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289 筋肉と筋肉アイランド


 二人の筋肉が突き出た大木を渡り、筋肉の大地へ降り立った。

 クエストをクリアしている人間とパーティーさえ組めば、問題なく来ることが出来た。


「ここが楽園か。なるほど、筋肉の波動がひしひしと伝わってくるな」

「うむ。そしてこの芳醇な香り。良い筋肉が育っておるようだ!」

「まっするー!」

「この時点で筋肉の気配を感じ取ってるんですか……」


 タケダと筋太郎の会話は、俺にはレベルが高すぎる。

 

 ここはフルーツアイランド。

 とはいえ、まだ上陸したばかりだ。

 筋肉蠢く真の魔境とはいえ、その姿は影も形もない。


 あの筋肉達を見た俺でさえ、ただの自然豊かな場所に思える。

 だというのに、この二人は何かを感じ取っているようだ。

 筋肉を鍛えると筋肉センサー的なものも発達するんだろうか。


「ナガマサさんには分からないのか? この、筋肉の放つ鼓動を。空気を揺さぶる、存在感を」

「分かりませんね」

「マジか……」

「がはははは、興味が無いのなら仕方ないだろうよ。しかし、我らにとってはここはまさに楽園。儂まで連れてきてもらって、感謝の念が堪えんわい」

「いえいえ」


 どうして急に、この筋肉モリモリマッチョマン二人とフルーツアイランドに来たのか。

 それにはちゃんと理由があってのことだ。


 昨日、我が家に帰った俺とタマは、ミルキー達の作った夕食を食べた。

 美味しかった。

 その中で、ついフィールドを歩いたことと、その様子を話してしまった。

 

 ミルキー達にはなるべく出歩かないように言っておいて、自分は危険なフィールドをうろつく。

 様子を見る意味があっても、良い顔はされないだろう。

 

 当然ながら、ミルキーには微妙な顔をされてしまった。

 俺が悪い上に、ミルキーも俺を心配してのことだ。

 けど、いつまでもそんな顔をさせておきたくはない。


 何度も謝って謝って、タケダから受け取った盾を渡して、なんとか機嫌を直してくれた。

 作ってて良かった新しい装備。


 しばらくしてからミルキーがタケダにお礼のメッセージを送り、その時にフルーツアイランドの話もしたそうだ。

 その内タケダを連れて行くという約束を聞いたミルキーが、俺にアドバイスをくれた。


「フルーツアイランドに行くなら早い方がいいかもしれませんよ。あそこはクエストをクリアしないと行けないので、今は一般プレイヤーもほとんどいないと思います」


 俺は、なるほどと思った。

 見た目はあれだけど、アイテム的には美味しい場所だ。

 一般プレイヤーが多く集まるようになれば、タケダを連れて行くのが難しくなるかもしれない。

 いけなくはないだろうが、どうしても危険は大きくなる。


 それなら、まだクエストをクリアする気にならない内に、約束を果たしてしまった方が良い。

 ミルキーは天才だな。


 というわけですぐさまタケダに連絡し、丁度次の日、今日が空いているということで、こうして朝7時からやって来た。

 時間はタケダの指定だが、朝が早すぎる。

 畑仕事を細マッチョ達が手伝ってくれたから余裕だったけど。


 なんだろう、筋肉は朝が早いのかな?

 タケダも筋太郎も、特に眠そうには見えない。

 むしろ元気が有り余っているようだ。

 タマも合わせて三人でストレッチをしている。


「次は、僧帽筋のストレッチ!」

「ふん!」

「はっ!」

「モジャ!」


 何事も元気が一番だ。

 俺も混ざろう。


 ちなみに、畑仕事をする時に畑のギャラリー達は気にしないことにした。

 気にしてるといつまでも何も出来ないからね。

 PK達も、もう解放した。

 ほとんどの人達は、今にも死にそうな顔で去って行った。


「ようし、ストレッチ終わり!」

「がはは、いい準備運動だった!」

「そうだな。ナガマサさんもいい伸ばしっぷりだったぞ」

「ははは」

「タマはー?」

「タマちゃんも、完璧だったぞ」

「そうだな、ちっこいのに感心したぞ儂は!」

「えっへへー!」


 ストレッチが終わり、いよいよ探索に移る。

 この船着き場地点はモンスターが寄ってこないようだから、歩かないとモンスターに出会えない。


 タケダは薄手のシャツに、いつものツナギ。

 いつも腰に巻いている上半分を今日はちゃんと着ている。

 筋肉が綺麗に盛り上がって、今にもはち切れそうな程にパンパンだ。


 武器は、拳を模した大きなハンマーだ。

 あれは確か、≪筋肉大拳骨ギガントマッスル≫。

 この島で採れた筋肉素材と、畑で採れた硬い結晶を使って出来た武器だ。

 俺が武器を造ってもらった時に一緒に造ったんだったな。


 筋太郎の方は、昨日と同じ装備。

 武器は、見たところ持っていないようだ。


「武器は装備しないんですか?」

「ん? おお、儂か。儂は立派な錬金術師だからな、それを駆使して闘うから武器など必要ないのだ」

「なるほど」


 確か錬金術師は、魔法使い寄りだったような気がする。

 錬金術で生み出した技術やアイテムを使う戦闘スタイルだったかな。

 転職の時にリストにあって、チラッと読んだことがある。


「それじゃあ、好きに探索してください。俺は邪魔にならないよう後ろにいます。危なくなった時だけ、手を出しますね。タマも、そんな感じでお願いな」

「いえっさー!」

「ああ、頼む」


 ここでは、俺は見てるだけだ。

 支援もその他のスキルも、危ないと確信するまでは使わない。

 万が一に備えて色々かけておきたいが、タケダと筋太郎にどうしてもと言われて頷いた。


 ダメージを肩代わりする≪誓いの献身≫くらいは掛けたがったが、それもダメだった。

 でも、少しでも危ないと感じたらすぐに使う。

 後で怒られたって、例え縁を切られるとしても構わない。

 死なせるよりもよっぽどマシだ。


「儂らの我儘を聞いてもらってすまん! 我らの力を試したいもんでな!」

「気持ちは分かりますから、気にしないでください」

「おお、感謝する。タケよ、こいつは良い奴だな!」

「おう、間違いねぇぞ」

「モジャマサはいいモジャだからね!」

「そうだな」

「がははははは!」


 俺も、モグラに手伝ってもらいながらも手出しを断ったりしていた。

 拘りたいことくらい、誰にだってある。

 大丈夫。

 いつ危なくなってもカバー出来るように、俺とタマが注意していれば誰も死ぬことはない筈だ。



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