25 竜 3
あけましておめでとうございまドラゴン
「うぅ…本当にごめん……。反省するから許してよ〜。」
「はぁ…ったく気が狂うな。」
血の気が多い冒険者にとって、素直に謝る姿も、半泣きになりながらペコペコする姿もあまり見慣れた物では無い。それが自分の歳より幼い姿の少女ともなればなおさらだ。
とはいえそれに嗜虐心を刺激される者も居るかも知れない……ここには居ないけどね。さて、
「道は俺が直した、このくらいで良いんじゃ無いですかね?」
「…まぁ、そこは不問にするとしよう。幸いな事に怪我をする者は居なかったからな。」
「え、いいの?ラッキー!」
衛兵からの確認も取り、まぁずいぶんと調子の良いキアラは無事釈放と─
「しかし、その前に聞かねばならぬ事がある。」
さっきまでの反省はどこへやらな逃げるキアラの肩を衛兵がガッシリと掴む。
「…貴様、城壁の上で何をしていたのだ?」
「……えー、えーナンノコトカナ〜?」
とてつもなく分かりやすい大量の汗を流しながら、あさっての方を向いてカタコトで喋る…まぁ、何をしてたのかなんて誰でも分かる。俺達もしようとしてた事と同じだろう。
しかしここを通らずどうやって上まで……いや、この世界で地球人の常識を持ち出しても無駄だな。異世界人は鍛えれば全員サ●ヤ人くらいのパワーは出せると考えて良いかも知れない。現に煉はほぼソレだったからな。
「キアラ、上でなんか見たか?」
「うん、すごい砂嵐と大きな竜巻!」
「貴様!やはり許可を得ず城壁に侵入したな!!」
「…あ」
コントかな?
また衛兵に責められてるキアラはとりあえず無視。
にしても砂嵐と竜巻ねぇ…そんなにヤバそうに聞こえないけども…いや、規模が違うか。もしも1個人…もしくは化け物がその事象を起こしたって言うのならケタが違う。
ガーゼスさん曰くだが天候操作は複数人で行う《魔法儀式》でも難しいらしいからな。
「で、どー思う?」
「んな事、聞かれてもなぁ…俺達もそんな経験あるわけじゃ無えし…。」
『四番目の剣』のメンバー達もなんとも言えない顔をする。砂嵐と竜巻だけじゃ、判らない事が多すぎる。少なくとも俺よりは知識が豊富であろう彼らでさえコレならもうこの話終わりだよ。
もう少し詳しい話を聞こうとキアラの方に意識を向けた時…
「うぅ…でも僕は確かに見たんだよ…竜巻の中にナニカが居るのを─」
「その話」「俺達も聞かせろ。」
「へ?」
「─貴様らまで!」
この際無礼講だ。ここまで来たら骨の髄までしゃぶり尽くす勢いで情報を搾り取ってやるぜ!へへへ…
「─!!」
謎に手をワキワキさせていると、何故か衛兵さんが突然ビシリと姿勢を正した。その視線は俺達の後ろに向けられていて…
何事?
「ほぅ、その話…私も気になるな。是非とも聞かせていただこう。」
いつの間にそこに現れたのか、立っていたのは大男…というわけでも無い。線が細く、さほど筋肉も無い。しかし身に纏う雰囲気が違うのだ。明らかに塵芥の凡人では無い。
ゲームや小説で言うならば、腹黒い内政特化キャラみたいな…?
ってか馬車でか!?…いつあった?え、全然音しないじゃん!!
「ッ!ゼウェル・フェオ・グリムコール伯爵閣下!」
衛兵さんのその言葉で、俺達もビシリと姿勢を正す。
とりあえず何の口上を垂れようかなー、と考えながら伯爵位についてどれくらいの階級だったかを思い出す…。
王侯貴族って言葉があるように、王族と公爵、侯爵は別格の存在と考えて良い。んで、その下に伯爵、子爵、男爵、騎士と続いて……ん?伯爵位ってヤバくね?
俺も衛兵さんに続いてビシリとしようと─
「構わん構わん。冒険者共に口を噤まれても困るからな。…さて、」
ゼウェル伯爵はそこで一度言葉を区切り、
「さて、そこの冒険者、詳しい話を聞きたい。今すぐ話せ。」
「なるほど、砂嵐の奥に巨大な竜巻…、そしてその中にあるナニカか。」
ゼウェル伯爵は顎に手を置き、暫し考えるような仕草をする。緊急時とは言え、単なる一人の冒険者の証言を真に受けてしっかりと思考を回すというのはなかなか出来るものでは無いだろう。
でもこの情報どーすんの?
まず、砂嵐は都市全域を包んでいる。この時点で結局のところ逃場が無いんだよねー。空から出るか地下に潜るか、はたまた転移でどっかに飛ぶか。パッと考えられるのはこの辺?でも空も地下も現実的なわきゃない。
じゃあ転移は?王国でも宮廷魔術師クラスがようやく使える大魔法でっせ?都市住民全員を転移させるなんて無理だろ。いや、ベスティアって魔法大国だしワンチャンある?
