26 冒険者
ドラゴンは最強です。
『もう一度だ…』
その言葉に我に戻ったのもつかの間…再び結界の外は砂嵐に覆われ、竜の姿を見失う。
「ッは……」
深く呼吸をし、思考を巡らせる─
まず心配すべきなのは周囲の人間…
「また、魔力波動…か!」
それは痺れたように動きを止めて蹲る『四番目の剣』のメンバーと衛兵の姿…つまり、今ここで動けるのは自分だけ。何が出来る…考えろ…!
まず確定なのは攻撃された事と、その攻撃が結界を打ち破れなかった事。破られてたら今俺はこの場に生きて立って無い。
ッだからなんだよ!この情報で何が─
「ッはぁ!!!」
─!
荒々しい声が聴こえた…それは確かに結界の外。
結界の外…つまりドラゴンと同じ檻に放り込まれてるような物……いやッんなことより!!
「─キアラか!!」
「おー、その声はッ南くん!!悪いけど今は余裕がッ無いよ!!」
砂嵐の中殆ど影だけではあるが、それは飛んで跳ねての超次元戦闘。空中で身体を捻り、振るわれる凶爪を避けながらも、その怪力を持ってしてあまりにも長大なハルバードを振るう姿は本当に先程まで眼の前で喋っていたあの少女かと疑いたくなる。
とはいえマジなのだから認めるしか無い。
少なくとも周囲の人間がぶっ倒れる程のとんでもない魔力波動…それを受けても無事だったのがキアラであり、その中で戦闘出来ている。…俺みたいに耐性持ちか?
少なくともここまで戦えてるなら勝機はあ─
『なるほど…下らん』
…巨体が動き…
「ッわ!」
円を描くような軌道を経た長い尾によって─
─ゴォ!
「─キア…ら…」
反応した時には遅すぎた…へし折れる、身体が軋む…いや、破裂するような音と共に一瞬にして少女は姿を消す。いや、遥か後方…都市の中へと…。吹き飛ばされたキアラに対して、結界は作用しなかった。それは幸いな事なのか…それは今は判らない。
─後方…都市の方を向けば爆発音のような衝撃波と共に砂埃と瓦礫が舞い、ピンボールの玉のように少女が吹き飛ばされながら何度も高く跳ねていく…
それを見て、俺も覚悟を決める。
「ッ〈拡散霧〉!」
こっちも出来ることはやってやる…!
砂嵐に霧が混じる…つまるところ天候の取り合い!領域全域での陣取り合戦!水魔法の性質上、霧や雨天候ではこっちが有利!砂嵐をわざわざ起こしてるって事は、多分相手は砂嵐天候下で有利な能力を持ってるハズだ…
水を含んだ砂粒が、風に乗り切れずに落下していく…それはまさしく砂嵐が晴れつつあることの証明であり…そして
─キィ!!!
眩い光と共に結界が軋んだ…そして砂嵐が晴れる。
しかし、先程よりも威力が弱かったせいか、今度は見えた。砂嵐を纏め、一度にぶつけるというあまりにも単純明快な技…眩い光は摩擦熱による大量の火花とガラス化した砂による太陽光の反射。
「ッ…面倒!」
技が破られそうになった直後に見せた臨機応変な対応…それだけで目の前の存在が単なるモンスターでは無い事が理解出来る…少なくとも戦闘の場数を踏んだ…紛れも無く思考能力を持った災害だ。
知性ある瞳を都市を守護する結界へと向け、その巨大な身を捻る…
『ふん、まだ破れんか…』
巨大なドラゴンは思考力を持った化け物だ…二度の攻撃で破れなかった結界を前に、次に見せる行動は決まっている。
生物の限界を超え、その鱗の生えた腕を振るう─
「うぬぁッ!!!」
─!!
