14 王国動乱 2
ちと忙しいので次も遅いです。
もう何時間と続いているような戦闘は、あまりにも一方的であり、耐えているのが奇跡というような状況だ。
「ふっ!」
「効かねえなぁ?」
風圧によって顔が歪む程の薙ぎ払いは、セシルの顔を持つ化け物によって簡単に防がれる。腕で受けているだけにも関わらず響く硬質な音はやはり先程と同じ能力だろう。
「おらよ!」
鱗まみれの腕を振るうと、直後には無数の魔方陣が形成される…無詠唱によって放たれたのは、ひとつひとつが即死級の威力を誇る高位魔法である〈魔槍〉
「〈魔盾〉!」
即時展開した〈魔盾〉は数発の〈魔槍〉を逸らしただけでヒビが入り、直後の一打を持って一瞬にして砕け散る。そして難なく守りを突破した〈魔槍〉は金属の胸当てを抉りながら骨すら削る_
「ぐっ!?」
《魔力収束》による極度濃密状態の魔法を平気で突き破り、直接ダメージを与えてくるほどの強力な術…
何よりもこれまで王の名の下で悪を挫くためだけに剣を振るい、『義』を持って正義を貫いてきた。どんな強大な悪も切り伏せてきた《正義》のスキル……それを持つジャックであっても、目の前の存在に勝てるビジョンが浮かばない。故に一瞬の隙を刺すように、勝負に出る。
「っと?」
瓦礫を蹴り上げ、一瞬ではあるが視界を塞いだ_
「─《領域正剣》!!」
収束された魔力を解き放ち、空間すら切り裂くハズの必殺の剣技!それが今放たれ__
「《染めろ》」
それと殆ど変わらない威力の手刀の斬撃によって完全に消える。
純粋な魔力と物理の衝突による爆発で美しかった廊下は亀裂が走り…衝撃波によって再び開いた傷口から出たジャックの血によって赤が広がる…
「アリですか…そんなの」
《魔力収束》による魔力の収束は、強力な効果である反面、連発は出来ない。収束された外付けの魔力は、最強の奥義である《領域正剣》をあと2回使えるかどうかというライン…
「いやぁ…思ったより大したことないねぇ……あんた。」
「わざわざ得るまでも無かった……お前より脳筋のがずいぶんマシだわ。」
そんな言葉の意味を、ジャックには理解出来ない…とはいえ、
「もーいいわ。」
「─は?」
特に視線を外していた訳では無い。しかしそれは視界から消える。
「あんたも名乗ったんだ…冥土の土産ってやつに…教えてやるよ。」
声は、八方…全ての方向から反射し、反転し、響く。
「【罪の魔王】スロウ。」
「腐り行く世界を壊す者。」
それは魔王を名乗り、その真の姿を見せた。
黒く塗り潰されたような潰れた顔からは、涙のようなドス黒い液体が零れ落ち、空中で瞬時に弾けて消える……。
「ッ!!」
「悲しいねぇ……」
凪いだ剣は空を切り、姿勢が崩れる……
既に敵は懐に入り、今更《領域正剣》を放つ事など出来ず、もし放てたとしても本当に迎撃など出来るのか?そんな思考の渦の中で、
「セシ─」
「では、制圧します。」
「は?」
凄まじい速度で壁を走り、通った先に存在していた全ての化け物は一撃の下に斬られ、勢いを付けたそのままに回転して剣を振るう。
しかし、誰もその太刀筋を捉える事が出来なかった。
それを成したのは全身鎧によって武装し、兜で顔さえ見ることの出来ない騎士。その場に居た勇者達ですら出来ない動きを、重厚な鎧を着けながら成したその膂力は、異常の一言で済ませる事も出来ないだろう。
「あんた…確かリウだったか?」
「ええ、その通り。僕は【竜騎士】のリウです。勇者様方であればどうにかなるとは思っていましたが、さすがにこの量は厳しいですね…。」
周囲に広がる惨状と濃厚な血の臭いは、思わず吐き気を覚えそうな物だが、それを成した勇者様達も血塗れであり、満身創痍の様子である。
しかし…本当に良く耐えた物ですね…実際に武器を持ってから一月も経っていないハズですが…これが勇者という戦力…その力なんでしょうが、末恐ろしさすら感じますよ…。
