167 玉子焼と性なる剣
本日四回目の更新です。
服の部分を脱ぐことで、出汁巻の動きは格段に良くなった。
それでもハットリを上手く捉えられないでいた。
防戦一方だ。
何度目かの攻防の末、ハットリの攻撃が出汁巻に刺さった時に、出汁巻の身体が紫色に光った。
何だ?
「くくく、もらったでござる!」
「この!」
出汁巻の剣が空を切る。
ハットリの動きが変わった。
ヒットアンドアウェイから、ひたすら逃げる動きへ。
「あれは毒の状態異常だね。一定時間ごとに割合でダメージが入るから、硬い相手に有効な攻撃だよ」
『なるほど、だから相手が無理に攻撃しなくなったのじゃな』
「そうだね。一応ステータスによって一定時間で解除される筈だけど、それまで持つかどうか」
モグラの解説に金剛が納得する。
毒か。
出汁巻の攻撃は避けてちくちく削り、毒にしたら相手が死ぬまで回避し続ける。
最初の強制脱衣といい、確かに出汁巻への対策はばっちりのようだ。
「出汁巻玉子はまだ負けておりません。いいえ、必ず勝ちますわ」
「まだ、ここからっす! パンツよ、光となれ!」
「いくダシよー!!」
「なんだその姿は! 変態でござるか!?」
ミゼルの力強い言葉に応えるように、出汁巻が吠える。
玉子焼まで吠える。
そして、パンツが光になる。
出汁巻の股間が光で隠されたこの姿こそ、最大強化形態。
相手が毒を使うなら、出汁巻の戦法は目に毒だ。
どうだ参ったか!
更に強化された出汁巻の姿に、ハットリは動揺してしまった。
素早さではまだ上回っているはずなのに、段々と余裕が無くなっていく。
そしてその状況が、更にハットリの精神を追い詰める。
「そこ! ショックウェイブ!!」
「くっ!」
ハットリを段々とバトルフィールドの隅へ追いやっていた出汁巻が、スキルを発動させる。
地面に叩きつけられた剣から発生した衝撃波が地面を奔る。
動きを先読みして放たれたそれを見て、突っ込まずに直前で止まっただけでもハットリは凄い。
流石はトッププレイヤーだ。
「捕まえたっすよ!!」
「なんの、でござる!!」
だが、出汁巻もトッププレイヤーの一人だ。
無理に動きを止めた隙を逃す程、甘くはなかった。
出汁巻の剣がついにハットリを捉える。
ハットリは咄嗟に左手の小手で受け止めた。
ダメージは入るが、2割も減っていない。
ハットリが振るった右手の短剣を、出汁巻は腕ごと掴んで止める。
更に、蹴ろうとした足を、脚を絡めて地面に圧しとどめる。
二人ともがお互いを止めあって、完全に膠着状態となった。
転べばスピード型のハットリが不利になるとかで、無理に逃げることも出来ないようだ。
「捕まってしまうとは不覚。しかし、毒になっている以上、この状態が続けば勝つのは拙者でござる」
「オレにはまだ攻撃する方法は残されてるっす」
「何――?」
出汁巻の股間の光が輝きを増していく。
一体どうするつもりなんだ?
「伸びろ性剣! エクス、カリボオオオオオル!!!」
「ぐふっ!?」
眩しいくらいに輝いていた股間の光が、斜めに伸びてハットリの腹部を貫いた。
聖剣って絵面じゃないだろこれ。
股間から生える光の剣とか嫌すぎる。
「これで、トドメっす――!!」
「気合い入れるダシよー!」
「ぐ、一歩、及ばなかったでござるか……!!」
「裸大旋風!!」
出汁巻が全ての拘束を解いた瞬間に、高速で回転した。
ハットリが逃げ出す暇もないくらいの一瞬の動きだった。
腹部に刺さっていた光の剣が三度ハットリの腹部を通過し、出汁巻は動きを止めた。
ハットリが崩れ落ち、決着がついた。
「勝者、出汁巻玉子!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!」
「すげえええええええええ!!」
「流石出汁巻玉子さんだぜええええええええ!!」
「いやいやお前、ハットリさんだってすげぇだろうが!!」
さっきとは打って変わって大盛り上がりだ。
決着が着く寸前なんかはみんな息を呑んで見守ってたから、その反動もあるだろう。
出汁巻玉子がハットリに手を差し伸べて立ち上がらせたところで、拍手が巻き起こった。
盛り上がり過ぎだろ。
タマだって頑張ったんだぞ。
「勝ったっすよ!」
「だしー!」
満面の笑みで出汁巻が戻ってくる。
勝ったのは嬉しいんだけど、服を着てくれ。
「出汁巻玉子、よくやりました」
「はっ」
ミゼルが出迎えて、出汁巻が跪く。
普通ならかっこいいんだろうけど、パンツ一丁なのはやっぱりギャグにしか見えない。
ミルキーが恥ずかしがってるから服を着て欲しい。
「くそ、なんでだ!!」
「落ち着いてくださいマスター! ここからテイムモンスターが三連続ですから、楽勝っすよ!」
「ですです! そしたら俺らの勝ちです!」
「……そうだな」
向こうも盛り上がってるな。
突然騒ぎ出した伊達が、仲間の言葉ですぐに落ち着きを取り戻した。
伊達からすれば出汁巻は強敵の内だったんだろう。
対策していたとはいえ、負けるかもしれないと予想する程に。
だけど、驚くのはまだこれからだ。
連敗したらどんな反応をするだろう?
おっと、少し性格が悪かったかもしれない。
油断しないように、全力でかかるように伝えておかないと。
「石華、大丈夫か?」
「どの程度の相手かは分からぬが、全力で相手をするのじゃ」
「ああ、頼む」
「石華さん、頑張ってください」
「がんばれー!」
「キュルル」
「第三試合、めら☆もっちゃ対金剛石華! 双方前へ!」
次は石華の出番だ。
どんな戦い方をするんだろう。




