238 時間泥棒と食事会
装備をどんどん作っていく。
同じ物に飽きたら、別の種類に挑戦してみる。
すぐにスキルレベルも上がったから、作成出来る種類も増えている。
「ナガマサさん!」
「うおわぁっ!?」
突然名前を呼ばれて身体が勝手に跳ねた。
変な声のおまけつき。
ああびっくりしたー!
部屋の入口に振り返る。
そこにはミルキーが立っていた。
声の大きさから察してたけど、顔にも不機嫌さが現れている。
いつの間に来たんだろう。
階段を上がる音とか、全然気付かなかった。
「もう時間ですよ!」
「えっ、あっ、ごめん!」
時間は19時5分。
ミゼルに指定された時間は19時。
5分過ぎている。
やってしまった。
装備を作るのが思ったよりも楽しくて、つい熱中してしまったようだ。
約束の時間を過ぎて連絡もしなかったら、ミルキーだって怒って当然だ。
ミゼルも怒っているかもしれない。
きちんと謝らないと。
「私には謝らなくてもいいんですけど、ミゼル様が待ってますよ」
「うん、急いで行くよ。あとミゼルにもしっかり謝る」
「何かあったんじゃないかって皆心配してたんですから」
「申し訳ない」
「気を付けてくださいね」
ミルキーは許してくれたようで、笑顔を見せてくれた。
良かった。
急いでお隣へ移動する。
まさか時間を忘れるくらい熱中してしまうなんて思わなかった。
恐るべし、生産スキル。
マッスル☆タケダや純白猫が寝ずに作業してあんなに楽しそうだったのも、ちょっと気持ちが分かったような気がする。
俺のスキルはデザインとかの細かい設定が出来ないから、まだ底は浅い方かもしれないが。
ミルキーに続いてお隣の家へお邪魔する。
ここへ入るのは初めてだ。
お姫様の住む場所に気軽に行ったりする気にはならないからな。
皆よくウチの方に来るし。
間取りは同じようで、玄関から奥へ向かうとリビングだった。
大きなテーブルが中央にある。
片側にタマ、葵、石華石華、ミルキーが座っていて端に空席が一つ。
俺の席のようだ。
タマの隣でおろし金が頭をテーブルに乗せていて、葵の後ろにムッキーが控えている。
「お邪魔します。すみません、遅くなりました!」
「遅いぞモジャー! 罰としてモジャ狩りの刑!」
「タマもごめんな」
「モジャ!」
テーブルの反対側には出汁巻、ミゼル、ノーチェの順に着席している。
俺の姿を見てミゼルが立ち上がった。
出迎えてくれるようだ。
二人は護衛だが、もう就業時間外なんだろう。
ミゼルは堅苦しくされるのが好きじゃないらしく、時折そう言っているのを聞く。
無理矢理にでも納得させないと一緒に座れないだろうしな。
そう考えるとやっぱりミゼルは芯が強い。
ちなみに、部屋の大きさはウチのリビングの倍くらいある。
さすが姫。
資金が違う。
≪モジャの家≫も増築したいところだ。
「大丈夫ですよ、ナガマサ様。こちらこそ、今夜は急なお誘いにも関わらず、来ていただき感謝しますわ」
「ありがとうございます」
「姫の優しさは国の宝まさにこくほおおおお――」
「葵ちゃん、ミュート」
「残念……!」
「――おおおぉぉぉぉぉ……」
快く許してくれたミゼルにお礼を言っていると、≪クレイジーフラワー≫が叫びだした。
葵の相棒で、音に反応してくねくねするおもちゃの花だ。
頭の上に固定されているそれは、今日の間に奇声を上げるようになった。
即座にミュートの指令を出すと、言葉通り残念そうな顔をしながらも従ってくれた。
ワンタッチでミュートにするんじゃなくて、徐々に音量を下げていくあたりに抵抗の意思を感じる。
「そうだ、出汁巻さん」
「はい」
「手土産持ってきたので、後でみんなで食べましょう」
「これはこれは、ご丁寧にどうもっす」
取引の申請を送る。
ウインドウが開いたのでお土産のフルーツを突っ込んでおく。
あえて取引ウインドウなのはミゼルに内緒にしたいからだろうか。
別によかったのに、現金が相手側に入力されている。
断っても渡されそうだし、素直に受け取っておくか。
こちらの金額入力欄に39cを入れておく。
取引完了。
デザートが楽しみだ。
「もうよろしいですか?」
「あ、はい、大丈夫です」
「それではどうぞお席へ。私達が丹精込めて作りましたの」
着席を促されたので空席へ向かう。
テーブルの上には、所狭しと料理が並んでいる。
どれも美味しそうだ。
「ありがとうございます。お料理上手なんですね。どれも美味しそうです」
「いいえ、実は私も慣れていないもので、ノーチェに頼り切りでした。それに、ミルキー様、葵様、タマちゃんや石華様にもとても助けていただきましたの」
「そうなんですね」
席に座りつつ相槌を打つ。
ミゼルはこう言っているが、ミゼルの性格上頼り切りっていうことは無い気がする。
例え苦手だったとしても、なるべく自分でやりそうなのが、俺から見たミゼルのイメージだ。
魔王の襲撃を受けた時に、一人孤立しても立ち向かってたからな。
ミゼルといい葵といい、知り合いの女の子はみんな心が強い。
ミルキーも†紅の牙†に苦情を言えてたし仲間だ。
『わらわも手伝ったぞ。ほれ、この野菜はわらわが斬ったものじゃ』
「そうなのか。遅れるくらいなら俺も手伝えば良かったな」
『遅刻は良くないが、それでは意味がないのでのう。ま、今日はミゼルとわらわ達の頑張りを存分に褒めるがよいぞ』
石華は気品溢れるドヤ顔を決めて見せた。
ドヤっとしてるのに美しさを損なわないのは、流石女王。
「そうするよ。この料理、どれも美味しそうだから食べるのが楽しみだ。皆すごいね」
「私もお手伝いした……!」
「タマはいっぱい味見したよ!」
「そうかそうか、二人ともお手伝い出来てえらいぞ」
乗っかって来た二人の頭を撫でる。
タマのはお手伝いか怪しい。
でもいいんだ。
可愛いからな。
可愛いタマが手伝ったと言えば、それはお手伝いなんだ。
「ふふ、それでは冷めない内に頂きましょう」
「「「「いただきます!」」」」
ミゼルの言葉で、全員が手を合わせる。
この辺りの風習は日本的だ。
ゲームだからな。
細かい部分はプレイヤーのメイン層に合わせたんだろう
「私がこの村の皆さんの生活を体験させて頂いた時に、分けて頂いた食材を使って作ったんですの。沢山召し上がってくださいね」




