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17 被害者たちのエピローグ

この章自体はまだ終わりませんが、アルカナム王国編のエピローグということで。

「は……」


痺れたみたいに動かない舌…重たい身体にジクジクと痛む腕。

わけもなく胸中にある喪失感は、何に対しての物だろうか……。


「……お目覚めですか、団長。」


酷く優しげな声が掛けられる…でも、それは望んでいた人物からの声では無い。


「ロックスか……今、私はどう…なっている?」


「切断された腕はくっつきましたよ。暫くは違和感が残ると思いますけど、騎士への復帰は多分可能です。……勇者の一人、篠原様の御力だそうです。」


そうか……そうだった。


「……第一騎士団の内、城内で警備を行っていた者は団長と私以外は死亡、もしくは復帰困難。副団長であるアンバーさんも、死亡しました。」


深く沈んだ声なのは、慕っていた者を喪った悲しみからだろう。騎士の模範として部下たちに多くを遺した男は、前線に出ればその巨大な背の後ろに仲間を隠し、後衛では指揮能力をいかんなく発揮した。


「辛い報告をさせたな…すまない。」


もし、早々にジャックを倒し、他の騎士の下へと助けに向かえば、助かった命もあったかも知れない。少なくとも、私は…何もできずに負けたんだ。


「いえ……大丈夫です。」



「……ロックス…私は………、」



思わず吐き出しそうになった弱音を、飲み込む……。

騎士の証たる、剣を振るう腕を無くし、友へと死を贈る事も出来ず、それでも……


騎士はずっと……私と、あいつの憧れだったんだから。


「…ジャックの分まで、騎士団を率いる。」


やつの分まで……この先も。























「はぁ…、全く、僕が居ながらここまでの大敗とは…自分の力不足を悔やむばかりですよ。」


崩れ落ちた城の瓦礫を踏みながら、そんな独り言を溢す。普段着けている兜を脱ぎ捨て、縦に割れたような瞳孔を持つ瞳で周囲を見るのは、竜騎士であるリウである。


既に城内に入り込んだモンスターは殲滅が確認され、危険度はかなり低いものの、ここまで荒れ果てた城を見るとさすがに無事だとは言えないだろう。


腐骸の竜(ドラゴンゾンビ)に時間を掛けすぎた結果、魔王の逃走を赦し、勇者1名が行方不明。なんとか間に合い、セシルだけは死なずに済んだは良いが、これから調査を行えば、更に問題も出てくるだろう。



「結局、僕は守れなかったわけだ。」


行方不明の勇者とは、最弱のレッテルを貼られながらも、鍛錬は欠かすことの無かったという小鳥遊南という少女。一度だけ話したが…かなり印象に残っている。


「望み………。」


しかしそれは泡沫の中へと消え去った。行方不明とは言っているが、恐らく化け物共の腹の中だろう。


「もう…忘れろ。終わった事だ。」



胸の中にジクジクと残るのは、もう戻らない後悔。



『白く、儚い乙女の…血のように紅く染まった瞳に…貴方の望みは映っています。』


竜の印を持つ白い衣に身を包んだ少女の言葉が、脳の奥底より蘇る……。


「…僕の…望みは…………」



だが、ようやく得た細い糸は…ちぎれて消えた。








「…第一騎士団、第二騎士団、王城守護に当たっていた者の内死者193名。重傷113名。軽症30名。判別不可12名。内、第一騎士団副団長ジャック・アンバー氏の死亡。」


「王城付きメイド死者121名。重傷107名。軽傷21名。判別不可42名。内、メイド頭レキ・ロッスタン氏の死亡。」


「宮廷魔術師死者9名。重傷3名。判別不可9名。内、宮廷魔術師長ヘイベル・マナ・ルナイジェロ氏重傷。」


次々と読み上げられるそれらを、虚ろな瞳で聞く…。

1週間ほど、一切休み無く働いている上、このような報告を聞きどうすれば良いと言うのだろうか?3日寝ていない頭脳で、これによる損失を計算していく…。

特に痛いのはやはり重要な役職に就いていた人物の損失だ。騎士団の副団長などは、団長が死亡した後のスペアの意味合いが強いと思われているが、その実団長一人を頭に立てず、その団の指揮塔を増やすことが必要なのだ。実際、過去に騎士団の指揮をたった一人にやらせて馬鹿みたいな命令が下されていた事があった。机上での戦闘しか知らぬ者にも、戦争しか知らぬ者にも、騎士団の頭は任せられない。


