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15 王国動乱 3

ようやく書けました。いつもより少し長めです。

息を殺し、気配を殺し、それでも尚恐怖によって震えた声が漏れるのは仕方の無い事だろう。常に完璧を、美しい姿勢をと、あらゆるを求められる王城仕えのメイドであっても、それは変わらない。《錬成》によって壁の中を歩く俺たちは、2人とも無力な少女である。


だから俺は、今も泣きたいくらい痛くても我慢する。取り敢えず今は耐えろ。何か楽しいことを思いだそう。


んー、確か家の冷蔵庫にアイスとプリンが冷やしてあったハズだ。学校から帰ったら食べようと思って取って置いた……もう帰れないのかぁ……今度こっちの素材でプリン作るか。

割と美味しいんじゃないかなー?


……いや、家に帰れない悲しさとプリンもアイスも食べれない悲しさのダブルパンチによる相乗効果でダメージ倍増したわ。屈みすぎて腰も痛いし……


「ってかこれどこ行けば良いんだ?」


誰かしらと合流するつもりで飛び出してきたはいいものの、状況が状況だし、皆もう城の外に逃げてるんじゃ無いか__



─ドォン!!!!



「は?」


凄まじい勢いで壁に激突し、突き破ったそれは俺たちに血肉を撒き散らした。

もはや原型すら分からないものの、それは恐らくヒトだったのだろう。

崩れた木片が肉を突き破り貫通し、膨大な血を溢れさせる……骨が露出し、臓物が破れて中身が凄まじい臭気を放つ。

そんな肉塊の眼窩から零れ落ちた瞳と目が合った…


「ぅ…」


「いやぁぁあぁ!!!」


ウルナの悲鳴の直後、俺たちの頭上を何かが掠める__


一拍置いた破裂音のような物は、壁が吹き飛ばされた音。壁の中を進む俺たちの身体は…その脅威に生身を晒す。



無数の瞳を持ったくらげのような化け物は、脳のような頭部から飛び出した触手をこちらに伸ばし__


「__〈遮視の霧ブラインドネス・ミスト〉!」


俺の手のひらから爆発的に膨張した黒い霧は、くらげの化け物を包み込む。

文字通り遮視(ブラインドネス)の効果を持った霧であり、水属性魔法である(ミスト)との組み合わせ技。それを受け、伸ばされた触手は動きを鈍らせる。

いっぱい眼があるし効くだろうと思ってたら案の定だ。


「ほらウルナ、逃げるぞ。」


「は、いっ!?」


ウルナを持ち上げ、さっさとその場を離れてしまう。いやいや…さすがにあれはグロい。俺は悲鳴じゃなくてゲロ吐きそうだったもん。見た目がキモすぎるだろ!?


もはや服も髪もどろどろ。へばりついた血肉が気持ち悪い……しかし鼻は慣れてきた。たぶん今ならグロいの耐性爆上がりしてるからスプラッター系のホラー映画余裕だわ。


「ったく…勘弁願いたい……」


「…〈洗浄(ウォッシュ)〉」


端から見ればただ水を被っただけのように見えるかも知れないが、それは当然魔法の力であり、びしょ濡れになること無く、俺たちに付いた血肉を全て洗い流す。


「《錬成(アルケミー)》」


再び壁に潜り、また先を進む…その繰り返しだ。窓の外を飛ぶ化け物さえ見なければさっさと外に逃げたかも知れないが…俺にそれを倒す力は無い。

しかし…




─ッッ!!!!




目が眩むような極光…しかしその光はもはや安心感さえある。知っているそれを見る……ようやく助かる…その安堵から一気に気が緩む……


「優 ─!」



2度目の極光は、明確な殺意を持って()()()()()()()放たれた。










凄まじい剣圧により、周囲一帯は吹き飛び、切断されて良く夜景が見えるようになった窓から、夜の風が血の臭いを運ぶ。


「は、バケモンが。」


「魔王を名乗る方に言われたく無いですね。」


三頭の飛竜より放たれた吐息(ブレス)、それはリウに届くことは無かった。単なる剣の横凪ぎ…それだけで打ち消され、まるで始めから無かったかのように静寂のみがその場に残った。


