第十三章 忍び寄る影
夜の城内は静まり返り、月光が廊下を淡く照らしていた。
ミサはイザベルと共に客室で過ごしていたが、まだ城の生活に慣れず、心は少し張り詰めていた。
そのとき、遠くで鈍い金属音と警鐘の響きが混ざる。
「侵入者! 捕らえろ!」
廊下に響く兵たちの足音に、ミサは息を呑む。イザベルが脇に立ち、「落ち着いて」と囁く。
ミサはうなずき、震える足で廊下に進む。
中庭の影の中に、複数の人影が動いていた。
敵国のスパイと思われる者たちが、城に忍び込んでいる。
護衛たちは迷わず前に出て、一人ずつ的確に包囲し始める。
突然、スパイの一人が振りかざした短剣が、ミサに向かって突き出された。
イザベルは迷わず前に飛び出し、体で攻撃を受け止める。
「ミサ様、危険です!」
衝撃で体が押されるイザベルだが、彼女は一歩も引かず、護衛としての役目を全うした。
カイルは冷静に他の侵入者の動きを観察し、素早く封じ込める。
ダリウスもすばやく動き、仲間の隙を埋めるようにスパイを制圧した。
その瞬間、赤い瞳を光らせたレオンハルトが駆け寄る。
一歩でミサの前に立ち、迷わず手を伸ばして彼女の手を握った。
その温もりに、ミサは驚きと安心が入り混じり、心の緊張が少しずつ解けていく。
「怖がるな、今はもう大丈夫だ」
レオンハルトの低い声が夜の中で静かに響く。
護衛たちはスパイを牢に押し込み、扉を固く閉じる。
赤い瞳を光らせたレオンハルトは、依然としてミサの手を握り、後ろではイザベル、カイル、ダリウスが警戒の姿勢を崩さず立っている。
ミサはその光景を静かに見つめる。
──私を守ってくれるのは、レオンハルト様だけじゃない。
イザベルも、カイルも、ダリウスも、みんなが私を守ってくれている。
ゆっくり息を整えながら、ミサは口を開いた。
「……レオンハルト様、イザベル、カイル、ダリウス……本当に、ありがとうございます」
イザベルは微笑みを浮かべ、少し頭を下げて答える。
「ミサ様、私たちは護衛ですから。これからもずっと、側にいます」
カイルも頷き、少し照れたように笑いながら言った。
「危険なことには、もう少し冷静になってもらわないと困りますが……無事で良かった」
ダリウスは無言で軽く手を上げて頷き、視線を外さず周囲を確認していた。
ミサは三人を見つめ、自然と笑みがこぼれる。
「……はい、これからも、よろしくお願いします」
そして、握られた手を通してレオンハルトの温もりを感じながら、ミサは胸の中で小さく思った。
──ここには、私を守ってくれる仲間がいる。怖くない、安心していられる。
この夜の出来事は、緊張と恐怖の中で、ミサとレオンハルト、そして護衛たちの絆を確かなものにしたのだった。




