13 王国動乱
主人公ちゃんかわいそう
「ッ…キモッ!?」
等と言いながら巨大な幼虫を殴り潰し、化け物の体液や内容物まみれになりながら最前線で戦う。その周りには無数のモンスターの死骸が転がっており、戦闘の激しさが窺える。
「《居合》_抜刀!!!」
「《複製》……《幻想十器》!!」
皆一様に自身の持てる最大火力によって敵を殲滅し、他のクラスメイト達が寝泊まりしている場所を目指す。
「おい煉!優輝のやつはどこ行きやがったんだ!!」
「俺に聞かれても知るかよ!」
このクラスメイト達の中の最高戦力は間違いなく優輝だ。しかしその優輝がどこかに消えた。だから乱戦は必須、血塗れで戦うしか無い。
「さっさと南と合流しねえとあいつ死ぬぞ!!」
既にチート能力を持っているハズの男子チームに負傷者が出ており、治癒魔法が使える篠原と合流したいところだが、それよりも先にクラスメイトの中で1番弱い南と合流することが先決。
「っく…」
ふと見てしまったソレは、王城の警備をしていた騎士の死骸。内臓を食い荒らされたその姿は、直視していられない。
まるで、この中にいるかも知れない誰かの末路を表しているような気がして……
「貴様、何者だ。」
王城警備の騎士たちは、全員必要に応じた抜剣が許可されている。そして不審者を見つけた場合、それは即座に行使され、その場での尋問、もしくは抵抗された場合は身体欠損、及び殺害が許可される。
故にジャックの判断は早かった。
迷いも無く、己の役目を行使すべくその剣を抜いた。
「おっと…これはこれは……。」
剣を背中に突き付けられながら首を回し、その男は深く被ったフードの下で笑う。
「王国騎士、第1騎士団副団長…ジャック・アンバー様では無いですか!」
「御託は良い…名を_」
「ご活躍はかねがね聞いておりますよ?騎士達の模範となるべく日々精力的に活動されておられると。しかし残念ですね…あなたサマの活躍は、あなたサマの上司であり、元部下…【精霊騎士】騎士団長ワーミオン殿に奪われておられる。」
「もう良い。フードを取り、その顔を見せろ。」
少しの苛立ちと共にそう命じ、剣を握る手に力を込め_
「え」
フードを取ったその顔は、あまりにも見覚えのある物……
「私を切れますかジャック・アンバー?」
傷ひとつ無い美しい顔、剣を握らずともその容姿だけで息を飲み、一拍行動するのを躊躇う程の美貌……
「団長………じゃ、無い!!」
しかし躊躇いを拭い、そのままに剣を横なぎに振るうー!
_キンッ
何か、硬い物に阻まれ、鈍い音と共にジャックの剣撃
は弾かれる。
「おー怖い怖い。躊躇ってモンが無さすぎるだろ。」
セシルの顔だった物には、無数の鱗が生えていた…ヒビすら入っておらず、その硬度が凄まじい事が窺えるそれを、ジャックは一度目にした事があった。
「竜の…鱗…、」
それの前では、何もかもが鈍と化し、生半可な魔法を弾き、それでいて竜が最強たる証……
何かしらのスキルか、もしくは特殊な魔法道具か…いずれにせよ、相手の武装は完璧であり、この城に来たのは偵察などでは無いと即座に理解する。
「私の団長はそのような事は言わない。あの方ならば『お前の技で殺してみせろ!ただし私の技も受け切れたらだがな!』とか言うだろう。」
【精霊騎士】セシル・ワーミオンの右腕、その自負が、総て自信へと繋がる…目の前の存在…複数の特殊能力を用いているが、未だに攻撃はしてこない。ならば…
「こちらから行くぞ、《魔力収束》ッ!!」
その瞬間_周囲全ての魔力は、ジャックの下へと集まる…強力なスキル故に扱いは難しく、習得も困難と言われるそれを、ジャックは凄まじい修練と努力によって得た。
かつて見た騎士の憧れを、その身に体現し、王より授けられた称号を名乗る!
「俺は【義騎士】ジャック・アンバー!我が王の剣にして、【精霊騎士】セシル・ワーミオン様の右腕!!」
「侵入者よ!大人しく、俺に拘束されろ。」
「《剣技_我嵐》」
横なぎに放たれただけのハズの斬撃は、その場に停滞し、延々と続く斬撃の嵐へと変わる。その場に何も無いにも関わらず、ただ空を斬るだけに終わるそれは、いっそ虚しく思えてならない。
しかしそれが周囲一帯に敷き詰められればどうだろうか?
相手はたった一人、にも関わらず罠のように設置され続ける斬撃の領域を全て避けて戦うことなど出来るだろうか?
