273 無事と相棒バトル
「いやー、お騒がせしました!」
「何はともあれ、無事で良かったですよ」
「そうですねー。助けてくれた†紅の牙†さんにはまた今度お礼を言っておきます」
紅が帰宅してすぐ、純白猫は目を覚ました。
何か影響が残ってないか心配したが、すっかり元気になっているようだ。
いつもの笑顔の仮面も横にずらしている。
顔色も悪くないのがはっきり分かる。
「純白猫、無茶したらダメだよ!」
「ダメだよ……!」
「もー、分かりましたってー」
今は葵とタマにじゃれつかれつつ、料理を楽しんでいる。
他の皆も思い思いに会話や料理を楽しんでくれているな。
俺はもう散々祝われたから、今は一人でのんびりフルーツを食べている。
賑やかな空気を感じるだけでも俺は楽しい。
「あ、そうだ。葵さんに渡すものがあるんでした!」
「私に?」
「はい! 制作を依頼されていた、葵さんのサブウエポンです!」
「あっ……! そういえば、あったね」
「忘れてたんですか?」
「ナガマサに武器もらったから、すっかり……!」
チラッと純白猫から視線が向けられる。
視線を逸らしてやり過ごす。
少し頬を膨らませて唸っているように見えるが、きっと気のせいだ。
俺の知ってる純白猫は、どんな時でも笑顔を絶やさない人だからな。
「ナガマサさんには後で苦情を届けるとして、私の力作ですよ! 駆け出しの私が少ない期間でよくここまでのものが作れたな、と自分を褒めるくらいです!」
「すごーい!」
「それは期待出来そう」
「ふっふっふー、ではこちらになります」
純白猫が取り出したのは、一見ただの短剣だ。
少し幅広で、淡い金色の刀身に、綺麗な青い線が十数本奔っていることを除けば。
「綺麗……!」
「見た目だけじゃなく、中身もかなりのものですよ。しかもなんと、なんと! 葵さんの持つ魔導機械と連結させることが出来ます!」
「連結?」
「一つにすることで、超絶パワーアップさせることが出来るんですよ!」
「すごい……!」
葵は目をキラキラさせて純白猫を見つめている。
そのまま詳しい説明を聞いて、更に輝きが増していく。
特に、葵の剣をパワーアップさせる効果が気に入ったようだ。
あの剣は、葵の愛剣であると同時に、父親の形見でもある。
愛着も相当だろう。
預かってすぐの頃も、持つことすら難しい剣を手放そうとはしなかった。
レベルを上げる少しの間すら、他の武器を使うことを嫌がった。
そんな剣を強化してくれるんだから、嬉しいだろうな。
「ナガマサさん、隣良いかのう?」
「昭二さん。どうぞどうぞ、座ってください」
「それじゃ失礼して。ルインや、こっちに来て座りなさい」
「は、はい! 失礼します!」
昭二の問いに笑顔で返すと、昭二は座ってからルインを呼んだ。
ルインは緊張した顔をしている。
まだ怖がられているようだ。
なんだか罪悪感がすごい。
「少し怖いようじゃが、気にせんでやってくれい」
「はい」
「ルインも、何度も話した通り大丈夫じゃよ。このナガマサさんは優しい人じゃ」
「は、はい!」
昭二がフォローを入れてくれる。
だけど、怖がられるようなことをしたのは俺達だ。
この反応は仕方ない。
むしろよく来てくれたよな。
「ルインちゃん、昨日はごめんね。もうあんなことしないから許してほしい」
「だ、大丈夫、です」
「怖いこととかあったら言ってね。お詫びに、出来る事ならなんでもするから」
「あ、ああ、あ、ありがとう、ございます」
本性を現す前と、敵になった時の状態とギャップがあり過ぎる。
どれが本当のルインなんだろうか?
そもそも、魔の者のあいつとこのルインが同一人物かどうかすら分からない。
ただ操られた後の抜け殻の可能性も充分ある。
むしろそれが正解な気がしてならない。
もしそうなら相当鬼畜だな、俺達。
それでも、ルインは俺達をお祝いしてくれた。
皆に混じってプレゼントまで手渡してくれていた。
ありがたいやら申し訳ないやら。
快く引き受けてくれた昭二にも、お礼をたっぷりしないといけない。
「ルインちゃんは、今どうしてるんですか?」
「今は儂の畑仕事を手伝ってくれとるよ。田吾作ともよく遊んでくれて、良い子じゃな、この子は」
近況を聞くと、昭二は目を細めて教えてくれた。
褒められたルインは恥ずかしそうにしている。
「タゴー!」
「ひっ!?」
そこにどこからかセキセイインコが飛んできた。
田吾作だ。
ルインの頭に着地して、嬉しそうに髪の毛を啄んでいる。
「タゴゴゴゴゴ」
「ひ、ひぃ!?」
「ほれ、この通りじゃ」
「これは襲われてるんでは……?」
「そうかのう?」
「多分」
パニックになっているルインは可哀そうでありながら、もうちょっとだけ眺めていたい気分にもなった。
何故だろう。
ああでも助けないと。
「タゴ!」
「うわっ」
手を伸ばすと、思い切り突かれた。
思わず手を引っ込める。
だけど痛くはない。
俺の防御力なら全力で噛まれても大丈夫の筈だ。
そもそも、村の中だとダメージが通らなくなっただろうし。
「いけ、にゃーこさん! 美少女を守るんだ!」
「にゃあ」
どうしようかと思っていたら、ゴロウがにゃーこをけしかけた。
そして始まる相棒バトル。
「モジャ、君に決めたモジャ!」
「そういうパターンか……」
タマまで参戦した。
しかも戦うのは俺らしい。
ようし、たまにはいいところを見せるか。




