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19 ハロー魔法大国

少し頭の中で色々整理してたら時間掛かりました。

「今日はこの辺りで野営にするぞ。寒くなると、地蜥蜴の動きも悪くなるし、疲れちゃうからさ。」


「おっけーい。夜の番は僕に任せてくれい!誰が来ようと守ってやるぜぃ」


本当に信用しても良いのかどうかとは思うが…まぁ持ち手まで金属で出来たハルバードを軽々と背負っているのを見るに、少なくとも俺よりは強いだろう。


テキパキとテントを張るノルアさんの事を手伝い、俺も自分に出来ることをする。とはいえ大した事は出来ない。まぁ、せいぜい《錬成(アルケミー)》を使って竜車の修理をするくらいか。


「ほぉ、なかなか便利な能力みてえだな。」


「まぁ、俺にはこれくらいしか出来ませんけどね。」


使えるスキルが実際《錬成(アルケミー)》くらいだしな…《唯一の収納(ワン・ストレージ)》は今使えないし、使った所で意味ないし。


「いやいや、俺のは旅にも商人にも向かねえからよ。そういう事がちまちまでも出来れば役に立つと思ってよ。」


「じゃあ、俺は便利屋にでもなりますかね。あ、水とか要ります?水なら魔法でいくらでも…」


そう言って手のひらに水の球体を出した俺を見て、ノルアさんの目の色が変わる。


「あんた「えー!南くん水魔法が使えるの!!?」


「ん、おぅ…そうだけど?」


「フッフッフ…南くん、ここがどこか忘れてるようだね…。」


いや…砂漠のど真ん中だろ。強いて言うならベスティア王国国内…………あ。


「俺自身がオアシスっつーことか!」


砂漠じゃ水は希少!当然の常識だ。アルカナムじゃ特に不便さを感じなかったし、水魔法は微妙とかって言われてたからそんな考えが無かった!


「え?…あー、うん。そんな感じかな。」


「じゃあ、砂漠の商人じゃ水魔法必須じゃないか?二人のどっちかが使えるとか?」


「いや、俺も嬢ちゃんも使えねえ。ってか魔法を使えるって時点でそれが才能だからな。俺は魔法は何一つ使えねえし、大抵の商人は魔法道具でどうにかするもんだ。」


「ま、この人その魔法道具を買うお金無くて竜車にたっくさん水積んでどうにかしてるんだけどね〜。」


「っそぉおなんだよ!!ッ…もっと早くお前を拾っとけば良かったよ!!!」


ほーん、まぁ…確かに俺も召喚チートがあるし、一応俺も特別って訳か。魔法とかスキルとかが当たり前な世界だからこそ、魔法が使えないと不便だな。出先で簡単に飲み物が買えてしまう自販機なんて無いし、自動車みたいな便利な物も無い。


「ま、結局水は生きるのには必要だしな。こんだけ積荷を圧迫させても、マイナスにならないだけは稼げてるんだから、ベスティア王国様々だよ。」


「そういえば、売り物は何なんだ?まぁ、色々あるんだろうが…。」


ぱっと見でも1/3は水を積んであるが、その他は何なんだろうか?砂漠で高く売れるもの…もはや水も商品みたいなもんなんだろうか?


「植物製の布だったり、乾燥させた薬草だったり、殆どは植物だな。ベスティアじゃあ、魔法を使っても植物なんざ殆ど育たねえ。だから酪農も無理だし、薬草も育たねえ。にも関わらず、砂漠のモンスターは凶悪だ。必然的にポーションの材料は高くなるし、必須になる。」


「一番嬉しいのは国自体が、ポーションの材料を積極的に買い取ってるってトコだな。だから値段が上がる事はあっても、一定以上は絶対下がらねえ。確実に儲けが出せるって寸法だ。」


なるほど…マジで納得な理由だな。そりゃ砂漠で農業とか無理だろ。植物製品、ポーション材料、それは高く売れる。人が住める環境じゃ無いからこそ、人の生活に必要な物がある。


「むしろ…水は売れないのか?」


「いや、それは俺も最初は思ってたんだよ。でもなぁ………」



「ベスティアは魔法大国ですからね、水はまず売れませんよ。」


陽が傾き始めた頃、ウルナが右の手のひらに光源となる火の玉を出しながら言った。


「魔法大国?」


いや…確かにそんな感じの話を本かなんかで見たな…。


「そっちの嬢ちゃんに言われちまったが、そういうこった。水が無いからこそ、ベスティアでは水魔法の使い手を育成してる。水魔法が使えるってだけで将来安泰な国だ。その上その水を有効活用しようって事で他の属性魔法も開拓されてった。その結果が今のベスティア。世界最強の魔法大国だよ。…まぁ、旅の吟遊詩人からの又聞きだからマジかはわかんないけどな。」



「へー。」



さて、納得した。それは凄えわ。

でもそれよりも言いたいことが出来てしまった。


「え?ウルナそんな事出来たっけ?」


「はい。私、一応は精霊術師(エレメンタリスト)なので。」


いや…王城でもやってたわ。あれってそういう事だったのか?

