212 水 収穫と細マッチョ
「こんなところに立派なモジャが! 朝ごはんの食材にしよう!」
「ううん……」
「うんしょ、うんしょ」
「……何してるんだ?」
「モジャを引き抜くの!」
「勘弁してくださいモジャ」
「しょうがないなぁ。朝だよモジャマサ!」
「ふああ……おはようタマ」
起きた後はいつもの日課だ。
タマとおろし金と一緒に畑へ向かう。
今日は葵も一緒に出掛ける。
昨日張り切り過ぎたのと、モグラに頑張りを見てもらえたのが嬉しくて寝過ぎたらしい。
あんまり早く起きるのも大変だし、このくらいでいいと思うけどな。
だってまだ6時だぞ。
充分早い。
畑に到着すると、葵は巨大なイカの背中から生えた樹の下へと走って行った。
朝の修行の始まりだ。
いつもより気合いが入っているように見えるのは、モグラ効果だろうか。
俺は薬草や宝石化したハーブ、その他植物を収穫する。
収穫と言っても根こそぎではない。
収穫可能の判定が出た葉っぱを何枚か毟るだけだ。
ハーブの数を増やしたいから、その内苗木を買って植えようと思う。
どうやら勝手には増えないらしいからな。
それと、≪ホワイトハーブ≫や≪ブルーハーブ≫にも手を出したい。
俺の農家としての腕は別として、畑の状態が良いしそれなりのものは出来る筈だ。
葵の特訓を眺める合間に、一つ発覚したことがある。
≪モジャ畑≫の状態なんだけど、特別なことはしていないのに良い状態で保たれていた。
普通は土の質を上げて維持するのは難しいらしい。
これは、最近畑の手伝いばかりしている≪出汁巻玉子≫が教えてくれた。
何故そうなっていたのかというと、畑に植わっている巨大なイカ、≪ピンポン玉≫のお陰だった。
ピンポン玉が畑の土を触手から吸収し、宝石成分を分解して戻すことで柔らかく耕される。
この時、いらない栄養分も土に混ざって最高の土になるとか。
まるでミミズですね、とミルキーが呟いていた。
あと、≪水属性魔法≫で水分を供給しているらしい。
すごく役に立ってくれていた。
まさに畑の管理人。
しかもイカの足からは素材まで収穫出来る。
すごい。
俺がハーブをいじり終わる頃には、タマとおろし金のコンビは宝石の粉末を撒き終えていた。
この粉末は、畑の栄養として撒いている。
実際はピンポン玉の栄養になってるみたいだけどな。
「タマ、おろし金、イカの足も収穫出来るみたいだから頼む。俺はフルーツをいくつか収穫してくるよ」
「あいあい!」
「キュルル!」
イカの足は攻撃して倒すと、素材を落とす。
今地上に出てる分は全部収穫時期だから、たっぷり素材が採れそうだ。
今日はマッスル☆タケダのところへ行くからついでに売ってしまおうか。
俺はフルーツの収穫だ。
タマが率先して狩ってくれてたから、俺はまだやったことないんだよな。
葵の邪魔にならないよう、反対側の位置につく。
「たのもー」
宣戦布告を口にすると、樹上の葉っぱがガサガサと揺れる。
そして少し細めのリンゴが降ってきた。
細いとは言っても、それはフルーツアイランドの筋肉と比べての話だ。
人型サイズの時点で、普通のフルーツに比べたら巨大だろう。
リンゴはパンチ一発で砕け散った。
ステータスが盛られているせいで技術も何もない。
ただの収穫だからな。
どんどん狩ろう。
フルーツ細マッチョ達を二十体程粉砕した。
今日はこのくらいにしておくか。
「モジャマサ、石抜き終わったよ!」
「キュル!」
「おお、えらいぞ二人とも。それじゃあ帰ろうか」
「ごっはーん!」
「キュルル!」
残りの雑晶抜きもタマとおろし金が終わらせてくれていたようだ。
今日の作業はこれで終わり。
朝ごはんの時間だ。
葵に声を掛けて、この一戦が終わるまでを待つ。
どんどん上達しているようで、簡単には倒されなくなっていた。
それどころか、≪オレンジ細マッチョ≫をかなり追い詰めているように見える。
惜しいところで葵のHPが1になり、決着となった。
昨日も充分惜しかったのに、まだ少しだけ届かない。
やはり細マッチョの方も成長している気がする。
「あと少しで勝てる……!」
「すごいなー。朝ごはん食べたらまた行くの?」
「うん」
「それならしっかり休憩を挟んでからね。俺は出掛けてくるから、ミルキーと一緒に行くんだよ」
「分かった」
皆で我が家へと帰る。
葵はやる気十分だ。
この村は比較的安全だけど、葵を預かっているのは護衛の意味も強い。
しっかりついておかないといつPKが襲ってくるか分からないからな。
朝食を食べた後は、ストーレの街へと向かう。
タケダに作成を依頼した武器が出来上がっている筈だ。
「ミルキー、葵ちゃんのこと頼んだよ」
「はい、任せてください」
「行ってきます」
「いってきまーす!」
「キュル!」
「いってらっしゃい」
ミルキーに見送られておろし金が飛び立つ。
教会経由で行くのが早いし楽だけど、おろし金で移動する方が好きだ。
ワープで一っ跳びは楽なんだけど、一瞬過ぎて雰囲気が無い。
何か理由がない限りはおろし金に頼るつもりだ。
いつものように城の訓練場に降り立った。
まだ朝なのに大勢の兵士や騎士がいて、おろし金は盛大に歓迎されていた。
王様もいつの間にかやってきて、お肉の塊をあげている。
さっき朝ごはん食べたのに、おろし金は嬉しそうだ。
ペットは飼い主に似るっていうけど、本当なんだなぁ。




