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遂にイベント始まります
良い結婚式だった。
グダグダだったり、タマがはしゃぎまわったりしてたけど、皆笑顔だった。
ミルキーもミゼルも、喜んでくれた。
だから、成功だ。
準備を進めてて良かった。
二人のドレス姿、綺麗だったな。
そして今日は、イベントが実装される日だ。
結婚式に出席してくれたゼノが、情報を持って来てくれた。
リリースから丁度一週間後、この世界では二週間後である今日の正午に開始。
屋外にいれば、オープニングイベントを見ることが出来る。
詳細は相変わらず不明だけど、やっぱりβNPCを狩るようなことを仄めかされているらしい。
情報としては以前とあまり変わらないが、これだけでも有り難かった。
特に時間は大事だ。
何も知らないまま始まってたりしたら、酷いことになるからな。
さて、俺達はグラウンドへとやって来た。
「午前の授業はここれまで。礼……!」
「「「ありがとうございましたー」」」
葵の号令で、生徒達が頭を下げている。
対人戦闘の授業をここでやっていて、丁度今終わったところのようだ。
花火と女神が、多少疎らだけど空に打ち上がった。
十人くらいでヒーローのようなポーズを決めている。
そう考えると多く見える。
「今日はイベント開始の日だから、時間までここで待機しててねー」
挨拶が終わると同時にこっちへやって来た葵の代わりに、モグラが生徒達に声を掛けてくれている。
屋外にいたらオープニングイベントが見られるらしいからな。
それを生徒達と一緒に見るつもりでここに来た。
俺の隣には、タマとミルキーもいる。
ミゼルと紅葉は昼食の準備をしている。
誘ったが、仕事の方に集中したいということで、無理に連れて来ることはしなかった。
全員が見られるものでもないし、見ないと死ぬってこともないだろうからな。
「うへぇ、疲れて微振動することしか出来ないぜ……」
「微振動する体力はあるんですね!」
「ぶぶぶぶぶぶぶ」
「うわー!」
ゴロウの謎の台詞に純白猫が反応する。
そして細かく振動するゴロウを見て、タマが嬉しそうにはしゃいでいる。
そんな皆のやりとりを眺めていたら、空が急に暗くなった。
「空が」
「始まったか……」
「どんなイベントになるんだ」
暗雲のようなものがどこからともなく溢れてきて、空を覆ってしまったようだ。
生徒達もざわついている。
時間を見ると、12時になったところだった。
空に、大きな人影が映し出された。
文字通りの黒いシルエットで、顔ははっきりとは見えない。
上半身だけだし、投影か何かをしてる感じだ。
『世界の害虫諸君、御機嫌よう。私は、神滅魔神フィアガストだ』
フィアガストと名乗ったやつの声は、ねっとりとした男のものに聞こえる。
台詞といい、明らかに良い奴ではない。
前に城を襲った悪魔が神滅魔王を名乗ってた筈だ。
神滅魔神というのも、嫌なイメージしか湧いてこない。
基本的に神滅魔なんとかって付くやつは、悪役と考えていいだろう。
『目障りな諸君らには消えてもらおうと思う。しかし、ただ滅ぼすのも詰まらない。そこで私は考えた。どうせなら、面白くしてやろうと。見るが良い、これが私の、力の一旦である!』
シルエットが腕を大きく振るうと同時に、周囲が闇に包まれた。
余りにも一瞬で反応出来なかった。
幸い、一瞬で元の景色に戻った。
「今のは一体……?」
「皆、大丈夫? 痛みとかは無い?」
「大丈夫みたいですけど……あ、ナガマサさん、アイコンの色が」
「え?」
身体に変化は特に無い。
きちんと動く。
他の皆にも確認してみるが、特に問題は無かった。
しかし、大きな変化が一つだけあった。
今まで青色だった皆のアイコンが、紫に染まっていた。
これは、PKを示す色だった筈だ。
どうして急に?
考えられる理由は、あの魔神だ。
『くはははは! 気付いたかな? そう、害虫諸君の中でも、忌々しい神共から祝福を受けた者達は多少強い力を持っている。そこで、一部の者達を私の手によって洗脳した。この意味が分かるかな?』
フィアガストは楽しそうに笑っている。
だけど、それどころじゃない。
あいつの台詞はほとんど耳に入っていなかった。
今一番関心を集めているのは、一通のメッセージだ。
一瞬暗くなったタイミングで届いていたらしい。
それの差出人は、運営になっていた。
内容は、イベントについての詳細だ。
一般プレイヤー達には公開されることのない、俺達にだけ向けられている。
『 お知らせ
カスタムパートナーオンライン運営チームです。
本日より開催されますイベントについて、連絡致します。
イベント期間中は、いくつかの仕様変更がございます。
・βテスターNPCの皆様のアイコンの色を一律で紫に変更
PK行為を行っていない方も含めて、全員が紫へ変更となります。
イベント期間中のPK行為は、イベント終了後のアイコンの色への影響はございません。
・NPCからの対応を変更
神滅魔神フィアガストの権能により、皆様は洗脳された状態となっています。
イベント期間中、全てのNPCから恐れられ、敵対しているとみなされます。
・期間限定クエストの設定
イベント期間中は一日毎に三人の一般プレイヤーをキルしてください。
日付が変わった時点で達成していなかった時点で、死亡します。
また、特別点として、βテスターNPCをキルした場合、一人で七日分のクエストを達成したとみなされます。
・PK可能エリアの変更
イベント期間中はβテスターNPCと、βテスターNPC、一般プレイヤー、NPC、間での戦闘行為が可能となります
以上が、変更点となります。
期間は本日より、ゲーム内時間で二週間となっております。
イベント終了後は、全ての仕様をイベント前と同じ状態に戻します。
これからもカスタムパートナーオンラインをよろしくお願いします』
『では諸君、せいぜいその短い生涯を楽しみたまえ』
それは誰に向けて言ったものか。
メッセージを読み終わる頃に、フィアガストのシルエットも消えていった。
空も、いつの間にか晴れ渡っている。
生徒達はまだ混乱している。
あんな内容じゃ、それも仕方がない。
ミルキーやモグラは、慌てた様子は無い。
覚悟が出来てるってことなんだろうか。
俺も、そこまで気負ってはいない。
学校を作っていて良かった。
このイベントは悪質だけど、学校のお陰でここにいる皆を救うことは出来る筈だ。
とはいえ、このメッセージもまだしっかりと読み込んではいない。
細かい部分をしっかり確認しないと。
NPCの好感度についての部分、敵対ってどういう――。
「――っ!?」
「モジャマサ、食堂!」
「行こう!」
「ナガマサさん!?」
タマと一緒に走り出す。
瞬間移動を使って、玄関までは一歩だ。
校舎内も、なるべく最短距離で移動する。
俺の耳には確かに、ミゼルの悲鳴が聞こえた。