巨大な蟲のような化け物たちは、《我嵐》より逃げるため、一カ所に集まる…否、集められたのだ。
「部屋は汚したくねえからな。」
たったそれだけの理由で。
「《王の剣》」
振るわれた剣は全てを切り裂く剣の業。才能故の物であり、触れた総ては灰燼となる。降る粉は紅く、散る飛沫は全てを穢す……。
にも関わらず、それがその男を穢す事は無い。
_何者も、何物も、王を穢すことなどできはしない。
「俺ァ…【狼剣】シリウス・ファルタス・アルカナムだ。兄貴の邪魔する雑魚共は…とっとと消えろ。」
アルカナムの第二王子にして『剣聖』…名実共に、最強の王子は荒々しく剣を払い、血糊を飛ばした。
「…ご無事なようですね。」
一足遅れ、竜騎士であるリウがシリウスの部屋に到着する。
「当然だ。リウ、テメエはとっとと兄貴の所か、勇者の所に行ってこい。勇者が死んだら兄貴の今後のアルカナムの統治に支障が出るだろ?」
「了解です。僕からしても、彼らには死んで欲しくありませんからね。」
「おぅ、俺ァ雑魚狩り専門だ…竜騎士リウ、騎士らしく全部護れ。」
「ぁ…ッソが!」
理不尽だ!最悪だ!ふざけるな!俺が何した?そんな悪いことしてねえし、こんな化け物に殺されるほど怨まれるような事もしてねえだろ。
「南様!南様!!」
心配そうに俺の名を叫ぶウルナの声も、今は、今だけは雑音でしか_
_風の音が
「ッげろ!」
乱れた思考を繋ぎ、ウルナの小さな身体を抱きながらその場から飛び退く。不格好な姿勢であり、うまくバランスが取れずに飛んだ先でも崩れるが、
_ザァ!!
空間が歪む程の風の塊の刃が、鼻先を掠めた…
一拍置き、
俺が先程まで居た場所はザックリと切り開かれる…下階の部屋にまで繋がっているそれは、言うまでも無い威力があった。あれを食らった者の末路など、想像に難くない。
一瞬視線を、血溜まりの上にある腕に向ける……が
「《錬成》…!」
己の身体を変形し、未だに止まらぬ流血を止める……とはいえそれは凄まじい苦痛を伴う物だ。
「ッ!!!!!」
視界が明滅し、頭が軋み、噛み締め過ぎた奥歯から血が溢れる…、しかし腕の出血は止まり、どうにか失血死の危機は乗り切った。
しかし、
窓を無理矢理こじ開けながら入ってこようとするのは、身体にエラのような穴が無数に空いているトカゲに似た化け物。そのトカゲのよう化け物の脅威は未だ去っておらず、手札が何も無い中、ウルナを守りながら何が出来るのかと自分に言い聞かせる。
故にそれを目前としてやることはひとつ。
「逃げる…ぞ、ウルナ。」
「ぁ……、はい!」
呆気に取られていたウルナだが、俺の声に意識を取り戻し、片腕の無い俺のため、部屋の扉を開いてくれる。それに続き、痛む喪った腕を庇いながら外に出る……。
「ひ…」
ウルナの悲鳴の通り、廊下に広がっていたのは絶望に歪んだ表情で腸を食い荒らされたメイド、頭を完全に潰されて絶命した王城警備の騎士…抵抗するまでも無く殺されたという事は、彼ら以外の死骸がほとんど無い事から分かる。
それを見ても見なくても、俺がすることは決まっている。痛みを必死に無視し、意識を集中させる……時間的余裕はさほど無いし、俺もそこまで凄いことは出来ない……
「《錬成》…」
瞬間、俺が使っていた部屋は一瞬にして崩壊し、瓦礫と化した部屋の残骸により、肉が潰れたような音が俺にだけ強く聞こえた。
覚悟は決まった。戻ってこない腕に執着するよりも、自分と身近な命を選んだ。
いくら物質を変形出来ようが、それで何が変わるのか?敵を殺せも、己を救うことも出来ない……
『最弱』に甘んじるというのは、そういうことだ。
「行くぞ…ウルナ。ひとまず、あいつらと合流する。」
勇者組であれば…いや、優輝であれば、こんな残酷な現実を吹き飛ばして、どこかで見た英雄譚みたいに…最強の力で、全部…全部……解決してくれるだろ?だって、勇者なんだから。
「きっと…そうだ。」
リアムの弟、シリウス・ファルタス・アルカナム。
世界にたった13人しか居ない『剣聖』の一人であり、12歳の時に剣聖になった天才です。