破裂音のような衝撃音を受けたソレは、非常に小さな影だった。しかし、災害を受け止めて魅せたその盾はひしゃげ、曲がり、本人も血を吐く…
「ッぐ…大いなる者よ、我が名を知れ!」
門から出てきて僅か数秒、たった一撃を受けただけでズタボロの身体…しかし、その声は驚くほどに周囲に響く─
二撃目を放とうとしていた竜すらも一瞬動きを止めるほどに…
「クラス4冒険者ッ!【鉄絶】シルト!!」
総ての注目を集め、ドラゴンの視線すらも奪った【鉄絶】を名乗る冒険者は、長大盾を砂原へと突き刺し、次の衝撃に備え…もう一度息を深く吸い込む…
「ッおい、死ぬぞ!!!」
「我は、邪悪なる竜より都市を護った英雄として!!墓標に名を刻まれよう!!貴様は、我が踏み台に過ぎん!!─スキル《要塞》ッ!!!」
長大盾の周囲に、更に盾のような形状の結界が計3つ…何者も通さない鉄壁の防御!それは【鉄絶】の二つ名を名乗った冒険者、シルトの意思の現れであり、深く、腰を落として衝撃を受けるその時を─
─
現実は無情だ。
吹き飛ばされ、潰れ、後に残るのは…細かくなった肉と血片……耐えきれなくなった鎧は潰れ、その中から破裂し、細かくなった身体が飛び出た
真っ赤な粉のように舞うそれは、ドラゴンの巨体からすれば微々たる物であり、蚊を潰した程度の物でしか無い。
しかし、ソレは確かに有った。存在した一人の人間だったのだ。
『…小さな虫と変わらんな』
「ッ…」
戦闘ですら無い…一撃を持ってした単なる粉砕。
アルカナムでも死体は見た。しかしそれは、直接眼の前で死んだ姿を見たわけじゃ無い…。こんな…こんな無情に…無価値に…何もできず死ぬ姿を…いや、
「勇敢な死を見るのは初めてか、少年!」
凛々しい声を発したのは、いつの間にか隣に居た青年。
その手に持つのは剣では無い…それは杖である。
「だが、彼のおかげで一時は稼いだ…ッ!」
それが事実。いつ破られるかも判らない結界を守り、再び魔力波動を放つ事を防ぎ、彼らが動ける時間を稼いだ。
展開されるのは無数の魔法。
火の塊、あるいは氷の柱…風の槍、鋭く尖った岩塊…
「僕ら冒険者は、常に一時の安寧を…世界平和なんかじゃ無い平穏を守るために、命を懸けている!全員、英雄となる用意は良いか!!」
─オォッ!!
青年の呼び掛けに呼応したのはいつの間にか城壁に並ぶ冒険者、その数は総勢100を超えそれら全てが咆哮した。
そして、覚悟を決めたのは冒険者だけでは無い─凸塔の固定射弓がドラゴンの巨体へと牙を剥く!青年は全員に見えるようにその腕を上げ、杖を構える…。
─そして
「ッ放て!!!!」 『忌々しい…結界ごと喰い破るッ!!!』
ッッッッッ!!!!
核のような閃光は、砂漠の砂を吹き飛ばし、消し飛ばし、赤熱化し、ガラス化させ、直後には凍てつき、再び砕ける!絶大な威力を誇る故に、二度とは出せない超火力!
ドラゴンの鱗が吹き飛び、血が蒸発し、牙と爪をへし折る…!
爆風が地平を駆け、遥か遠くの大地が揺れる…
しかし、そんな中でも…確かに動く影が有った…
「ッ化け物が…」
『この程度で…我は死なん…死ねぬのだ。』
鱗が剥がれ皮膚が溶け、一部骨を露出させながらも…それでもそれは確かな足取りで動いていた。そして、ここでようやく理解する…。
ドラゴンの身体から漏れるドス黒い血液…それはまともな存在には決して流れてなどいない物だ。
「なる、ほど…。」
青年はチラリと横を窺う……
そして、少しの安堵のため息と共に最期を見送った。
大きく翼を拡げた怒れる竜が放つのは、黒い瘴気を纏った砂嵐…いや、渦を巻き、砂漠の砂を巻き込む槍とでも言うべきだろうか…それが城壁を囲む結界へと向く。
全員が最大の一撃を叩き込み、もはや殆どの者が動けない…。動ける者は結界を貼り、なんとか身を守ろうと必死に─
あまりにも呆気なく…ひと呼吸の間に結界が砕け散る…それはこの都市に置いて、過去に一度も無かった大災害。城壁全体が揺れる…そして多くの者は気付くのだ。都市の終わりを…城壁の崩壊を。
「…自分が不甲斐ない。」
両脇に荷物のように抱えられ、アーディは思わずそう呟く。
『四番目の剣』のメンバーに、魔法使いは存在しない。あの場に居ても何も出来なかっただろうし、ここは避難するのが無難だ。
魔力波動に当てられ、動くことすら出来なかった…。子供の頃に聞いた英雄譚…そんな夢物語を名前にしているパーティーにとって、現実とぶつかる事は良くある。
「いや、リーダー…悪いけど俺は下りるぜ。」
だから、ガヘルの言葉は仕方ない…。誰もが化け物のような竜を見て闘志を滾らせられるわけでも無い。
「……ヤクも、同じか?」
少しの間を置いてから、ヤクはハッキリと言葉を発した
「すまぬ…リーダー。」
ヤクに抱えられながら南門から逃走し、パーティーメンバーの内二人がこの戦いを辞退した。
だから、アーディはどこか安堵しながら…
「……俺も、英雄じゃ無い。」
小さく零した言葉…それは誰もが思っている事だ。自分は英雄では無い…。いざという時に命を懸けられない…。どこまでも凡人であり、どこにでも居る普通の冒険者。
まぁ、そんなものだろう。
アルカナムを離れ、国からの保護を外れたので南に危機が迫ってようやく国を守る騎士では無く、依頼を受けて個人や町を化け物の脅威から守るという冒険者の描写をしっかりと書けます。
修正
生きている者には流れないドス黒い血液
↓
まともな存在には流れないドス黒い血液