「まぁ、この程度は想定内。こっからだろ?クソが。」


「ええ、もちろんです。」





一瞬にして彼我の距離を詰めたリウに向けて、再び飛竜の吐息(ブレス)が放たれ─


「甘いですね。」


飛竜の頭は縦に割れ、赤く灼熱した長い喉が爆発して飛び散る。誰の目にも追えない程の剣の速度…この場で唯一それに追随出来るのは、魔王を名乗ったスロウのみ。


高速─否、神速で行われる剣の応酬は、スロウがほとんど守りに回り、後退を余儀なくされている。しかしその間にも魔王の配下たるモンスターによる攻撃が次々と行われる。


「僕の集中力を乱す作戦だとしても少々お粗末ではありませんか?」


「ッは…いつまで余裕ぶってられんだ?俺程度にんな時間掛けらんねえ癖によォ!」


その言葉に、一瞬リウの剣が鈍る。

事実として【竜騎士】リウにとって現在最も優先されることはモンスターの殲滅でも、魔王の撃退でも無い。″小鳥遊南″という1人の少女の保護である。


「それが分かっているなら…早く倒れて欲しい物ですね!」


その気持ちが、剣にも現れた。強く振るった剣に合わせるようにしてスロウが一気に飛び退り、距離を取る。


「術式構築完了…」


「ッ…!?」


スロウの周囲に巨大な魔方陣が展開される。

ここまで行われた剣の応酬…スロウはその間に魔法の構築を完了した。やはり時間を掛けすぎた。何の魔法かは不明だが、ロクな物では無いだろう。



「〈魑魅魍魎(ちみもうりょう)〉」



それは東の国に伝わる禁忌の魔法。かつて国を滅ぼし、民を滅ぼし、新たな魔王を生んだあまりにも恐ろしい物。


─オォォ!!


魔方陣より流れるように零れ落ちたソレは、1体の異形。

否、それは無数の骸によって形造られた群体である。


腐骸の竜(ドラゴン・ゾンビ)……!」


死骸によってとはいえ竜を模倣したソレは、狭きその場を崩壊させ、下階へとその脚を付ける。振り撒く腐りの瘴気は周囲一帯の灯りとなっている魔法の照明を錆びさせ、火を消し、浸蝕するように壁を腐敗によって融解させる。


「まぁ、んなもんでお前を倒せるとは思ってねえが…まだ付き合って貰うぜ?」
















異変を感じたのは城内警備の仕事の交代を終わらせ、騎士宿舎寮へと戻るときだった。


「連絡用の魔法道具が使えないだと?」


「はい、何度か試したのですが…どこにも繋がりません。」


「…了解した。お前はそこで待機を─」


部下からの連絡を貰い、嫌な予感は的中した。


音すら消し、魔力残滓を隠し、連絡を出来なくした上での奇襲だ。



_ギシャァァ!



故に最近入団した新入り(部下)が頭を貪られ、声すら発せず倒れ伏しても、一瞬の間…動くことが遅れたのだ。



潰れたトマトのような赤に染まる。思考も同じだ。


「ッ!」


人間の腕のような物が生えた蜘蛛のモンスター、混沌の使いカオス・メッセンジャーを斬り殺し、即座に周囲を確認する。当然だ。この化け物が居るということは…


「やはり…か。」


その膨れ上がった蟲腹には無数の卵を宿している。事実としてすでに周囲は蠱毒の壺のように様々な蟲が這っている。人の背丈を超えるムカデも、人間のような瞳を体中に持つ蜉蝣(カゲロウ)も。

混沌の蟲女王(アラクネ)の配下であり夫であり餌であり…そして単なる捨て駒だ。


そんな化け物は人間によく似たその顔を醜悪に歪め笑った。それは我が子の為の餌を見つけた故か?それともいたぶる対象を見つけた故か?しかし…


「悪いが…私の腹もかなり煮えている…一瞬で終わらせるぞ。」


そんな()は王国に仕える騎士であり、その騎士たちの中でもモンスターの討伐を主とする第一騎士団の団長。


「来なさい…『ディユテュ』『ラゾ』『アーデネト』、『キュミュベ』『ワリュュス』『メチヘ』『ナザー』…」


それは人の言葉では無い。故に只人には聞くことができない特別な力を宿した『魔言』とも呼ぶべきもの。セシルの背後に現れるのは複数体の精霊たち。火の最上位精霊『ディユテュ』風の最上位精霊『ラゾ』土の最上位精霊『アーデネト』の三体を筆頭として次々と呼び出されるそれら全ては上位精霊クラスの物。


単体ですら使役が不可能とまで言われる最上位精霊三体を味方に持つ彼女は、生まれ持った異能を存分に使い…最年少で騎士団長という地位にまで至った。


『✳✳✳✳✳✳』


「もちろんだよ。今日は存分に力を振るわせてあげる。」


どこまでも優しげな口調は、(アラクネ)への言葉では無い。しかしそれは単なる死刑…もしくは私刑の宣告。


「消えなさい。」


城内の長い回廊に無数の火柱が立ったのは直後のことだ。更には刃のような嵐が、群れて波となった蟲たちを切り刻み穢らしい体液に塗れた道を作る。そんな道を凄まじい速度で走り抜け、一気に首魁へと─


「ふっ!」


軽い呼吸とともに放たれた一閃は、しかし混沌の蟲女王(アラクネ)へと届かな─


─あぁが…ぁ…ああ!!?


