表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

181/407

173 マフィンとお詫び


「これからパーティーをするんですが、パシオンさんも良かったらどうですか?」

「パーティー? ミゼルの婚約の祝いか?」

「違います」


 パシオンをバッサリと切り捨てる。

 もうその話は今はいい。

 パシオンに最近の出来事を話す。

 

 ≪三日月≫に絡まれて、決闘になった。

 そして勝利したのでバーベキューでお祝いをする。


「なるほどな。せっかくの誘いだ、参加してやろう」

「どうも」

「では私も何か手伝うとしよう」

「パシオンさんはお客さんなので座ってていいですよ。俺もこれを食べたら準備を再開しますけど」

「ん? なんだそれは。炭か?」


 テーブルの上に放置してあった、ミルキーお手製のマフィンへと手を伸ばす。

 パシオンの乱入でお預けになっていた。

 しかし、パシオンに声を掛けられて動きを止める。

 言葉を返す前にミルキーが反応した。


「炭じゃありません」

「しかしこれはどう見ても」

「炭じゃありません」

「う、うむ」


 ミルキーから発せられたのは、否定の言葉とプレッシャー。

 最初は反論しようとしたパシオンも思わず口を噤んでしまった。

 前も言い負かしてた気がする。

 ミルキーって、案外押しが強いようだ。


「ではなんだと言うのだ」

「……マフィンです」


 しかし、続く問いかけにミルキーの勢いが弱まった。

 視線を逸らして声も小さい。

 パシオンがマフィンを手に取った。

 一口齧る。


 ザリッ――。


 パシオンの眉間に皺が寄った。


「やはり炭ではないか!」

「炭じゃありません! 魔法を使ったらちょっと焼けすぎて、真っ黒になっただけです!」

「それを炭というのだ!」


 パシオンが突然騒ぎ出した。

 ミルキーも負けじと声を張り上げる。

 お互い気兼ねせずに言いたいことを言い合えるって、良いことだと思う。


「お兄様、女性が作ったものをそのように言うのは失礼ではありませんか?」

「しかしだな」

「それに、そのマフィンは私もお手伝いしたんですよ」

「何!?」


 突然のカミングアウトにパシオンが固まった。

 さっきから固まり過ぎじゃないか?

 ここに来てから何回目だ。


 一度目を閉じて何かを考え始めた。

 数秒後、突然目を全開にした。

 それは、何かを決意した男の眼だった。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 パシオンは手に持っていたマフィンに勢いよく齧り付いた。

 二度、三度、マフィンは小さくなっていく。


「――うっ!」


 最後の欠片を口に捻じ込んだ。

 しばらく咀嚼し、テーブルの上に突っ伏した。

 喉にでも詰まらせたのかもしれない。


 水をコップに注いでパシオンの前に置いておく。

 タマが手を合わせて拝んでいた。

 まだ死んでないぞ。


 パシオンがいると騒がしいな。

 俺もマフィンを食べてみる。


「あっ」


 バリバリザリザリする。

 マフィンってこういう感じなのか。

 初めて食べたけど、変わった味だ。

 イッメージと違うけど新鮮で面白い。


「その、大丈夫ですか?」

「え、美味しいよ。また作ってほしいな」

「はい、頑張ります!」


 お願いしてみると、ミルキーは笑顔で了承してくれた。

 おやつを作ってもらえるなんて幸せだ。


 タマが最後の一個に手を伸ばした。

 手に持ったまま、不思議そうに俺の方を見ている。

 さっき食べてなかったか?


 タマの方を見ながらマフィンを齧る。

 うん、癖になる触感。

 こんな料理食べたことない。


「どうした、食べないのか? 美味しいぞ」

「うーん? おいしいモジャ?」

「うん。いらないなら俺が食べるから置いといてくれ」

「タマが食べる! ――う」


 マフィンを口に放り込んだタマの姿が消えた。

 窓越しに外に瞬間移動したようだ。

 そんなに急いでどこへ行くのか。


「よし、それじゃあ準備再開だ。何をしたらいい?」

「では買い出しをお願いします」

「分かった」


 今回は、パーティーに参加するみんなが材料を持ち寄ってくれる。

 だけど何を持ってくるか、一部は不明だ。

 だからある程度はこっちで用意しておくようだ。


 ミルキーに頼まれたのはお肉と野菜。

 後はバーベキューだから薪か炭。

 炭と言った時に、何故かパシオンが嫌そうな顔をしていた。


「それじゃあ行ってきます」

「いってらっしゃい」

「いってらっしゃいませ」

「私も城へ戻って何か持ってくるとしよう。ノーチェ、出せ」

「はっ」


 パシオンはノーチェと共に別行動だ。

 食材を提供してくれるらしい。

 俺達が初めてこの村へ来たのと同じ魔法で城へ戻って行った。


「あ」

「あれ、どうしたんですか?」


 家を出ると、伊達正宗と†紅の牙†が立っていた。

 どうやら用事があって家の前まで来たが、気まずくてノック出来なかったらしい。

 気持ちは分かる。

 俺も少し気まずい。


「ほら、話があるんだろう」

「分かってる……! さっきは、すまなかった」


 †紅の牙†に促されて伊達が一歩前に出た。

 そして、頭を下げた。

 普通にびっくりした。

 もっと目の敵にされてるものだと思ってた。


 面喰らっていると、ぽつぽつと話してくれた。

 †紅の牙†に負けた後、懇々と説教をされたそうだ。

 それで、反省したんだとか。


 伊達が謝ったことも驚いたけど、†紅の牙†がまともになってることにも驚いた。

 前は伊達側だったのに。

 いつの間にそんな感じになったんだ。


「俺達は最強だからと、偉そうにし過ぎた。全てを変えるわけじゃないが、節度を持って高みを目指すことにする」

「はい、応援しています」


 伊達のギルド≪三日月≫は、未開拓のマップを攻略し続けている。

 得た情報は他のプレイヤーに積極的に流している。

 地形や、生息するモンスターの行動パターンや弱点部位、属性等、初心者にはとても有難いものだ。


 俺は好きに楽しく暮らしてるだけだ。

 だけど、伊達は人の役に立っている。

 迷惑を被らなければその生き様を俺は尊敬する。

 是非これからも頑張ってほしい。


「お詫びと言ってはなんだが、何か知りたい情報はないか? 欲しい素材や、経験値効率の良い場所、何でも良い。知っていることなら教えるぞ」

「そうだなぁ……畑に植えられそうなものが欲しいんだけど、何かない?」

「畑か、そうだな……」


 伊達は考え込んでいる。

 考えるってことは、畑に植えられそうなものにいくつか心当たりがあるようだ。

 さすがトッププレイヤー。


「果物なんかはどうだ?」

「いいですね。是非教えてください」


 港町から沖へ出た先にある島の情報をくれた。

 そこでは、果物が沢山ドロップするらしい。


 それを植えることが出来れば畑の一部が果樹園に出来る。

 楽しみだ。

 よし、落ち着いたら港町へ向かおう。


 しかし、伊達は気になる台詞を付け足した。


「その島に出現するモンスターはもれなくキモい。心の準備だけはしっかりしておけ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めましたので、こちらもよろしくお願いします!
友人に騙されたお陰でラスボスを魅了しちゃいました!~友人に裏切られた後、ラスボス系褐色美少女のお嫁さんとして幸せな日々を過ごす私が【真のラスボス】と呼ばれるまで~
面白いと感じたら、以下のバナーをクリックして頂けるととても有難いです。 その一クリックが書籍化へと繋がります! ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