そもそもウルナの家系が確か精霊術師を排出しまくってるんだっけ?


「おー、明るい。いいねウルナちゃん!」


「取り敢えず一晩中は出しておきますね。『******…』」


その後も少し談笑し、予備の寝床で俺たちは眠りに着いた。













「ふむ、異常無し。」


ふざけた態度と良く言われるが、キアラは高位の冒険者だ。

一晩中の寝ずの番も、容易にこなせる。


「こっちも異常無しっと。」


だからこそ、キアラは警戒を更に強めていた。負けるつもりなど微塵も無いが、寝ずの番は少なくとも疲労する。そこを突かれれば雇い主であるノルアを危険に晒す可能性があるためだ。

そして、未だにキアラは突然の客人たる南たちを信用していない。一見無害を装っているが、少なくとも魔法を使えるという時点で何をするか判らない(魔法の力)という危険。

そして冒険者として広い見聞を持つ己でさえ、あまり知識の無い精霊術師(エレメンタリスト)の存在。


「今のところ動きは無いけどね。……油断はしないよ。」



その中、キアラの索敵に何かが引っかかる。


「土の中を動いてる…?」


砂潜虫(サンドワーム)で確定、だろ……。」


「─!」


それは眠そうな声で、ゆらりと起き上がる南から掛けられた言葉だ。そして、その言葉は当たり。砂漠たるベスティアでは普遍的なモンスターであり、砂に潜みつつ獲物を狙う砂漠の殺し屋。

熟練した旅団であろうとも、真下から攻められれば半壊しかねない恐ろしい化け物。


「あ、戦力は期待しないでくれ、サポートはするからさ。」


南が砂に手を置く…ただソレだけ…しかし効果は絶大だ。


─キシャァァア!!


飛び上がるように砂から出てきた砂潜虫(サンドワーム)…それは本来あり得ない事象。このモンスターとて馬鹿では無い。敵地たる砂上に出てくるのは、確実に相手を殺す時…その常識が覆された。


「ふ!」


─斬!


凄まじい速度で振り抜かれたハルバードは、砂潜虫(サンドワーム)の長い胴を簡単に斬り断つ─!もともと、砂の中からの襲撃にさえ気を付ければ装甲も無く、肉質も柔らかい存在だ。有利(アドバンテージ)さえ無くなれば容易に勝てる。


べしゃりと地に落ちたソレは、受け入れ難い死を前にしてその身体をくねらせる。


「…あれ?」


キアラが異様に感じたのは、その死体の事では無い。むしろその下、砂である。砂埃など何も無い。一切砂が舞っていないのだ。…いや、砂自体が強固に固められている。


「ふーん、そりゃ、砂の中に居られないワケだ。」


「そゆこと。じゃ、俺…寝る。また、なんかあったら…起きる。明日は…俺が、寝ずの番……するから……今は…寝かせて。」


バタリと倒れるように眠った南……


「ふ〜ん、良いじゃん?かっこいいじゃん?」


キアラからの心象は、ほんの少し良くなった。














「そろそろ見えてくるぞ。」


その言葉で、俺は半分ほど寝ていた頭を起こす。

昨日は宣言通りに寝ずの番をしてたせいで、今すぐにでもあっちの世界に行きそうだ。でも…そんな物は、一瞬で吹き飛んだ。



「うわ…。」



それは、あまりにも巨大な建造物だ。

アルカナム同様、モンスターの襲撃を防ぐための分厚い壁。しかしそれだけでは無く、その白亜の壁を異様な動きで流れる…滝とは真逆の動きをする水流が、人工的な水路を征く。

壁の外にも形成される水路は、まるで魔法陣のように一定の法則に基づいた幾何学模様に思える。いや、本当に魔法陣である可能性すらある。


白い壁。ただし白いだけでは無い…明らかに魔法的な力を宿したソレに、俺も、もちろんウルナも息を呑む。


「はは、俺も初めて見たときはあんたらみたいに驚いたもんだ。…ベスティアの商いの最前線。『商業都市』フォレスティアようやく到着だぜ?」


俺は世界最強の魔法大国。その一端を、まざまざと見せつけられた。

ベスティア王国、その最も東に位置するのが商業都市フォレスティア。『商業都市』と名が付く都市は、商人が快適に過ごせるようにと、代々開発が進められた結果どんどんどんどん豪華な見た目になって行き、今の形になった。当然のように水路は魔法陣であり、アルカナムのヘイベルも開発に協力した。凹凸の無い広い領土を持つベスティア独自の技術と言える。

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