だけに名残惜しくはあるものの、命には代えられない。
それに、杖は他にもある。…二振りとも、ひとつの効果に特化させた最上級の物であり、自身の二つ名である【三崩の杖】の由来だ。
「まぁ…もう既にひとつは無くなってしまったから…今後は【二崩の杖】を名乗るべきか…?」
いや、あれだけ啖呵を切ってボロボロにされたんだ…今更二つ名を名乗るなんて出来ないな…。今後はただのラトゥイ…【半森妖族】のラトゥイくらいで充分だろう。
「さて…。」
都市南部に居た冒険者たちをかき集め、総てを集めた魔法を放つ…魔法を放つ準備をするために敵の注目を惹き付ける生贄を選出し、完璧な連携で放ったソレはダメージこそ与えたものの…竜の強靭な鱗に阻まれた。
と、言うよりもあまりにも相手が悪かったというのが正解だろうか…。
「邪竜か…200年以上生きた僕ですら文献でしか知らないぞ…。」
竜の一種ではあるが、竜はそもそも半永久を生きる種族であり、それ故にその意識も平坦だ。悪に堕ちる程に何かを憎んで邪悪へと堕ち、明確な意思を持って魔法を使い、明確に都市の壊滅を望むなんてお伽噺でしか聞かないような物だ。
何も考えず、ただ暴れ回られるのも厄介だが、こうして理性と知性があると余計にやりづらい…。
ドラゴンは姿を消し、今は都市の中を不死たちが暴れ回り、生命を貪ろうとしている…とはいえ暫くは待機していた前衛組が対処してくれるだろう。住民の避難も終わっている…居るとすれば火事場泥棒程度だ。
「はぁ…」
立ち上がってみると凄まじい惨状だ。
城壁に穿たれた巨大な穴は、結界に阻まれながらも射線上1kmにも及ぶ超広範囲を更地へと変えた。城壁そのものに掛かっていた魔法の力のお陰で城壁の内側には影響が少ないが…城壁が砕かれてしまってはどうしようも無いし、魔法での応急処置も限度がある。氷の壁もこの規模は無理だ。
「僕の責任だな…敵の軍勢が不死という事をもう少し早く知っていれば…首魁もそっち系って可能性に気付けたかも知れない。」
城壁崩壊は防げなかっただろうが、聖職者を増やせばもう少しダメージは通ったハズだ…。まぁ、この辺りは全てタラレバ話。聖職者を死地に送ればその後の癒者が減るし、残党狩りとしての前衛が活躍しづらくなる。
「結局残党狩りどころか首魁すら斃せてない…、ま、どーでもいい…。」
僕を殺せていない程度の相手だ。もうタカが知れてる…今更ビビることは無い。魔法は使える…。四肢も健在。なら…
「まだ、負ける気はしないな。」
残った2本の杖を構える…それは途方も無い金と労力を持って生み出された最高峰の杖。杖による魔法効果の補助…その中でも特定の効果に特化したソレは…
「"煌迅の輝枝"」
水晶のように光を反射する美しい杖は、ラトゥイの魔力を吸収し、さらなる輝きを放つ─
「"譜域の揺らぎ"」
美しい音色を響かせる楽器のように、風と共に麗美な音を響かせる杖が、その音を止める…
音とは波であり、波は伝播する…。
「〈隠知〉」─「…〈火葬〉」
通常あり得ないほどの広域が、灰によって侵される…とはいえそれは聖なる灰であり、同時に都市を蝕む不死者だった物たち。…神聖なる魔法であり、古くは聖戦にて命を落とした聖職者達の肉体を不死者に蝕まれぬように聖なる火によって浄めるという秘術であったという…。
まぁ、そんな秘術など真理の探求者たる魔法使い達にはどうでも良い事だ。
『一度観る』
それだけで良い。
誰も知らぬ魔法使いが、口伝てにそれを伝えていき、大魔法使いが口伝から原型を生み出す…それは次々と改良されていき、秘伝の術は秘術では無くなる…。
事実それは、〈火葬〉であって〈火葬〉では無い。元々の目的すら消え、今ではただの『対不死に特化した火魔法』…でしか無い。
「思ったよりも倒せたね…。」
"譜域の揺らぎ"によって超広範囲まで拡散された魔法は、かなりの魔力を消費すると共に絶大な効果をもたらす…。
とはいえ、範囲が広かろうがこの程度で一撃で倒せるとは思っていなかった。いくら神聖効果を持つ魔法だとしても限度はある。術者から遠くなれば遠くなるほど、魔法の威力は弱まるのだから。
「やっぱり…まだ都市の防護魔法は生きてるね…。」
商業都市は国の財政の要だ。
故にその守りは…時に王を守護する城壁と同等の庇護を受ける。
『大規模魔法陣による障壁』と、『都市内部のモンスターに対する弱体化付与』
どちらも高度で、桁違いに金の掛かる魔法陣。
前者はもう無いが、後者はまだ生きている。これも壊される前に都市内の不死者を殲滅し、邪竜を探し出す…!
「…ん?」
ふと、薄いはずの森妖族の血で何かを感じ取る…。それは、精霊と共に生きる種族としての一種の勘だ。精神を研ぎ澄ませて見れば、都市の一角に小精霊が集結しているのが見えた…。
「なんだ…?」
精霊とは気まぐれだ。
気に入った者にしか近づく事は無いし、わざわざこのような都市にまで現れる物では無い。その殆どは自身の住みやすい環境で、気の向くままに自らの命が尽きるまで生きていく…。
─ッ
天に届かんばかりの火の柱─
それが都市の一角から上がる…。それは無論精霊達が集結していた場所であり、精霊魔法の一種であることは理解出来る。しかし、それでも違和感は残る…。
「契約精霊でも無い精霊達を使役した…?」
突如として現れた精霊が、団結して魔法を放つ…
あり得ない。決してあり得ないことなのだ。普通は─
「─今は考えるべきじゃ無いな…。敵か味方か?重要なのはそこだけだし…」
ここからは温存だ。一度大きな魔法を見せたあと、敵がどう動くかを確かめる…〈火葬〉だけで動いてくれるか怪しいけど…これ以上魔力を使うのは良く無い。
「さて…大仕事だ。」
息を吐き、ラトゥイはいつもの笑みを浮かべた。
自身が思い描く理想の英雄像…それに相応しい不敵な笑顔を。
最後の不敵な笑みは、ラスボスがやる
「クックック…」タイプじゃ無くて
ヒーローがやるような
「HAHAHA!!!」タイプです。
修正
邪竜が死せる竜になってた。初期案との混同です。




