番外編 【鉄絶】シルト
ぽっと出の死ぬためのモブ。
門の前に男が立つ。
その背にあるのは、良く手入れされた長大盾であり、男は手を背に回して一度その盾を撫でた…。
「ふぅ…」
息を吐く。
それはいつもの闘志の宿る熱い物では無い。むしろ冷え切っていた。
「【鉄絶】」
後ろから掛けられたその言葉に、男は振り向く。
「サリオン…、か。…なんだ?最期の挨拶のつもりか。」
サリオン…それは【鉄絶】と対を為すとも言われた二つ名を持つ剣士。しかし、【鉄絶】はあえて二つ名で呼ばず、その男を名前で呼んだ。
「いや…何、俺もすぐに同じ場所に向かうさ。」
剣士と戦士、向き合い、そして軽く笑う。
齢も30を超え、もはやベテラン冒険者と呼ばれる領域まで到達してしまった。知り合いも何度も見送り、いずれ己の番が来るだろうとは思っていた。
だから…竜の攻撃を一身で受け止め、盾となり、魔法使い達の魔法構築までの時間を稼ぐというこの仕事が最期に相応しいとも思った。
「最期…最期か。」
二人の手は震えていた。いや、声もだ。
それは恐怖故だ。いくら格好をつけようとも、死が目前に迫っていて恐ろしく無いわけが無い。
そして、彼の脳内に直接声が響く。
『こちらの準備は整った。』
迅速な動き、さすがはクラス6の冒険者。自分よりも遥かに優秀であり、今後…冒険者たちを率いていける素質があるだろう。
「行くのか?」
【鉄絶】はサリオンに背を向け、ゆっくりと開く門を見る。
「あぁ。」
もはや手の震えは無い。
その背に腕を回し、長年を共にしてきた相棒を手に取る。
「我が名は…【鉄絶】のシルト。」
舞台役者の如く、名乗りを上げる。…それを聞く者は、友たるサリオンただ一人。
…口から血を吐く。
骨が砕け、臓器が揺れる…。しかし、言わねばならない…名乗らねばならない。
「ッぐ…大いなる者よ、我が名を知れ!」
名乗りを上げろ、竜の目を欺け。
喉が裂けても関係は無い。これが最期だ!最期なんだ!
「クラス4冒険者ッ」
それは誇りだ。これまであらゆる功績を立てて来た。しかし、それ以上に、感謝の言葉を聞くことがただただ嬉しかった。
故にクラスの数字はただ冒険者として活動してきたということ以上に、救ってきた人の数だ。そして…今一度名乗る。
「【鉄絶】シルト!!」
鉄の如き固い意思で、何者も絶対に通さない盾となる!決して、竜の意識を城壁へと向けるな!私は、私はここで貴様を迎え討つ!
「我は、邪悪なる竜より都市を護った英雄として!!墓標に名を刻まれよう!!貴様は、我が踏み台に過ぎん!!」
大口を叩こうと、今なら笑う者は居ない。
いつか…どこかで見た演劇の…竜を狩り、都市を護ったという英雄。それが、自らの始まりだった。ならば、この終わり方はなんとも最高な最期と言える。
相棒たる盾を地面に突き立て、何度も危機を脱して来た最高の技の名を叫ぶ。
「─スキル《要塞》ッ!!!」
見えるか…城壁の上の冒険者達よ。我が最期の大舞台…。見えるか、遥か高みに居る者…クラス6冒険者【三崩の杖】のラトゥイよ。
─あとは頼む。
ゴリゴリに身体を動かす職業で、命懸けてて30代まで生きたのが凄い。でもガチで才能あるやつは10代や20代でクラス5を超えていくんだよ。
もっと高位クラスのやつはだいたい長命種だし。




