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284 対策と制作


 我が家の前に戻ると、すっかり人がいなくなっていた。

 地味に有難い。

 あの一般プレイヤー達が寄りつけないのは一週間らしいが、他のプレイヤー達がまた来るかもしれない。

 

 それに、今のままだと一週間経てば元通りに違いない。

 今の内に何か対策を練っておいた方が良いだろう。


「ただいまー」

「ただいまー!」

「おかえりなさい」

「おかえりなさいませ」


 玄関から中へ入ると、ミゼルとミルキーが出迎えてくれた。

 葵は自室でトレーニング中だそうだ。


 それにしても、堂々と玄関を通れるのがこんなにも幸せだったとは。

 俺もまだまだだな。

 ≪当たり前≫をもっと大事にしていきたい。


「一般プレイヤー達が突然いなくなったんですが、ナガマサさん何か知ってますか?」

「うん、今話すよ」

「お茶を用意いたしますわね」


 リビングの椅子に座る。

 ミゼルの淹れてくれたお茶を飲みながら、さっきの出来事を三人に話す。

 タマもミゼルもミルキーも、時折相槌を打ちながら聞いてくれた。


 ミゼルは楽しそうに、ミルキーは興味深そうに。

 タマに至っては、自分も暴れたかったと残念そうだった。


 ゼノとルインのことは、ある程度ぼかして伝えてある。

 知り合いだという現実の情報は、制限に引っかかる可能性もあるからだ。

 余計なことは言わないでおく。


 あげたコインのことは、きちんと話した。

 二人共、特に異論は無いようだった。

 良かった。


 さて、のんびりした時間を過ごした後は、やることをやらないと。


「それじゃあ、準備したらタケダさんのところへ行ってくるよ」

「今からですか? 外は何が起きるか分からないって、ナガマサさんも言ってたじゃないですか」

「ちょっと用事を思いついたからさ。それに、お願いしてた装備も受け取りに行かないといけないし」

「用事ですか?」


 俺の外出に微妙な顔をしているミルキーに、理由を説明する。

 それは、一般プレイヤー対策だ。


 彼らがこの家に押し寄せたのは、俺が市場に流した装備品が原因だ。

 大勢のプレイヤーには回り切らず、品薄状態で値段も釣り上げられている。

 今は、そんな状況らしい。


 それなら、もっと作ればいい。

 どうせあの装備はレベル制限があるし、一定期間使えばもう用は無くなってしまう。

 ストーレ周辺にどれだけの一般プレイヤーがいるかは分からないが、ある程度張り切って作れば行き渡る筈だ。


 高値を付けてる奴らも、大量に安値で流せば慌てて値段を下げるだろう。

 そしたら価格が大暴落して、俺のところにわざわざ買いに来る奴もいなくなるに違いない。


「そういうことですか。それじゃあ私も一緒に」

「いや、ミルキーにはお留守番をお願いしたいんだ」

「……はぁ、分かりました。命の心配はしてませんけど、変なトラブルに巻き込まれないように気を付けてくださいね。ミゼル様や葵ちゃんもいるんですから」

「うん、気を付けるよ」


 しっかり説明したら、ミルキーも納得してくれた。

 ついて来ようとしてくれたけど、何かあった時の為にも残ってもらうことにした。

 ミルキーの言ったように、ミゼルや葵もいるからな。

 

 自室に移動して、まずは装備を作る。

 前に作った初心者シリーズと練習シリーズだ。


 材料は、今まで抜いてきた雑晶がこれでもかとストレージに眠っている。

 どんどん使おう。

 初心者シリーズはノービスしか装備出来ないし、少な目でもいいかな。


 短槍も一旦は少な目でいいか。

 足りないようだったら、また追加で作ろう


 スキルを使用して、さくっと作り上げる。

 初心者シリーズの短剣と剣が五百ずつ。短槍は二百。

 練習シリーズの短剣と剣が千ずつ。短槍は五百。


 今朝突発的に作った≪初心者バッジ≫も作っておく。

 数は驚きの二千個だ。


 これで以前の分を合わせれば、結構な数になる。

 タケダとゴロウにはこれを安値で売ってもらう。

 勿論、二人に売る値段はもっと安くする。

 協力してもらうんだから、二人にはちゃんと儲けが無いと申し訳ない。


 驚いたのが、これで持っていた雑晶をほぼ使い切ったことだ。

 あれだけあったのに無くなるとは思わなかった。

 スキルの相乗効果によってスキル一回で千ずつ作成出来るせいで、大量生産した実感が沸かないんだろう。


 なんにせよ、これで準備は出来た。

 タケダのところに装備を受け取りに出発だ。


 なるべく目立たないように、今日は教会経由で行くか。


「タマ、出掛けよう」

「はーい!」


 時折俺の頭をモジャモジャしながら待っていたタマを連れて、部屋を出る。

 玄関に向かおうとリビングを横切ると、ミゼルとミルキーがキッチンに立っている姿が見えた。

 どうやら夕食の仕込みを開始したようだ。


 こちらを振り向いた二人に軽く手を振って、家を出た。


 この近くにいた一般プレイヤー達はゼノの手によって一網打尽にされたのか、相変わらず家の周りには誰もいない。

 気になって畑をちょろっと覗いてみたが、そっちは相変わらず人だかりが出来ていた。


 そういえば、細マッチョ達の抱き枕の刑に処されていたPK達の解放を約束した日が今日だった気がする。

 あれ、昨日だっけ。

 忘れてしまった。

 とはいえ、この人ごみを掻き分けて畑へ入るのは手間だ。


 悪いけどここはスルーさせてもらおう。

 別に、ちょっと畑仕事を手伝わされるだけで、食事として美味しいフルーツが沢山食べられる。

 そんなに悪い環境ではない筈だ。


 微妙にムキムキした一頭身のフルーツ達に羽交い絞めにされたまま樹上で過ごすなんて、俺はご免だけど。


 広くない村を縦断して、教会へとやって来た。

 中に入るといつもと変わらない礼拝堂がそこにあり、プレイヤー達の姿もそれなりにあった。

 転送を利用しに来たんだろう。


 奥の方に佇んでいる神父さんに近づいて、いつも通り声を掛ける。


「こんにちは」

「こんにちはー!」

「すみません、ストーレへ転送をお願いしたいんですが」

「ん、ああ、君達かね。……本来は断るところなんだが、ミゼル王女の口利きだから特別だよ」

「え?」


 神父の言葉の意味を確かめる間も無く、俺とタマはストーレの教会の前へ到着していた。



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