301
リビングには、タマ、ミルキー、ミゼル、葵が揃っていた。
狩りに行く予定だったけど、話を聞いてもらう為に着席してもらっている。
「作戦変更!」
「作戦変更だー! 総員かかれー! うおー!」
俺の号令をきっかけにして、タマが吠える。
テンションMAXだ。
そんな中、ミルキーが戸惑いがちに手を挙げた。
「すみません、話がよく分からないんですけど……」
「ごめん、ちゃんと説明するね」
俺はまず、ゼノが教えてくれた事を話した。
俺達βNPCをターゲットにしたイベントが開催されるらしいという、やばい情報だ。
正直に話すかどうか迷ったけど、俺達は家族だ。
障害があっても出来るだけ隠し事はせずに、皆で協力して乗り越えたい。
「なるほど、そういうことですか」
ミルキーは、納得したように頷いている。
心配していたような反応は特に無い。
良かった。
以前、運営からのメッセージで狼狽えてたからちょっと心配だったんだよな。
『ナガマサさんがついてるんですから、不安なんてありませんよ』
ふと、いつだったかのミルキーの台詞を思い出した。
細かい部分は自信が無いが、大体こんな意味だった気がする。
この毅然とした態度は、今も、そう思ってくれてるってことなんだろうか。
そう思うとちょっと照れる。
「ナガマサさん?」
「――あ、ごめん、何?」
「もう、ナガマサさんってば呑気ですね」
関係ないことに意識が集中し過ぎてしまったらしい。
ミルキーに名前を呼ばれて我に返った。
とりあえず笑って誤魔化しておこう。
「あはは、そうかな」
「そうです。お陰で、どんな時でも気は楽になりますけどね」
笑ってみたら、ミルキーも笑ってくれた。
これは、褒められてるんだろうか。
笑顔だし、褒められてると思うことにしよう。
「そうですね。ナガマサ様はその呑気なところが素敵だと思いますわ」
「トゲトゲしてなくて、いい」
「モジャはモジャモジャしてるからね!」
「確かに……!」
そこにミゼルと葵も乗っかって、更にタマがモジャを放り込んできた。
もはや意味が分からない。
だけど、他の皆はそれで盛り上がっている。
結果オーライ?
「ナガマサさん、それで、何か準備をする為に予定を変更する感じですか?」
「あ、うん、そう。よく分かったね」
「今の話の流れで、そうかなと思いました。当たってて良かったです」
思い切り脱線したところで、ミルキーが軌道を修正してくれた。
予想が正解して喜んでるところも可愛い。
なんて素晴らしいお嫁さんなんだろうか。
「それじゃあ、俺が思いついた備えについて説明するね」
よりいっそう激しくなるだろう、一般プレイヤーからの攻撃。
それに対する備えとして俺が思いついたのは、学校だ。
「学校、ですか?」
「学校嫌い……!」
「ろくはらろくはらぎむきょういくぅぅぅぅぅうううぅうぅぅうう!!」
久しぶりにクレイジーが叫びだした。
相変わらず意味が分からない叫びだ。
何か、学校で嫌なことでもあったんだろうか。
俺はほとんど行けなかったから、憧れてるんだけど。
「葵ちゃん、私と一緒に向こうへ行きますか?」
「そうする」
ミゼルが、葵を気遣って連れ出してくれた。
裏口から放牧スペースの方へ行くようだ。
俺は、ミルキーに説明を続ける。
ミゼルには、また後で改めて。
学校というのは、βNPCを鍛える場として創る。
一般プレイヤーが強いなら、それよりも強くなればいい。
そうすれば、例え狙われたって大丈夫な筈だ。
被害は完全にゼロになるわけじゃないだろうけど、やらないよりは間違いなく良いだろう。
「それは、他の人も鍛えるってことですか?」
「うん。家族だけなら多分余裕なんだろうけど、出来るなら、他のβNPC達の助けになりたいんだ」
それが、俺が学校を思いついた理由でもある。
ミルキーに言った通り、俺達だけなら一般プレイヤーに負けることは無いだろう。
負ける気は全くしない。
だけど、それだと他のβNPCはどうなるか。
多分、生き残れるのはそんなに多くない気がする。
イベントの詳細は不明で、どの程度殺しに来るかも分からない。
でも、運営の態度は明らかに俺達の命の心配をしていない。
むしろ、殺そうとしてるんじゃないかと思うくらいだ。
そんな運営が仕掛けるイベントだ。
βNPC相手にだけ街中でPK出来ます、なんてなったとしてもおかしくはない。
そうなれば、戦闘力の低い生産系の職業の人達なんかはもう逃げ場が無くなる。
幸い、俺はかなり余裕がある。
イベントが始まるまでの間くらいは、他の人の事も考えてもいいと思った。
「どう、かな?」
「私はいいと思います。学校、作りましょう」
「やった。ありがとう!」
ミルキーは、迷うことなく賛成してくれた。
反対されても仕方ないと思ってたから、嬉しい。
学校のアイディアは、色々ある。
単純にレベルを上げるのは必須として、それだけじゃ足りない。
葵がやったような、技術を高める修行も必要だ。
畑から細マッチョ達を借りてくるか?
他にも、課外授業としてダンジョンを連れ回すのもいいかもしれない。
武器は貸せるし、支援魔法やなんかがあれば簡単に狩りが出来る。
色々想像が膨らむ。
楽しくなってきたぞ。
「でもまずは、建物からですね」
「あ、うん、ほんとだね」
ミルキーの一言で、ハッとした。
建物のことは全く考えていなかった。
学校を建てるって、どうしたらいいんだろう?