「……小鳥遊様はご一緒では無いのですね。」
「ッ…!そうだ南は!?あんた南を見てねえか?」
勇者最弱、そんな不名誉な二つ名を甘んじている少女は、それでも全体から見れば強い力を持っている。交友が広いというのは、発言力という力に繋がる。だからこそ、彼女を殺す訳にはいかない…、
「いえ、申し訳ありませんが…僕も見ていませんね…ご期待に添えず申し訳ございません。」
「そうか……部屋は潰れてるし、どこに行ったんだよ…マジで。」
部屋が潰れている?既に部屋には居ませんか…この広い城内を探し回るとなると骨が折れますが、仕方ありません…ね…
「…少しですが、僕の持つ回復水薬を置いていきます。小鳥遊様の捜索は僕も行いますので、皆様は一刻も早く城内を脱するか、安全な場所へ避難して下さい。」
「あぁ、……分かった。」
申し訳ありませんが、今あなた方を護衛しながら動くのは、あまりにもリスクが大きいのですよ…。
「では、ご武運を。」
勇者達に別れを告げ、即座にその場を後にする…時間との勝負である以上、己の足が先か、小鳥遊が化け物の腹に納まるのが先か、という戦いになる。
「セシルさんやジャックさんと連絡が取れれば良いのですが……」
連絡用の魔法道具は、城内を包む異常な魔力によって使うことが出来ない。恐らく連絡や通信用の魔法のみを禁止とする制約型の大規模結界。
「全く……面倒な敵ですね。」
無数のモンスターを率いる存在など、真っ先に思い浮かぶのは《魔獣使い》のスキルではあるが、この数、この強さは明らかにソレの範疇を超えている。
まるで……
「あの時の魔王を相手しているような……」
東の地を炎で包み込んだ飛竜を思い出し、即座にそれを否定する。
「周期が早すぎる…それはあり得ない。」
「ならば何………」
─キン
咄嗟に反応出来たのは、凄まじい技術と経験が成せる業であり、真っ二つに斬られた投げナイフからも、その技量が窺える…。
「何者ですか?」
「さすが、まぁ…この程度で死なれちゃ…こっちが困るけどな。」
灯りの消えた廊下の奥、リウはその驚異的な視力でそれを見る……ローブを羽織った男であり、潰れたような黒い顔。やや猫背の腰、独特な歩き方……。見たことは無いし、強者としての噂でも聞いたことが無い。
「あんたを待ってたぜ……王国最強!」
男はローブを脱ぎ捨てる。それはかなりオーバーな身振りであり、まるで舞台役者を思わせるような物……いや、事実…この惨劇はこの存在にとっては単なる舞台なのかも知れない。
「俺は【罪の魔王】スロウ……【竜騎士】リウ、俺の用意した舞台で躍れ」
【罪の魔王】を名乗った化け物は、どこからか取り出した剣を引き抜く……それは奇しくも、リウと全く同じ構えであり、事実、リウと同等な実力を持つとすれば……
「僕もマズい……」
【罪の魔王】を名乗る男の背後に控える3匹の飛竜。
『あんたを待ってた』というのは何の誇張も虚偽も無い本心…
リウは【罪の魔王】への警戒レベルを一気に引き上げる。かつて戦った魔王とは比にならない強者。東の地を焼いた飛竜の魔王…【渾沌の火の魔王】ゲヘル…目の前の存在は、それを数倍する化け物。
「ではこちらも…君を確実に殺すとしましょう。」
直後始まった戦闘は、城を揺らし、凄まじい破壊と極光…そして剣の煌めき…誰にも近付くことの出来ない絶対強者と、王国最強との戦い……。
決着は─
この辺の話はしっかり書きたい所存。しかしなかなか時間が取れない悲しさ。
《正義》のスキルは敵が悪であればあるほど全ての行動に補正が掛かるという物です。1.1倍~1.15倍とか。当然《魔力収束》にも補正が乗るので、収束させられる魔力の量も1.1倍くらいになってる。
《領域正剣》のルビ名称を変更しました。
強そうに見せるためにデカい言葉を書きましたが、単純にカッコ悪いので。




