181 テイムとマッスル
※164掲載のスキル一覧に書き忘れていたスキルを追記しました
タマが地面に植わっている草を引き抜いた。
ズボッ。
「マッスルウウウウウウゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウ!!」
まるでボディビルダーのような形をした、太い根っこが絶叫をあげる。
ものすごい声量だ。
ダメージは無いがうるさくて仕方がない。
ズボッ。
タマが逆再生のように地面に突っ込んだ。
土の中に戻ると絶叫は止む。
葉っぱを握ったままでも地面の中にさえ入れば叫ばないようだ。
ズボッ。
「マッスルウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥウウ!!」
ズボッ。
ズボッ。
「マッスルウウウウ!!」
ズボッ。
ズボッ。
「マッス」
ズボッ。
ズボッ。
「マッ」
ズボッ。
「あははっ、これ面白い!」
タマは≪マッスルドラゴラ≫を抜いたり戻したりして遊んでいる。
引き抜くと絶叫をあげるモンスターも、タマにとっては何の脅威でもないようだ。
これがうるさくないのはすごいな。
「タマ、食べ物で遊んじゃいけないぞ」
「はーい」
「あれって食べられるんですか?」
タマに注意をしていると、ミルキーに問いかけられた。
大根みたいな見た目だし食べられるんじゃないかな。
でもモンスターだからどうなんだろう。
「さあ?」
「さあ?」
「ふふ、適当ですね」
俺とタマが揃って首を傾げる。
俺も言いたかっただけで深く考えてなかったから、真面目に質問されても答えようがない。
ミルキーが笑っている。
ああ、目的を忘れてた。
「タマ、テイムするんだろ?」
「そうだった!」
タマに≪コイン:マッスルドラゴラ≫を手渡す。
タマはそれを、足元に生えている草に近づけた。
草がわさわさと蠢いて、マッスルドラゴラの本体が顔を出した。
引き抜かれた時だけなのか、雄叫びはあげていない。
≪マッスルドラゴラ≫の姿は、すごく太い大根をボディビルダーに似せて彫ったような感じ。
その顔の部分も、人の顔のような凹凸がある。
タマが差し出したコインを見つめたまま、上半身まで姿を現した。
立派に鍛え上げられた拳が、コインに軽く当てられる。
≪マッスルドラゴラ≫の身体が光になって、コインに吸い込まれた。
「やったー!」
タマがコインを頭上に掲げ、小躍りして喜んでいる。
テイム成功だ。
失敗することは仕様上ないらしい。
コインのドロップ率が低いのに失敗があると、難易度がおかしなことになるからな。
周囲の草むらが騒がしくなる。
どうやら、≪マッスルドラゴラ≫の叫び声でマッスルが集まって来たらしい。
タマが遊んでて何度も響かせたからな。
見た目はあれだけど、ドロップアイテムが向こうから集まってくれたと考えれば悪い状況ではない。
如何にポーズをとられる前に殲滅するか、それが重要だ。
草むらから飛び出してくるマッスル達を蹴散らしていく。
フルーツマッスル達は向こうから攻撃してくることはない。
しかし、こちらから一体でも攻撃すると、周囲のマッスル達は全員アクティブ化して襲ってくる。
その時にも、一度ポーズをとってから向かってくるところに、強い拘りを感じる。
絶対にポーズを見せつけるという、硬い意思に違いない。
俺達はその間にも容赦なく攻撃を加えて仕留めてしまうから、ほとんどポーズは見ていない。
卑怯と言われようと、ポーズを見ないようにしてるんだから仕方ないな。
この島でのドロップアイテムだが、マッスル達の共通ドロップとして≪筋肉の欠片≫というものを確認した。
≪果物のヘタ≫に比べて数が少ないところを見ると、ドロップ率が少し低いようだ。
使い道が全く思い浮かばない。
何かに使えるんだろうか。
フルーツマッスルによる集団突撃を捌いた後は、再び探索だ。
ちらほら出会うマッスルは即座に殲滅するのを忘れない。
地面にはたまにマッスルドラゴラが埋まっている。
≪看破の魔眼≫のお陰で光って見えるから見分けはつく。
ただ、もしこのスキルが無ければ、採取出来る植物と見分けが付きにくいようだ。
アイテムだと思って引き抜いて雄叫びに驚く、というパターンなんだと思う。
ダメージは特になかったから、ただの嫌がらせモンスターなのかもしれない。
ドロップアイテムも欲しいし見つけたら剣を突き刺して倒す。
こいつも≪筋肉の欠片≫を落とすようだ。
ざっと島の半分の探索が終わった。
ドロップ以外だと、何種類かの植物が株で手に入った。
畑に植えて育てられるか試してみよう。
≪筋肉花≫というのはちょっと怪しい名前をしてるが、これも良い実験になるだろう。
咲いたらマッスル☆タケダにプレゼントしてみてもいいかもしれない。
「大体見たかな」
「そうですね」
「タマ、奥に行きたい!」
「キュル!」
タマが、島の奥を指差した。
キラキラした眼で見つめてくる。
おろし金も同意するように短く鳴いた。
二人揃って見つめてくる。
こっち側は大体見たし、奥に行くのにいい頃合だろう。
「よし、じゃあ少し休憩したら奥に進もうか」
「やったー!」
「キュルル!」
「はい。支度しますね」
「ありがとう。おろし金、見張りを頼む。いつも通りドロップアイテムは食べちゃっていいからな」
「キュル!」
おろし金に見張りを任せて、ミルキーが敷いてくれた布の上に三人で座る。
おやつとして、出発前に買った魚の串焼きを頬張る。
うん、美味しい。
景色も綺麗だし、空気もどことなく気持ちいい。
寄ってくるマッスル達をドラゴンモードになったおろし金が蹂躙する光景が無ければ、もっと良かったと思う。
刃物になった指で握って輪切りにしたり、尻尾で真っ二つにしたり、咥えてそのまま噛み砕くのは中々に刺激が強い。
飛び散ってるのが果汁じゃなければ、もっと恐ろしいことになってただろう。
見張りを頑張ってくれてるわけだから、応援するけどね。
「おろし金ー、かっこいいぞー!」
「キュルア!」
「モグモグ、お魚おいしー!」
「タマも混ざるー!」
タマが焼き魚を頬張ってるのに、タマがフルーツマッスルの方へ突っ込んで行った。
あれ?
タマは未だに魚を齧っている。
でも同時に、マッスル達を派手にぶっ飛ばしている。
一体どういうことだ?