届かないはずの斬撃は精霊の力を持って届く。混沌の蟲女王(アラクネ)の豊満な乳房を斬り裂き、凄まじい絶叫が回廊に響く。そんな乳房の切断面の中からは穢らしい緑色の血液とともに蟲が這い出す。当然だ。その肉体は我が子を育てるためだけにある物。自らの身体を苗床とし、自らの肉体を食らわせ、子どもたちを育てる。無論最後には死ぬが、その頃には混沌の蟲女王(アラクネ)の幼体が世界に散るだろう。しかし今ならば…這い出してきた蟲は全てまだ未熟な物であり、数歩も動けば干乾びて死ぬ。


─次に腹を斬られる。


再び溢れた這うばかりの蟲の一部は、上半身は痩せた人間、下半身は幼虫という気味の悪い形である。しかし一切の躊躇は無い─干からびることすら許さず、そんな蟲を火柱が包み込み、あとに残るのは灰ばかり…次々と焼かれる我が子を見て、混沌の蟲女王(アラクネ)の怒りは頂点に達する。


─キァアァアァ!!!!


金属を擦り合わせたような甲高い声は、無論威嚇のためなどでは無い。


「チッ!」


セシルの周囲を精霊達が囲い、半透明なドーム状の結界が生み出される。それは契約者たるセシルの思考を完全に理解した故の動きであり、直後に起きる事象は確定している。


混沌の蟲女王(アラクネ)の配下であり子供である蟲は、大きく3種に分けられる。女王の子供であり、次の女王となる王女階級、そして真に特別であり、100年に1体ほど、女王に特別な子種を与える事が出来る王子階級。最後が女王に餌を献上し、あるいは自らを餌とする奴隷階級。


女王の命令には背かない。それは世界を知らぬ幼子が母の言葉に感応するのと同義である。


─キシャアアァ!!!


魂よりの絶叫を上げ、彼ら奴隷は母のため、自らの肉体を武器として、内より全てを放出する。

死という代償と引き換えに、効果を増した自爆は凄まじい威力を誇る。甲殻種の蟲の外殻の欠片は金属の鎧さえ貫くほどの威力へと変わり、温かい内容物は全てを溶かす強力な酸となる。


単なる魔法の盾すら砕き、すべての命を刈り取るだろう。







統率による精神集中が飛散し、代わりとして治癒の魔法を使う余裕が出来る。月の光にも焼かれる程のか弱い我が愛し子を覆う身体()を再び形成し、女王は満足げに鳴く。


しかし己の手脚たる子供たちを犠牲にした。再びあの群を成すには数年は掛かることとなるだろう。代わりに得たのは肉の無い筋肉質で硬そうな女の死骸ひとつ。割に合わない結果だが、いずれ王女となる自らの子供たちを守れたならば良いだろう。


さぁ、餌を求め─



「所詮は能無しの化け物だな。」



蟲の女王たる彼女の視界はくるくると回る。

そんな視界の中で、己の身体を焼く炎と、己の子供たちが焼ける臭いを嗅いで─








「ふぅ…強くは無いが、面倒な相手だ。」


混沌の蟲女王(アラクネ)の蟲奴隷は、女王の手脚となって動くものの、女王という指揮官を喪った瞬間理性を無くして何処かに飛散して人を襲う。

それを防ぐために必要なのは、女王に自爆命令を誘うことだ。


「…さて、早めに勇者達を…。」


ん?


セシルは精霊の力によって強化された驚異的な聴力により、明らかに異様な足音を聞く。一定のリズムを刻まず、体重の掛け方も違う不協和音。


「─何者だ。」


月の灯りの下でもなお暗い回廊で、その存在は背が低い。いや……


「頭が無い……?」


確かに、そういうモンスターは居る。

悪魔の一種たる脳啜り(ブレインイーター)森霊(トレント)の仲間たる茸頭(マッシャード)そして………アンデット、首無し騎士(デュラハン)


ようやく窓の下で月明かりに照らされた姿……



「なん……で……」



騎士の鎧…その中でも王より称号を与えられた者は、胸にエンブレムを持つ。頭の無いその男の胸にあるそれは、【義】の証……


【義騎士】ジャック・アンバー……否、【首無し騎士(デュラハン)】ジャック。


彼女の傍らで最も彼女を支えたその男…それは今、彼女の敵となった─

アラクネの母性は最強。子どもたちに食べられた身体は治癒魔法で再生させる無限機関である。

アラクネがどんなモンスターかは書いたけど、単体の強さ的には微妙。強さはどれだけの群れを持つかどうか。群れが多ければ多い程に餌をたくさん食べれて子供たちに与えられる栄養が増えるのでより強力な蟲をたくさん産める。

孕む王女と奴隷蟲の割合は1:9くらい。

ぶっちゃけ今回のレベルだと体外に出てから50年ぐらい生きた個体。100年くらい生きてる個体セシルでも危ういレベルになってた。

王子が居る群れだともっとやばい。

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