「ゴーディス、聞いたな。」
「は、しっかりと。」
「視力に特化したスキルを持った者…冒険者を雇っても構わん。それらにこの場…南門より竜巻の動向を監視させろ。」
「御意に。」
ゼウェル伯爵の背後に控えていた配下っぽい老紳士が静かに頭を下げ、行動に移す。まぁ、視力特化のスキルと言えば珍しくも無いし、すぐ見つかるんじゃ無いかな?
「─あん?」「ん?」「ん〜?」
それは鐘の音だ。激しく何度も何度も鳴らされるそれは…少なくともこの場所…南門では無く、別の門から鳴っている…。
城壁の上を見ればこの場所にも鐘があり、鳴る鐘が意味するところはつまり……
「緊急事態です!」
城壁の凸塔から降りてきた衛兵Bさんが、先程の衛兵Aさんに慌てた様子で報告を─
─ッ!!!
その時、南門でも鐘が鳴った。
「─大量のモンスターが、城壁へと攻めてきました!!」
「何!?」
まぁ…ヤバい事態になったよね。
血の臭いを嗅ぎ、胎動した。
己を蝕んだ忌々しい物の香りだ。
故にそれは歩みを進める…鱗を持つ手脚を動かし、煩わしい砂嵐に小揺るぎともせず、何も無い眼窩に溜まった砂すらものともせず…薄皮だけが張り付いたその異様な肢体を動かす。
動かないハズの生命を動かし…ただ生命への憎しみと、憎悪の念だけで動く。鋭い牙により血肉を引き裂き、その身を赤く染め上げる事だけを願い、望み……
─ドンッ!!!!!
─前線は吹き飛ぶ。宙を舞う化け物の群れの中に、聳え立つのは一本のハルバード…。
ギラリと光るそれが薙ぎ払われると同時に、全てが吹き飛ぶ。肉も臓器も持たないそれの身体は軽く、中身など無いに等しい。
「あっはっはっはぁ〜!!全部吹っ飛んじゃえ!!!」
子供のような無邪気な声で、まぁ〜とんでもない事を仰るものだ。門を開けられないから一人特攻。城壁の上から飛び込んで…モンスターの群れの中に…。
もう、なんかあいつ居たら全部ギャグになるんじゃねーかな。馬鹿みたいに強いし馬鹿みたいに馬鹿だし…。
さて、この視点から分かる通りだが…現在俺達は城壁への侵入が許された。モンスターが攻めてきたのに冒険者に頼らないわけには行かないからね。
「結界様々だな。戦況が良く見える。」
「あと竜巻ってやつもな。」
砂漠を包む砂嵐…本来なら目も開けられない状況だろうが、この結界さえあればなんの心配も要らない。眼球に入ってくる砂粒も気にせず、体力が奪われる心配もせずに静観だけに打ち込める。斥候であるガヘルの言葉にも全面的に同意だ。
ただし例外的な馬鹿も居る。この先すら見えない砂嵐の中、城壁登頂から0秒でそのまま化け物の群れに飛び込んで大暴れ…なんつー話だよ。
「おーい!このモンスター達なんか変だよー!!」
「む…生命を蝕む者の気配がする。」
キアラは最前線だから良く判るだろうが、こっちからもなんとなくは判る。神官であるヤクの言葉は、薄々は感じていた物だ。
明らかにハルバードで吹き飛ばされたやつが、すぐに起き上がってまたキアラへと向かっていく。つまるところ不死のモンスターによる不死の軍勢。完全に誰かの意思が入ってるとしか思えない。
で、その正体が竜巻の中に居るっていうナニカ?
「よく分からんな…。」
そもそも今襲撃する旨味が無い。結界を消さない限りこっちに攻撃は通らないし、こっちから討って出る意味も無いからね…一部例外を除いて。
あるとすればこっちの戦力を削ぐ事…、だとしたらこっちは補給の来ない籠城戦…不利なのはこっちか…。
「まぁ、どっちにせよ今俺に出来る事は無いな…帰るわ。」
膨大な量のモンスターにクラス1の冒険者ができる事なんて無いよ〜。出来たとしても竜巻の監視くらいかな?でもそのあたりは俺なんかより斥候であるガヘルの方が何倍も適任だ。
「む…、」
「おいッ!?」
「あ?…何?」
─ッ!!!!!!!
凄まじい光と爆音が、視界全体を埋め尽く─
「ッふ…」
浅い呼吸で意識を取り戻し、視界から情報を探る…。
幸いなのか砂嵐は晴れており、敵が潜伏していると思われる砂を巻き上げる竜巻も健在…
『固い、な?』
息が掛かりそうな程の至近距離で、それは聴こえた……。
両手ですら抱えきれない程の巨大な瞳…その身体には無数の鱗が生え揃って……
『何かしらの…結界…か』
一瞬で全身が粟立つ…それは死の恐怖を前にした本能的な鳥肌。アルカナムで自らの腕を奪ったあれは、単なる蜥蜴でしか無かったのだと本能的に理解する…。
「ッ…」
結界という盾を隔ててですら息が出来ない…恐怖で意識を刈り取られそうになる…、これが…これこそが…
ファンタジーにおける定番であり、最強の存在。
─ドラゴンだ。
辰年ですしね。ドラゴン初登場です。




