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「実は、新しい農具が欲しいんです。タケダさんは作れますか?」
「農具? 具体的にはどんなのだ?」
「クワ、鎌、フォーク、です」
「少し待っていてくれ」
俺の説明を聞いたタケダは、何やら操作を始めた。
スキルツリーとスキルリストを確認しているようだ。
俺の視線に気付いたタケダが、顔を上げる。
「ああ、農具は今まで作ったことが無くってな。俺の持っているスキルが対応しているかどうか、確認しているんだ」
「なるほど」
「モジャモジャは作れるー?」
「待ってろ、それも今確認する」
「わーい!」
モジャを作るスキルってなんだろう。
カツラ作成スキル?
そんなのあるんだろうか。
数分して、確認が終わったようだ。
タケダが、開いていたウインドウを全て閉じた。
「農具は鍛冶師スキルのアイテム作成で作れるようだな。使ってはいたんだが、農具が作れるのは把握してなかったぜ」
「それじゃあお願いしてもいいですか?」
「ああ、任せておけ」
「モジャはー?」
「モジャはウチではちょっと手に負えないみたいだ」
「残念!」
農具の作成はタケダが請け負ってくれることになった。
良かった。
タケダは腕もセンスも良い。
引き受けてくれるとなると、かなり心強い。
そこから、材料の話になった。
必要なのは、木材と金属系の素材。
「ちょっとストレージを漁ってみますね」
「おう。どんなとんでもねぇのが出て来るか楽しみだ」
「そんな変なのは出しませんよ」
タケダは俺をなんだと思ってるんだろうか。
さて、何か使えそうな素材はないかな。
木材は、丁度良いのがあった。
その名も≪筋肉大樹の木片≫。
フルーツアイランドに生える筋肉の根源、≪始まりの筋肉大樹≫のドロップアイテムだ。
対して、金属系は目ぼしい物が無い。
金属を落としそうなモンスターをほとんど狩らないし、たまに拾ってもすぐに使ってしまう。
またおろし金にでももらいに行くか?
よし、そうしよう。
「手持ちで丁度いい素材が無いので、ちょっと取ってきますね」
「ああ、分かった」
一度、露店を離れて城へと戻る。
訓練場に行くと、ドラゴンモードのおろし金が日向ぼっこをしていた。
周囲には笑顔の騎士達がいる。
以前と同じようにお願いすると、おろし金は翼から生える剣を数本落としてくれた。
よし、これだけあれば素材には困らないな。
「ありがとうおろし金。もう少しだけここで待っててくれ」
「キュル!」
「よーしよしよしよしよしよし!」
「キュルルルル」
「また後でね!」
「キュル!」
タマが盛大に撫でまわした後、再度タケダの露店へ。
普通に歩くとそれなりに距離があるが、ゲームの中だから疲れることはない。
でも、お使いクエストとかで往復してるとうんざりするかもしれないな。
「お待たせしました」
「おう、早かったな。どこに採りに行ってたんだ?」
「ちょっとお城まで。おろし金に分けてもらっただけですから」
「ほほう?」
おろし金の素材をタケダに見せたことなかったっけ?
まぁいいや。
タケダは口も堅いだろうし、変な事にはならないだろう。
ストレージから二つの素材を取り出す。
一個ずつだが、両方ともそれなりに大きい。
充分足りるだろう。
「それじゃあこれでお願いします」
「こいつはまた、えらいもん出してきたな」
おろし金にお願いすればもらえるから、そんなに凄い素材だと思ってなかった。
いや、確かにレア度とかデータ的な部分は凄いんだろうけど。
どうも意識がそれに追いついていない。
「そうですか?」
「レア度Sなんて、ナガマサさん以外で持ち込まれたことはないぞ。それにこの木材も、筋肉の猛りが聞こえてくるようだ」
タケダが木片を両手で抱えたまま興奮している。
木片から筋肉成分を感じ取っているようだ。
ちょっと怖い。
「その素材で大丈夫そうですか?」
「ん、おう、ああ、問題ない。この世界で最強の農具が作れそうな予感がするぞ」
確認してみると、一瞬間を置いてタケダが筋肉の世界から帰って来た。
そこには今は触れないでおこう。
「良かった。それじゃあお願いします。これで喜んでもらえそうだな、タマ」
「うん!」
「ん?」
プレゼントの成功を確信して、タマと喜び合う。
そんな様子を見て、タケダが首を傾げた。
何やら不思議そうな顔をしている。
「ナガマサさん、その農具は自分で使うんじゃないのか?」
「いえ、お世話になってる昭二さんという方へのプレゼントです」
「ああ、あの爺さんか。なるほど、なんで今頃農具かと思ったら、そういうことか」
そういえば、そこまできちんと説明していなかった。
農具を作るだけだと思って省いちゃったんだな。
俺の回答を聞いたタケダは、納得したように何やら呟いている。
何かあったのか?
「昭二の爺さんのステータスはどうなってるんだ? この素材で作ったら、恐らく半端なステータスじゃペナルティがえげつないことになるぞ」
「あ」
言われて思い出した。
装備品は、一定のStrを要求される。
足りなくても装備自体は出来るが、扱う際にペナルティが発生する。
基本的には、武器が強くなるほどに必要なStrも増加する。
葵も、最初の頃は剣を持ちあげることすら苦労していた。
農具も、カテゴリー的には武器の枠を使用する、装備だ。
Strもしっかり要求される。
しまった。
自分が関係ないから、その辺りのシステムをすっかり忘れてた。
どうしよう。




