220 コインと免許
旅行の為、本日の更新は一回のみ
次回の更新は水曜日を予定しています
※アイテムの説明を修正しました
「やったな葵ちゃん!」
「おめでとー!」
「わっ……!? ナガマサ……タマも、ありがとう」
思わず葵の目の前に瞬間移動してしまった。
タマも同じタイミングで横にいた。
咄嗟に身体が動いてしまったんだろう。
俺と同じだ。
少し驚かせてしまったが、葵はぎこちない笑顔をくれた。
他の皆も駆け寄って来た。
少し離れて他の人に場所を譲ろう。
「みんな、ありがとう。……あ」
葵はミルキーや石華、おろし金とタマに囲まれた。
皆が祝福してくれている。
皆葵の頑張りを知ってるからな。
空いた時間はほぼずっと修行していた。
それでも、たった数日であそこまで技量を高められたのはすごい。
もう立派な剣士になれただろう。
葵が、畑に刺さった何かを拾い上げた。
≪オレンジ細マッチョ≫が残したアイテムだ。
二つある。
ここの果物達を倒したら果物を落とす。
葵の修行に付き合ってくれていた≪オレンジ細マッチョ≫に関しては葵との稽古が日常風景になってたから、忘れてた。
だけど葵の拾い上げたそれらは、フルーツには見えない。
「それは?」
「コインと……カード?」
片方は小さくて少し厚みのある、金属製の円盤。
どう見てもコインだ。
ここの筋肉もコインを落とすのか?
もう片方は、カード。
何かが書かれているようだが、よく見えない。
「見せてもらっても良い?」
「うん」
葵からコインとカードを受け取る。
詳しい説明を見てみるか。
≪コイン:オレンジ細マッチョ+≫
契約アイテム
魔力の封じられたコイン。
オレンジ細マッチョが描かれている。
モンスターと契約を結んだ証。
オレンジ細マッチョ召喚可能。
見た目は普通のコインだ。
でも中身は違った。
このコイン、あの細マッチョが詰まってやがる。
テイム済みでドロップすることがあるのか?
イベントか何かになってて、報酬?
とりあえず、一方的な契約は厳禁だぞ。
≪普通筋肉免許証:技≫
アクセサリー/カード
筋肉における≪技≫の修行を納めた証。
技は心を育み力を御する。
Dex+10
Atk+20
スキルディレイ-10%
クリティカル率+10%
≪普通筋肉免許証:技≫は一つしか所持出来ない。
一日に占める鍛錬の時間が一定を下回った場合、消滅する。
≪普通筋肉免許証:技≫を装備している状態で≪普通筋肉免許証:心≫、≪普通筋肉免許証:体≫の二つを所持している場合、追加で以下の効果を発揮する。
Dex+20
スキルディレイ-20%
クリティカル率+20%
≪普通筋肉免許証:心≫、≪普通筋肉免許証:体≫は装備していなくても効果を発動する。
書いてある量が多い。
葵を認めてくれた、ということなんだろうか。
効果自体は、普通に便利そうな性能だ。
DexとAtkの補強アクセサリーとして良さそう。
クリティカル上昇も、通常攻撃メインの葵にはピッタリだ。
ディレイの減少は、無いよりは便利か。
葵はスキルを連打するようなスタイルじゃないから、噛み合ってはいない。
他にも≪心≫と≪体≫があるらしい。
入手条件は、筋肉との修行なんだろうか。
もし畑に植えたイカに成った果物と修行するのを想定して報酬を設定していたんだとしたら、設定した奴は発想がぶっ飛んでる。
実際に実行してる以上、何も言えないが。
「ありがとう。変わったアイテムだね」
「ん。あと二種類かぁ……」
二つのアイテムを返した。
カードの方を見ながら葵が呟いた。
もしかして、集めたいんだろうか。
気持ちは分かるけどな。
でもこれ以上は筋肉の世界から帰ってこれなくなりそうだ。
「それコイン? 呼んでみよーよ!」
「呼ぶ?」
「うん! 細マッチョが出てくるよ!」
「分かった」
コインでテイムしたモンスターを呼べることは、葵もおろし金が呼ばれたり帰ったりしてるのを見ているから知っている。
ただ今回はテイムしたわけではないから、ピンと来ていなかったようだ。
タマに促されて、コインを放った。
コインの放った光が、一体のモンスターを形作る。
「師匠……!」
フルフル。
現れた≪オレンジ細マッチョ≫は左の掌を葵へ翳しながら、身体を左右に振る。
まるで師匠という呼び方を否定しているかのようだ。
『葵は免許皆伝の身、自分を師匠とは呼ばないで欲しいと言っておるのう』
「そんな……」
「分かるのか?」
石華の通訳に、葵が少し悲しそうな顔をした。
拒絶されたように思っても仕方ないかもしれない。
でも、葵を気に入ってるらしい細マッチョがそんなこと言うだろうか。
勿論、石華を疑ってるわけではない。
『うむ。しかし葵よ、そう落ち込むでない。こうも言っているぞ。これからは共に歩む存在として、新たな名前を付けてほしい、と』
「えっ……名前、名前……ツバキ?」
突然の提案。
葵は少し考えた後、候補を挙げた。
それって確か、父親の名前じゃなかったっけ。
オレンジ色の細マッチョに自分の名前つけられるのか。
お父さん泣いたりしない? 大丈夫?
フルフル。
俺の疑問を察したのか、細マッチョは身体を左右に振った。
葵には悪いが、ちょっとホッとした。
オレンジ細マッチョの名前がツバキにならなくて良かった。
会ったこともないけど、葵の父親のことを思うとなんだか居た堪れない気持ちになってしまうからな。
「うーん……もう思いつかない。ナガマサ考えて」
「俺?」
まさかのパスだ。
ネーミングセンスは正直ない。
それでいいのかと細マッチョへ視線を向ける。
コクリ。
良いらしい。
それでいいのか。
そうか。
うーん……そうだ。
細マッチョは、夢で見たあいつにどことなく似てる。
大きなオレンジにオレンジ色の手足が生えてるところとか。
筋肉成分が少ないし少し細いけど、些細な違いだ。
「ムッキーマッスルでどうかな」
「可愛い……! それじゃあムッキーって呼ぶね」
コクコク。
細マッチョ改めムッキーマッスルも気に入ってくれたようだ。
ミルキーがやや微妙な顔をしているが、気にしない。
まるで似たような名前のキャラクターを知っているかのような顔をしているが、気にしない。
俺は夢の中のあいつしか知らないしな。
もし似た名前の何かがいても、偶然だ。
この世界で気にするようなことじゃないだろう。
ムッキーは葵の提案で、普段は畑に常駐することに決まった。
畑仕事も手伝ってくれるらしいから、有難い。
葵が出掛ける時は、戦力として隠し持つそうだ。
あと数日で預かる期間も終わるが、葵が狙われるのが0になるわけじゃないだろうからな。
立派な装備を着れば、初心者狙いのPKに狙われる可能性はほぼなくなる。
しかし、逆に強者狙いのPKというのも存在するらしい。
ある程度の実力が約束される分、後者の方が厄介とも聞いた。
そうか、葵を預かるのもあと数日か。
寂しくなるな。
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