「…ヘイベルは…死亡だったか?」


「いえ、ヘイベル殿は重傷です。勇者様の治癒の魔法によって一命を取り留め、現在は意識もハッキリしておられるそうです。」


「…そうか。」


しかし、元々少数精鋭である宮廷魔術師達がここまでボロボロにされたのは大きな損失だ。107名しか居ない彼らの内約20名…


後続が育つまでどれだけ掛かるか…。


「殿下!!」


「何事だ?」


「ッ非常に重要なご報告です。」


「宝物庫から剣が1本消えた話ならば聞いたぞ?……それ以外だな?」


汗だくの文官の顔は真剣そのものだ。…本来であれば、王族の部屋に挨拶も無しに入ってきた事を咎めるべきだろう。とはいえ事が事だ。リアムは話を続けるように合図を出す。


「先程、不明となっていた勇者様…小鳥遊南様の─」


「何、発見されたか!?」




「……いえ、……左腕の一部が発見されました。」



















「ッ…は。」


ぐしゃぐしゃの髪を更に掻き毟りながら、悠真はその報告を聞いた。それは一種の絶望に、更に絶望を混ぜる物。怒ればいいのか、悲しめばいいのか……どこにもぶつけようのない感情が、乾いたため息になって漏れただけ。



「…城内全てを捜索し…現在に至るまで発見されているのは…」


「瓦礫に潰された左腕1本か?」



「…はい。」


申し訳無さそうに同意したその騎士に、非は無いのだろう。しかし、一国家として広く見ればどうだろう?俺たちの生活を保証するなどと宣っておきながら、こっちが何人怪我したと思ってる?挙句の果てに、南は左腕以外見つからない……いや、



「化け物に、跡形もなく食われたんだろォよ。」



そもそも、腕を失った時の出血量がどれくらいか、そしてほとんど戦えない南がその状態で戦場に放り出されて生きてる確率なんざほぼ無いだろ。


「クソが………」


本当に、クソな世界だ。


「─ざけんなッ!!勝手に喚び出したのはてめぇ等だろォが!!」


死んだ人間は生き返らない。それは化け物みたいな回復力を持つ篠原の治癒魔法でも同じだ。だが、まさか死体すら見つからないとは思わなかった。


「………なんでだよ。」


乾いた呟きは、心の底から出た疑問だった。

なんで、自分たちがこんな目に合わなきゃいけないんだ、と。





















「〜♪」


馬車では無く、モンスターである地蜥蜴(リザード)が引く竜車に乗り、悠々自適な旅…に、見えるだろうけどこれもお仕事の内。

モンスター退治を主とする何でも屋たる冒険者のお仕事のひとつ護衛依頼。普通はパーティーで受注するものだが、高位の冒険者ともなると単独(ソロ)で受ける場合もある。今回はその例だ。


「嬢ちゃん、鼻歌もいいけどよ、ちゃんと護衛の仕事はしてくれよな?」


「もちろんですとも。クラス5認定の実力舐めないでよね!ちなみに200mくらい先に砂潜蟲(サンドワーム)5匹居るので、迂回したほうが良いですよ。」


「…あいよ。」


依頼人である商人の青年は、手綱を操り、地蜥蜴(リザード)の動きを変える。


「むむ?ちょっと待ってね〜」


「…あん?今度はなんだよ?」


冒険者の少女は御者の隣からひょっこりと顔を出す。


「ほら、あれあれ!」


「ん…?」


少女が指指した先に、なにかの影が見えた。こんな砂漠地帯のど真ん中…それが人影だとすれば正気では無い。いや…しかしそれは見れば見るほど人である。


「倒れてるのは…男の子一人、女の子一人…どっちも若いね〜しかもほぼ丸腰じゃん。あれで砂漠超えしようとしたとか?愛の逃避行みたいな?え、待って凄いロマンチックじゃん!」


「…あんた、よくそこまで見えるな…こっちはなんとなく影が見えるな、ってくらいなのによ。」


男はやれやれといった様子で手綱をきる。

商人として、なんの得になるわけでも無い。とはいえそれは普通の人間の考えである。元々孤児だったその男にとって、困っているであろう人間を見過ごすという選択肢は無い。


「さて、……将来のお客様を迎えに行きますか。」


急ぎでも無いし、ある程度余裕を持って予定を組んでる。ここで見捨ててあとから胸糞悪いよりは全然良いだろう。


「君は良い商人だね〜。多分大成するよ。」


「そりゃどうも。」


軽く顔を赤らめながら、真横に少女が居るという事実を噛み締めながら、『善行を魅せる!』ために彼は行くのだ。あわよくばあとで褒められるために!

ちなみに03で出てきた地味眼鏡っ娘宮廷魔術師のメロさんも死亡してます。

セシル団長の戦いは、セシルボロ負けで終わり。ぐちゃぐちゃの感情のせいで精霊への命令をまともに下せず、右腕を完全に切り落とされた所で腐骸の竜をどうにか倒したリウが来て、デュラハンジャックを一撃で斬り伏せました。

今回でアルカナム王国編は終わりです。

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