08 白
ようやく書きたかったところの1つ目辺りまで来ました。
華やかなかつ賑やかな会場には、美しく着飾った王侯貴族達がささやかな談笑を楽しんでいる。とはいえそこには無数の壁があり、爵位や派閥などによって明確に区切られた空間がある。
そして談笑のふりをしながら他者の弱みを握ろうと、耳を立て、巧妙に隠された侮蔑や嘲りの瞳を偽りの笑顔で塗りたくる。
しかし、今回ばかりはそんな彼らの笑みも崩れた。それは明らかにマナーを知らない者たちが紛れているからだ。しかし彼彼女らが纏う衣服は王族が着ていてもおかしくない程豪華であり、更に戦闘の心得があるものは即座にその者達が圧倒的強者であることを解した。
「彼らはなんなのか?」「品の無い者が紛れている」「他国の貴族か?」
などの憶測が飛び交い……そしてそれら全てを無に帰す現象が起きた。
これまで談笑していた者たちも思わず息を止める。会場全体に一瞬の静寂が起こる。それはまるで絵画から飛び出してきたような絶世の少女だ。身に纏う白は穢れなど無く、まるで魔法のように彼女が歩く空間だけが切り取られたように鮮やかに映る。
白い肌、白い髪、白いドレス。そして開かれた瞳は、まるで血のような紅だった。
「本当にダメでしょうか?」
「ダメというか、嫌…ですね。」
俺の目前にあるのはまるでウェディングドレスのような純白のドレス。希少モンスターの出す糸を用いて作られており、金属の装飾も超高級品である魔白金を使われている。
これだけでどんだけ金掛かってんだと言いたくなるくらいだが、同じようなモノがズラリと並んでいるのを見るともはや呆れてくる。
1回このやりとりやった気がする。
今日は生誕祭の前日。俺以外は着る衣装を決め、もはや当日を心待ちにしたり逆に緊張しまくって今日は寝れないー!な状況だろう。俺も既に決まってた。前に一度着た軍服みたいなやつ。しかしここで駄々をこね出すやつが居た。
「大丈夫ですよ!当日は私が、確実に勇者様を綺麗にしますから!」
そのいち侍女頭のレキさん。
「絶対みなみん似合うと思うなー。」
そのにどっからか嗅ぎつけてきた野乃葉。
「南、絶対やった方がいいよ。似合うから!」
そのさん野乃葉に付いてきた麗。
「大丈夫です南様。王女様より美しくなれます。」
そのよん味方だと思ってたら裏切られたウルナさん。
そもそもウルナさんに至ってはなんなんだ?全然そういうキャラじゃ無くね?今まで何も勧められたこととか無いぞ?
「そもそも、それ着るの俺じゃ無くて良いだろ。二人が着れば良いじゃん。」
「いや、みなみん以外無いでしょ。」「私も同意。そもそも私達のは既に決まってるし。」
俺のも決まってるんだが…とは思ったが、コイツらに言っても無駄なんだろう。何せ俺には服選びのセンスが皆無だ。妹にもモデルの兄なんだからもう少しファッションに気を遣えと言われたが、俺にファッションは分からん。軍服かっこいいと思うんだけどな……。
「そもそもドレスって窮屈なイメージがあるんだが?ただでさえ慣れないパーティー会場にひらひらのスカートで行きたくねえよ。」
「そんなことはございません!!」
「こちらは灰産みの蜘蛛孕女王が産卵期に卵を護るためにしか出さない限られた時期しか取れない糸から作られており、並の剣すら弾く凄まじい強度を持っている上、決して燃えないという性質もあります!これは灰産みの蜘蛛孕女王の持つ火の力を継承しているためであり、強度だけで無く耐性も持ち、しかも非常に柔らかく良く伸びるため、我が国の騎士達の制服にも一部使用されているんですよ!更にはここにある宝石、これは全て銀の魔結晶から削り出された純正の物で、それぞれに魔法付与が掛けられていますので、快適性は抜群です!そして金装飾として使われている魔白金は魔力を通しやすく、魔法付与との相性は抜群です!