表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/407

44 話のわかるシスコン


「我が名はパシオンだ。貴様、名はなんという」

「ナガマサです」


 目の前のパシオンのことが、なんだか大らかな気持ちで見られるようになった。

 バカだと思うとなんか怒るのもバカらしくなってくるよね。


 名前を聞かれたので素直に答えた。

 自己紹介してくれたってことは、向こうも話をしてくれる気になったんだろうか。 


「まずは先程の非礼を詫びよう。女児に剣を向けるは男児に非ず。申し訳ない」

「ぱ、パシオン様!? このような者達に頭を下げる等……」


 謝罪と共に頭を下げたパシオンを見て、お供の男ジャルージが慌て出した。

 そしてパシオンを諌める。

 その行動はパシオンの怒りに触れたようだ。


「貴様の非礼を詫びているのだ! 貴様も頭を下げぬか! 切って落として地面に押し付けてくれようか!?」

「は、はっ! ……申し訳ないことをした」

「首切るの? タマ手伝おっか?」


 めっちゃ怒ってる。

 物理的にクビにされそうな勢いだ。

 そこでタマが物騒なことを言って乱入していく。

 やめなさい。


「はいはい、タマちゃんはちょっと向こうで俺の筋肉とマッスルしてようか」

「まっするまっする!」


 マッスル☆タケダが空気を読んでタマを引きはがしてくれた。

 ジャルージがちょっと安心してるのが分かる。

 切り落としたらどうなるんだろう?


「タマちゃんか。タマちゃんもすまなかった。許してくれ」

「……すみませんでした」

「タマはさいきょーだから許す!」


 タマの名前を聞いたパシオンはタマに向き直って改めて謝罪した。

 タマは許してくれるようだ。

 最強だからな。

 心も広い。


「さて、ナガマサよ。ではどうしたら至高の我が妹ミゼルに怒られず、その装備を手に出来ると言うのだ? 譲る気はないのだろう?」


 ええと、なんだっけ。

 妹さんの話か。

 常識的な妹さんに怒られない方法なんて、常識的な方法しかないだろう。

 少なくとも、脅して強奪するのは常識的ではないと思う。


「勿論そんな気はないですよ。さっきパシオンさんが仰ったように、素材を集めて作ればいいじゃないですか」

「ううむ、やはりそれしかないか。あの装備に使われている素材はどこで採取出来るのだ? 特にあの銀色の装甲部分だ。あの気高くも美しい、可憐なあの輝きは相当希少なものに違いない」


 パシオンは少し悩んだ後に、素材の情報を訪ねてきた。

 それほど、将軍クワガタの素材があしらわれた鎧に一目惚れしたらしい。


 なんというか意外だ。

 話さえ出来れば、このパシオンは素直らしい。

 バカなだけに単純なのかな。

 しかも見る目はそれなりにあるようだ。

 多分貴重だからな。


「あれはストーレの街から南へ行った、ストーレの森04にいる将軍クワガタというモンスターの素材です」

「なっ!?」

「あの≪魔の森≫の……? ジャルージ、将軍クワガタというモンスターを知っているか? 知っているのならば、その情報のみ発言を許そう」


 俺の返答にジャルージはかなりびっくりしている。

 パシオンも、驚くどころか困惑しているらしい。

 魔の森って何?


「はっ! 将軍クワガタとは、あの森を支配するモンスター達の中でも、高位に位置するMVPモンスターです。その恐ろしさは、かつてこの街の騎士と魔道士を総動員して、ようやくあの森に封じ込めることが出来た程という、とんでもないものです」

「それほどのものか」

「はっ! しかし、我々精鋭の力を以てすれば討伐は容易いかと」

「ふむ」


 かっこつけたように跪く。

 そんなジャルージの情報を聞いて、パシオンは考え込んだ。

 MVPモンスター?

 倒した時に出たあのMVPの文字と何か関係があるんだろうか。


 しかしあのクワガタ達にそんな逸話があったとは。

 知らないだけで他のモンスター達にもそういうのありそうだよな。

 調べてみるのも面白いかもしれない。


 だけど精鋭かぁ。

 どのくらい強いか分からないけど、タマに剣を掴まれて狼狽えてるようじゃ難しいんじゃないのか?

 正直タマは最強すぎるから、比較は難しいかもしれないが。

 考え込んでるけど、鵜呑みにするんだろうか。

 パシオンはバカだからなぁ。


「ナガマサよ、将軍クワガタの素材入手の助力を願えぬか?」

「パシオン様!? こんなどこの馬の骨とも知れぬ冒険者如きに」


 意外とパシオンは賢かった。

 バカだけど間抜けじゃないってやつ?

 ジャルージの意見を鵜呑みにすると思ってすみませんでした。


 そこで納得いかなかったのがジャルージだ。

 まぁその気持ちも分かる。

 お前達じゃ頼りにならない、と言われたとも取れるからな。


「貴様に発言する権利はないと言っただろう! もう良い、先に帰っていろ!」

「ですが!」

「ジャルージ! ――二度は無いぞ」

「……」


 でもパシオンの言う通り、発言は許可されてないんだぞー。

 やーいやーい、上司に逆らう無能部下ー!

 心の中で煽っている内に、ジャルージは無言で一礼して去って行った。


 さて、どうしよう。

 これって何かのクエストなのかな。

 発生条件が謎過ぎるし、どうなるかも全く分からないんだけど。


 うーん、せっかくだし受けてみるか。

 内容も一度倒したモンスターを討伐すればいいみたいだし。

 タマがほぼ一人で倒したから、いつかまた挑もうとは思っていた。

 早いか遅いかの違いでしかない。


「分かりました。お手伝いします。タマもいいか?」

「おっけー!」

「助かる」


 タマに確認すると大きな声でお返事してくれる。

 依頼を受けてもらえてパシオンも嬉しそうだ。

 なんか妙なことになったけど、受けたからには頑張ろう。


「それで、とりあえず試着してもいいですか?」

「ああ、構わん。私は新たな鎧を我が妹ミゼルに捧げるという、至上の目的が出来たからな。その鎧は貴様の物だ。好きにすべきだ」

「タマ、これ着てみてくれ」

「わーい!」


 ずっと持ったままだった装備をタマに渡す。

 流石にここで着替えさせるのはまずいので、ストレージから着てもらった。

 一瞬の早業で衣装が変わる。

 昔映像で見たマジシャンもびっくりだ。

 こういう時ゲームって便利だな。


「うわー! かわいい? かっこいい? しゅばって感じ?」

「うむ、ピッタリだな。我ながら会心の出来だ」

「おお、すごい可愛いぞタマ」

「やはり私の目に狂いは無かったようだな。素晴らしい鎧だ」

「やったー!」


 その出来栄えは、最高だった。

 俺の語彙じゃ表現出来ないくらい最高だ。

 ノースリーブでへそ出しで、ショートパンツにニーソックスとかやばい。

 タマじゃなかったら色気が爆発しそうだ。

 

 作成を不安がっていたタケダも満足のいく出来栄えだったようだ。

 これなら納得だ。

 素晴らしいとしか言えない。

 これはパシオンが欲しがるのも無理はない。

 やり方には問題しかなかったけど。


 タマも満足したみたいだし、作ってもらって良かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めましたので、こちらもよろしくお願いします!
友人に騙されたお陰でラスボスを魅了しちゃいました!~友人に裏切られた後、ラスボス系褐色美少女のお嫁さんとして幸せな日々を過ごす私が【真のラスボス】と呼ばれるまで~
面白いと感じたら、以下のバナーをクリックして頂けるととても有難いです。 その一クリックが書籍化へと繋がります! ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