203 収穫と修行
本日四回目の更新です。
念の為聞いてみよう。
ピンポン玉から生えた木になっている、大きな果物を指差してみる。
あれだったら嫌だなぁ。
「フルーツって、あれ?」
「あれです」
あれだった。
だよなぁ。
でもどういうことだろう。
収穫と育成に何か関係があるのかな。
「詳しく聞いても良い?」
「はい! それじゃあ説明しますね。葵ちゃんも、よく聞いてね」
「うん」
「あのフルーツは、収穫時期になると挑戦者を待ちます」
「うん? ごめん、何?」
「収穫時期になると挑戦者を待ちます」
「フルーツの話だよね」
「フルーツの話です」
ミルキーはいたって真剣な表情だ。
良かった。
フルーツの話だった。
いつの間にか筋肉の話にすり替えられたのかと思ったよ。
「ごめんごめん。続けて」
「樹の下でたのもー! と言うと、収穫時期に入ってる中で一番闘志の高まってるフルーツが落ちてきます」
「闘志」
「一対一の戦いで勝利すると、戦利品をドロップします」
「なるほど、筋肉の話だよね」
「フルーツの話です」
「はい」
ミルキーはこの畑を選んだ細かい理由を、追加で説明してくれた。
ここでフルーツを収穫をする為にフルーツと戦わないといけないのは、ミルキーが今言った通り。
それに加えて、フルーツとのタイマンはHPが1までしか減らない。
1になった時点で敗北として、畑から叩きだされる。
つまり、フルーツ相手なら死亡の危険が無く、何度も何度も挑める。
ダメージを受けないように育成するのは良くないと言っていたからな。
丁度ここの収穫(物理)のシステムを知って、提案してくれたんだろう。
「というわけなの。葵ちゃん、分かった?」
「うん、やってみる……!」
「頑張れあおいー!」
タマの声援を受けて、葵が樹の下に立つ。
樹上には、色とりどりのフルーツ達。
無事にフルーツに寄ったと思ったのに、しっかり筋肉に寄ってたかぁ。
育成に活かせるのは良かったけど。
「うぐぐ……!」
葵が剣を装備しようとする。
職業に適正のある装備は、必要なステータス値が少し下がるようだ。
前よりはStrに振ってるのもあってマシに見える。
それでも、満足に振れるようには見えない。
「ミルキー、支援は掛けてもいい?」
「StrとDexだけはいいですよ」
「了解」
「おぉ……!」
良かった、許可をもらえた。
葵に≪筋力上昇≫と≪器用上昇≫をかける。
剣を軽々構えた葵は、自信満々な表情になった。
「た、たのもー……!」
葵が声を掛けると、ガサガサと葉っぱの擦れる音が鳴った。
そして一つの果物が落下してきた。
大きさは1m程もある。
空中で四肢の生えた大きなオレンジは、見事な着地を決めた。
島で見た筋肉フルーツに比べると、やはり少し小さい。
本体部分もほっそりしてる。
今生えてきた四肢も細い。
ガリガリって程でもない。
それなりに引き締まっている。
よく見てみると、名前が表示された。
≪オレンジ細マッチョ≫……なるほど?
葵が剣を上段に構えて、思い切り細マッチョに切りかかった。
Strが+1000されてるし、あれが当たれば多分一撃だろう。
そこは他のモンスターと変わらない筈だ。
「ふっ……!」
「シッ!」
「ふぐっ……!?」
細マッチョが剣を受け流した。
そのまま流れるような動きで拳が突きこまれた。
寸分違わず、葵の鳩尾に刺さっている。
葵のHPは1だ。
あ、倒れた。
オレンジ細マッチョは葵をずるずると引きずって来て、俺達の側に転がした。
「きゅう……」
「葵ちゃん、お疲れ様。ナガマサさん、回復してあげてください」
「あ、うん」
≪応急手当≫を葵にかける。
動きについていけずに目を回してしまっているようだ。
細マッチョは樹の下まで戻ると、跳び上がって葉っぱの中に消えていった。
細マッチョっていう名前だから筋肉フルーツ達が弱体化した感じかと思ってた。
あの筋肉フルーツ、普通に強くないか?
「ここのフルーツはあの島のに比べると、HPや耐久力は落ちるみたいです」
「そうなんだ?」
「はい。だけど、スピードや技のキレはこっちの方が上のようです。多分バフの掛かった葵ちゃんなら当てることが出来れば一撃なので、戦闘技術を鍛えるのに良いと思いませんか?」
「確かに」
そう考えると、ピッタリな気がする。
威力が足りてるなら必要なのは戦闘の技術。
あの細マッチョの技を越える事が出来れば倒せるというのは、いい修行になるだろう。
「でも、よく調べたね。比較とか大変じゃなかった?」
俺達に耐久度を調べるのは難易度が高い。
威力が高すぎて、耐久が違っても分からないからだ。
やろうとするなら、全ての攻撃で手加減を完璧に同じにしないといけない。
かなり苦労するだろう。
「大丈夫ですよ。通りすがった≪三日月≫のリーダーを捕まえて、手伝ってもらいましたから」
「そ、そうなんだ」
「喜んで協力してくれましたよ。島にも付いてきてくれましたし」
多分、無理矢理手伝わされたんだろうなぁ。
伊達の奴、あの島の事思い出すのも嫌なくらい嫌ってたからな。
まぁそのくらいしてくれてもいいだろう。
俺達に対して変な絡み方してきた訳だし。
「うぅ、なんなのあの動き……!」
「あ、大丈夫?」
「もう一回やる……!」
「おっ、すごいな。頑張れ」
「頑張れあおい!」
「頑張ってね!」
一瞬でやられてしまったからまだバフの効果時間は残っている。
葵は剣をしっかりと握りしめて、樹の下へと再び向かった。




