210 大盛りと送る会
「葵! ステーキ盛り沢山あるよ!」
「お腹減ってなもごごご」
「どんどん食べてね!」
「もご」
それはそれとして。
モグラには葵の特訓メニューを詳しく伝えた。
一撃必殺モンスター狩りからの、≪オレンジ細マッチョ≫とのエンドレス組手。
逞しい四肢の生えたフルーツとの修行なんて、絵面が面白い。
俺達は地獄を体験したお陰で慣れたけど、世間一般ではそうそうないらしい。
モグラの反応が教えてくれた。
「ムキムキのフルーツと修行って、またすごいことしてるね。流石ナガマサさん」
「他の人はしないんですか?」
「しないねー。モンスターに勝手に≪師匠≫なんて仇名つけてたりはあるけど、それも一方的に狩ってるだけだよ。強くなろうと思ったら、ひたすらレベルを上げてステータスとスキルを振る、ってのが一般的かな」
「そうなんですか」
葵がやっているのは、剣を扱う技術を高める修行だ。
ミルキーの方針に俺が乗っかった形だが、間違いではないと思っている。
しかし、どうやら少数派のようだ。
「結局ゲームだからね。そっちの方が早いし確実なのは、まぁ間違いじゃないでしょ。でも、ナガマサさん達に預けて良かったと思うよ」
「それは……ありがとうございます」
「オレだと、あの剣を持たせたままの育成は難しかったしね」
モグラは悪戯っぽく笑う。
ステータスが足りない装備を装備するには、他で補うしかない。
装備か、スキルだ。
多分、ある程度はモグラも試した筈だ。
俺よりもゲームに詳しいし、顔も広そうだからな。
それでもダメだったってことは、要求値に対してかなり足りなかったんだろうな。
モグラは俺の支援がかなり補正かかることを知ってるから、そこに期待したんだろうか。
きっと、葵にあの剣を諦めろとは言えなかったに違いない。
俺でもなんとかしてあげたいと思ったんだ。
それなりに付き合いのあるモグラなら尚更だろう。
「けど、≪オレンジ細マッチョ≫かぁ。それって≪オレンジマッスル≫の変異種っていう扱いなのかな。あれって葵には刺激強くない?」
「原産地よりは筋肉具合が減ってるので、全然マシですよ。筋肉を見せつけたりしてこないですし」
「あの島のモンスター、行動からして筋肉に溢れ過ぎだもんね。筋肉キャラはタケダさんだけで足りてるよ」
「ははは。モグラさんもあの島行ったことあるんですね」
「まぁね。一通り探索して後悔したよ。もう行きたくないかな」
「そうですね」
気持ちは分かる。
すごく分かる。
モグラはライリーのクエストも放置してるそうだ。
ちなみに、クエストを達成してから港町にあるライリーのレストランへ行くと、限定メニューが味わえるそうだ。
今度行ってみるのもいいかもしれない。
「タマ、これも美味しいよ……!」
「もぐもぐ、ほんとだー!」
気付けば、料理がほとんど無くなっていた。
食べるペースが早い。
流石はウチの食べ盛り。
なんだかんだ言いながら葵も食べてたみたいだし、足りなかったか。
俺と同じタイミングで気付いたモグラが颯爽と手を上げる。
「すみませーん、追加で白耳兎の丸焼き盛りとオオカナヘビの丸焼き、後エールのお代わりおねがいしまーす」
「モグラさん、あといくつか教えてほしいことがあるんですけど、いいですか?」
「いいよいいよ、じゃんじゃん聞いて。ナガマサさんには色々お世話になってるからね」
お世話になってるのは俺の方だ。
だけど、ここでは言わないでおく。
俺の方がお世話になってる、なんて張り合うようなことじゃない。
お言葉に甘えて聞きたいことを聞く。
そしてまたその内に、まとめて恩を返せばいいだけだ。
タマと葵が仲良く食事をしているのを眺めながら、色々聞いた。
ステータスやスキルがぶっとんでいても、俺はまだまだ初心者だ。
ゲームの知識や経験自体はそれなりでしかない。
この世界に関しての知識は、ほとんどない。
だから詳しいモグラに色々聞いておきたい。
今のところの最優先事項は、スキルの情報だ。
俺はこの世界で第二の人生を楽しく過ごしたい。
それを実行する為に打ち立てた方針は、安全第一。
ステータスがおかしなことになった俺達はかなり強い。
そうそう死ぬことはないだろう。
しかし、だからこそ危険なスキルが存在する可能性もある。
実際あった例を挙げると、反射スキル。
受けたダメージの数%のダメージを相手に与えるスキルだ。
倍率によっては下手すると死ぬ。
他にパッと思いつくのは、こっちの防御力やVitが高いほど与えるダメージが増えるスキルとか。
もしこれがあると、下手すると死ぬ。
防御無視くらいならいいんだけどな。
比例して威力が上がるようなのはまずい。
というわけで、その手の俺達が危なくなるスキルがあるか。
あるなら、仕様や、どんなモンスターが使ってくるか。
あとはプレイヤーで言うとどんな職業が習得するか。
出来るだけ教えてもらいたいと思っている。
勿論、モグラでも全てを知っているわけではないだろう。
だけど俺からすれば知識の宝庫。
モグラの知る限りの情報でも、俺達にとってはすごく有難い。
「今日はありがとね」
「こちらこそ、色々教えてもらってありがとうございました。明日は頑張ってください」
「がんばれモグラー!」
「気を付けて……!」
「はは、ほんとありがとう。ぼちぼち頑張って来るよ」
そんなこんなで、酒と料理を大量に消費して、モグラを送る会は終了した。
俺が色々教えてもらう機会になってて、あまり主役を持て成せてなかった気がする。
本人は喜んでくれていたようだけど、今度からはもっとちゃんとしよう。
村に引きこもっている俺達に影響は少ないが、やはりPKは活発化しているらしい。
街でのPKが出来なくなって区別がつくようになる前の、自棄のようなものだとモグラは言った。
明日のPK討伐、上手く行けばそれだけ被害は減るだろう。
人殺しを人に任せている俺が言えたことじゃないが、頑張って欲しい。
今日はモグラのお陰で色々知る事が出来た。
やっぱり防御力に比例して威力の上がるスキルは存在するようだ。
格闘家系の職業や重戦士系の職業にあるらしい。
相当レアだけど、そういう効果を持つ武器も確認されているとか。
ということは相棒にもそういう効果を付与出来るかもしれない。
≪守属性魔法≫は取得しておいて良かったかもしれない。
普通の物理攻撃なら、どれだけ威力が高かろうと100%カット出来る。
他にも生き残るのに重要そうなスキルがあれば優先的に取得したい。




