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 モニターの向こうでは、均衡が崩れていた。

 やっぱり補充され続けるモンスター軍団に、プレイヤー側の戦力が追いつけなかったようだ。

 倒れた奴はどんどん運ばれていくからな。それも仕方がないだろう。


「もうほとんど決着が付きそうだね」

「そうですね」

「タマ達の勝ち!」

「ムッキーの仲間達が負けるわけないから……!」


 結果は一方的だったけど、プレイヤー側も結構持った方だと思う。

 思ったよりもレベルの上がり方が早いんだろうか。


 人数が減って囲まれるプレイヤーが増え、一気に仕留められていく。

 リーダーっぽいのももう残ってないし、こっちはもうほぼ終わりだ。

 βNPC達の様子でも見てみるか。


 ウインドウを操作して、カメラを切り替える。

 映されたのは、室内訓練場だ。


 ここは狭い室内での戦闘を想定して作られた場所だ。

 大勢が入れるよう、昨日の内に中の物は一時的に撤去されてただの長方形の広い部屋と化している。


 モニターの向こうでは大勢のβNPCがいくつかのグループに分かれ、和やかに談笑している。

 そこに、一体の宝石フルーツ細マッチョがやって来た。

 細マッチョは辺りを見回すと、近くのグループの方へ歩み寄る。

 そして、抱えていた一般プレイヤーをβNPC達の足元へと放り出した。


 βNPC達は明らかに喜んでいる。

 声が聞こえたらもっと分かりやすいに違いない。


 去って行く細マッチョを笑顔で見送り、このグループのβNPC達は一般プレイヤーを囲んだ。

 輪っかを作るように等間隔に立ち、全員がお揃いのローブの中からお揃いの短剣を取り出した。

 あれが俺が作った特製の防具と短剣で、今回の記念兼参加賞だ。


 タイミングを見計らうように全員がしゃがみ、短剣を振り上げる。

 そして、同時に振り下ろした。

 六本の短剣がほぼ同時に突き刺さり、1だけ残っていた一般プレイヤーのHPが今0になった。

 

「これは……何をしてるんですか?」

「今のは、公平になるように同時に攻撃してるんだよ」


 今のイベント中、俺達βNPCは一日三人の一般プレイヤーを倒さないといけない。

 今回の防衛戦のついでにそのノルマを消化してもらおうと集まってもらった訳だけど、順番をどうするかという話題が挙がった。

 結構な数の獲物がいるのは分かってたけど、心情として先に倒したくなるものだ。

 万が一順番が遅いと、行き渡らない可能性もあるし。


 そこで決まったのが、今の全員で同時に攻撃する方法だ。

 これなら世界側で判定してくれるし、同時に攻撃すれば変な後腐れもないだろうと、伊達が提案してくれた。

 会場にはタマ達が巡回しているから、これでも納得出来ず揉めるようならすぐに対応も出来るしな。


「なるほど。私はてっきり、古代から伝わる儀式的なものかと思いました」

「そんな怪しい感じのことはしてないからね」

「ふふ、すみません」


 一般プレイヤーのHPが0になると同時に、グループの中の一人が喜びだした。

 他の人は残念がったり、その人を祝福したりしている。

 とても和やかなムードだ。

 どこにも怪しい儀式的な空気は無い。


 何故か照明はつけられておらず、その代わりに蝋燭が置いてある。

 しかも窓が無いお陰で薄暗いが、それだけだ。

 多分タマの趣味だろう。


「お、もう終わったみたいだね」

「本当ですね」


 モニターを校庭に戻すと、完全に決着がついていた。

 全ての一般プレイヤー達は運ばれていて、一人も残っていない。

 現場を指揮していたタマが地面に降り立ち、腕を突き上げた。


「大勝利ー!」


 その動きに合わせて、校庭の皆も腕を突き上げる。 

 石華やピンポン玉も勝利を喜んでいるようだ。


 ちなみに、今の台詞はここにいるタマが叫んだ。

 繋がってるからつい出ちゃったんだろう。

 可愛いやつめ。


 今日のところは俺達の勝ちだ。明日も明後日も、負けるつもりはない。

 このまま、イベント終了まで油断せず過ごそう。

 俺は第二の人生を満喫するんだからな。







「くそったれ! 離せ!」


 気持ち悪いモンスターに抱えられたまま、運ばれていく。

 どれだけ身体を捩ろうとしても、一向にいう事を聞いてくれない。

 視界の端には状態異常の麻痺を表すアイコンが表示され、身体の表面にも黄色い電気のようなエフェクトが奔っている。


 校庭での戦闘で転がされた俺は、ご丁寧に麻痺までかけられてこうして運ばれている。

 戦闘中にも、他のプレイヤーがこうして運ばれていくのは何度か見掛けてはいた。

 運ばれたプレイヤーは帰って来ることはなかった。

 どこへ運ばれてどうなったか、気にはなっていたが自ら体験したくはない。


 通路は暗く、両脇に蝋燭が怪しく燃えている。

 明らかにろくな雰囲気ではない。

 

 抵抗虚しく、一つの部屋へ到着した。

 広くて何もない、暗い部屋だ。通路と同じように、灯りは蝋燭しかない。

 そこでは、黒いローブを着た奴らが大勢待ち構えていた。

 大体六から八人程で固まっている。


 いくつかの小集団の内一つの足元に転がされた。

 まるで哀れな生贄のようで、無様だ。

 どうしてゲームでこんなことになってるんだ、俺。


 今はそんなことを考えても仕方がない。

 こうなったら意地だ。どうなるか最後まで見てやる。


 黒ローブの連中は、輪になって俺を囲んだ。

 どいつもこいつも、喜色に満ちた顔をしている。


「これから俺をどうしようっていうんだ……!?」


 少し喋りづらいが、口は動く。

 俺の問いかけに、黒ローブ共は怪しく笑うだけで返事を寄越さない。


 そして、全員が短剣を取り出した。

 シンプルな作りだが、その刃は鋭い。

 まさか、それを俺に突き立てる気か!?


 くそ、動け、動けよ!

 Vitに振ってるから状態異常には強い筈なのに、いつになったら解除されるんだ!?


 黒ローブ共がしゃがみこんで、俺との距離を詰める。

 どいつもこいつも楽しそうな顔で短剣を振り上げている。

 ああくそ、近くなったせいで気持ち悪い、ニタニタとした笑顔がよく見えてしまう。


 駄目だ止めろ助けてくれ。

 もう言葉すら出せずに、しかし心の中では懇願する。

 異常だ。

 この場所は異常過ぎる。

 もう嫌だ。こんなところ来るんじゃなかった!


 六本の短剣が、俺の身体へと吸い込まれるように振り下ろされた。


 HPが0になり、何も考えずにセーブ位置でのリスポーンを選択する。

 こんなところ、一秒だって居たくない。


 薄れゆく視界の中、最後に見た光景は異常に喜ぶ黒ローブの男の姿だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] (よっしゃ!レベル上がった!)こんな感じなんだろうなぁ。ゲームやりながら鏡見れないな(自分の顔見るなんて画面が暗くなって映ってる時くらいだとは思うけど)こんな邪悪な顔でやってるのか
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