第十五章 庭園でのひとときと食事
夕暮れの柔らかな光が城の石畳を染める中、ミサは客室を出た。少し緊張しながらも、レオンハルトの誘いに頷く。
「ミサ、少し庭園を歩かないか?」
「はい…ありがとうございます」
控えめに微笑むミサの隣には、護衛のイザベルとメイドのエリナが控えめに付き添う。イザベルは後ろを歩きながら、常に視線を巡らせて警戒を怠らない。
庭園に足を踏み入れると、淡い月光が花々や噴水を照らし、石畳に影が伸びていた。鳥や小さな虫たちの音が、静かに夜の空気を満たす。
「外の空気、気持ちいいですね」
「ふふ、昼間とは違った静けさがあるだろう」
歩きながらミサは足元の小石につまずきそうになった。瞬間、手を差し伸べて支えてくれたのはレオンハルトだった。
「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます」
握られた手の温もりに、ミサは自然と胸の奥が落ち着く。レオンハルトの瞳が赤く光り、まっすぐ見つめられると、言葉では言い表せない安心感が広がる。
「庭園も、ゆっくり見て回れるといいな」
「ええ、花も水面も、昼間とは違った顔を見せてくれますね」
しばらく歩くと、木漏れ日ならぬ月明かりの下で噴水が静かに水を揺らす。ミサはつい手を伸ばして水面に触れ、ひんやりとした感触に微笑む。
「皆さん、とても親切でした。街の人も…」
「そうか、それを聞けて安心した。こうして外の世界を見るのも大事だろう」
会話はゆっくりと弾み、街での出来事や小さな感動を二人で分かち合う。ミサの表情は少しずつ柔らかくなり、自然と笑みがこぼれる。
庭園を一巡した後、レオンハルトはそっと言った。
「そろそろ夕食にしよう。エリナが用意してくれている」
城に戻ると、暖かい光が差し込む食卓が二人を迎える。護衛たちは別室で食事を取るが、イザベルは控えめに見守る。
「庭園を歩いた後だから、よく食べてくれそうだな」
「はい、少しお腹も空きました」
料理の温かい香りに包まれながら、ミサは箸を手にして口元に運ぶ。
「庭園で見た光景、すごくきれいでした。噴水の水面に映る光まで、絵みたいで」
「ふふ、それを喜んでもらえるなら案内した甲斐がある」
「レオンハルト様と歩けて、少しずつ安心できました」
「そうか……少しでも楽しい時間になったなら、嬉しい」
夕食の間も、二人の会話は途切れることなく続く。庭園での感想や日々の些細な出来事、これから城で過ごすことへの期待や不安。会話の中で、ミサは初めてここで守られている実感を深く感じた。
月光に照らされた庭園の景色と、温かい食事の余韻が、心を穏やかに満たす。ミサは、守られていること、そしてここで少しずつ自分の居場所を見つけられることに、静かに喜びを感じた。
レオンハルトはその横顔を見つめながら、心の中で誓う。
──必ず、この人を守る。誰よりも近くで、笑顔を守りたい─




