288 露店と一般プレイヤー
タマと合流して、ゴロウの露店を後にする。
もうストーレにこれといった用事は無いが、少しだけ露店を覗いて帰ろうかな。
大通りを露店を覗きながら歩く。
目的がある訳ではないが、並べられた商品を見て歩くだけでも楽しい。
しかし、なんとなく景色が違って見える。
βNPCが少ないのか?
いや、でもこれだけ人がいたら違いなんてよく分からない。
知り合いが多いわけでもないしな。
モグラにタケダにゴロウ。
出汁巻と純白猫に、†紅の牙†や伊達正宗も知り合いと呼べるだろうか。
後は、アイテムを購入したことのある露店の主人くらい?
うん、やっぱり少ないな。
普通に生活するだけならそんなに関わりを持つことも無かったからなぁ。
これがゲームなら知らない人とも気軽に遊べるんだけど、下手に命が掛かってるせいで見知らぬ人と知り合うにはきっかけが必要だ。
そんな環境だからか、この世界ではタンク職や支援職が不人気らしい。
VRMMOだというのにだ。
この手のジャンルは大体パーティープレイが一般的で、その方が効率よく狩れる場合が多い。
だから、タンクや支援といったソロじゃ何の役にも立たないキャラが重要だったりする。
しかし、生きるか死ぬかの世界で、パーティー狩り特化型を選択出来る人はほとんどいなかったようだ。
それも仕方ない話だ。
しばらく見て周ると、覚えのある顔を見つけた。
早速露店に近寄って行く。
「いらっしゃいませー」
「どうも、お久しぶりです」
「やっほー!」
「あれ、もしかして、いつぞやの初心者さん? 随分立派になっちゃって、ポーションを買いに来たのかな?」
そこにいたのは、≪ヨモギモチ≫という名前のプレイヤー。
以前、何の知識も無かった俺にポーションのことを詳しく説明してくれた人だ。
「実は今畑をやってるんですけど、薬に使える珍しい素材を栽培出来たんですよ」
「へー、それで?」
「それを、ヨモギモチさんにもお裾分けしようかと思いまして。とりあえず現物を一つ見せますね」
「おどろくなよー?」
「なんだろう、楽しみだな」
ストレージから≪ルビーハーブ≫を取り出す。
これは、畑に植えていた≪レッドハーブ≫が色々あって宝石化したものだ。
詳しくは分からないが、多分一緒に植えておいたイカが原因だと思う。
「こ、これは……!? 詳しく見せてもらっても……?」
「いいですよ」
「ふっふっふ」
差し出すと、困惑の表情を浮かべながらも視線はルビーハーブに釘付けだ。
タマは何故か誇らしげだ。
何故だ。
ペットのピンポン玉のお陰で出来たからか?
「これは、ハーブ? いやでも、こんな宝石みたいなハーブは見たことがない……?」
「雑貨屋のおじさんも驚いてましたね。もしかしたら、他ではまだ栽培されてないのかもしれません」
「これが、畑で採れたの?」
「はい」
「こんな綺麗な素材があったなんて、信じられない……」
ヨモギモチは、まだ困惑した様子でハーブをくるくる回しながら、全体を穴が空くほど見つめている。
すごい食いつきっぷりだ。
「それで、その素材のことなんですけど」
ここで俺は提案した。
難しい話じゃない。
この素材を、買い取らないかという、たったそれだけだ。
ヨモギモチは即快諾してくれた。
値段は葉っぱ一枚で1000c。
相場は分からないが、これでも安くした方だ。
あまりちゃんとした値段で売ると、恩返しにならないからな。
一枚2000c払おうとするヨモギモチを宥めるのは、少し大変だった。
タマが協力してくれなければもっと時間がかかったかもしれない。
早速製薬に取り掛かると宣言し走り去るヨモギモチを、俺達は見送った。
気付けば17時過ぎだ。
露店巡りもこの辺りで切り上げて、帰るとしよう。
しかし、帰りは教会を使わない。
ミルキー達には街の外に出ないように言ったが、危険かどうかを身を持って確認しておきたい。
俺とタマなら、何が起きても大丈夫な筈だ。
新しい仲間も増えたしな!
ストーレから西へ出る。
そこは、草の生い茂る草原だ。
木も疎らに生えている。
そこにはいつかのように、初心者達が走り回る光景が広がっていた。
なんだか懐かしい。
エリア自体は違ったが、この初心者がひしめき合うのはどこも同じだったようだ。
「あっ、βNPCだ!」
「おっと」
「敵!」
「待った待った」
「くそっ、当たらない!」
村に向かって歩いていると、時折一般プレイヤー達が襲い掛かって来た。
一撃で倒せるだろうけどそれはしない。
適当に攻撃を躱しながら歩いていると、向こうから諦めてくれる。
だけどちょっと多いな。
アイコンが赤か紫以外の相手に攻撃をすると、俺のアイコンが紫になってしまう。
そうなると、いくつかペナルティが発生する。
兵士に追われたり、NPCから避けられたりするらしいから出来れば手を出したくない。
あまりにもしつこい時は、瞬間移動で撒いてしまう。
流石にこれには追いつけないようだ。
隣のエリアや、更に隣のエリアに移動しても変わらなかった。
やっぱり一般プレイヤー達は、俺達βNPCを執拗に狙ってくる。
モグラの言っていた通り、ボーナスキャラ程度にしか思っていないようだ。
外出する時には気を付けた方が良いかもしれない。
ま、この様子だとやっぱりステータスの差は大きいようだから、俺達は大丈夫だ。
なんて思っていた次の日。
俺とタマは、タケダや筋太郎と一緒に≪フルーツアイランド≫へとやって来ていた。




