296
昭二のステータスは、多分そんなに高くない。
前教えてもらったユニークスキルのせいで、弱体化してるからだ。
確か、ステータスが十分の一だったかな。
酷い減り具合だけど、これは俺も持っていた封印スキルの影響だ。
進化するとすごい効果を得るが、それまではすごい制限を受ける。
よし、決めた。
「とりあえずそのまま作成をお願いします」
「いいのか?」
「はい、大丈夫です」
「よし分かった、任せとけ」
最初は窺うようだったが、断言すると良い笑顔を向けてくれた。
詳しく説明しなくても理解してくれたようだ。
さすがタケダ、いい筋肉だ。
予定通りの素材での作成をお願いして、俺とタマは一度村へ帰ることにした。
城へ戻り、おろし金に飛んでもらう。
あっという間に、我が家の放牧スペースへと降り立った。
おろし金のお陰で移動が楽だ。
たっぷりおやつをあげて労ってあげないと。
「タマ、おろし金を可愛がってやろう」
「「わかったー!」」
タマにおろし金のことをお願いすると、二人に分かれて元気よく返事をしてくれた。
二人になれば二倍可愛がれる。
なるほど、賢い。
ストレージからおろし金が食べそうなものを取り出して、テーブルの上に重ねておく。
これは、バーベキューの時にタケダが作ってくれた屋外用のテーブルだ。
何かと便利だからそのまま使わせてもらっている。
「それじゃあおやつはここに置いとくぞ」
「はーい!」
「おろし金ー! おいでー!」
「キュル!」
「おろし金、いつもありがとうな。ゆっくり休んでてくれ」
「キュルル」
タマの呼び掛けで寄って来たおろし金の鼻先を撫でる。
甘えるように顔を手に押し付けながら、小さく鳴く様子が可愛い。
よしよし、可愛い奴め。
さて、おろし金はタマに任せて俺は昭二のところへ行こう。
昭二の家は、モジャの家からそんなに離れていない。
数分歩けば到着した。
こじんまりとした、年季の入った家だ。
ドアを軽くノックして、声を掛ける。
「おはようございます。昭二さん、いらっしゃいますか?」
「はいはい。――おお? ナガマサさんかいな。何かあったんか?」
すぐにドアが開いて、昭二が現れた。
驚いているようだ。
さっき畑で話をしてたのに、また来たら驚きもするか。
「昭二さん、レベルを上げましょう」
「レベル?」
そう、簡単なことだ。
新しい農具を扱うのにステータスが足りないなら、足りるようにすればいい。
ようは、昭二のレベルを上げてしまえばいいだけの話だ。
レベルを上げれば、一般プレイヤーにPKされる危険性も減るだろうし。
今は村から出ていないらしいけど、多分、出たくても出られないんじゃないかと思う。
「突然過ぎてよく分からんのう。一体どういうことなのか、説明してくれんかな?」
「あ、はい」
昭二は不思議そうな顔をしている。
ちょっと唐突過ぎたか。
昭二に、順を追って説明していく。
農具を造ろうとするも、扱うのにある程度のステータスが必要だと予測されること。
せっかくの恩返しなので、クオリティを落とすのも申し訳ないこと。
それじゃあレベルを上げてしまえばいいじゃん、と思ったこと。
「なるほどのう。よう分かった」
「付き合ってもらえますか?」
「そりゃあ勿論じゃよ。儂からすれば有難いだけの話だけんのう」
昭二はかか、と笑っている。
良かった。
ここでも遠慮されたらどうしようかと思った。
「儂にも家族が増えたからのう。いつまでもこんなヨボヨボはしておれんよ」
シワシワで人の良さそうな顔だが、その眼は力強い。
最近、村の外だけじゃなく中でも一般プレイヤー達が騒がしい。
多分寄って来てるのは俺のせいなんだけど、いざこざもよく起きているらしい。
そんな状態では、ルインや紅葉にいつ何が起きるか分からない。
そうなった時、対処できるようにしておきたいと思ったんだろう。
それなら俺も、全力でレベル上げをお手伝いしなければ。
昭二には封印スキルもあるし、それが進化すれば相当強くなれる筈だ。
「それじゃあ昭二さん、行きましょう」
「今からなんか?」
「はい。善は急げです」
「分かった。田吾作も連れて来るけん、ちと待っとってくれるか?」
「はい」
昭二は家の中に引っ込んで、すぐに出てきた。
頭の上には相棒のセキセイインコも一緒だ。
中で話声もしてたから、ルインと紅葉にも声を掛けてきたんだろう。
「それじゃあ行きましょう」
昭二を連れて、放牧スペースへ戻ってきた。
そこではタマとおろし金が戯れる、ほっこり空間が出来上がっていた。
「タマ、おろし金、出発だ!」
「世話になります」
「「出発だー!」」
「キュルル!」
おろし金の背中に昭二を乗せて、前後をタマで挟む。
これで落ちることはない。
やって来たのは、≪輝きの大空洞≫だ。
まだ知られていないのか、一般プレイヤーどころかβNPCすらいない。
一層の横穴を通って、輝きの城の跡地へ到着した。
ここから、更に難易度の高い≪無明の城≫へ行ける。
その分経験値もがっぽり稼げる筈だ。
「こんなとこもあるんじゃのう……」
「そういえば昭二さん、今のレベルはいくつなんですか?」
「うん? あーっと確か……8じゃのう」
「8?」
思ったよりも低い。
というか低すぎないか?
「えっと、それは基本レベルですよね?」
「そう……じゃな。もう一つのは10じゃ」
もう一つ、っていうのは職業レベルか。
あれ、ということはもしかして……。
「職業はなんですか?」
「ノービスと書いてあるのう」
どうやら、昭二は転職をしていなかったようだ。
そうか。
バーリルには冒険者ギルドは無い。
最初からずっとあの村で生活していた昭二がしていなくても、無理はない。
もしかすると、最初のチュートリアルすら飛ばしてしまった可能性もある。
いや、でもレベルとかスキルは知っていたから、そんなことはないだろう。
「とりあえず転職しましょう」
「よく分からんけど、ナガマサさんが言うならそうするかのう」




