303
土地の元の値段を変更しました
六百万→一千万
――コンコン。
「はーい」
「来たかな」
二人でしばらくのんびりしていると、我が家にお客さんがあった。
ミルキーが返事をして玄関へと向かう。
気になって俺も後ろを付いて行く。
ミルキーがドアを開けると、作業着のようなものに身を包んだ、少しふくよかなおじさんが立っていた。
顔に比べて少し小さな眼鏡を鼻の頭に乗っけている。
「初めまして、建築士のボルドと申します。ギルドからの依頼で参ったのですが、ナガマサ様のお宅で間違いないですかな?」
「はい、あってます。来てくれてありがとうございます」
「まずは上がってお茶をどうぞ」
冒険者ギルド経由で依頼した建築士だった。
時間通り、ピッタリだ。
「ありがとうございます。しかし、お話はある程度窺っております。土地はご用意なさっていて、施設の大きさと、必要な建築資材のお見積りで間違いなかったですかな?」
「はい、それでお願いします」
「畏まりました。時は金なりと申しますし、あまりお時間を使わせてしまうのも恐縮してしまいます。早速現場へ参りましょう」
まずは話をしようと、ミルキーがお茶を提案した。
だけど、柔らかい笑顔を浮かべて確認からの、移動を促した。
ギルドにした話がしっかりと伝わっていたようだ。
それならこのまま移動しても大丈夫かな。
俺達に時間を使わせるのを悪いと思ってるようだし、そうしよう。
見た目通り、良い人そうだ。
「分かりました。ミルキー、案内してもらっていい?」
「はい、こちらです」
「ははは、綺麗な奥さんで羨ましいですなぁ。よろしくお願いします」
「ありがとうございます」
ミルキーが先導して歩き出す。
話には聞いていたけど、俺もまだ現地を確認していないから、案内をお願いした。
ボルドの言葉にお礼で返しながらふと前を見ると、ミルキーの耳が赤くなってるような気がした。
歩くこと、十分程。
広々とした空地へと到着した。
ここは村の唯一の出入り口から見て、ほぼ正反対の位置にある。
柵を拡張したかのように、微妙に円が歪んでる気がする。
「ほほう、かなりの広さがありますな」
「そうですね」
その土地は、まだ何もなかった。
真っ平らな完全な空き地だ。
こんな場所は多分、無かったと思う。
『一千万パワーを受けてみよ!!』
きっとパシオンが金に物を言わせて、村の敷地を拡張して作ったんだな。
畑や放牧スペースみたいにポンと出来るものじゃないと思うんだけど……。
流石、腐っても王子はやることが違う。
その広さは、どのくらいって言えばいいんだろう。
昔遠くから眺めた学校の運動場くらい?
多分、今立ってる正面の位置から見て、横幅百メートル、奥行き五十メートルくらい……かな。
とにかく広い。
普通に買うと一千万cするだけはある。
パシオンの怨念か何かが感じられる値段だ。
「この土地でしたらかなり大きなものが建てられますな。どのくらいのものを希望なさいますかな?」
「うーん……」
土地が広いと、大きな建物も建てられる。
それは間違いないが、お金も資材もその分かかる。
でもせっかくだし、大きなものを造りたい気はする。
よし、決めた。
校舎は土地の奥側に建てる。
大きさは、奥行き三十メートル、横幅は五十メートル程。
三階建てで、三階部分は寮も兼ねる予定だ。
他の部屋については、皆と相談して決める。
残った土地は、何か必要な設備を作るのと、訓練場にする。
ストーレのお城にもあった、あんなやつだ。
「こんな感じにしたいんですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。細かい内装は後日で構いません。まずはこの希望案を元に、資材と料金の見積もりを算出したいと思います」
土地を歩き回り、時には地面に線を引いて説明した。
三十分程掛けて希望をボルドへ伝えると、心強い調子で応えてくれた。
ミルキーにフォローしてもらいながらも、俺の説明はかなりグダグダだった筈だ。
それなのに、ボルドは嫌な顔一つしていない。
これは期待が出来そうだ。
「わかりました、お願いします」
「承りました。明日にはお見積書を送りたいと思いますので、しばらくお待ちください」
「はい」
こうして、ボルドは色々とメモをした資料を手に、帰って行った。
ちなみに、ギルド専属の魔法使いがいるそうで、離れた場所へは魔法で一っ飛びするらしい。
移動手段はしっかり確保してるんだな。
思ったよりも学校が大きくなりそうだけど、資源とお金はどのくらいかかるんだろうか。
楽しみでありつつも、少し不安だ。
これは、明日までにある程度稼いでおくべきだな。
というわけで、畑で葵達と遊んでいたタマと合流して、ダンジョンへ行くことにした。
今回はミルキーと三人で、全力狩りだ。
場所はいつもの≪無明の城≫。
ここは宝石系のドロップがザクザクで、ここの素材は高く売れる。
宝石は魔法系の補正が掛かりやすい素材だから、需要が高いんだそうだ。
「全力で狩るぞー!」
「おー!」
気合いを入れると、タマがどんどん分裂して、駆け出して行った。
数えたわけじゃないけど、多分数百人以上いる。
「これは……タマちゃん達だけで十分そうですね」
「そうだね。俺達は輝きの洞窟の方に行こうか」
「はい」
タマの全力は恐ろしい。
あれだけいたら俺達がいても効率は変わらない。
俺達は、別のエリアで狩りをすることにした。
どさくさに紛れてミルキーの手を取ってみたけど、特にリアクションは無かった。
拒否もされてないわけだから、そのまま≪輝きの洞窟≫へと向かった。




