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10 ウルナ

女の子助けに走る主人公ちゃん。

血…それは最も尊い物であり、最も重視すべき物であり、己の人生を決める物だ。

そう教わってきたし、事実そうだと思う。

穢れた血、などと言われるのは慣れているし、殴られるのも慣れている。大抵の痛みや心の傷は、半身の火傷で味わった。


頭から流れる血も、凍えていく指先も、今更どうということは無いだろう。

私は、ここ最近幸せだった。とても、満足出来ていた。勇者様に仕え、その下で働けることに嬉しさも感じていた。


「…まぁ、もうちょっとボロボロにすれば、使い物にならなくなるでしょ。」


私の姉は、それが気に入らないのだ。

私という存在が、嬉しそうにしているのも、笑顔でいるのも気に入らない。私が仕事にやりがいを感じた途端、私の身体を壊し、二度とそんな気が起きないようにと…二度と幸せな夢を見れないように、と。

今更何を言うんだろう。既に私の半身は火傷で使い物になどならない。そもそも、高貴な方に仕えるメイドとして、眉目が悪い(傷物である)時点で仕事など半分も出来はしない。

王城で仕える者なら尚更だ。しかし、私の姉が言いたいことはそれでは無い。


「ちょっと運が良くて仕事を貰えたみたいだけど…あんなのに仕えてるなんて、所詮愚図でのろまな穢れた血ね。」


「ふふ……」


思わず笑ってしまった。ここで終わりだと思うと余計に。


「〈氷礫(アイスシャード)〉」


ガツンと頭に当たった冷たい塊は、それとは真逆の熱い体液を溢させるためにある。頭に残る氷の粉は、私の体温で即座に溶け、血と混ざって首筋へと汗のように流れていく。


「はは……穢れた血の半分は…お姉様にも流れているでしょうに、」


口の悪い人に仕えていたからだろうか?普段は言わない皮肉や嫌味が、頭に浮かんだ端より口から溢れ出る。私が穢れ同士の間に生まれた純粋な穢れだとすれば、この人はその半分を継ぐ穢れだ。


ーガッ


「本格的に頭までおかしくなったみたいね?私に刃向かうなんて…やはりまた邸のあの部屋で飼ってあげなきゃいけないわね。」


顔を蹴られ、口の端から血が溢れる。ああ…このあとはあの言葉が続くんだ。


「あんたの立場ってものを分からせてあげるわ。」


所詮、私は貴族未満。穢れた血が流れた化け物だ。

そんなことは分かっている。家族ですら無いから、この人の一言で私は再びあの邸に戻される。でも、


「もう…いいかな。」


最後に、最高の仕事が出来たと思う。美しく着飾った南様の姿は、私の人生の中で色褪せないひとつの記憶になった。


だから、これで満足。あの地獄の中もこの記憶があれば生きていける



「おや、こんなところに居たのかい?」


どこか聞き覚えのある声が掛けられた。













「おや、そんな綺麗なドレスでどうしたんですか?」


そんな風に呼び止められたのが始まりだ。


「いま、はぁ…人を捜してて…、はぁ、灰色の髪の小柄で…身体に包帯を巻いてるメイド…知りませんか…」


「ふむ、それなら丁度良いですね。その特徴は恐らくウルナという名のメイドでは無いでしょうか?」


俺の驚いた表情を見て、優しげな雰囲気の中にどこか気持ち悪さのある笑みを浮かべるその男は、そのままこう続けた。


「初めまして、私はガレオン公爵家の現当主、ペテル・ヘオ・ガレオン。あなたが、捜しているその人物、それは私の娘ですよ。」


「は?」


ウルナの父を名乗る男、ペテルは一言で言ってしまえば胡散臭そうな笑みを貼り付けた男だった。不気味で優しげな笑みは、まるで他者を寄せ付けぬよう作り出されているようだ。


「…おや?私の勘違いでしたでしょうか?これは失礼を。」


「いや、すまない、俺の名前は…小鳥遊南だ。確かに、捜してるのはウルナって名前のメイドで間違いない。」


「左様でしたか、なら話は早い。丁度私も娘と共に久々に会おうと思いましてね。しかし娘は先に向かってしまいまして…場所は分かっているんですが…共に向かいますか?」



そうしてのこのこと付いてきたのは、城内の中でもかなり奥まった場所。掃除用具などが仕舞われている倉庫の近く…そして、実際にそこに二人は居た。



「血が出てるじゃ無いか、全く、…ヘレナは姉なんだからもう少し加減して、喧嘩もほどほどにしないといけないだろう。」


優しげな笑みを崩さず、ウルナを助け起こし、ペテルはその手でハンカチを取り出して娘の血を拭う。


「ウルナ、無事か?」


「は…い、大丈夫です?」


その言葉でひとまず胸をなで下ろす。とはいえ頭から血が出ており、口も切っている。意識がハッキリしている、というだけでありその実無事とは言えないだろう。


「お父様……」


正直、この展開は予想外だった。まさかウルナとその姉のヘレナ、その父親が出て来るとは。しかも思っきしヤバい現場に遭遇してるし。

気まずいよ…ナニコレ、ウルナがボコボコにされてたら助けるためにあれこれ魔法とか準備してたのに…いじめ発覚の三者懇談みたいな雰囲気だよ…、この状況は知らないよう……


