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「どこだ!?」

「あっちだあっち!」

「はあー、疲れた」

「いや、ここはやべーわ。今は関わらんとこーぜ」

「そうしよそうしよ」


 村の中は、プレイヤー達がそれなりにいた。

 あまり見るものも無さそうな村なのに、どうしたんだろうか。


「思ったより人が多いのね」

「そうだな。見た目の割に人気の村なのか?」

「そんなことなかったと思うんだけど……」


 シュシュも首を傾げている。

 よくある農作物の取れる過疎気味の村、という認識でしかなかったようだ。


 情報収集でもするか。

 せっかくのMMOだ。

 見知らぬ人に声を掛けてみるのも、出会いや冒険のきっかけになるかもしれない。


 門から続く柵の前で座り込んでいる男にするか。

 装備は初心者用じゃないから、転職はしているようだ。


「すみません」

「うん? なんだ?」

「この村は、どうしてこんなに盛り上がってるんですか?」

「あんたは掲示板を見てここに来たんじゃないんだな」

「そうですね。クエストで立ち寄っただけです」


 掲示板か。

 そういえば見ていない。

 そこに何か書き込まれてるんだろうか。


「なるほどな。それじゃあおじさんが簡単に教えてやろう」


 男は何故こんなにプレイヤーがこの村に集まっているのか、ざっくりと教えてくれた。


 まず、とある装備が今朝、ストーレで売られていた。

 今朝といっても、ゲーム内でのことだから現実では夜だけど、ゲームしてる内はゲーム内時間で語ることにする。


 それは初心者向けのもので、装備条件が緩く、誰でも装備出来るようなものだ。

 問題は、性能が高かったことだ。


 転職してから装備出来るような武器よりも強い初心者用武器となれば、当然皆欲しがる。

 ただ、数はあまり無かった。


 その武器には≪モジャ≫の銘が入れてある。

 作者に直接交渉しようとした奴もいたが、実際にそんな名前のキャラは誰も見つけることが出来なかった。


 プレイヤー達は困った。

 しかし、掲示板にとある情報が書き込まれた。

 

 ≪農耕の村バーリル≫で、≪モジャ畑≫と≪モジャの家≫というものを見かけた、と。

 間違いなく≪モジャ≫に関係があると判断したプレイヤー達は、この村に押しかけた。


 これが、ここ六時間くらいの話らしい。

 掲示板パワーってすごいな。

 有益な情報はすぐに広まってしまう。


「それで、そのモジャって人は見つかったんですか?」

「いんや。モジャの家からは誰も出てこないから分からずじまいだ。それで騒ぎも起こり始めてるみたいだからな、少し離れたここで、何か進展は無いか待ってる訳だ」


 武器を求めてやってきたプレイヤー達がうろうろしていて、どうにもならないからイライラしているようだ。

 面倒なことになってるみたいだ。

 さっきの伊達正宗と一緒に居た連中も、それでうんざりしたような顔をしてたのか?


「なるほど、ありがとうございました」

「いいってことよ。ああ、もし暇なら≪モジャ畑≫は見といた方がいいぞ。≪モジャ≫関係なしに、別のスレッドでも話題になってたからな」

「畑、ですか?」

「そうだ。訳分からん過ぎて笑えてくるぞ。畑っていうよりは大魔境って感じだ」

「はあ、ありがとうございます」


 男に礼を言って村の奥へ向かう。

 気さくなおじさんだったな。

 あれもキャラメイクしたアバターだろうから、中身は全然違うかもしれないが。


「ただの畑でしょ? 魔境ってどういうことかしら」

「さあ、なんだろうな。行ってみれば分かるさ」


 商人っぽい奴や戦士っぽい奴、色んなプレイヤーがたむろしている。

 中には、始めたばかりっぽいプレイヤーも混じっている。

 みんなそのモジャという人物が目当てなんだろうか。


 家やお店が立ち並ぶエリアを抜けて、畑エリアへとやってきた。


「うわ……」

「げぇ」

「ひっ」


 そして絶句した。

 なんだこれ。


 畑エリアの中、≪モジャ畑≫と名付けられ区分けした部分がそうなんだろう。

 確かにこれは魔境だ。

 それもただの魔境なんかじゃなく、大魔境だ。


 畑の至るところに、濁った白の結晶がいくつも生えている。

 手前の方にはキラキラ光る草みたいなものや、普通の草っぽいものも生えていて、ここはまだ畑っぽい。


 目を引くのは、中央に生えた巨大な……これは何だ。

 どう表現したらいいのか分からない。

 多分、イカ?

 

 まず巨大なイカを足の部分を地面に埋めて直立させる。

 そしてパーティーの時に被るような三角帽っぽい形の貝を被せる。

 その中ほどから、貝を破壊して、枝葉の生い茂った樹の幹をぶっ刺せば完成だ。

 アクセントに、大きなフルーツを枝に添える。


 なんだこれ。


 畑全体に、イカの足のようなものが生えている。

 これも結晶に覆われているようで、光を反射して光っている。

 うねうねと揺らめく様は、まるで地獄へ誘っているようだ。


 しかし、まだ終わりじゃない。


 大きな果物が、畑の中を歩いている。 

 イチゴにリンゴにレモンにオレンジ。

 果物から雑に手足を生やしたそれらは、俗に言う二頭身。

 細いようで引き締まっていて、それなりに筋肉がついているように見える。


 そいつらは紫のアイコンを持つβNPC何人かと共に畑の土を耕したり、結晶を抜いたり、イカの足や植物の手入れをしている。

 なんだこれは。


 畑を囲うように道があるんだが、そこに人だかりが出来ている。

 集まったプレイヤー達は、スクリーンショットを撮ったりするのに忙しいようだ。


「ルイン、ここでキメ顔して。シュシュも一緒に」

「え、え?」

「ほらほら」

「いえーい」

「い、いえーい」


 この光景は有り得なさ過ぎる。

 戸惑うシュシュと順応性の高いルインを巻き込んで、俺も自撮りモードで撮影しておいた。

 なんだこのカオスは。


 ちなみに、畑の中には入れない。

 いや、入らない方が良いようだ。


 俺が見ている時に畑に入ろうとした奴がいたが、一歩入った瞬間に果物達が臨戦態勢に。

 相当な威圧感を感じてる筈なのにもう一歩踏み出したのは素直に賞賛するが、その瞬間に叩きだされてしまった。


 あの果物達は警備員も兼ねているようだ。

 しかもかなり強い。

 お陰であの死にそうな顔で作業してるβNPC達に話を聞くことも出来ず、眺めるだけになっているようだ。


 狂気に溢れすぎてて、こんなものを運営側が用意するとは思えない。

 これって、多分βNPCの畑だよな。

 そうなると、何をどうやったらこんなものが出来上がるのか。


 CPOの自由度の高さにも驚愕するが、これを実際に作り上げたプレイヤーに対しての戸惑いの方が勝る。

 流石に、βテスターに選ばれるだけのことはあるってことか。



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