21 竜の信者と溜まる水
時間が取れなくて走り書きみたいになってる…いつか致命的ミスをしそうで怖い。
「ごめんなさい今はマ……シスターは出掛けてるから少し待ってて下さい。」
「別にいいぞ。突然来たのは俺たちだし。」
「お姉さんもごめんなさい…わ、私…慌てちゃって」
「いえ、扉の前に立ってた私が悪いです。」
鼻を抑えながらウルナが呟く…。ぶっちゃけ俺も内開きだと思ってた。なんか知らないけど、教会とかの扉って内開きのイメージがある。勝手なイメージだけど。
「…俺は神様について詳しく無いんだが…ここは何の神の教会なんだ?」
「はい、ここは竜祖信仰の教会です。」
竜祖…っていうと…なんだ?全部のドラゴンの祖先みたいな?くそ強そうだなそれ。
「力無きを救わず、己を高め、竜へと至ろうとする者に力を与えるとされる竜神です。」
「へー。なるほど。」
神様といえば祈れば救ってくれるみたいな感じかと思ったら、そうでも無いんだな。力が無いと嘆いてる奴らを蹴落として努力してる奴らを救う神様。現実的って感じだな。
「だから、私達もただ与えられた状況に甘んじるんじゃ無くて、自分をもっと高めないといけないんです!」
おぉ…熱血漫画の主人公みたいな事言ってるけどめちゃくちゃ正しいし現実的だぁ…そしてその言葉が俺にめちゃくちゃに突き刺さる!!
「そういえば、まだ自己紹介もしてなかったな…。俺は南で、こっちはウルナだ。」
「はい、私は孤児のクルエです。」
孤児か。でも明るいし、信仰的にも将来に悲観もしてなさそうだし。この教会は良い場所なんだろうな。
─ギィ
「買い出しから帰りましたよー、みんなー。」
「あ、マま……シスター!」
と、そこにやってきたのはクルエにママと呼ばれる存在。シスターっぽい服を着ている…という訳では無いどちらかと言えば巫女服に近い物を身に纏った女性。
「おや、お客様ですか…?」
「どうも、冒険者の南です。依頼を受けて来ました。」
「あら、そうでしたか…ありがとうございます。」
丁寧なお辞儀をした女性は、左右で色の違う瞳をこちらに向ける。左は黒、右は黄金。この世界で結構色んな人に会ったが、オッドアイは初めて見る。ファンタジーならいっぱい居ると思ったんだけど、そうでも無いらしい。
「では冒険者様、早速ですが依頼内容についてお話しましょうか。」
「まず、私はこの教会で修道女をしています。リーア・ドラウ・リトリアと申します。」
「リーアさんですね。改めて、私は冒険者のミナミ。こちらは私の侍女のウルナです。まず、依頼内容について詳しいお話を伺えますか。」
「ふふ…そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。さて、では依頼内容についてですね。」
さて、わざわざ教会から来るような依頼の内容ってなんだろうな?なんか…なんとも言えないけど凄そうな感じが…
「あ、全然大した事は無いので、あまり気負わないで下さいね?」
「では、どんな物なんです?正直言うと、俺はあまり凄い魔法は使えないのですが。」
リーアさんは小さな竜の神像がある教卓を見ながら答える…
「実際に、付いてきていただいた方が早いかも知れません。」
古教会の地下に続く階段…。
リーアさんの持つランタンだけが頼りになるような薄暗い空間は、なんというか…神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「天井があまり高くないので、頭をぶつけないようにして下さいね。」
「あでっ」「痛ッ」
注意を受けた先からウルナと二人して頭をぶつけた。本当に狭い空間らしい。
─ちゃぽ…
「水…?」
階段の途中から、大量の水によって完全に浸水している。階段はまだ十段以上ありそうだが、これ以上降りると足も着かなくなるだろう。
「…ご覧の通り、この場所は水で満たされています。南様には…この場所の水を抜いていただきたいのです。」
「…この水は?」
「…大昔…私がここに来る前に、この地に大雨が降った時があったそうです。その時、この地下にも大量の水が入り込みました。」
砂漠に大雨…異常気象だな。
「この先は、本来であれば竜祖様に祈りを捧げるはずの場所でした。……改めて依頼します。南様、この場所に再び、過去の姿を取り戻して欲しいのです。」
「受けて良かったんですか?」
「…まぁ、確かに対価に見合ってないけどもな。」
報酬は、教会らしく雀の涙ほど。そりゃ誰も受けないだろう。でも、俺なら終わらせられる。
「収納は無理だが…《圧縮》」