「そ、そうよお父様!この子、王城のメイドとして相応しくないと思わない?容姿も醜いし、その相応しくない穢れた血で城の人達を不快にさせたら悪いし、やめさせた方が良いんじゃ無いかしら?」


「……私はそうは思わないよ、そもそも、ウルナに王城務めを勧めたのは私だ。それを私の権限で辞めさせてしまったら、それこそわけの分からない事になってしまうじゃ無いか?ウルナが辞めたいというなら一考の余地はあるがね。」


ウルナは小さく首を振り、ペテルはそれを見て頷く。

あまりにまともだ。故にこの人本当に高飛車お嬢様(ヘレナ)の親なのかと疑ってしまう。


「それに、()()()にも醜いなりの役割があるんだよ。恵まれた血筋で、容姿しか取り柄のない者がその身を捧げるしか無いように、ね。」


あ、やっぱ毒親だわ。


「さて…、ヘレナ、少しやり過ぎているね…痛いかも知れないが我慢しなさい…〈剥奪(デプリベイション)〉」


「あ″ぁ″ああぁあ!!!!?」


ペテルの魔法によって、ヘレナの身体から無理矢理何かが引き剥がされる。ボトリと地面に落ちたそれは冷気を纏った蟲であり、蜂や羽蟻のような形状に近い物…しかし本で見た知識にも、こんな奇怪な生物は無い。


「お、おい!何して……」


「全く…また精霊を使い潰してしまったのかい?」


「ッが、あ、あぃ……ぁ……ご、めんな…はい…ぃ…」


胸を抑え、荒い息を吐きながら床に倒れ伏す少女、奇しくもそれはウルナと殆ど変わらない状況だ。

蟲が砂粒のように粉となり、消え去る中で、ペテルは心の底から心配そうにヘレナの背を撫でる。


「さて、落ち着いたかいヘレナ?」


「は、い……ごめん、なさい…ごめんなさい…。」


明らかに無事な様子では無い。酷く怯えた様子で何度も、何度も謝罪の言葉を呟く…のは、もはや何の力も無いただの幼い少女だ。

ふらつく足と、未だ胸を抑える姿はとても痛ましい…。


「では、小鳥遊殿。私達はこれで失礼させていただきます。ヘレナには後で言っておきますので、くれぐれも我が娘、ウルナをよろしくお願いします。」


「え、あ…はい。」


「ウルナ、久々に会えて嬉しかったよ。良い主に恵まれたようだが、あくまでも王城務めのメイドであることは忘れないように、励んでくれ。」


そうして去って行く二つの背中を、俺は眺めることしか出来なかった。それは見ている物があまりにも違いすぎる狂人の背中。


「…分かんねえなぁ…俺には。」









「体調はどうだ?」


「はい、元々軽いケガと打撲程度でしたので。治癒の魔法で完治しました。」


「なら良かった。」


結局、あの後ウルナは数日休みを取り、パーティーはお開き。ペテル公爵とヘレナも既に王都を出て自領へと戻った。後に残るのは普段と変わらない日常…

んな訳無い。いやぁ気まずいわ。マジで…女の子のヤバメの家庭事情を覗いてしまった時の正しい男の対応を教えて欲しい。そっとしとけば良いのか?なんか言った方が良いのか!?

俺、これで今から良い感じに対応出来たら『女の子の闇を覗いてしまった時の対処法~俺が見つけた完璧すぎる10の言葉』みたいな本を書いて印税収入だけで一生食っていける気がする。


「南様、ひとつだけ言っておかなければならない事があります。」


「ん?なんだ。」



「私は、娼婦との間に生まれた『穢れた血』です。そしてその母は私が物心つく前に死にました。」


ウルナが自分の腕に巻かれた包帯を取る。赤く爛れたその腕は、かなり深い火傷の痕だ。右腕の全てに広がるそれは、地球の医学から見ても良く生きていたな…というレベルの物。


「この火傷は、私の母が死んだ時に出来た物です。」


「…そうか。」


「じゃあ、俺の話もしようか。」

まさかの親同伴。

ウルナの穢れた血ってのはまぁ分かると思うけど妾との間に出来た子供って意味です。

ペテルがある日突然ウルナを連れてきて、ヘレナにお前の妹だよ、と言いました。

幼少ヘレナは意味が良く分かってませんでしたが、母親からなんやかんや言われて今みたいな感じになりました。誰が悪いかと言えば全部ペテルのせいです。



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