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225 タイマンと約束


「それじゃあとりあえず、全員痛い目にあってもらいますね。今後一切、俺達に手が出す気がわかないように」

「無駄に痛めつけないって言ってなかった!?」

「降りかかる火の粉を振り払うのは、必要な事だと思いますけど?」


 これから葵とコッカーと一対一の決闘だ。

 この人数のPKを兵士に突き出してる暇はない。

 かといって全員を見張っておくのも手間だし、ただで済ます気もしない。

 全力の一撃くらいは受けてもらう。


 葵の戦いを邪魔されても嫌だしな。

 そもそも、俺は決めたんだ。

 俺の幸せな第二の人生を邪魔する奴は、蹴散らしてやるってな。

 ウチの葵に怖い思いをさせた分、きっちり思い知らせないといけない。


「全員逃げろぉ!」


 コッカーが声を上げた。

 PK達の顔色が変わった。

 怯えているのか、動き出す者はまだいない。


 殺すつもりはない。

 どれだけ全力で攻撃しようと、≪ナガマサ流手加減術≫の効果で殺さずに済ますことが出来る。

 痛みも本来のダメージ分の痛みがしっかり伝わるらしいから、まさにうってつけのスキルだ。


 気絶すれば後で兵士に突き出すが、気絶しないなら見逃しても良い。

 耐えられれば、の話だけど。


「タマ、コッカーは任せた」

「いえっさー!」

「なっ、は、離せ!」

「えいっ」

「ぐふっ」


 コッカーは葵の標的だ。

 不本意だが、俺が仕留める訳にはいかない。

 タマに頼んで危なくない位置で抑えておいてもらう。

 暴れたせいでタマに攻撃されたようだが、それは仕方ない。


 ≪真・六道踏破≫を発動する。

 六色の光球が出現し、周囲に浮かぶ。

 上位のスキルに進化して輝きが増したような気がする。


 光球を見たコッカー以外のPK達は、ここでようやく逃げ出そうと動き出した。

 転移スキル持ちは既に気絶しているせいか、誰もが走って逃げるようだ。

 俺達を囲う形だったせいで、このまま放っておけば散り散りに走り去ってしまうだろう。


 けどもう遅い。

 広範囲を薙ぎ払うスキルを、俺は取得している。


 抜きはらった剣に、光球が吸い込まれて長大な光の剣を形成する。


「葵ちゃんを攫った罰だ、素直に反省しろ!」


 ≪極・滅魔刃竜剣≫を発動。

 これは巨大な光の剣で薙ぎ払い、範囲内の相手に単発ダメージを与えるスキルだ。


 一回、二回、三回。

 一回転するスキルではないから、位置を変えながら三度連続で発動した。

 PK達は全員HP1の状態で倒れた。

 痛みで動けないようだ。


「タマ、もういいぞ。ありがとうな」

「あいあい!」

「くそっ……」


 タマとコッカーのところへ戻る。

 PK達が全員やられたのを見てコッカーは悔しそうにしている。


「約束通り、葵ちゃんと一対一で勝負してもらいますよ」

「分かってるよ。そっちこそちゃんと約束守ってよね」

「はいはい。あ、決闘が始まるまではタマに見張っててもらうので、逃げようとしたら安全は保障しませんよ」

「分かってるよ!」

「ならいいです」


 これで準備は完了。

 後は葵を送り出すだけだ。


「葵ちゃん、大丈夫?」

「うん。絶対勝つ」


 葵はやる気十分だ。

 大量のPKに囲まれても武器を構えて戦闘態勢だったし、芯の強い子だ。

 この戦いが終わったら目一杯褒めてやろう。


「ムッキーも私の戦い、しっかり見ててね」


 葵のお願いに、ムッキーは全身で頷いた。


 ……なんか姿変わってないか?

 上空から見た時に光ってるように見えたのは、気のせいかと思ってた。

 でもそうじゃなくて、本当に身体がオレンジ色の宝石のようになっていた。


 いつのまにこんな姿になってたんだ。

 畑に植えたハーブのように、≪ピンポン玉≫の影響を受けて宝石化したんだろうか。

 そうなると、他の果物達もこうなるんじゃないのか?


 色々気になるが、今は大事な戦いの前だ。

 大人しくしておこう。

 調べるのは明日にだって出来る。


「葵ちゃん、頑張ってね!」

「うん。ミルキーもありがとう」

「よし、それじゃあ申請を送ってやって。やり方は分かる?」

「大丈夫……!」

「報酬のところにきちんと剣を登録してね」


 葵に申請を促すと、コッカーが会話に割り込んでくる。

 タマに首を掴まれたままなのに、よく平然としてられるな。

 PKなんてしてるくらいだし、メンタルが相当強いのかもしれない。

 しかし、舐められたままなのもなんだかしゃくだ。


「コッカーさんは装備とお金を持ってるだけお願いしますね」

「はぁ!?」

「別に今すぐ殺して全部奪っても良いんですよ?」

「はんっ、本当にそんなこと出来るの?」

「これでも俺、かなり怒ってるんですよ。試してみますか?」

「ぐ……」


 出来れば人なんて殺したくない。

 当たり前だ。

 でも、腹を立てているのも事実だ。

 人を殺して装備を奪うような連中は、殺してしまってもいいんじゃないかと思うくらいには。


 万が一葵が負けてしまった場合は、譲渡した剣を殺してでも奪い返す覚悟も既に決めている。

 最終手段としてではあるが、殺すという選択肢は確かに、ある。

 

「分かった分かった。きちんと登録するから命は保障してよね」

PK(あんた達)と違ってそこまで鬼じゃありませんよ」

「言ってくれるね」

 

 葵が申請を送った。

 諸々の設定を終え、申請が受理された。

 二人の周囲に薄く半透明の壁で、バトルフィールドが形成されていく。


 決闘中は転移系のスキルは不発する仕様だ。

 もう見張っている必要もない。

 俺とタマは頃合を見計らってフィールドの外へ瞬間移動で脱出した。

 


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