表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

345/407

293


 昭二の畑へやってきた。

 昭二と、ルインと紅葉が畑仕事をしている。


「おはようございます」

「お? ナガマサさんかい、おはようさん。こんな朝早くからどうしたんじゃ?」


 何も植えていない部分を歩き、傍まで近寄って挨拶をする。

 微妙に震える腕でクワを振るっていた昭二が、顔を上げて皺くちゃな笑顔を向けてくれた。


「ちょっと畑仕事の帰りに、様子でも見ようかと思いまして」

「ああ。二人とも元気じゃよ。こうして手伝ってくれるから助かっとる」


 昭二が二人の方を示す。

 視線をやると、他の二人も手を止めてこっちを見ていた。


「お、おはようございます」

「おはよう、ルインちゃん」


 静かに頭を下げる紅葉の後ろ隠れたまま、ルインが挨拶をくれた。

 腰の辺りを掴んで、顔だけを出してこっちの様子を窺っている感じだ。

 まだ少し怯えているようだし、仕方がない。


 そんな姿を見て、昭二の顔に苦笑が混じる。


「ウチでは大分自然に笑うようになったんじゃがなぁ。ナガマサさんのことはまだ怖がっとるのう」

「この間のパーティーの時で少しは馴染んでもらえたと思ったんですけどね……。気長にやりますよ」

「それがええ」


 昭二はからからと笑っている。

 二人も預かってもらうことになったのに、気持ちの良い人だ。


 そうだ、確かに様子を見に来たのもあるけど、本題は別だった。

 お世話になってる分の恩を返さないと。


 その為には、本人に聞くのが一番だ。

 相手が何をして喜ぶかなんて、俺じゃ考えても分からないからな。

 自分で考えて変な物をあげたって、恩返しどころか嫌がらせになるかもしれない。


「ところで昭二さん、今、困ってることとか、欲しいもの、して欲しい事はないですか?」

「うん? 急にどしたんじゃ?」

「昭二さんにはいつもお世話になってるので、何かお返しが出来ないかと思いまして」

「若いモンが気遣わんでもええんじゃぞ?」


 ストレートに訳を話したら、遠慮されてしまうのはいつものことだ。

 皆素直に受け取ってくれないんだよな。

 けど、それじゃあ困る。


「そういうわけにも行きませんよ。お世話になりっぱなしじゃ俺の気が済まないんです」

「儂も人のことは言えんが、ナガマサさんも相当頑固そうじゃなぁ」


 昭二は、かなりの歳に見えるが、人の良さそうな顔をしている。

 とても頑固には見えない。

 俺に関しては……どうだろう。自分では何とも言えない。


「そうですか?」

「そうじゃとも。何言っても聞かん、という目をしとるぞ。ま、そういうことならお願いしようかのう」

「ありがとうございます」

「そこは儂が礼を言うところだと思うんじゃがな。変わっとるのう」


 お礼を言うと、昭二はかか、と笑い出した。

 変なことを言っただろうか?


「それじゃついでに休憩にするか。二人も少し休みんさい」

「分かりました。ルインさん、行きましょう」

「うん!」


 話をする為に、畑の縁へ移動して腰掛けた。

 俺と昭二が並んで座り、少し離れた場所にルインと紅葉もいる。


 せっかくの休憩だから、採れたてのフルーツを振る舞うことにした。

 見た目はちょっとあれだけど、味は美味しい。

 初めて見たわけでもないし、皆喜んで食べてくれた。


 さて、本題に入ろう。

 察してくれたのか、昭二が口を開いた。


「欲しいものというのは、なんでもええんかな?」

「はい。なるべく希望には応えます。いつもお世話になってますから、ありったけ挙げてみてください」

「ふむ……」


 昭二は、腕を組んで黙り込んだ。

 何かないか考えているんだろう。


 ルインと紅葉の会話をBGMに待つこと数分、要望を教えてくれた。


 まずは、新しい農具。

 今使ってるものは村で購入した安い物で、出来があまり良くないらしい。

 しかもそれを補修しながら使ってるものだから、もう限界が近いんだとか。


 クワ、手斧、鎌、フォーク、具体的にはこれらだ。

 農具って、武器とは違うのかな。

 俺のスキルで作れれば早いが、無理そうならタケダに相談してみるか。


 次に、畑に植えられる新しい作物。

 昭二がこの畑で育てているのは、ありふれた野菜。

 この村のほとんどの畑で作られている種類のものしか無い。

 つまり、どうしても値段も高くはならない。


 だから値段の付く、この村では珍しい作物が欲しいということらしい。

 なるほど。

 俺も色々探してたな。

 今はハーブが宝石化したり、集めてきた変わった植物を育てている。


 多分、宝石ハーブは他の畑では育たないだろう。

 あれはピンポン玉の影響が大きいらしいからな。


 その他の植物をいくつかお裾分けするか。

 ウチで育ててる作物はほとんど売りに出してないし、ここで育てた分だけを市場に流せば値段はそれなりになる筈だ。


「そんなとこかのう」

「それだけでいいんですか? もっと言ってもらっても大丈夫ですよ」

「ええんじゃよ。まあ、また何か困ったらお願いさせてもらうけんな」

「分かりました。」


 粘ってはみたが、それ以上は本当に無いらしかった。

 纏めてみると、たったの二つだ。

 もっと欲張ってもいいのに。


 仕方ない。

 その分、この二つに全力で取り組むぞ。

 今日の予定はこれで決まりだ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めましたので、こちらもよろしくお願いします!
友人に騙されたお陰でラスボスを魅了しちゃいました!~友人に裏切られた後、ラスボス系褐色美少女のお嫁さんとして幸せな日々を過ごす私が【真のラスボス】と呼ばれるまで~
面白いと感じたら、以下のバナーをクリックして頂けるととても有難いです。 その一クリックが書籍化へと繋がります! ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