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 やっぱり俺は、そこまで強いとは認識されてなかった。

 生徒達の間では、ミルキーが最強。タマは別次元。

 俺は事務とか経営担当。

 校舎裏に行くまでの間に、キャロラが教えてくれた。


 学校では、戦闘とかろくにしていない。

 授業は皆に任せきりだし、課外授業の引率もほぼミルキーにお願いした。

 結婚式の準備とかしてたからっていうのもある。

 

 格好も、校内では武装してないからズボンにシャツの普段着スタイルで過ごしている。

 全く強そうには見えない。

 他の場所なら、プレイヤーに絡まれてもおかしくないレベルで弱そうだ。


 でも、弱いと思ってくれていた方がこの付き添いには有利だ。

 バブロンの真意が分かる。

 相変わらず不安そうなキャロラには悪いけど、何かあればちゃんと守るから許してほしい。


 校舎裏にやって来た。

 そこには、バブロンが一人で待っていた。


「来てくれたのか……って、校長?」

「どうも」

「ごめん、一人だと不安だったから、付き添いをお願いしたの……」

「そ、そうか」


 嬉しそうな顔から、困惑したような顔へと変わる。

 明らかに俺のせいだな。

 そんなに見つめたって、居なくなったりしないぞ。


「それで、謝りたいって……」

「あー……そうなんだけど、うん」


 バブロンはキャロラに戻した視線を、またこっちに向けてくる。

 そんなに俺が気になるんだろうか。

 微妙そうな顔をしている。

 けど、何かに納得したようだ。


「校長一人くらいならいいか」


 バブロンから、さっきまでの困惑したような雰囲気が消えた。

 覚悟を決めたというか、決心したように見える。


「え……」

「どうしたんですか?」

「えっと、決闘の申請が……」


 キャロラが困惑の声をあげる。

 どうやら、バブロンから決闘の申請が来たらしい。

 決闘?

 どういうことだろう?


「さっきは、どうかしてた。謝っても謝り切れない。お前だって、雰囲気に流されただけで完全に許せたわけじゃないだろ? 校長――校長? とにかく、相談して付き添ってもらってるんだしな」

「そんなこと……」

「いや、それはいいんだ。別に責めてる訳じゃないし、ごくごく自然なことだ」 


 バブロンは一人で納得している。

 どうなんだろう。

 俺がキャロラに許せるかどうか確認した時、許さないといけないような雰囲気があったんだろうか。


 許せないけど、揉めたくないから許したとか?

 そしてバブロン的には、俺に付き添ってもらってることが許せていない証になるらしい。

 

 それもどうだろう。

 許したとしても、襲ったのは事実であって、それが無くなることはない。

 また襲われるかもしれないなんて、どうしても考えるだろう。

 それを警戒するのは、許す許さないとはまた別の話だと思う。


「だから、この決闘を受けてくれ。俺は一切手を出さないから、好きなだけ攻撃していい。アイテムやお金も、俺だけありったけ賭ける。自分勝手だけど死にたくないから、どうかこれで許してほしい」

「でも……」


 バブロンの申し出に、キャロラが困ってしまった。

 俺もびっくりした。

 そういうことか。

 他人の存在を気にしたのは、女の子に一方的に攻撃されるところを見られるのが、恥ずかしかったからなんだな。


「受けてあげても大丈夫だと思います」

「でも……」

「もし攻撃したくなければ、しなくてもいいんですし。俺も一緒に参加して、何かあれば守りますから。いいですよね?」

「勿論構わないぞ」


 受けてもらわないと、バブロンの考えがはっきりとは分からない。

 決闘の中でキャロラを攻撃しようと考えてる可能性も、ゼロではないからな。


 俺の参加も、バブロンは認めてくれた。

 攻撃しないなら拒否する理由もない。

 俺ならどうとでもなると考えてるのかもしれない。

 まだ分からない。


「わかった。じゃあ、受ける……」

「助かる」

「ルールはしっかり確認してくださいね」


 キャロラが承諾してくれたことで、決闘を受けることになった。

 ルールは、二対一で、十分間の制限時間制。

 相手のHPを0にするんじゃなく、与えたダメージが多い方の勝利。


 バブロンは大量のアイテムとお金を賭けている。

 キャロラが勝てば、全部がキャロラのものになる。

 対して、キャロラは何も賭けない。

 お詫びの決闘だからそれはそうだな。


 よく確認してから、キャロラが承認を押す。

 いつものように、決闘のフィールドが出現する。

 ここは校舎と村の境界の間の狭い場所だから、まるで通路のようなバトルフィールドが完成した。


 決闘が始まった。


 バブロンは動かない。

 キャロラも動かない。

 二人が動かなければ、俺も特にすることはない。


 時間だけが流れていく。


「お、おいキャロラ? 攻撃しないのか?」

「だって……」


 どうやら、キャロラに攻撃の意思はないようだ。

 本当に許しているのか、変に揉めたくないだけなのかは分からない。

 どちらにせよ、攻撃したくないらしい。


 俺はそれでいいと思う。

 だけど、バブロンはそうじゃなかったようだ。


「攻撃してくれ。そうじゃないと、俺の気が済まないんだ」

「私は……バブロンさんと同じになりたくないから」

「そんな……!」


 攻撃をお願いし始めた。

 しかし、キャロラはきっぱりと断った。

 そういう理由だったんだな。


 バブロンは、がっくりと崩れ落ちた。

 膝と手を地面に付いて、項垂れている。

 だが、バブロンもめげない。


「頼む、攻撃してくれ!」

「こ、来ないでください!」

「頼む!!」


 バブロンは落ち込んでいた体勢のまま、ハイハイをするようにキャロラへ接近していく。

 キャロラが怖がっているがその動きは止まらない。

 足元まで辿り着き、そのまま土下座へと移行した。

 

「俺を思う存分いたぶってくれ!」

「そんな趣味はないから!」

「お願いだ! その立派な杖で俺をしばいてくれ!」


 キャロラが離れようと下がると、バブロンは土下座のまま地面を這って追いかける。

 ステータスが高いせいで無駄に速い。

 まるで虫みたいだ。

 普通に怖い。


 逃げるキャロラと、土下座のまま地面を這いまわるバブロン。

 これは、俺はどうしたらいいんだろう。 

 嫌がらせみたいに見えるけど、謝ろうとしてるだけっぽいしなぁ。

 

 そして、十分が過ぎた。


 最終的に、時間ギリギリにキレたキャロラがバブロンを蹴っ飛ばした。

 そのダメージ分でキャロラの勝利。

 無事に、慰謝料が払われた。


 バブロンが本性を現してキャロラに襲いかかったり、キャロラがブチ切れてバブロンをボコボコにしたり。

 そういうことは全く無かった。

 だけど、キャロラにとっては軽くトラウマになってそうだ。

 

 まあ、また襲われるような展開じゃなくて良かったよ。



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― 新着の感想 ―
[一言] はたから見てればその様子は、ドMの変態行動にしか見えない……!! 第三者視点なら完全に喜劇だけど、当人へは本当に強い精神攻撃になってますわぁ。 タイムアップ寸前で蹴られた時に「ありがとうご…
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