─
全ての水を、となると魔力的に怪しいため、10回程に分けて行う事にする。《圧縮》のスキルは魔力馬鹿喰いするせいでそんなに頻繁には使えないんだ。
だが、今、俺の掌の上に浮かんでいるのは、先程まで地下を埋め尽くしていた水の内、25mプールの半分とかそれくらいの量だろうか?それが重さそのままで1箇所に圧縮されている。質量とかその他物理法則に完全に反しているこの現象だが、異世界では有り得てしまう。あとは水魔法で操ってしまえば、俺の思いのままって訳だ。
「しかし…俺が思ってたよりも魔力喰うな…今日中には終わらないか。」
「いや、それでも十分に凄い効率ですから…。」
「…んじゃ、もう一回、《圧縮》。」
驚異的な速度で行われる水抜きだが、それでも5日は要する。それほどまでに、この古教会の地下は深いのだ。
「ねーちゃんこっちで遊んでよ!」
「え、あ…ち、ちょっと待って…。」
俺が仕事をしている間、孤児院としても運営している教会で、ウルナは子供たちの遊び相手になっている。まぁ、正直俺の隣に居ても暇だろうし、見た目的に幼いウルナは、俺みたいなやつよりは子供たちにとっては丁度いい遊び相手だろう。
「さて、今日はここまでか。」
俺の手の中には、圧縮された水の球体が3つ。長年放置されていた故に、衛生面は大問題だし、そこら辺に流す事も出来ない。いちいち都市の隅の方まで行って棄てる必要があるのが、この依頼で一番面倒なところだ。
「む?」
地下から階段を上がってきた時、口元を布で隠した老人と、リーアさんが話している所に出くわした。
「…貴殿は?」
「その方は、例の依頼で来てくださっている冒険者の南様です。」
「どうも、南です。えーと…」
「我は、竜祖を奉る者の一人…【竜の手】アグニリ・ヘイグ。貴殿の事は、話に聞いている。無論、貴殿が竜祖を奉る者で無かろうとも、我らに手を差し伸べたことは、我らが竜の祖も知る事であろう。貴殿に、竜への路が開かれる事を願う。」
んー、まぁ、異世界宗教なんてこんなもんか。めちゃくちゃに厨二病ヒャッハーしてるなぁ…。口を布で隠すのは、まぁなんか見たことあるし、砂漠に似合ってるけど…。
「さて、我はそろそろ戻るとしよう。…リーア女史、貴殿は間違いなく、竜へと近付いているハズだ。望みが叶う日も近いだろう。」
「はい、ヘイグ様、感謝します。」
立ち上がり、足早に出ていく老人アグニリの口の布が、一瞬捲れる…それは、真横に居た俺しか分からない事だろう。無理矢理裂いたような痛々しい口が、そこに隠されていた。
竜のように裂けた口は、竜を奉る者としては正しい姿なのか…いや、竜祖の教えは、己を高める者…竜へと至ろうとする者たちのための教えだ。ならば、己の姿から竜に似せ、その力を真に得ようとするその姿勢は、間違い無いのかも知れない…。
「いやぁ…分からんわ…。」
少なくとも、それは俺には理解出来ない事だった。
場所は変わり、薄暗い闇がどこまでも続く空間。腕を伸ばせど、伸ばした先から闇に呑まれ、完全に見えなくなる程の暗闇に、一人の青年が立っていた。
「ここが、試練の場でございます。勇者様。」
世界を救い、圧倒的強さを誇る勇者という存在。しかしそれは、勇者だから強いというだけでは無く、常に己を鍛え上げ、高みを目指してきたからに他ならない。
伝承にのみ伝わっている眉唾物の試練の数々は、事実として勇者としての潜在能力を高めるに値する物だ。
─!
大きな音と共に背後の扉は閉ざされ、扉の先から漏れ、僅かに周囲を照らしていた明かりすら完全に消える。
己の姿すら視認出来ない空間で、優輝は眼を瞑り、思考する。試練の内容…突破の方法…。
「ッ…、」
僅かに過ったのは、謎の記憶。
それは、黒い靄の掛かった何かが、叫びながら自分から逃げる姿…。自分はそれに向けて殺意を向け、聖剣の力を使う。
最近よく見る夢の内容だ。その黒い靄の相手が誰なのか、まだ判らない…でも、知るのが、嫌な自分が居る。
「ぁ…」
『貴様が、勇者か?』
「!」
眼の前に、巨大なナニカが居ることに気付く。それの全貌は掴めないが、こちらを向く相貌だけがギラリと輝く。
『我は【観察者】。貴様に、試練を与えよう。』
暗闇の中、試練は始まる。何も精算出来ない弱者のままで…。
竜祖信仰は、竜公国の『竜の子』が派生した宗教なので別物です。『竜の子』は竜を信仰し、神として崇めているだけですが、竜祖信仰は、己を竜へと近づけようとする信仰です。
竜に従う者と、竜に憧れる者と、で別れた感じです。
ぶっちゃけ殆ど変わらない。




