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204 スパルタとガッツ


 しばらく葵の奮闘を眺めた。

 思ったこと。

 ミルキーって、案外スパルタなのかもしれない。


 細マッチョ達は一度戦うと満足するのか、別の種類の奴が落ちてくる場合が多い。

 フルーツ毎に微妙にスタイルは違う。


 相手がコロコロ変わると、慣れることも出来ない。

 大変そうだ。

 葵はまだ、一度も勝利していない。


「ぷふぅ……」

「少し休憩にしましょう」

「それが良さそうだ」


 葵に≪応急手当≫を使用してHPを全快させる。

 十何回目に葵が運ばれて来る頃には、すっかり力尽きていた。

 むしろよくここまで頑張ったというべきか。


 葵は今まで、ほとんどゲームもしたことのないような女の子だ。

 ゲームに詳しくないし、戦闘だってしたことがない。

 父親を亡くして、それでも必死に強くなろうと、生きて行こうとしている。

 すごいガッツだと思う。


「おつかれ! これ食べて元気出して!」

「ありがとう……美味しい」

「もぐもぐ……でしょー!」


 葵はタマが手渡したイチゴに思い切り齧り付いた。

 さっき葵が地獄の修行に挑んでる間に収穫(物理)してきたものだ。

 やはりと言うべきか、タマの敵ではなかった。


 30分程休んだ。

 そろそろ修行が再開されるようだ。

 だけど今のままだとしんどいだろうから、何とかならないかな。


「ミルキー、葵ちゃん、ちょっと待っててもらっていい?」

「いいですよ」


 二人に許可をもらって、ピンポン玉に歩み寄る。

 本当の姿はタコだけど、今は地面に埋まった巨大なイカだ。


「ピンポン玉、ちょっとお願いがあるんだけどいいか?」

「プシッ」

「葵が挑戦する果物なんだけど、固定出来ないか? 出来れば、格下の相手の挑戦を何度でも受けて修行に付き合ってくれる気のいい奴で」

「プシッ」


 ピンポン玉は短く息を吐いて返事をしてくれる。

 多分オッケーということだと思う。

 なんとなくでしかないけど、あってる筈だ。

 テイムしたモンスターに対して色々補正の掛かる、ユニークスキルのお陰かもしれない。


「もうオッケーだよ」

「ん」

「頑張って」

「頑張る……!」


 皆の待つ畑の縁まで戻る。

 すれ違うように樹へ向かっていく葵の背中に声を掛ける。

 しっかりとした返事が返って来た。

 明るくて活発で生意気、とモグラが言っていただけあって、芯はしっかりとしているようだ。


「たのもー……!」


 すっかり言い慣れた宣戦布告(キーワード)に反応して、一つのオレンジが降ってきた。

 名前はそのまんま≪オレンジ細マッチョ≫。

 ピンポン玉へのお願いが伝わっていたら、あいつがしばらく相手をしてくれることになる。

 大丈夫だろうか。


「おっ」


 俺の心配を感じ取ったのか、オレンジ細マッチョが親指を立てた拳を俺の方へ突き出した。

 きちんと伝わっているようだ。

 というかあのオレンジ、いいやつなのでは?


「たぁっ……!」


 そして葵が切りかかる。

 オレンジが慌てた様子もなく、葵の斬撃を躱す。

 葵は何度も攻撃を繰り出し、オレンジは何度も躱す。


 合間合間で、ほぼ寸止めに近い打撃が打ちまれる。

 当てる寸前に勢いを殺して軽く当てているようだ。


「くっ、ふっ……!」


 軽くとは言っても打撃は打撃。

 葵のステータスや装備は耐久を捨てている。

 当たる度に葵の顔に苦悶が浮かぶし、HPも削れていく。


 それでも今までのように一撃でKOされないのは、あのオレンジがしっかり手加減してくれているからに違いない。

 さっきまでは全試合一撃だったからな。

 その中には当然、同じ≪オレンジ細マッチョ≫も含まれている。

 同一個体かどうかまでは分からないけど。


 やっぱりあのオレンジ、良い奴だ。

 ピンポン玉も無茶を聞いてくれたようで有難い。


「ぐふぅ……!」


 やがて葵が倒れた。

 HPが1にまで減らされてしまったようだ。

 オレンジ細マッチョが葵を抱きかかえて運んできてくれた。


 畑の縁へそっと寝かせると、樹の下へと戻って行った。

 葵へ≪応急手当≫をかける。


 オレンジ細マッチョは樹上には戻らず、腕を組んでこっちをジッと――多分――見ている。

 葵が再び挑むのを待っているようだ。


「もう一回……!」


 HPを回復させると、葵はすぐに立ち上がった。

 オレンジの元へ駆け出していく。

 そして走った勢いのままに剣を振って、カウンターをもらっていた。


 すごい。

 なんというか、ガッツがすごい。

 きっと葵は、『負けてたまるか』っていう気持ちを強く持てるんだろう。

 挑み続けるのは大変な事だと思う。

 負け続けたら尚更だ。


 そう考えると、ギルドで聞いたように葵は才能で溢れてるんだろう。

 この世界で生きて行く才能に。


「やった、当たっふぐっ……!」


 葵の剣が、微妙に掠めた。

 そこで喜んでしまい、強めの打撃を叩き込まれたようだ。

 優しいけど、厳しくもある。

 あのオレンジ、ほんとに師匠みたいだ。


 その後も葵の挑戦は続いた。

 何度も挑んで、何度も倒された。


 お昼を周って、一度家に戻った。

 葵の戦いっぷりを皆で話し合いながら、皆でお昼ご飯を食べた。


 二時間程のお昼寝を挟んで、再び畑へと戻った。

 おろし金と石華も応援に駆け付けてくれた。


 途中から出汁巻玉子とミゼルまで、差し入れを持ってやって来た。

 この畑で修行をすると、ミルキーから聞いていたようだ。


 眺めていると、葵の動きが良くなってきた。

 オレンジ細マッチョの攻撃に、僅かに反応出来るようになったようだ。

 しかし、オレンジが一撃の威力を上げているらしく、戦闘時間は伸びない。


 横一閃を空中に跳んで躱し、その勢いで放たれた回し蹴りが葵の首に入った。

 あれは痛い。

 っていうかオレンジの動きも良くなってる気がするんだけど、気のせいか?


 そしていつも通り優しく運んできてくれた。

 オレンジは樹の下まで戻ると、跳び上がって消えていった。

 今日はここまでということらしい。

 こうして、葵の育成二日目が終了した。


 ……ハードだなぁ。



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― 新着の感想 ―
[一言] それぐらい当たり前だと思うよ。理由はどうあれ普通は現状を受け入れ試行錯誤して自分にあったやり方を探していくけど、この子は受け入れずに短絡的で成長してなかったんだし。
2020/01/06 11:36 退会済み
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