そしてデザインの考案は王家直属の専属のデザイナーである【星衣】のミーシャ様が担当されております!美しく華やかで、かつ動きに支障が出ることのない完璧なデザインと、それを実現された【糸匠】の方々、そしてヘイベル様監修の魔法付与によってこれ以上無い逸品に仕上がっております!本来であれば王女殿下の生誕祭でお召しになられる筈でしたが…殿下は母君であられる王妃陛下の聖衣を直して着られるそうですので、是非、勇者様に着ていただきたいのです!!!」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……こほん、少々熱が籠もってしまいました。申し訳ございません。」
レキさんが普段の様子に戻り、45°の腰の角度で頭を下げる。
まるで何も無かったかのようだが、間違いなく何かはあった。少なくとも、服飾オタクの一端を見てしまった。いや、分からなくも無いよ?確かに自分が大好きなものが誤解されてたら早口で反論したくもなる。
「で、みなみん結局着るの?」
ぶっちゃけ、ここまで俺が嫌がってるのは何というか…最後の線引きな気がするからだ。勇者として俺たちが紹介され、国内外にもその存在が知れ渡る時に、俺はどちらの性別で居るべきなのか?
たったそれだけ。
つまるところ、ここで俺の性別が固定されてしまうということを恐れている。
「正直…今更女装がどうとかって言うつもりは無いけどさ。」
だから、俺が抱いているのは気恥ずかしさでは無く…
「ってことはー?」
無数の華美の中に、白が垂らされる。それは決して周囲と混ざらず、溶け込まず、ただそこに有る事を主張する。
多くの者はその瞳に欲望を宿し……
しかし貴族としての理性によってそれを抑え込む。
動くのは今では無い。歩き方等の所作からして、大した位の貴族でもない。下級貴族の娘であれば、急がずともどうとでも出来る。後は他の者よりも賢く立ち回れば良い。
そうして人形のような白い少女を遠巻きに眺め、舞台は整った。
「いや、視線が凄いんだが。」
「そりゃそうじゃん!みなみん可愛すぎるもん!」
容姿については、自分でも理解している、だから着たくなかったのだ。鏡で見ると、そこには精巧に造られた完璧な人形が映るのだ。異様な白い髪と、血のような紅を宿した瞳。
つまるところ、俺めっちゃかわいい。
キャラクリ出来るゲームは性癖を全開にする俺から言わせて貰えば、この姿は理解してるなと言わざるを得ない。誰の性癖なんだろうか?俺ならここにギザ歯を足すぞ。
「南やばいよ、マジで天使。」
麗でさえ拝み始めるのだからその破壊力はえげつない。
ちなみに視線の幾ばくかは野乃葉と麗にも向いている。なんたって二人とも美少女だ。とはいえ実態は化け物クラスの戦闘能力を誇る勇者様。欲望の視線を向ける彼らの彼らが潰されない事を祈るとしよう。
さて、問題はそんなことじゃない。
目の前には豪華な料理やデザートの数々。とはいえこれは主役が来ない事には楽しめない。早く来ないかな王女様。
そんなことを考えていると、会場全体が静かになる……
皆一様に一カ所を凝視し、釘付けになる。当然だろう。美しき主役の登場だ。
リアムともう一人、それらに挟まれるような形で歩いてきたその存在は、確かに『アルカナムの輝き』という言葉に相応しい。まだ幼いながらも容姿は端麗であり、将来は男女問わず全てを魅了する…そんな怪物になり得る青い果実。
その輝白金の髪は魔法のシャンデリアの明かりを反射して、本当の輝きを示している。
かくして、舞台と主役は揃った。
祝宴の始まりだ。
南の自己肯定感は高めです。
なので1回こういう服着て周りからの評価高かったら次からはもう抵抗無く普通に着ます。




